Army,Army,Army,Army,Army 作:日向 史
円卓の五人の男たちは、教官の前に並ぶ。五者五様。
彼らは着ている軍服も違えば、背の高さも顔つきも違う。
そして、決定的に違うのは、次の問いに対する答えだ。
教官は問う。
「戦争において最も大事なものを一つ挙げるとすれば、何か?」
キッチリと軍服を着込んだ男は言う。
「戦略です。方針なくして戦争は行えません」
掴み所のない雰囲気を漂わせた男は言う。
「情報です。分析なくして戦争は行えません」
ワクワクした気持ちを全身から伝える男は言う。
「物流です。補給なくして戦争は行えません」
先程まで大声で笑っていたのに、今では厳然たる態度をとる男は言う。
「民意です。国民なくして戦争は行えません」
気負うでもなく、しかし、無責任にも見えない自然体な男は言う。
「講和です。外交なくして戦争は行えません」
この場にいるのは彼らだけではない。
彼ら五人についてきた側近たちの姿もある。
側近たちは直立不動であった。
しかし、彼らの目には五人の答えに対する理解の色があった。
五人の答えに対する喜色の色があった。
ただ、この場で笑みを浮かべるような人間は一人もいない。
教官は言う。
「よろしい。では、それが正しいか。ここで試すことだ」
教官はそれだけ言うと、この場を後にした。
■
この場に集うは五人の士官とその側近たち。合計14人。
彼らは所属国家も違えば、人種や民族も違う。
しかし、共通しているのは、彼らが陸軍軍人である点と、年齢だ。皆が、30歳前後である。
共通点には理由がある。それは、ここが【特殊士官学校】であるからだ。
彼らは各国から選抜されてしまった士官たちだ。
彼らはここで「戦争」を学ぶ。
だが、彼らはまだ知らない。
ここがいかに過酷で、残酷な教育機関であるのかを。
■
「おっ! 一番乗りか……少し、早すぎたか?」
「いえ、15分前なので早すぎるということは、ないでしょう」
二人の男は教官から「所定の部屋へ、所定の時間へ来い」と告げられた。
向かった部屋には円卓があり、五つの席がある。
席には指定があり、男たちは【南方帝国】と書かれた紙が置いてある席へ向かう。
男の一人が椅子を引こうとするので、もう一方の男はそれを手で制しながら、
「紀伊、そんなに気を使うな。ここには私たちしかいないんだから」と言う。
「いえ、そうもいきませんよ。閣下に無礼を働くわけにはいきませんから」
「その 閣下 と呼ぶのも、止めたらどうだ? 南山さん、でいいぞ?」
「いえ、私にとって閣下は閣下ですから」
「そうかぁ……」
結局、紀伊と呼ばれた男が椅子を引き、南山はその椅子に座った。
南山は座ると、すぐに紀伊に向かって「そういえば……」と、別の話題を振った。
「先日の課題について、私なりに考えてみたんだが、これが思いのほか楽しくてな。つい熱中してしまった」
「仮想陸軍の創設ですよね? 私も閣下がどのような軍を創設されるのか、とても気になります」
「よし、教えよう」
南山が意気込んで話そうとしたところ、部屋の扉が開いた。
部屋に入ってきたのは、二人の男である。どちらも【東方王国】の軍服を着こなしている。
一方の男が椅子を引くと、一方の男は自然な流れで座る。
一連の動作として、洗練されているように見えた。
そのまま二人は虚空を見つめている。まるでこの部屋には二人しかいないかのような態度だ。
南山は少し申し訳なさそうな顔をして「後でな」と、紀伊に言う。
紀伊も「心得ております」と、言って半歩下がると、南山の背後で直立不動の姿勢をとった。
南山は東方王国の席に座る男へ話しかけた。
「初めまして、ですな。私は南方帝国陸軍 中佐、南山巌です。以後、よろしくお願いします」
「ふむ……東方王国陸軍 中佐、カール・メイヤーです。よろしくお願いします」
南山から見たカールの第一印象は「静かな男だ」であった。
見た目、所作、物腰から、カールに静的な印象を抱いた。
南山は「この御仁は、自分との会話を望まないかもな」と思ったが、それでも話し続けるのが、彼の姿勢であった。
南山は会話で相手を知り、相手が嫌がるようであれば、会話を切り上げるつもりである。
「メイヤー殿は、いつ、こちらへ? 私は先週ですが、自室が思ったよりも広く住みやすいことに驚いております。一週間で祖国の官舎に嫌気が差しました。このままでは国に帰れなくなりそうです。いやはや、困ったものです」
「ふむ……であれば、軍に申し出ては? ここに呼ばれるような有能な貴殿の頼みであれば、軍も無下にはしないでしょう」
「はっはっは! 私が有能かは分かりませんが、確かにそれも良いですなぁ。紀伊、本国に私の部屋と中尾大佐の部屋を交換するよう頼んでくれ」
「……閣下、ご冗談を」
南山が「はっはっは!」と楽しそうに笑っていると、
