それぞれに進んで行く仲良しJK達のお話(いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 セカンドシーズン) 作:シン_クワちゃん
三年生になって最初の登校日、クラス分けの掲示を見た私は、小森こころの名前を四組に見つけた。そして、なんとなく予想していた通りの結果に、やっぱりそうなんだと思った。
早田さんとやよいさんは一組の進学文理クラス。成績順になる文系クラスには、二組に敦美ちゃんと内田君。長谷部さんと私は同じ四組になったけれど、奈央ちゃんと石田君は六組と二人づつ別々のクラスになっていた。
二年生のときは、教室に行けば誰かがいて、休み時間になれば自然と集まっていた。でも、今年はそうはいかない。長谷部さんとは同じクラスだから、話そうと思えばいつでも話せる。でも、奈央ちゃんや敦美ちゃん、やよいさん、早田さんと会おうと思ったら、それぞれの教室まで行かなければならない。
三年生になっても、みんなで一緒にいられると思っていたわけではない。でも、こうして実際にクラスが分かれてしまうと、二年生の一年間が思っていた以上に特別だったことに気づかされる。
それだけのことなのに、掲示板の前で少しだけ心細くなった。
始業式が午前中に終わり、午後のホームルームで私はまた図書委員になり、放課後に早速、図書委員会の集まりがあった。本が好きだし、図書室にいる時間は嫌いじゃない。
委員会の席につくと、見慣れた顔が一つあった。
「あ、江川君もまた図書委員なんだ。またよろしくね」
「うっす」相変わらず、挨拶をしても愛想がない。
貸し出し当番の組み合わせのプリントが配られたけど、また私は江川君が一緒になることが多かった。
どうしてこうなるんだろう。そんなことを考えながら、私は少しだけため息をついた。
四月も後半になると、私ははっきりとわかったことが一つある。
みんなとはなかなか会えない。お昼休みもそうだった。
長谷部さんとは同じクラスなので、たまに一緒にお弁当を食べることもある。でも、長谷部さんは「今日はごめんね」と言って、どこかへ行ってしまうことも多かった。
たぶん、内田君と一緒に食べているんだと思う。
私は別に、彼氏がいる長谷部さんがうらやましいわけじゃない。ただ、一人で教室に残って食べるお弁当は、どうにも味気なかった。
一年生の頃は、それが普通だった。でも、二年生の一年間は、みんなで集まって、くだらない話をしながらお昼を食べることが多かった。あの時間を思い出すと、今のお昼休みが少し寂しく感じられる。
長谷部さんと内田君は、最近では週に三回くらい、購買でパンを買って中庭で食べているらしい。いつだったか長谷部さんに聞いたら、二人ともコロッケパンを買うことが多いらしい。
お昼休みに、中庭のベンチで二人の姿を見かけることもある。楽しそうだなと思う。でも、それを見て自分も彼氏が欲しいとか思うわけではない。ただ、みんなと一緒にいた二年生の頃が懐かしく思えて仕方がない。
今日は、図書委員の貸出当番。放課後の図書室は、いつもとあまり変わらなかった。
私は本が好きなので、ここで過ごすこと自体は苦にならない。そして、今日の相方はやっぱり江川君。
図書室に来る人が少なくて暇だ。江川君は?と横を見ると、新刊紹介のサイトを一人で眺めている。私に話しかけてくることもほとんどない。
江川君は、必要なことしか話しかけてこない。相変わらずそんな感じ。
「小森先輩、これ返却処理お願いします」
「うん、わかった」江川君から本を受け取って、私は返却処理をする。
しばらくすると、図書室の扉が開いた。
「こんにちは」
顔を上げると、内田君と長谷部さんが入ってきた。
「あ、こころちゃん」
「こんにちは」
二人は図書室の奥の席に並んで座ると、それぞれ鞄から参考書やノートを取り出した。
私は貸し出しカウンターで、見るともなく二人を見ていた。
しばらくして、二人の会話が聞こえてきた。
「雄太、これってどうやって解けばいいのかな?」
「ああ、それは教科書よりもこの参考書の……ほら、この考え方でやると分かりやすいよ」
「どれどれ。……あ、これなら」
