それぞれに進んで行く仲良しJK達のお話(いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 セカンドシーズン) 作:シン_クワちゃん
期末テストまで、あと一週間。そんなある日の放課後、僕たちはまた図書室に集まっていた。
「今回はちゃんと勉強するからね!」東田が張り切っている。
「前回もそう言ってなかった?」
「今回は本当にやるの!」
「まぁ、いいけど」育美が笑いながら言った。
今日集まっているのは、東田、小森さん、僕と育美の四人だった。四人で廊下を話しながら歩く。
「今日、早田さんとやよいさんは?」育美が東田に聞く。
「二人とも今日も塾だと思うよ」
「種村と石田は?」僕も聞いてみる。
「夏休みに行く予備校の無料体験授業だって石田君が言ってたよ」
「そっか。みんな忙しくなってきたね」育美がそう言うと、東田も少しだけ考えるような顔をした。
「そうなんだよね。去年までは、放課後に集まろうって言ったら、だいたいみんな来たのに」
「僕たちも夏休みは△□予備校に行くしね」
「そうね。」育美が僕を見る。
「あ、私も夏休みは〇×予備校に通う予定です」と小森さんが言ってきた。
こうして話してみると、三年生になってから、少しずつみんなの予定が変わってきたことを実感する。
そんなことを考えながら図書室に入ると、カウンターには一人の男子が座っていた。
「あれ? 今日は一人なの?」小森さんがその男子に声をかける。
「そうなんっすよ」後輩君はぶっきらぼうな調子で答えてる。
「相方は?」
「さぼりっす」
「また?」
「いつものことなんで」
「大変だね」小森さんは少し困ったように笑った。
「別に。慣れてるんで」
僕たちはそのまま、空いている席について勉強を始めた。すぐに、図書室は静かになった。
東田も今日は珍しく黙々と問題集を解いている。僕も育美も、それぞれ自分の勉強に集中した。
四十分ほど経ったところで、東田が大きく伸びをした。
「疲れたー!」
「まだ四十分位だけどね」
「四十分もやったんだよ!」
「そこを自慢するなよ」みんなで少し笑った。
「ねぇ、みんな夏休みってどうするの?」東田が聞いてきた。
「僕は大体は予備校かな。育美も一緒だね」
「そうね」
「種村と石田は別の予備校だったよね」
「うん。私も同じ予備校だけど、授業は違うのかも」小森さんが答えた。
「うわぁ、ザ・受験生って感じ」東田が机に突っ伏した。
「奈央ちゃんは?」小森さんが聞くと、東田は顔だけ上げた。
「ワタシはねぇ……家で勉強しようかなって思ってる」
「家で?」
「うん。でも、たぶん途中で集中切れるとは思ってる」
「じゃあ、市民ホールの自習室は?」小森さんが言った。
「市民ホールの自習室?そんなのがあるの?」
「うん。何回か使っているけど、静かだし家より集中できると思う」
「なるほど。それいいかも」
「へぇ。みんなちゃんと勉強するんだね」思わずつぶやいてしまった。
「ウッチーそれって、ワタシも勉強するんだ?ってこと?」ちょっと睨まれだけど、小森さんが「納得!」って言って、またみんなで笑った。
その日の勉強会が終わって、図書室を出る頃には、外はもう少し暗くなっていた。
「じゃあ、帰ろうか」昇降口で僕と育美が先に歩き出そうとしたところで、小森さんが声をかけた。
「あの……みんな、ちょっといい?」
小森さんが僕たち三人を見る。
「夏休みなんだけど……一日だけでいいから、みんなで遊びに行けたらいいなって思ってるの」
「え?ココロン?」東田が目を丸くした。
「だって、二学期になったら文化祭もあるし、それが終わったら、いよいよ受験勉強が本格的になるでしょ?」
「まぁ、そうだね」僕が答える。
「だから、その前にみんなで一日くらい遊んで、思い出を作れたらいいなって」小森さんは少し照れながら話した。
「うん、ワタシも賛成!」東田がすぐに手を挙げた。
「私も、みんなと遊びたいかな」育美が続く。
「僕もいいよ」
「よかった……」小森さんがほっとしたように笑った。
「でも、いつにするかが大変そうね」と育美が言う。
「多分、一日くらいなら大丈夫。沙織さんとやよいさんから、行ける日の候補はもらってるから」
「もうそこまで進んでるの?」東田がまた驚いた。
「うん。だから、みんなの都合を合わせて決めたいなって」
「ワタシは絶対合わせるよ!」とガッツポーズをする東田。
「僕と育美は、夏休みの予備校が始まったらすぐ予定を確認して、グループに連絡するよ」
「うん、お願いします。それで、種村さんと石田君の予定は、私が確認します」小森さんが言った。
「じゃあ、日にちが決まったら、何をするかはワタシも考えてみる!」
「よろしくね、奈央ちゃん」
「任せて!」
話がうまく進んで、小森さんは嬉しそうだった。
みんなの予定が少しずつ違ってきても、それでも一日くらいなら、まだ一緒にいられる。そんな気がした。
期末テストが終わり、明日は一学期の終業式だ。
今日は夏休み前の最後の貸出当番。普段なら相方と二人でやる仕事だが、こんな日に限って相方が体調が悪いって、早々に帰ってしまった。あの一年の女子、いつもあの調子だから、はなから来ないと思ってはいたが、今日は実際かなり忙しい。
