それぞれに進んで行く仲良しJK達のお話(いつの間にか、いつもつるんでる仲良しJK達のお話 セカンドシーズン)   作:シン_クワちゃん

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第九話「みんなの夏の日」

夏休み最後の土曜日。私たち八人は朝早く駅に集まって、特急列車に乗り込んだ。

 

四人で向かい合わせの席が二つで、私と沙織さん、内田君と長谷部さんで一つ。奈央ちゃんとやよいさん、石田君と敦美ちゃんで、それぞれのボックスに座る。

全員が揃っている。それだけで、なんだか少し嬉しかった。

 

列車が動き始めて、まだ駅を出たばかりだというのに、奈央ちゃんがリュックからお菓子を取り出した。

「はい、みんな食べて」

「早くない?」やよいさんが笑う。

「だって旅行じゃん。電車に乗ったらお菓子でしょ」

「遠足じゃないんだから」

「いいじゃん。ほら、アツミンも」

「もらうね」

敦美ちゃんがすぐに手を伸ばし、その隣から石田君も、「俺も」と続く。

「二人とも朝ご飯食べてきたんでしょ?」とやよいさんが突っ込む。

「食べたよ。でもお菓子は別腹」

「これだから運動部は」やよいさんが呆れたように言う。

 

そのうち内田君や長谷部さんもお菓子を受け取り、気がつけば、列車の中はすっかり旅行らしい雰囲気になっていて、そんなみんなの様子を眺めながら、私はニンマリと笑った。

修学旅行や遠足とは違い、仲のいいグループでのお出かけって、やっぱり楽しさが格別。

 

窓からの景色が、だんだん田舎っぽくなってきて長い鉄橋を渡った頃、隣の席に座っている沙織さんを見ると、沙織さんは窓の外をぼんやり眺めていた。

 

「沙織さん」耳に顔を近づけて小声で話す。

「はい?なにかしら?」

「この前話してくれた例の……あの男の子とは、その後どうです?」

「え?」沙織さんは、目をパチパチさせながら、私を見る。

「あの、前に言ってた……進学塾でお話しするようになったって言う男子」

「そうね……実は」沙織さんは小さく息を吐いた。

「夏休み中は塾も夏季集中コースでカリキュラムが変わるのだけど、そうしたら、一緒の授業がなくて会う機会がないの」

「そうなんですか」

「そう。だから、こころさんに授かった『独り言作戦』はまだ実行できていないの」

少し残念そうだった。ん?『独り言作戦』?まぁ確かにそうか。

「そうなんですね」

「こころさんのせっかくのアイデアなのに……」

「でも、二学期になればカリキュラムは戻るんですよね?」

「そうね」

「そうしたらそこで作戦開始ですよ、沙織隊長」なんて、敬礼の真似事をしてみる。

「了解しました、こころ参謀」二人は思わずプッと噴き出した。

そのとき、前の席から敦美ちゃんが振り返った。

「はい、小森ちゃん。これ食べる?」

「あ、ありがとう」

敦美ちゃんはお菓子をこちらに渡したあと、私と沙織さんを見た。

「ところで、沙織隊長って何の話?」

「えっ」沙織さんが固まる。

「なんとか作戦って聞こえたけど、二人でなにか考えてるのかな?」

「あ、えっとですね。前にちょっと沙織さんから相談されたことがあって」

「相談?沙織が小森ちゃんに?それにいつの間に二人とも名前呼び?」

「あ、実はその……「何でもないのよ」沙織さんがかぶせてきた。

「何でもない~?沙織が誰かに相談ってだけで一大事だよ」

「本当に何でもないから」

「ふーん?アタシには内緒の話ってことね」敦美ちゃんは少し首を傾げてから、また前を向いた。

 

沙織さんはうつむいているけど、見ると耳が赤くなってる。私は思わず笑ってしまった。

「……こころさん」

「はい」

「笑いましたね?」

「あ~と……少しだけ」

「もう……」はにかむ沙織さんってかわいい。

 

特急電車を降りて路線バスに乗り換える。しばらく走って街を抜けると、窓の外に海が見えてきた。

「海!」奈央ちゃんが声を上げる。

「うん、見えてきたね」長谷部さんも窓の外を見る。

青い海が道路の向こうに広がっている。

 

やよいさんは黙って海を見ていた。

いつものやよいさんなら、何か一言くらい言いそうなのに、今日はなんか静かだった。

私は少し気になったけれど、ただその姿を見ていた。

 

