それぞれに進んで行く仲良しJK達のお話(いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 セカンドシーズン) 作:シン_クワちゃん
春休みを目前に控えた図書室は、いつもより少し忙しかった。
図書委員の当番で、貸出カウンターに座って返却漏れがないか、パソコンのリストとにらめっこ中の小森こころです。
隣では一年生の江川君も同じようにパソコンを見ている。
「小森先輩、二年三組のこの人、まだ本返してないっすね」
「え? あ、本当ですね」
「春休み入る前に返してもらわないと困るんで、こっちからメールしときます」
「はい、お願いします」
私が慌ててリストを確認している横で、江川君は淡々とパソコンを操作していく。
春休みになる前に返却してもらうため、まだ本を借りたままになっている生徒に催促のメールを送っているのだ。私はリストの返却蘭を確認しながら、間違えないように気をつけて作業を続けた。
下校のチャイムが鳴って、ようやく今日の当番の時間が終わった。
「お疲れさまでした」
「お疲れっす」江川君はそう言うと、さっさと帰る準備を始めた。
相変わらずぶっきらぼうだなぁって思いながらも、まぁ馴れ馴れしいよりは全然ましかと思いながら鍵を持って私も図書室を出る。一人で鍵を職員室に返して、少し疲れを感じながら校門を出た。
春休みになれば、しばらく学校に来ることもない。
そう思うと、二年生だった一年間のことが、なんとなく頭に浮かんできた。
二年生になったばかりの頃、私は奈央ちゃんたちに自分から話しかけた。
あのときは、かなり勇気がいった。明るくて元気な奈央ちゃんたちの輪に、私みたいな人が入ってもいいのかなと思っていたし、もし嫌がられたらどうしようとも考えていた。
でも、そんな心配は必要なかった。
みんなは私を自然に受け入れてくれて、気がつけば一緒にお昼を食べたり、放課後に話をしたりするようになっていた。
私はずっと友達が少なかったから、仲のいい友達がこんなに増えるなんて、二年生になる前には想像もしていなかった。それに、内田君のような男子と友達になったのも初めてだった。
内田君は、他の男子みたいにグイグイ来る感じがない。それに長谷部さんと付き合っているから、男子と話すのが苦手な私でも安心して話すことができた。
あのとき、勇気を出して奈央ちゃんに話しかけてよかった。そう思うと、私は自分なりによく頑張ったんじゃないかなと思う。
でも……。
本当は、私の頑張りだけでこんな風になれたわけじゃない。
奈央ちゃんや敦美ちゃんが、いつも明るく元気に私を引っ張ってくれたから、私はみんなと一緒にいられたんだと思う。
私自身が、奈央ちゃんや敦美ちゃんみたいに明るくなったわけじゃない。今でも人の多いところでは緊張するし、自分から話しかけるのも苦手だ。だから、私はやっぱり引っ込み思案なんだと思う。
それでも、前よりは少しだけ変わったのかもしれない。
春休みにみんなで集まって遊ぼうという話だって、奈央ちゃんが言い出して、敦美ちゃんが「いいじゃん」と乗ってくれたから決まった。私は「行けます、大丈夫です」と言っただけだった。
でも、それでいいのかもしれない。
みんなが誘ってくれて、私はそれに「行きたい」と思った。それだけでも、昔の私とは少し違う。
そんなことを考えながら歩いていると、少しだけほほが緩んできた気がした。
翌日も私は昨日と同じように図書室の貸出当番をしていた。
昨日とは違って、今日はかなり静かだった。
「今日は暇ですね」と私が言うと、江川君はパソコンの画面を見ながら答えた。
「返却要請のメール、昨日俺が全部やっといたんで」
「全部?結構あったんじゃないの?」
「平気っす。基本コピペなんで」そう言って、江川君は特に自慢する様子もなく、画面を操作している。
江川君のパソコンをよく見ると、図書室の蔵書管理サイトではなく、話題の新刊を紹介するサイトを開いていた。
「何見てるの?」
「読みたい本探してるだけっす」
「仕事中ですよ」
「暇なんだし、いいのがあったら購入申請しようと思ってるんで」
「小森先輩もだけど、誰も自分から新しい本を入れたいって言わないじゃないっすか。」
「それはそうだけど」
「ぼ~っとしてるの無駄なんで」
やっぱり生意気な後輩だ。
そう思ったけれど、今日は本当にすることがないので、それ以上は言わなかった。
静かな図書室で時計の音を聞いていると、また昨日のことを思い出してしまう。
三年生になったら、きっとみんなとクラスは別れる。
やよいちゃんや早田さんは国立目指しているって言ってたから、多分進学文理コース。奈央ちゃんは短大かなって言ってたし、私は一応文系を選んだ。
今までみたいに、教室に入れば自然にみんなと会えると言うわけじゃなくなる。そうしたらあのグループも、だんだん会わなくなってしまうかもしれない。
奈央ちゃんや敦美ちゃん、やよいちゃん、早田さん。内田君や長谷部さん、それに石田君。
今まで当たり前のように一緒にいた人たちと、これからも同じようにいられるのだろうか。
「……また一人になるのかな」私はぽつりと呟いてしまった。
「自分がやりたいことをやってるなら、一人かどうかなんて関係なくないっすか?」
「え?」思わず隣を見る。
江川君は、相変わらずパソコンの画面を見たままだった。
「別に、誰かと一緒じゃないと何もできないってわけじゃないでしょ」
「……」
なんだろう。やっぱり、この後輩は生意気だ。
先輩に対して、もう少し言い方というものがあると思う。私は少しだけむっとしながら、自分のパソコンを見た。でも、江川君の言ったことが、頭の片隅にずっと残ってたままだった。
ワタシと沙織が通う進学塾の教室では、いつものように講義が行われていた。
「この問題は、いきなり答えを出そうとすると少し難しく感じるかもしれません。まず、何を求めればいいのかを整理してください。条件を一つずつ式にしていけば、最後には見慣れた形になります」
講師の先生はそう言うが、内容はかなり難しい。
ワタシと沙織は同じ国立受験コースを受講している。同じ高校の生徒が多いわけではないこの教室には、普段の学校とは違う緊張感がある。
講義が終わり、ワタシは沙織と一緒に教室を出た。
「今日も疲れたね」とため息半分で口にするワタシ。
「そうね。三年生になると、もっと大変になるんでしょうね」
「まぁ覚悟の上だけどさ」
そんな話をしながら出口まで歩いていると、ワタシはかばんの中でスマホがブルっとしたのに気がついた。グループに奈央からの書き込みがある。
(奈央)春休みに遊びに行く話、みんなの都合を聞かせてよ
(敦美)三月は大会があるから、月末か四月になってからならいいよ
(こころ)私は大丈夫です!合わせられます!
