ここまでは原作通りです。
「福田くん、遅いな」
「大丈夫です。桐島さんとちがって、しっかりしていらっしゃいますし」
遠野の肩が、俺の肩にふれる。それだけで、なんだか、あたたかい気持ちになる。遠野は俺と少しふれるだけで、嬉しそうに笑う。普段はもっとくっつきたがりだが、旅先ではこの程度にしておくようだった。
俺と遠野の、穏やかな時間。
きっと、これがずっとつづいていくのだと思った。
そのうちに、大道寺さんたちが浜にあがってくる。
「せっかくだから五人みんなで遊べることしようよ」
宮前がそういうので、なにしよっか、と話す。
そのときだった。
「あ、福田くん戻ってきた。こっちこっち!」
宮前が手をあげる。
福田くんは遠目にみてももじもじしていて、なにやら照れた様子だ。俺たちの近くまできて
「水を買いにいくといったんだけど、実は、完全に忘れてしまったんだ」
「福田くんにしては珍しいミスだな」
俺がいうと、これには事情があって、と福田くんは頭をかく。なにやら緊張するような出来事があったことはわかる。
「一体どうしたんだ?」
「実は、海の家で女の子に出会ったんだ」
みれば、離れたところに、水着の女の子が立っていた。福田くんが海の家で話したところによると、このあたりの大学に通っているらしい。
「福田くん、もしかして」
「ああ」
とても照れた表情でいう。
「ひとめぼれ、というやつだよ」
京都からきていることを説明し、一緒に遊びませんかと誘ったらしい。
「本当に申し訳ないんだけど、女の子もいるからって、そういう感じで話した。安心させたかったんだ」
「全然いいよ!そういうことなら手伝うからさ!ね?」
宮前がいって、遠野がぐっとこぶしを握る。でも、遠野はすぐに首をかしげる。福田くんが遠野への未練を断つため、無理をして他の子を好きになったといっている可能性がある。そのことに思いあたり、喜んだ顔をしていいものかと考えたのだろう。でも——。
「大丈夫」
福田くんは力強くいう。
「本当に、あの子をみたときに胸がドキドキしたんだ。椅子に座って、寂しそうな目で海をみていた。そんな彼女を笑顔にしたい、笑顔がみたいって思ったんだ。心の底から。僕はあの女の子が好きだ」
「福田が軽い男じゃないのはよくわかっている」
大道寺さんがいう。ここぞというときに背中を押す、頼りになる人だ。
もちろん俺もうなずく。
こうやって、俺たちは大人になっていくのだろう。
俺と遠野もそのうち恋人でいることがとても自然になって、福田くんも新しい恋をして、恋人をつくる。
「じゃあ、呼んでくるよ」
福田くんが女の子のほうにいって、話をして、こっちに連れてくる。
女の子は遠慮がちで、とても控えめな態度だ。福田くんにとても似合う。
宮前だってそのうち彼氏をつくるだろう。みんな、前に進んでいくのだ。
俺たちは安定して、どんどん穏やかになっていく。
大道寺さんはきっとロケットを打ち上げる。
俺たちは十年後、種子島にいって、みんなでロケットの打ち上げをみるのだろう。今日この日を懐かしく思うかもしれない。
社会人になっている俺たちはなにをしているだろう。
未来に想いを馳せる。
となりに遠野はいるのだろうか。
みんな、幸せでいてくれるだろうか。
多分、大丈夫。俺はもう大丈夫。
遠野とずっと一緒にいて、みんなも幸せになる。
そんな未来を想像する。
「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ ——」
瞬間。
眩暈のような、視界がブレる感覚。
何か大きな事が変わってしまったような、そんな感覚。
「みんな、紹介するよ」
福田くんが連れてきた女の子。
それは——。
綺麗な黒髪を腰まで靡かせた、露出をあまりしていない水着が似合う、少し大人しめの、メガネが可愛らしい女の子だった。
次回以降からifがどんどん始まっていきます。
最後の女の子は特に原作とは関係ありません。