二人とも真面目に勉強している。少しして、「大学は……」という声が聞こえてきた。
「雄太、学部は教育学部でいいんだよね?」
「うん。そのつもり。高校の先生になるなら、それが一番確実だと思ってる」
「私は学芸員の資格を取りたいから、教育学部で取れる科目をちゃんと調べておかないと」
私は手を止めた。大学の話をしているだけだと思っていたら、その先のことまで二人は考えていた。大学に入って何を学ぶのか。その先で社会人になったらどんな仕事をしたいのかまで。
内田君は高校の先生。長谷部さんは学芸員。そのために二人とも同じ大学の教育学部を目指しているようだ。
私は二人の話を聞きながら、自分のことを考えてみた。私は本が好きだ。だから大学に行くなら文学部かな、くらいには思っている。でも、大学自体は合格した中で、できるだけ偏差値の高いところに入ればいい位に思っていた。あとは学費の安いところで親の負担は出来るだけ少なくとか。
三年生になって、受験がだんだん現実的になってきたけど、その先のことは何も考えていない。
内田君と長谷部さんは、もう社会人になったときのことまで考えている。
私は、そこまで考えたことは今まで一度もなかった。
ある日の四時間目は移動教室だった。三時間目の授業が終わり、私は視聴覚室へ向かって廊下を歩いていた。これが終わればお昼だけど、昼食のことはまだ長谷部さんに聞いていない。
今日は一人で食べることになるのかなんて考えていると、向こうから見慣れた顔が歩いてきた。
「奈央ちゃん」
「お~、ココロン。おひさ~」奈央ちゃんが友達と一緒に歩いてくる。
ふと、二年生の頃は移動教室の時には奈央ちゃんと一緒のことが多かったのになんて思った。
「ココロン、最近お昼も会わないけど、どうしてるの?」
「あ、教室で長谷部さんとかと一緒に……。あとは一人で食べてます」
「そっか。放課後は図書室だよね?」
「うん。でも毎日というわけではないです」そこで私は少し迷った。
今までなら、奈央ちゃんの方から誘ってくれるのを待っていたと思う。でも今日は、自分から言葉が出てきた。
「あの……今日は当番じゃないので、よかったら一緒に帰らない?」
「お、いいよ。帰ろう帰ろう!ついでにどっか寄っていこうよ」奈央ちゃんは、いつものようにすぐ答えた。
「えっと……」私は少し考えてから言った。
「ヨンマルクカフェで新作ケーキが出たのが気になっているので……一緒に行きたいなって」
「ケーキ? うん行く行く!」
「じゃあ、帰るときにメッセージしますね」
「了解だよ」奈央ちゃんは笑って、友達と一緒に教室へ向かっていった。
自分から誘った。それだけのことなのに、少しだけ胸の中が軽くなった。
放課後、私は奈央ちゃんにメッセージを送った。待ち合わせをして、一緒にヨンマルクカフェへ向かう。
店に入ると、奈央ちゃんは新作ケーキのメニューを見て、すぐに目を輝かせた。
「これにしよ。絶対これ!」
「じゃあ、私もそれ」
ケーキが運ばれてくると、奈央ちゃんは嬉しそうにフォークを入れた。
「いただきまーす」
「いただきます」一口食べる。
「おいしい」
「うん、おいしいね」奈央ちゃんは満足そうに笑った。
しばらくケーキを食べてから、私はこの前の図書室でのことを話した。
「この前、図書室で内田君と長谷部さんが勉強してたんです」
「そうなん?」
「二人とも、同じ大学の教育学部を目指しているみたいで……」
「へぇ~ウッチーって、意外としっかりしてるじゃん」
「それで、内田君は高校の先生、長谷部さんは学芸員を目指しているって言ってました」
「がくげいいん?」
「博物館とか美術館で働くときの資格みたいです」
「なるほど」
「それで……」
「二人の話を聞いて思ったんですけど、私はまだ、そういう将来というか社会に出たら何になりたいのかとか考えたことがないんです」
「う~ん、別に今決まってなくてもいいんじゃない?」奈央ちゃんは、あっさりと言った。
「奈央ちゃんは、決まっているの?」
「一応ね。ワタシ幼稚園の先生になりたいって思ってる」
「幼稚園の先生……」
「でも、実際になれるかは分かんないし、短大に行ってから考えることもあると思う」