長谷部さんが内田君に話しかける。

「これくらいの時間で来られるなら、来年は泳ぎに来ようよ」

「来年?」

「大学生になってから」

「ああ……」

「みんなで来てもいいし」

内田君が少し考えてから、「それもいいね」と答えていた。

 

そんな話をしているうちに、バスは小洗海水浴場に着いた。

海水浴の時期はもう終わっている。それでも、砂浜にはまだ夏の名残が残っていた。

 

「海だー!」奈央ちゃんが砂浜へ走っていく。

「ちょっと、走ると危ないよ」やよいさんが、その後を追いかける。

みんなも続いて砂浜に降りた。

 

「あ、貝殻見つけ」敦美ちゃんは砂を両手で掘っている。

「どれ?」石田君が覗き込む。

「ほら」

「小さいな」

「うん、小さくて縞々がかわいい」

 

少し離れたところでは、奈央ちゃんも砂を掘って何かを探している。

「奈央さん、何探してるの?」

「宝物」

「そんな簡単に見つかる?」

「見つかるかもしれないじゃん」

 

私はその様子を見ながら、砂浜を歩いた。波打ち際まで行って、少しだけ水に足を入れてみる。

「冷たい……」思わず声が出た。

「もう冷たいの?」やよいさんが聞いてくる

「ちょっとだけ」

「私も、足だけ入れてみよっかな!」

「お、意外と冷たいね」

敦美ちゃんと石田君もやってきた。

「もう、冷たいんだ?」

「んじゃ俺も」石田君も入ってきた。

「アタシもやるやる!」

四人で波が来るたびに足を引っ込めたり、また近づいたりしていると、突然

「うわっ!」石田君が飛び退いた。

「何?」

「クラゲがいる!」

「え?」

みんなで海を見ると、石田君の足元に小さなクラゲが漂っていた。

「刺されたら危ないじゃん」

「別に触ってないって」

「石田、びびり」敦美ちゃんが笑う。

「いや、びびるだろ普通」

 

そんなやり取りをしているうちに、午前中はあっという間に過ぎていった。

次に海鮮市場に移動して、昼食は楽しみにしていたスペシャル海鮮丼だ。

四人掛けのテーブルに分かれて座って注文すると、いくらも待たないうちに八人分が次々とやってきた。

「うわ、すごい」

目の前に置かれた丼には、いろいろな魚が山のように乗っている。

「これ、食べきれるかな……」私が言うと、

「大丈夫でしょ?もし残すなら私が食べるよ」やよいさんが言ってくれる。

向かいの席では、種村さんと石田君が大盛りを注文していた。

どんぶりからして大きさが違う。お魚ははみ出しているし。

二人はものすごい勢いで食べ始めた。

 

隣りのテーブルから長谷部さんが呟く。

「食べるのはや……」

「運動部の人ってすごいね」内田君も感心している。

 

私とやよいさんがゆっくり食べている間に、二人の丼は見る見る減っていった。

「ごちそうさん」大盛りの石田君が最初に食べ終わった。

「早っ!」奈央ちゃんが驚く。

「まだまだ全然食べられるよ」石田君自慢げ。

「私、もう無理かも」私の丼にはまだお魚もご飯も残ってる。

「じゃあ、ワタシは食べるからちょうだい」と言ってくれたやよいさんと交換した。

 

食べ終わってお店を出ると、露店で敦美ちゃんと石田君が何か買っている。

見るとソフトクリームだ。

「よく入るわね」沙織さんは呆れたように種村さんと石田君を見る。

「アイスは別腹」

「別腹」

二人が同時に答える。

「便利な言葉ね、それ」やよいさんも呆れたように笑った。

 

それから私たちは、歩いて小洗磯前神社へ向かった。

鳥居をくぐって境内に入ると、少しだけ空気が変わった気がした。

 

まずは、みんなでお参りをする。

合格祈願。

それぞれが違う大学や進路を考えているけれど、今日は同じ場所で、同じように手を合わせていた。

 

お参りを終えると、奈央ちゃんがおみくじを引こうと言い出した。一人ずつ買って、みんなで一斉に開く。

「せーの!」

「あっ、私、大吉!」

「えっ、ほんと?」

「見せて見せて」

「奈央、今年の運全部使ったんじゃない?」

「ひどくない?それ!」

境内に笑い声が広がる。

 

そのあと、内田君と長谷部さんは絵馬を書くことにしたようだ。

「何書くの?」奈央ちゃんが聞く。

「秘密だよ」長谷部さんが笑う。

「いいじゃん、見せてよ」

「絶対見せないから」

二人で何かを書いて、絵馬を奉納しに行った。

 

