Army,Army,Army,Army,Army 作:日向 史
西方共和国陸軍のルイ・アルベルト中佐は、思わず「よし!」と声を上げた。
彼の視線の先には、一枚の紙がある。
それを見ながら、ルイは満足気な表情を浮かべているのである。
ここは【特殊士官学校】の校内にある執務室。
西方共和国に割り当てられた一室である。
故に、ここにはルイの他には、本国から一緒に来たレオンとマリーしかいない。
「二人とも、見てごらんよ! この素晴らしい僕の発想力の結実を!」
ルイは机に向かって事務仕事をしているレオンとマリーに気安く話しかける。
階級に上下はあれど、三人は幼馴染である。
ルイにとって二人は、心から気を許せる友人なのだ。
故に、この【特殊士官学校】へ側近を伴って入校しても良いと聞いたとき、ルイは真っ先に二人の名を伝えたのであった。
ルイの楽しそうな声を聞いたマリーは、
「閣下、どうされたんですか? そんなに楽しそうにして」と、言った。
同じようにレオンも、
「楽しそうなのは結構ですが、閣下は本分をお忘れではないですよね? 以前、お話しされていた課題は終えられたのですか?」と、言った。
「課題は終わったよ! そして、これこそが僕の課題への答えさ!」
ルイは二人のもとへ行くと、手に持っていた紙を見せる。
そこには組織図が書かれていた。
「輸送軍、建設軍、通信軍……なんですか、これは?」
「ユニット制……なんですか、これは?」
マリーとレオンは、互いに組織図に書かれた見慣れぬ単語に疑問をもった。
「これこそが、僕が率いる陸軍さ! どうだい、美しいだろう?」
「「…………」」
これが、ルイに与えられた課題「仮想陸軍の創設」に対する答えだというのは分かる。
しかし、見慣れぬ単語が書かれた、このルイの陸軍がどのような特徴を有するのか、組織図を見ただけでは二人には理解できない。
二人は互いに目配せした結果、先にレオンが口を開くことになった。
「えーと……では、閣下。このユニット制というものが、いかなるものか、教えてくれますか?」
「もちろん! これは僕の画期的な発明だと思うんだけどね。画一的で完結的な戦闘能力を持った集団をいくつも用意するんだ。その集団の一単位をユニットとして、各軍で融通し合う。そうすれば、いろいろな場面で応用が利くとは思わないかい?」
「……それは、各軍の通常編成である師団や旅団を融通するのではいけないのですか?」
「それでもいいけど、戦闘中に迅速に編成を終えて、他軍へ融通するのは厳しいだろう?」
「それは、まあ……その通りですが」
「そこで、このユニット制さ! ユニット単位で戦闘集団を管理することで、スムーズに戦力を移動させることができる。しかも、各ユニットが画一的で完結的な能力を有しているから、編成の手間を簡略化することができる」
「……では、1ユニットは、どれくらいの規模感を想定されているのですか?」
「それは、全軍の規模感にもよるけど、仮に30万の軍であれば、1ユニットは6,500人程度かな」
「ほぅ……では、この直轄軍というのは?」
「これは総司令部の指示で適切に運用できる戦力さ。まあ、基本的な予備戦力だね」
レオンが「ほぅ」と言って、なにやら考え込む。
それを見て、今度はマリーがルイへ質問する。
「閣下。この輸送軍、建設軍、通信軍というのは、なんですか?」
「よく聞いてくれたね! これも僕の類まれなる発想力の結実なんだけど、各軍が抱える輸送兵、工兵、通信兵とは別に、インフラ構築に特化した軍を作ろうという試みだよ!」
「……この三軍は、どのような役割を担うのですか?」
「おっと、これからは後方三軍と呼んでね。流行らせようと思うから。後方三軍には、基本的に後方でインフラ構築に従事してもらおうと思う。あとは、インフラ構築に伴う各所との折衝や事務処理とかも」
「……それは、通常の兵科や事務方に任せるのでは、いけないのですか?」
「それでもいいけど、後方三軍には通常にはない強みがあるからさ。たとえば、輸送軍という輸送に特化した軍があることで、迅速な配置転換を可能にできる」
「そこでユニット制と繋がるわけですね」と、レオンが言うと、
「その通り! 建設軍にも同じような強みがある。建設に特化しているから、野戦軍が戦闘中にもインフラ整備を進められる。通信軍も戦闘中に通信インフラを整備できる。どちらも戦闘中に破壊されたインフラを復旧できるんだ」
「ほぅ……それで野戦軍と同じように、後方の兵科を集めた軍にするわけですね。閣下、面白いです!」
「そうだろう! そして、あんまり使いたくない手ではあるけど、後方三軍でユニットを編成して、前線へ送ることもできる」
「通常のユニットよりも火力は劣るでしょうが、急場をしのぐ際には有効かもしれませんね。閣下、面白いと思います」
「そうだろう! どうだい、二人とも。もう、僕が率いる陸軍で働きたくなっただろう?」
ルイの問いかけに、なぜだか、二人は頷かない。
二人とも「面白いです」と、肯定してくれたのに。
ルイは不安になって「……二人とも、どうしたんだい?」と、言う。
レオンが渋い顔をしながら「閣下、この軍は……」と、言う。
マリーも同じような顔をして「とてもお金を使いませんか?」と、言う。
「「「…………」」」
三人とも黙った。
ルイは二人から視線を逸らし、マリーはルイを見つめ、レオンは組織図の書かれた紙を手にした。
誰もなにも言わない。
気まずい沈黙に耐えかねたルイは、レオンの手から組織図を抜き取ると、
「……まあ、そういうことだから、二人ともよろしく頼むね。レオン・バロー作戦参謀総長。マリー・ジオネ後方参謀総長。僕はこれを提出してくるから」と、言って部屋を後にした。
残された二人は互いに顔を見合わせると、揃って困ったような表情を浮かべた。
「……閣下の言う通りにしていると、国家財政は破綻するわよ」
「私もそう思ったから、こっそり総司令部の人員に財務官僚を書き足しておいたよ」
「良い判断ね」
こうして、ルイと財務官僚との長きにわたる戦いの火蓋は切って落とされたのだった。
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ルイが提出した紙を見ながら【特殊士官学校】の学校長は「面白い」と言った。
その声に応じるように教官の一人が、
「彼の思想が前面に出ております。特に後方兵科を束ねた軍級の組織を常設するという発想は」
「そうだな。それに、このユニット制というのも興味深い。既存の発想に捉われない、西方共和国らしい軍人の考え方だ」
「はい。彼は共和国のモットーを体現しているようです」
「そうだな……良いだろう。この条件で共和国陸軍を創設しなさい」
教官は「分かりました」と言って、エンジニアたちのもとへ向かう。
そして、ルイの書いた組織図を見ながらエンジニアたちへ指示をする。
指示を受けたエンジニアたちは、忙しくコンソールを操作するのであった。