返却される本は多い。夏休みの長期貸し出しも始まっている。カウンターの前には次々と生徒が並んでいた。
俺は一人で貸し出し手続きを続ける。俺は、誰も信頼しない。これ位一人で十分。
そんなひねくれた考えを頭の中で繰り返しながら、パソコンを打ち続けるそのときだった。
「江川君」
顔を上げると、小森先輩が立っていた。
「何すか?今日は当番じゃないっすよね?」
「夏休みに読む本を借りに来たの」
「どうぞ。勝手に探して、勝手に手続きしてください」
「それで、当番は一人だけなの?」
「そうなんっす。ヒーローは孤独が好きなんで」
「何それ?」小森先輩は少し考えるような顔をした。
「何って?」
「カッコつけてるつもりなら変だよ。中二病みたいじゃん」
「まぁ、そうとも言いますね」
先輩は少し笑った。
「じゃあ、探してくるね」そう言って書庫の方へ向かっていった。
俺はそのまま貸し出し作業を続ける。しばらくすると、先輩が本を抱えて戻ってきた。
「これ、自分でやっちゃうね」そう言って、俺の隣に座るとパソコンを立ち上げた。
先輩は自分の本の手続きを終えると、そのままカウンターから声を上げた。
「じゃあ、次の方はこちらにどうぞ」
「え?」
先輩は一緒の当番の時のように、貸し出しの手続きを始めた。
「先輩、そこまでしなくてもらわなくても大丈夫っすよ」
「私も大丈夫。まかせて」
それから二人で作業を続け、閉館まであと十五分というところで、ようやく来客が途切れた。
「今日は……ありがとうございました小森先輩」俺が言うと、小森先輩がこちらを見る。
「ううん。私が手伝いたかったから、気にしなくていいよ」
「それに、私、江川君にちょっと感謝してるから」
「感謝?」
「うん」
「感謝されるような記憶はないっすけど?」
「前に江川君が言ってくれたこと」
「俺、何か言いましたっけ?」
「『自分がやりたいからやる。一人でやるか誰かとやるかじゃなくて、やりたいことかどうかが大事』って」
「ああ……」
思い出したけど、とぼけてみた。
「そんなこと言ったっけかな」
「言ったよ」先輩は少し笑った。
「私、その言葉を聞いてから、自分がやりたいことをちゃんと考えてみようって思ったの」
「はぁ……」
「うん、そう。だから、みんなで集まることも、自分から動いてみようって思えた」
「……そうっすか」
「だから、感謝してる」小森先輩がまっすぐに俺を見てくる。
俺は少しだけ目をそらした。
別に、たいしたことを言ったつもりはない。その場で思いついたことを、ただ言っただけだ。
「まぁ、思いついたことを言っただけなんで」
「でも、私には大事なことだったよ」
「……そうっすか」なんとなく、返す言葉が見つからなかった。
「そうだ」先輩が急に顔を上げた。
「江川君、連絡先教えてくれる?」
「連絡先って、メッセージのっすか?なんで?」
「夏休みに、みんなで集まろうって話を進めてるんだけど、まだちゃんとできるか分からなくて」
「はぁ」
「困ったときに、江川君のストレートな考え方を聞けたら参考になるかなって」
「いやでも、そんなことぐらいで……」
「私には、そんなことぐらいじゃないの。江川君の言葉がとっても役に立ったし」
「それに夏休みなったら図書室で一緒に当番の時に話とかって出来ないでしょ……ね?」
うわ、この上目遣い結構やばい。やっぱ、小森先輩って先輩に見えない。
「まぁ……俺の意見が役に立つかは分からないですけど」
そう言いながら、俺はスマホを差し出した。
先輩がそれをそのまま受け取る。
「え? 私がやるの?」
「俺、友達登録ってやったことなくて」
「……そうなの?」先輩は少し驚いた顔をした。
俺は黙って見ているだけ。先輩がQRコードを読み込んで、登録を終える。
「はい。できたよ」
「ありがとうございます」
「……本当に少ないね」
「何がっすか?」
「友達登録」
「人の個人情報を見ないでくださいよ。……まぁ、そんなもんっすよ」
「あはは、江川君らしいかもね」先輩は少し困ったように笑った。
「はぁ、まぁそうですかね」
「夏休み中にメッセージするかもしれないけど、返事は急がなくていいからね」
「分かりました」
「じゃあ、またね」
「はい」
先輩が帰ったあと、俺は一人になった。なんとなくスマホを見る。小森こころって登録されている。
……別に、それだけだ。
家に帰ってから、俺はもう一度スマホを見た。やっぱり小森先輩の名前がある。
ただ、なんとなく、その名前をしばらく眺めていると、小森先輩の顔が頭に浮かぶ。
とても年上とは思えない小柄で子供っぽい顔。でも今日はなんか生き生きした表情だったなと思った。
今日の分の勉強を終わりにして、私はベッドの上でスマホを見ていた。
今日、江川君の連絡先を登録した。これで、夏休みに何か困ったことがあったら彼に相談できる。
そう思って友達登録の一覧を眺めていると、ふと気づいた。
……男子の登録は、江川君しかいない。
というか。
「……あれ?」
私は少し考えてから、後頭部をぽりぽりと掻いた。
「私も、友達少ないや」そう呟いて、ひとりで苦笑した。
絶対に夏休みにはみんなで遊ぶ日を作る。そのために、私は自分から動き始めた。今度は、ちゃんとみんなで集まれるといいな。
そう思いながら、私はスマホを閉じて、明かりを消した。