「沙織、奈央からメッセージ来てるよ、春休みの遊びの日程決めたいって。敦美やこころちゃんも」
「そうなの?」沙織はかばんを開いて自分のスマホを探そうとする。
「あれ、あれ?」
「どうしたの?」
「スマホ……ありません」
「え?」
思わず二人で辺りをきょろきょろ見回していると、後ろから声がした。
「これって、君のだよね?」
振り返ると、男子がスマホを持って立っていた。
「あ……はい。」
「教室に落ちてたよ。僕、同じ講義を取ってて、教室出るときに気がついた」
「はい」沙織は受け取ったスマホを見て、それから男子の顔を見る。
「えっと、あ、ありがとうございます」
「うん。どういたしまして。じゃあ、これで」男子はそれだけ言うと、先に駅に向かって歩き出した。
沙織は、その後ろ姿を見送っている。
「……沙織?」
「はい?」
「ちゃんとお礼言えた?」
「言いましたよ」
「なんか固まってなかった?」
「最近……男子と話すなんて、内田君以外とはほとんどなかったので」
「いや、それはそれでどうなのさ?」ワタシは思わず笑ってしまった。
「今度、同じ講義の時に、もう一度ちゃんとお礼を言うつもりよ」
沙織はスマホを鞄にしまいながら言った。
「うん。それがいいと思う」
そう言って、私達も駅へ向かって歩き始めた。
今日は三学期の終業式の日。二年生最後のホームルームを終えた教室には、いつもの顔が集まっていた。
東田に種村、早田さん、悠木、小森さん。あと石田。
今日で、このクラスで過ごすのも最後になる。
「ねえ、今日このあとカラオケ行かない?」東田がいつもの調子で言った。
「いいじゃん。行こうよ」種村もすぐに乗ってくる。
「私も行けます」小森さんも、いつものように穏やかに答えた。
「私も今日は行きたいわ。今日は塾を休んでも大丈夫なので」早田さんがそう言うと、悠木も頷いた。
「じゃあワタシも今日は休むことにしようかな」
「じゃあ決まりね!」奈央が嬉しそうに笑う。
「内田っちも来るよね?」種村が僕に言ってきた。
「え? 僕?」
「もちろん」敦美が僕の腕をつかんだ。
「ちょっと待って。僕は最初から行くなんて言ってないんだけど」
「今言ったじゃん」
「言ってないよ」
「細かいことはいいの」
そう言って、敦美は僕をそのまま引っ張っていく。
「育美には私から連絡しとくから。久しぶりに育美の歌を聞きたいし」
「え、ちょっと、それは僕から……」
敦美は素早くスマホを取り出して、何やらメッセージを打ち始めた。
すぐにブルっとスマホが震える。
「ほら、育美も行くって」
「じゃあ、種村、石田も誘ってよ。男子一人はつらいって」
「石田は当然行くよね?」
「当然じゃん」
「じゃあ、八人で決まり!」
こうして僕たちは、二年生最後の日に、みんなでカラオケへ向かうことになった。
一年間、いろいろなことがあった。何より僕には彼女が出来たし、こうやって僕を遊びに、まぁ強引なところはあるけど、誘ってくれる女子達もできた。その女子達もなんだかかんだで仲はよさそう。
最初は少し離れたところからみんなを見ていた小森さんも、今ではこうして当たり前のように輪の中にいる。
東田が誘って、種村が乗っかって、最後にはみんなで集まっている。
二年生の一年間、僕たちは何度もこんなふうに集まってきた。今日も同じだ。
ただ、僕たちは四月からは三年生になる。今までと同じように集まれるのか、それとも少しずつ何かが変わっていくのか。クラスも別れるだろうし、勉強の大変さも目指す進路で違うと思う。
でも考えだしたらきりがない。
だから今日は何も考えずに、いつものようにワイワイ話しながら、みんなでカラオケ店に向かって歩いていった。