「いやあ、ド派手に負けたねえ」
「いやあ、ド派手に負けましたねえ」
レース映像を見返してみればみるほど、いわば、落ち着きのないレースはこびだった。
1000メートルを59.1秒で逃げたテイエムプリキュアを二番手集団で見たかと思えば、向こう正面で『なんかいけそう!』と逃げるプリキュアに合流。最終コーナーではすっかりバテてしまい、結果として9着まで沈んでしまった。
……と、結果だけ見ればもう逃げにはこりごりという結論だが。
「まあでも、らしくない負け方だったね」
「らしくないってなんだよぉ……じゃあ、らしい負け方があるってことぉ……?」
「いやいや! 違うちがう、その……ともかく、今は休んでよ。つぎのレースのことも、いまは考えないで良いから」
「…………………………………………考えなくていいって」
「そういうわけだから。とにかく休んでね」
そう言い残して、私はマッサージ室をあとにした。
負けたのは悔しいし、次のことを話したいのもやまやまだが、いまはスプマンテのリカバリーが先決だ。
私はこれからリカバリーのプランを練りながらトレーナー室に足を向けた。
「ーーっと、バインダー忘れた」
邪魔をしないように急いで部屋を出るあまり、うっかりしてた。
急ぎ足でマッサージ室の前に戻りーー
「ーーワタシつぎ、ラストランなのに……なにしてんだろ」
ふと、そんな声を聞いた。
***
目標 G1で勝つ
年末、おぞーに食べながら友達とアリマを見たあと。
気付いたらノートにそう書いていて、気付いたら練習場にいた。
「はぁ……っ! はぁ……っ!」
さっき食べたばっかだから脇腹いたい……。
つかさっむ! え、みんなこんな寒いなかレースしてたの??
「あ゛ーー!! ざみ゛ーーー!!!」
……もうやめよっかな。つか、ちょっとタルいから走りに来ただけだし。
でも。
「あと、一周だけ……」
きりっとした冬の冷たい空気を目一杯吸い込む。
目を閉じる。
脚を踏み込む。
G1の大歓声が聞こえる。
ーー先頭はダイワスカーレット! ダイワスカーレット先頭!! ダイワスカーレット先頭だ!!!
さっき見たばかりのアリマの様子が目の前でスパークする。
先頭は同級生のダスカちゃん。
そしてG1用の派手な勝負服に身を包んだ14頭がホームストレッチを走り抜けて……。
「はぁ……はぁ……」
その後でワタシは、ただ無骨なポールが立っているだけの簡素なゴール板の前を、15頭目として駆け抜ける。
「いや、モーソーでくらい勝たせろ、ばか……」
さすがは年末中山総決算。グランプリアリマはそう簡単じゃないぜ。
膝に手をついて、ぜーはー肩で息をする。
目標 G1で勝つ
「へっ……ばっかじゃないの……」
こんなさむーい年末に熱くなっちゃって。
もう来年は卒業して、引退だって言うのに。
これまでずっと、小学校も中学校もずーっと、強くなるための時間はいくらでもあったのに。
覚悟を決める時間は無限にあったのに。
なんで今ごろ。
どうして今さら。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! 勝ちてーーーーーーーーーー!!!!」
ジャンポケ姉ちゃんみたいに空に吠えてみた。意外と気持ちが良い。
アリマの熱に浮かされたとか?
そうかもしれない。
引退前に一花咲かせたいとか?
ワンチャンあるかもしれない。
…………。
「……G1勝ったら、速いって言ってもらえるのかな……」
…………。
「へへへ、なんてね」
……でも。
でも、もし勝ったら。
もしかしたら。
もしかして。
「もしかするかも?」
じゃあもう一周いこうか。
さあ、今年三度目のアリマ記念ーーっ!
「ーーいま、スッタートしました!!!」
そうやってワタシは、師走の空の下でもう一つの中山を駆け抜け……。
「いや、勝てるビジョンがみえん!」
流石アリマ! グランプリホースのカンロク! だが負けん!
部屋に戻って、ワタシはノートを開いた。
「んあ、なにしてるんスプちー」
おぞーに食べてるソウルフレンドーーテイエムプリキュアのだるだるな様子に気を抜くことなく、ワタシは元気いっぱい書く殴る!
目標は変更だ!
「よっっし!」
目標 ゼッタイ!G1で勝つ!