一方、石田君と敦美ちゃんは、「海の鳥居、見に行こうぜ」と、境内を出て海岸の方へ向かっていく。

やよいさんはスマホを取り出して、鳥居の写真を何枚も撮っていた。

「そんなに撮るの?」沙織さんが聞いている。

「だって、きれいだから」

「私には、他の神社と同じように見えるけれど」

「全然違うよ。ほらこれ、別の神社に行ったときに撮ったやつ。沙織も比べてみなよ」

やよいさんはスマホを沙織さんに見せている。

 

私は社務所の前に立って、お守りを眺めた。色々なのがあるけれど、その中から合格祈願のお守りを一つ選んだ。

 

お守りを手にしてから、みんなのところへ戻る。ちょうど絵馬を奉納し終えた内田君と長谷部さんも戻ってきた。

「小森さん、お守り買ったの?」

「うん。合格祈願の」私は、袋から取り出して青いお守りを見せる。

「私たちも買おうかな」

長谷部さんが内田君とお守りを見る。

 

「じゃあ、これにする?」

 

「そうだね」

二人が選んだのは、私が買ったお守りとは違う、赤いお守りだった。

「ココロンとイクミンのは色が違うの?」奈央ちゃんが聞く。

「うん。私はこっちでいいかなって」長谷部さんが笑う。

内田君も、「僕たちはこっち」と答えた。

 

「きっとあれって……」奈央ちゃんがやよいさんにこそこそ話してる。

 

同じ場所に来ても、考えていることは、それぞれ違う。でも、今はみんな一緒にいる。それでいいような気がした。

最後に、地元の人にお願いして、鳥居の前でみんなが写った写真を撮ってから帰ることになった。

 

帰りの電車では、さすがに疲れたのか、みんな眠り始めた。向かいの席では、敦美ちゃんが石田君の肩に少し寄りかかっている。

私は窓の外をぼんやり眺めていた。

「こころ」隣からやよいさんが声をかけてきた。

「はい?」

「ワタシ、今日、とても楽しかった」

「うん」

「ありがとうね」

「え?」

「こころが考えてくれたんでしょ」

「……うん」

やよいさんは少しだけ黙った。

 

「実はね、進学塾の夏季集中コース、結構大変だったの」

「そうなんですか?」

「うん。周りはみんな頭いいし、授業も難しいし。自分が思ってたよりできなくて、ちょっと落ち込んでた」

私は何も言わずに聞いていた。

「でも、今日は本当に楽しかった。だから、また頑張ろうかなって思えた」

「なら……よかったです」

「ありがとう、こころ」やよいさんが笑った。

「私も楽しかったです」

 

やがて電車は、私たちの駅に到着した。みんなで降りて、改札へ向かう。

 

「じゃあ、二学期に!」

「また学校でね」

「バイバイ!」

 

それぞれが別の方向へ向かい、私も一人、家へ向かった。

 

家に帰って、お母さんがご飯を残してくれていたので少し食べてから、今日は湯船にしっかり入った。

部屋に入り、ベッドに座ってスマホを開いて今日撮った写真を順番に見ていく。

 

電車の中のお菓子。砂浜で遊ぶみんな。大盛りのスペシャル海鮮丼。ソフトクリームを食べる二人。

神社の鳥居。私と長谷部さんのお守り。みんなで撮った集合写真。

いっぱい増えた思い出の写真を見ると、楽しかった今日が鮮明に思い出せる。

 

最初は、どうしたらいいのか分からなかった。みんなで一日過ごせる日を作りたいと思っても、何をすればいいのか思いつかなかった。

それでも、自分で考えて、奈央ちゃんに相談して、江川君にも相談して、少しずつ形にしていった。

大変だったけど、自分でやりたいと思って、自分で動いてみて、本当によかったと思う。

すぐに全部できるようになるわけじゃないけど、これからも自分で考えて自分で行動してみたいって思えた。

 

一通り見終えてスマホを置くと、自分の顔が鏡に映った。

「……あ、日焼けした」

頬や首筋が赤くなっている。

 

そうだ、今日のこと、お礼を言っておこうと江川君のことを思い出した。

私はスマホを手に取って、メッセージを送った。

(こころ)こんばんは、今いいかな?

しばらくして、返信が来た。

(江川)こんばんは、小森先輩。大丈夫っす

(こころ)今日ね、この前相談を聞いてくれた、みんな過ごす一日だったの

(こころ)とっても楽しかった。相談に乗ってくれて、ありがとうね

(江川)結局、なにをしたんです?

