それぞれに進んで行く仲良しJK達のお話(いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 セカンドシーズン) 作:シン_クワちゃん
中間テストが終わり、体育祭が近づいてくる今日この頃。
三年生になったからといって、毎日が急に受験一色になるわけでもない。授業も教科書中心で進んでいくし、休み時間になれば友達同士で話をして、放課後になればそれぞれの予定に向かう。そんな日々、私は今日も図書室の貸し出し当番だった。
受験勉強をした方がいいのだとは思う。でも、まだ具体的にどこの大学を受けるのか決めていないから過去問とかは出来ず、何を勉強すればいいのか今一つはっきりしないせいか、机に向かってもなかなか集中できなかった。
だから、こうして図書室にいることが、かえって気が紛れて助かっているような気もする。
そして、今日も当番の相方は江川君だ。
「こんにちは、江川君。よろしくね」
「うっす、小森先輩」
相変わらず、先輩に対する挨拶としてはどうなのかと思うけれど、もう慣れてしまった。
江川君はぶっきらぼうだし、必要以上に話しかけてくることもない。でも、それが私にはちょうどよかった。図書室では静かにしている人が多いし、江川君も無理に会話を続けようとはしないから、知らない女子と二人で当番をするより、ずっと気楽だった。
利用する生徒も少ない時間で、図書室が一層静かになると、どうしてもみんなと会う機会が、少しずつ減っていることを考えてしまう。
この前、みんなと一緒に過ごしたのは、中間テストに向けて勉強したときだった。
もう、あれから一か月近く経っている。しかも、あの時も早田さんとやよいさんはいなかった。
あれから、奈央ちゃんが誘ってくれたお昼が三回。長谷部さんとは、ほかの女子も一緒だけど、週に二回くらいはお昼を食べている。
それにこの前、図書室当番が終わって帰ろうとしたとき、敦美ちゃんと石田君がコンビニの前でアイスを食べているところに出会って、私も一緒に食べた。
だから、全く会っていないわけではない。でも、やよいさんや早田さんとは、廊下ですれ違ったときに挨拶するくらいになっていた。
このまま、少しずつ疎遠になっていくのだろうか。
卒業して、それぞれ別の大学へ進んだら、そのまま会わなくなってしまうのだろうか。
大学に行けば、きっと話をする友達くらいはできると思う。
でも、今のように一緒にいて楽しくて、無理をすることなく居心地がいい、そんなグループがまた出来るのかは分からない。
「また一人になるのかな……」気がつくと、そんな言葉が口から出ていた。
「自分がやりたいことをやれるなら、一人かどうかなんて関係なくないっすか?」
隣から声がした。
「え?」江川君を見る。
彼はしまった、と思ったような顔をしていた。
「あ、すみません。生意気言って。聞こえちゃったんで、思わず」
「やりたいことをやるって?」
「言葉通りっすよ。自分がやりたいからやる。一人でやるか誰かとやるかじゃなくて、やりたいことかどうかが大事っていうか」
江川君は、それだけ言うとパソコンに視線を戻した。
「ふ~ん、江川君って、なんか大人だね」
「先輩が子供っぽい……いや、すんません」
「ふふっ。確かに私は子供っぽいかもね」
「そこが小森先輩の……いや、何でもないっす」
「何?」
「何でもないっす」
江川君は、それ以上は何も言わなかった。
私は少しだけ笑ってしまった。でも、さっきの言葉は頭に残っていた。
自分がやりたいからやる。
一人でやるか、誰かとやるかじゃなくて、自分がどうしたいかだけと考えると、少しだけ気持ちが変わった。
みんなと会いたい。みんなで一緒に過ごす時間が、私は好き。
だったら、会えなくなってしまうかもしれないと心配しているだけじゃなくて、自分から動いてみればいい。
確かに受験で忙しいやよいさんや早田さんだって、夏休みに一日くらいなら息抜きに付き合ってくれるかもしれない。
みんなの都合を聞いて、予定を合わせて、何をするのか考えて……。
大変そうではある。でも、みんなとまた一緒に過ごす時間を作ることくらいなら私にもできるかもしれない。
図書室で思いついた考えは、学校からの帰り道で決心みたいな気持ちに変わった。
私とやよいさん、二人が通う進学塾で、今日私は一人で机に向かっていた。
いつもなら隣にはやよいさんがいるのだけれど、今日は用事があるらしく、休みだった。
教室には同じように授業を受けている学生達が何人もいる。それなのに、いつも隣にいる人がいないだけで、なんとなく寂しい。
問題集に目を戻したところで、一つ空けた隣の席に誰かが座った。
見ると、山崎君だった。
「こんばんは、早田さん。今日は一人なの? いつも一緒にいる友達はお休み?」
「え、あ、山崎君。はい。やよいは今日は用事があるって……じゃなくて、えっと、こんばんは」
なんか順番がおかしい。私、なんか変な答え方をしちゃったわ。