「……そうなんだ。幼稚園の先生……なんか奈央ちゃんに似合ってる気がする」
「でしょでしょ?」
奈央ちゃんはケーキを食べながら、少し考えるようにしてから続けた。
「ココロンは、本とか好きじゃん。そういうのから何か見つかるかもしれないよ」
「奈央ちゃんは、どうして幼稚園の先生になりたいの?」
「子供ってさ、見ててなんか面白いなぁって思うの」奈央ちゃんは笑った。
「昨日できなかったことが、今日できたりするし。そういうのを近くで見てたいんだよね」
「うん」
「それにワタシ、四年制のフツーの大学に行けるほどアタマよくないし、幼稚園なら短大でも資格が取れるからね」奈央ちゃんは、気楽な感じでそう言った。
自分のことをよく分かっていて、そのうえで次に進む道を考えている。社会人になったときに何をしたいのか。そのために、どんな進路を選ぶのか。奈央ちゃんはちゃんと考えている。
私はケーキを一口食べながら、もう一度自分のことを考えた。
私は、本が好き。それは自信をもって言える。でも、それだけで決めていいのかな。
「……私も、考えてみようかな」
「うん。ゆっくり考えればいいって」
「うん、奈央ちゃんのことも参考にするね」
「ワタシ?そっかぁ、じゃあゼヒとも参考にしたまえココロン君」
「あはは、なにそれ」笑ったら、なんか心が軽くなった。
将来、本当に何になるのかはまだ分からない。それでも、ちゃんと考えてみようと思った。
やよいさんと私が通う進学塾では、今日も厳しい授業が続いていた。
私はプロジェクターに映された問題を見ながら、先生の説明を聞いていた。
三年生になってから授業の内容も完全に受験モードになり、難しさを増している。分からないところを残さないように、ノートを取りながら集中する。
休み時間になり、私はトイレへ向かった。
手を洗って教室へ戻ろうとしたところで、スマホが震えた。多分メッセージが来たんだ。
歩きながら画面を確認する。角を曲がった時に誰かとぶつかった。
「おっと」
「あ、ごめんなさい」手からスマホが滑り落ちる。
「あ……」
ぶつかった相手がすぐに拾ってくれた。
「ありがとうございます」
「僕、君のスマホと縁があるみたいだね」
「え、あ……」顔を上げる。
そこにいたのは、以前、教室に忘れていった私のスマホを届けてくれた男子だった。山崎君。
一緒の授業になることもあるので、名前だけは知っていた。
でも、あのときのお礼をちゃんと言う機会はなかなか見つからなかった。
気がつけば、一ヶ月近く経っている。
「あ、あ、あの時は、そ、それと今回も、その、えっと……」どうしてだろう。
言いたいことは決まっているのに、うまく言葉が出てこない。
「ああ、気にしないで。気がついたら誰でもすることだから」
「いえ、私、あの時、本当に助かったんです。だから、えっと……ありがとうございました」
ちゃんとお礼を言わなければ。そう思った瞬間、私は勢いよく頭を下げていた。
ブン!自分でもそんな音が聞こえたような気がする。
「あ、いや、そんなお礼なんていいから」山崎君は少し驚いたように笑った。
「僕は山崎信長。また一緒の授業もあるだろうから、よろしくね」
「あ、はい。あ、私、早田沙織と言います」
「僕は××高校だけど、その制服は〇〇高校だよね?」
「はい。〇〇高校です」
「うん、分かった。じゃあ、また!」
「あ、はい。また」
山崎君は、そのまま教室へ戻っていった。
私も後を追うように教室へ戻る。席に座ってから、少し考えた。
なんだろう。さっきの私は、全然いつもの私ではなかった。ただ、お礼を言いたかっただけなのに。
次の授業が始まる少し前、隣の席から声がした。
「沙織」やよいさんが、私の顔を見ている。
「何?」
「なんか顔赤くない?」
「え?」 私は自分の頬に手を当てた。少し熱い気がする。
「……そう?」
「うん」
やよいさんは、それ以上は何も言わなかった。
私にも、どうして顔が赤くなっているのか分からなかった。
三年生になって、みんなのいる場所が少しずつ変わって、きっとみんなの毎日も変わってきているはず。
そして私も、少しだけ変だった。