(こころ)海の砂浜で遊んで、スペシャル海鮮丼食べて、神社に行ったよ

(江川)なんか盛沢山っすね

(こころ)どれも楽しかったの。合格祈願のお守りも買ったし

(江川)楽しかったならよかったです

私は少し考えてから、もう一度送る。

(こころ)顔とか日焼けしたよ。

送ってから、なんとなく自慢しているみたいでおかしくなった。

すぐに返信が来る。

(江川)海行ったんだから、そりゃ焼けるでしょ

(こころ)そうだけど

(江川)ちゃんと日焼け止め塗りました?

(こころ)……忘れました。

(江川)先輩、そういうところありますよね

(こころ)そういうところ?

(江川)いえ、なんでもないです。それじゃまた

 

一学期、江川君とこんなふうに普通に話すことなんて、考えもしなかった。

いつの間にか、自然に話せるようになっていた。それが、少し不思議だった。

 

 

夏休みがもうすぐ終わる今日からは、進学塾も通常授業に戻った。

その日の授業前、私が席に座っていると、やよいさんがやってきた。

「沙織、もう来てたんだ」

「あ、やよいさん」

「早田さん」

後ろから声をかけられて振り向くと、山崎君が立っていた。

「久しぶりに一緒の授業だね」

「あ、お久しぶりです。はい、頑張りましょう」

私は答え、山崎君は私の一つ空けた隣に座った。

「え?」悠木さんが目を丸くしている。

「どうしました?」

「いや……」

やよいさんが私と山崎君を何度も交互に見る。

「沙織が男子と普通にあいさつしてる」

「普通にあいさつくらいしますよ」

「いや、そうじゃなくて」

やよいさんは山崎君をじっと見た。

「あっ!」

「だいぶ前だけど、沙織のスマホ拾ってくれた人?」

「うん、そうよ」

「ああ、あのときの!」

山崎君が悠木さんを見る。

「悠木さんだよね?」

「え?」

「よろしく、僕は××高校の山崎です」

「……なんで私の名前知ってるの?」やよいさんが不思議そうな顔をする。

「私が言ってしまいました」

「沙織が?」

「はい」

「いつ?」

「前に一度だけ」

「一回しか言ってないのよね?」悠木さんが山崎君を見る。

「はい、多分」

「よく覚えてたね」

「覚えてるよ、それくらい」山崎君は何でもないように答えた。

「そっか……」やよいさんは私を見る。

「へえ」

「なにかしら?」

「いや……別に~」

 

そのとき、先生が教室に入ってきた。

 

私はノートを開きながら、少しだけ山崎君の方を見た。山崎君もノートを開いて前を向いている。

今日は、久しぶりに会えて、ちゃんと挨拶できた。それだけなのに、なぜか嬉しかった。

 

授業が終わると、やよいさんは「ちょっとトイレ行ってくる」と言って教室を出ていった。

 

今なら。そう思った。こころさん、作戦開始です。

私は少しだけ息を吸って、ノートを閉じる。

声の大きさを考えながら、呟いた。

 

「進路を決めるのに大事なことは、どの大学に行くかではなくて、何を学びたいかよね」

 

「そうだね」山崎君が顔を向けた。

「……」来た!あ、すぐにつづけなきゃ。

「山崎君は、もう決めてるんですか?」

「大学?」

「大学というより、何を学びたいかですね」

「一応、大学で学びたいと思うことはあるけど」

「どんなことを?」

「経済系かな」

「経済……」

「うん。大学に入ってから、経済の仕組みを勉強してみたい」

「そうなんですね」

そこから、話は思ったより自然に続いた。具体的にどの大学ならそれが深く学べるか。どんな学科でどんなことを勉強したいのか。

私も、自分が興味を持っていることを話した。

気がつけば、二人とも普通に話していた。

「ただいま……」そこへやよいさんが戻ってきた。

「え?沙織が男子と仲良くしゃべってる」

「え?おかしいですか?」

「そりゃ……いや、おかしくはないけど、意外というか珍しいというか」

「それで、どんな話をしてたの?」

「大学でどんなことを学びたいかとか、進路の話かな」

「進路?」

「早田さんは自分の進路をしっかり考えていて、僕も参考になったよ」

「私の方こそ、ためになったというか……人の考え方が知れてうれしかったです」

「なんか……沙織が変身した」

「変身ってなによ」私は少しだけ笑った。

 

独り言作戦は、成功したかも。話しかけるより、ずっと楽だった。そして何より、山崎君と話せたことが嬉しかった。こころさん、うまくいきましたよ。

 

そんな一日も終わり、夏休みが終わり、それぞれの夏が過ぎて、二学期が始まった。

 

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