不意に「おや? 随分と楽しそうじゃありませんか。もっと殺伐とした雰囲気になると予想したのに」という声が聞こえた。
南山が声のする方へ目を向けると【北方連合国】の軍服を着た男が、男女の側近二名を伴って部屋へ入ってきた。
男が自分で椅子を引いて席に着くと、側近は彼の背後に控えた。
「せっかく他国の若手と交流できる貴重な機会ですからなぁ。親交を深めておくのも良いと思った次第です」
「確かにその意見には大いに賛成できますね。北方連合陸軍 中佐、ジェームズ・ステュアートです。どうぞ、よろしくお願いします」
円卓に座る男、ジェームズが名乗ると、南山も返答する。
続いて、ジェームズが「そちらは?」と問うので、カールも名乗る。
そのままジェームズとカールは談笑を始めた。
南山はカールと話すジェームズを見て、
「なんとも不思議な雰囲気をまとった男だ」と思った。
軽薄そうでもあり、礼節を重んじるようでもある。社交的なのは間違いないだろうが。
ただ、直感的に「隙を見せてはならない」とも思った。それが何に起因するのかは、まだ分からないが……
と、そこで南山の思考は中断された。
なにやら外が騒がしい。
「やっぱり、シールドマシンが欲しいよねぇ。一度は海底トンネルを掘ってみたいからね」
「閣下、無理です」
「掘ってみたいけど、閣下には無理ですよ。海底トンネルを掘るのに、いくらかかるか、分かっていますか? この間も、ピエールだとかいう、財務省のお役人に怒られていましたよね?」
「いや、あれは不当な申し入れだよ。僕は必要な装備を、必要なだけ要求したに過ぎない」
「閣下、それだけで財務省から目をつけられるはずがありません」
「絶対に閣下が悪いですよ。相当ふんだくろうとしたんでしょう」
騒がしい三人は【西方共和国】の軍服を着ていた。
先頭を歩く男が席に向かうと、脇を固める男女の側近が、二人で椅子を引いた。
その椅子に先頭の男は座ると、再び、シールドマシンの話を始めた。
南山は椅子に座る男に「楽しそうなお話ですなぁ」と言った。
「貴国では海底トンネルを掘る計画があるのですか?」
問われた男は、キョトンとした顔をした後、少し恥ずかしそうな顔をして、
「いえ、そのような計画はありません。ただ、趣味の話をしているだけで……」と、言った。
「ほほぅ。随分と熱く語っておられたので、勘違いをしました。失礼しました」
南山はそう言った後、男に名乗る。
男も「西方共和国陸軍 中佐、ルイ・アルベルトです」と名乗る。
「アルベルト殿は工兵出身ですか?」
「いえ、そうではないのですが……個人的にその手のものが、好きなだけでして」
南山はルイを「面白そうな男だ」と思った。
「ほほぅ」と相槌を打って、さらに会話を続けようとしたのだが……
またしても、なにやら外が騒がしい。
部屋にいる全員が扉を見つめている。
「今日という今日は、許さないぜ! 絶対に払ってもらうからな! 俺は! 三杯しか飲んでないんだ! それで、なんで割り勘なんだよ!」
「許してくれよ、ミハイル。今は手持ちが少ないんだ。今度の給料日に、必ず返すから」
「その意気や良し! ミハイル、許してやれ!」
「お前が言うな! そもそも、お前が注文し過ぎたのが、原因だろうが! あんな金額になったのは!」
「ミハイルは、懐が浅いのです。もっと、深い懐でニコライを許すべきなのです」
「お前もな! お前からも取り立てるからな! 財布忘れたの、絶対に確信犯だろう! 高くつくのが、分かっていたからだろう!」
扉を開けて入ってきたのは【人民共和国連邦】の軍服を着た男が二人、女が二人。
四人は室内の全員の視線が自分たちに向けられていることに気がついて、黙った。
しかし、すぐに男の一人が直立不動の姿勢をとって敬礼すると、
「人民共和国連邦国防陸軍 中佐、ニコライ・イリノフであります!」と、堂々たる名乗りを上げた。
すると、ニコライの隣にいた女もそれにならい、
「人民共和国連邦国防陸軍 少佐、陸軍政治総局所属、ミレナ・ベルカであります!」と、こちらも堂々たる名乗りを上げる。
ミレナの隣の女は上手く状況が飲み込めていない様子だったが、右にならえで、
「人民共和国連邦国防陸軍 少佐、陸軍行政総局所属、リディア・ニコリッチであります!」と、名乗った。
最後の男も上手く状況が飲み込めていないようだったが、
「人民共和国連邦国防陸軍 少佐、ミハイル・レヴィツキであります!」と、名乗った。
……誰も言葉を発さない。
このまま沈黙が支配する、気まずい時間が訪れるのかと思いきや、ニコライは全員のもとを周りながら、握手を交わしていった。
南山はニコライに、ルイとは違う種類の「面白さ」を感じていた。
それが、どのような力を発揮するのかは、まだ分からないが、いずれ分かるだろう。
その時を楽しみに思う南山であった。
そして、南山の四人の中佐に関する思考は、部屋に教官の姿が見えたことで、ひとまず終わるのであった。