「友達は、やよいさんっていうんだね。えっと、確か早田さんは沙織さんだったよね?」
「あ、はい。沙織です。友達は悠木やよい」
「そうなんだ」
山崎はそれ以上、特に気にした様子もなく、教材を机の上に置いた。
「ところで、この先生の授業はずっと受けているの?」
「はい。今年になって、この塾に入ったときからずっと受けています」
「そうか。僕は春休みになってから受け始めたんだけど、ゴールデンウィークを過ぎたら一段と難しくなった気がするね」
「ええ、確かに難しくなりました。でも、国立って思ったら、これくらいはしないといけないですよね。きっと」
「それは僕も同感だな」
それだけの会話だった。けれど、そこから少しずつ話しやすくなっていった。
授業の内容のこと。先生の説明の仕方のこと。最近、問題がどんどん難しくなったこと。
山崎君は女子だからといって特別に構える様子もなく、かといって馴れ馴れしくもない。私が答えると普通に返してくれて、話が途切れれば無理に続けようとはしなかった。
私も、いつの間にか普通に話していた気がする。
やがて授業が終わり、みんな次々に教室を出ていく。私も教材を鞄にしまい、教室の出口へ向かった。
塾を出たところで、後ろから声をかけられた。
「早田さん」
振り返ると、山崎君がいた。
「今日は一人なんだよね? もう時間も遅いから、よかったら駅まで一緒に行かない?」
「え、あ、一緒に?」私は一瞬、言葉に詰まった。
「でも、そんな……えっと、ご迷惑じゃないかと」
「この時間に女子一人じゃ心配かなって、それだけだから」
「あ、じゃあ……駅まで」
「うん」
二人で駅へ向かって歩き始める。
最初は、何を話せばいいのか分からなかった。けれど、山崎君から今日の授業の話をしてくれたので、なんとかそれに答える事はできたと思う。多分……。
そこからは、それぞれの学校の面白い先生とか、いわゆる雑談?みたいなことになり、普通に話しているつもりだった。私としては、つもり……。
「早田さんって、学校ではいつもこんな感じなの?」
「え?」
「いや、今も結構話すから。学校ではもの静かな感じなのかなって」
「そ、そうですか? 私、普通だと思いますけど」
「うん、僕も早田さんは普通だと思うよ」
「……そうですよね」
「なんで確認?」
「いえ、なんとなく……」
そんな取り留めのない会話をしながら、二人は駅に着いた。
「じゃあ、また塾で」山崎はそう言って、上りホームの階段へ向かった。
「はい、また」少しだけその背中を見送ってから、私は下りホームへ歩き出した。
家に帰り、食事とお風呂を済ませる。塾に通うようになってから、塾のある日は部屋に入るのはもう深夜と言ってもいい時間。
今日はもう寝ようと思ってベッドに入ったところで、ふとさっきのことを思い出した。
山崎君に駅まで送ってもらった。それから、色々と話もした。
私の話し方、おかしくなかったかしら。
考えてみれば、男子と、しかも二人きりでこんなに話したことは、ほとんどなかった。
私、中学校の頃から、男子に告白されたことは何度かあったけど、その人たちは、まともに話をしたこともない人ばかり。私は、その人のことを何も知らない。だから、全部断った。
二年生になってからは、内田君や石田君とも話すようになったけれど、奈央ちゃんや種村さん、やよいさんと一緒にいるときだったから二人でという訳でもない。
山崎君とは二人で話した。
少し緊張してしまったけれど、彼とはなんだか自然に話していたような気がする。
きっと、また話すことがあると思う。……話してみたいとも思う。
でも、次に会ったとき、どんな話をしたらいいのかは分からない。
誰かに相談できないかしら。
やよいさんは……。いや、やよいさんも山崎君と一緒の授業だし、相談しにくい、と言うか気まずい。
種村さんや奈央ちゃんみたいに、気さくに男子と話せる人だったら、きっと「なんで?」って言われそうだし。
そんな事を考えていると、枕元に置いていたスマホが震えた。
(こころ)早田さんこんばんは、遅い時間にごめんなさい。まだ起きてましたか?
実は、ちょっと相談したいことがあるので、
もしよかったら明日とか少しどこかで時間を取れませんか?
小森さんからだった。
あ、そうだ。小森さんなら相談できるかもしれない。そう思って、すぐに返信を入力する。
(早田)小森さん、お久しぶりね。大丈夫、起きてました。
実は私も小森さんに相談できたらうれしいことがあるの。
明日のお昼、一緒に食べませんか。お昼休みに教室に行きますね。
返事はすぐ届いた。
(こころ)早田さんも相談ですか?
何だろう?でも私でよければ。
じゃあ教室で、待ってますね
(早田)ええ、なるべく早くいくわね
スマホの画面を見ながら、私は暗闇に明かりが見えたみたいな気持ちになり、少しほっとした。
一方、小森もまた同じようにほっとしながら、明日話す事を考えていた。
二人の「相談内容」は、少し、いや結構ずれている。
でも、お互いが必要としていた「相談相手」は、ちゃんとそこにいた。