「あきらとしおり」「わるくない」   作:SABON

1 / 1
原作5巻巻末「夏の日、残像」から派生していきます。
ここまでは原作通りです。


夏の日、残像……なんてことはなく。

「福田くん、遅いな」

「大丈夫です。桐島さんとちがって、しっかりしていらっしゃいますし」

 

遠野の肩が、俺の肩にふれる。それだけで、なんだか、あたたかい気持ちになる。遠野は俺と少しふれるだけで、嬉しそうに笑う。普段はもっとくっつきたがりだが、旅先ではこの程度にしておくようだった。

 

俺と遠野の、穏やかな時間。

きっと、これがずっとつづいていくのだと思った。

 

そのうちに、大道寺さんたちが浜にあがってくる。

 

「せっかくだから五人みんなで遊べることしようよ」

 

宮前がそういうので、なにしよっか、と話す。

そのときだった。

 

「あ、福田くん戻ってきた。こっちこっち!」

 

宮前が手をあげる。

福田くんは遠目にみてももじもじしていて、なにやら照れた様子だ。俺たちの近くまできて

 

「水を買いにいくといったんだけど、実は、完全に忘れてしまったんだ」

「福田くんにしては珍しいミスだな」

 

俺がいうと、これには事情があって、と福田くんは頭をかく。なにやら緊張するような出来事があったことはわかる。

 

「一体どうしたんだ?」

「実は、海の家で女の子に出会ったんだ」

 

みれば、離れたところに、水着の女の子が立っていた。福田くんが海の家で話したところによると、このあたりの大学に通っているらしい。

 

「福田くん、もしかして」

「ああ」

 

とても照れた表情でいう。

 

「ひとめぼれ、というやつだよ」

 

京都からきていることを説明し、一緒に遊びませんかと誘ったらしい。

 

「本当に申し訳ないんだけど、女の子もいるからって、そういう感じで話した。安心させたかったんだ」

「全然いいよ!そういうことなら手伝うからさ!ね?」

 

宮前がいって、遠野がぐっとこぶしを握る。でも、遠野はすぐに首をかしげる。福田くんが遠野への未練を断つため、無理をして他の子を好きになったといっている可能性がある。そのことに思いあたり、喜んだ顔をしていいものかと考えたのだろう。でも——。

 

「大丈夫」

 

福田くんは力強くいう。

 

「本当に、あの子をみたときに胸がドキドキしたんだ。椅子に座って、寂しそうな目で海をみていた。そんな彼女を笑顔にしたい、笑顔がみたいって思ったんだ。心の底から。僕はあの女の子が好きだ」

 

「福田が軽い男じゃないのはよくわかっている」

 

大道寺さんがいう。ここぞというときに背中を押す、頼りになる人だ。

もちろん俺もうなずく。

こうやって、俺たちは大人になっていくのだろう。

俺と遠野もそのうち恋人でいることがとても自然になって、福田くんも新しい恋をして、恋人をつくる。

 

「じゃあ、呼んでくるよ」

 

福田くんが女の子のほうにいって、話をして、こっちに連れてくる。

女の子は遠慮がちで、とても控えめな態度だ。福田くんにとても似合う。

宮前だってそのうち彼氏をつくるだろう。みんな、前に進んでいくのだ。

 

俺たちは安定して、どんどん穏やかになっていく。

 

大道寺さんはきっとロケットを打ち上げる。

俺たちは十年後、種子島にいって、みんなでロケットの打ち上げをみるのだろう。今日この日を懐かしく思うかもしれない。

社会人になっている俺たちはなにをしているだろう。

 

未来に想いを馳せる。

となりに遠野はいるのだろうか。

みんな、幸せでいてくれるだろうか。

多分、大丈夫。俺はもう大丈夫。

遠野とずっと一緒にいて、みんなも幸せになる。

 

そんな未来を想像する。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ ——」

瞬間。

眩暈のような、視界がブレる感覚。

何か大きな事が変わってしまったような、そんな感覚。

 

「みんな、紹介するよ」

 

福田くんが連れてきた女の子。

 

それは——。

 

綺麗な黒髪を腰まで靡かせた、露出をあまりしていない水着が似合う、少し大人しめの、メガネが可愛らしい女の子だった。




次回以降からifがどんどん始まっていきます。
最後の女の子は特に原作とは関係ありません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。