「大砲だ!!」
ルフィの叫びが、ゴーイングメリー号の甲板に響き渡った。
「……は?」
ゼタは思わず聞き返した。
目の前には、山のように巨大な黒いクジラ。
背後からは、リヴァース・マウンテンを下る激流。
船は猛烈な勢いでクジラへと近づいている。
「大砲って……何を撃つつもりよ!?」
「船を止めるんだ!」
「だから、どうやって――」
ドォン!!
次の瞬間、船首の大砲が火を噴いた。
砲弾が巨大なクジラに命中する。
その反動で、メリー号の速度がわずかに落ちた。
「……えええっ!?」
ゼタは目を見開いた。
「そんな止め方がある!?」
「あるんだな、これが!」
ウソップが半泣きで叫ぶ。
だが、船は完全には止まらない。
「ぶつかるわよ!!」
ナミが悲鳴を上げた。
ゴンッ!!
船首がクジラの身体に衝突した。
衝撃で甲板が大きく揺れる。
「きゃっ!」
ゼタは槍の石突きを甲板に当て、踏ん張った。
ゾロとサンジも体勢を立て直す。
しかし、船首の羊の飾りが折れ、海へ落ちてしまった。
「……あ」
ルフィが固まった。
そして、次の瞬間。
「メリーの頭がァァァ!!」
「お前が大砲撃ったからだろ!!」
ウソップが怒鳴る。
ゼタは呆然と船首を見つめた。
「……ちょっと。大切な船なんじゃなかったの?」
「そうだ!」
「だったら、もっと大事に扱いなさいよ!!」
だが、ルフィは突然、クジラを睨みつけた。
「……お前が悪い!」
「は?」
ゼタが振り返る。
ルフィは折れた船首の飾りを見つめ、拳を握りしめた。
「メリーの頭を折りやがって!」
「いや、だからあんたが――」
「ゴムゴムの……!」
ルフィの腕が伸びる。
「銃!!」
巨大なクジラへ向けて拳が放たれた。
「何やってんのよォォォ!!」
ゼタの叫びが響いた。
そして。
ゴオオオオオオオ!!
クジラが、ゆっくりと口を開いた。
「…………」
ゼタは固まった。
目の前に広がる、巨大な暗闇。
「……嘘でしょ」
次の瞬間。
メリー号は、クジラの口の中へと飲み込まれていった。
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「うわああああ!!」
ウソップが悲鳴を上げる。
ゼタも船縁にしがみついた。
「ちょっと! 何なのよ、これ!!」
暗闇。
激しい水流。
そして、巨大な生物の体内とは思えないほど広い空間。
船はそのまま流されていく。
「……ん?」
ゼタは目を瞬かせた。
暗闇の先に、青い空が見えた。
「……え?」
雲が浮かんでいる。
水平線がある。
遠くには、小さな島まで見える。
「……ちょっと待って」
ゼタは目を擦った。
「……あたしたち、クジラに飲み込まれたのよね?」
「そうだな」
ゾロが答える。
「……じゃあ、何で空があるの?」
「知らねェ」
「……何で島があるの?」
「知らねェ」
「……何でそんなに落ち着いてるのよ!?」
ゾロは肩をすくめた。
「騒いだって仕方ねェだろ」
「……っ!」
ゼタは言葉を失った。
そして、深いため息をつく。
「……この世界、本当にどうなってんのよ」
ゼタは呆れながらも、周囲を警戒した。
すると。
「……ん?」
遠くに、小さな島が見える。
その上には、奇妙な建物。
そして、椅子に腰掛けた老人の姿があった。
「……人?」
ゼタは目を細めた。
「……何でクジラのお腹の中に人がいるのよ」
もう驚くことにも疲れてきた。
メリー号が島へ近づく。
そこにいたのは、花柄のシャツを着た老人だった。
老人は新聞を読みながら、何事もなかったかのように座っている。
「……ねえ」
ゼタが声をかけた。
老人は顔を上げない。
「……おじいさん?」
沈黙。
「……聞こえてる?」
老人はゆっくりと新聞を下ろした。
「……」
ゼタは眉をひそめる。
「……何よ、その間」
老人はしばらく彼女を見つめた。
そして、静かに口を開く。
「……人に名前を尋ねるときは、まず自分から名乗るものだ」
「いや、まだ名前聞いてないんだけど!?」
ゼタが即座に突っ込む。
ウソップが吹き出した。
老人は平然と答えた。
「クロッカス。双子岬の灯台守。年齢は七十一歳。双子座のAB型だ」
「……そこまで聞いてないわよ!」
ゼタは頭を抱えた。
ゾロが小さく笑う。
「変なジジイだな」
「お前たちが騒がしいだけだ」
クロッカスは再び新聞を広げた。
ゼタは呆れながらも、彼の周囲を観察した。
奇妙な設備。
頑丈な建物。
そして、クジラの体内に描かれた空と海。
「……これ、全部あんたが作ったの?」
クロッカスはちらりとゼタを見た。
「そうだ」
「……へぇ」
ゼタは素直に感心した。
「すごいじゃない」
クロッカスは少しだけ眉を上げた。
「……珍しい反応だな」
「そう?」
「大抵の奴は、もっと騒ぐ」
「……十分騒いだわよ」
ゼタは苦笑した。
「もう驚くのも疲れたの」
ドォン!!
突然、巨大なクジラの体内に爆発音が響いた。
「きゃっ!?」
ナミが振り返る。
水面が激しく揺れ、メリー号が傾いた。
「何だ!? 何が起きた!?」
ウソップが船縁にしがみつく。
ゼタはアルベスの槍を手に取り、爆発の方向を見つめた。
「……誰かいるわね」
水路の向こうから、二人の人影が現れた。
一人は王冠を被った、奇妙な髪形の男。
もう一人は、青い髪をした若い女だった。
「くそっ! また邪魔が入りやがった!」
男が苛立たしげに叫ぶ。
「落ち着きなさいよ、Mr.9!」
女が言い返した。
「あなたが余計なことをするからでしょう!」
「何だと、ミス・ウェンズデー!」
「……ちょっと」
ゼタが二人に声をかけた。
「何してるの、あんたたち?」
男が振り返る。
「誰だ、貴様ら!」
「それはこっちの台詞よ」
ゼタは槍を肩に担いだ。
「こんなところで爆発なんか起こして、何のつもり?」
ミス・ウェンズデーは警戒した様子でゼタを見つめた。
「……あなたたちには関係ないわ」
「へぇ?」
ゼタの目が細くなる。
「関係ない、ね」
そのとき、クロッカスが口を開いた。
「こいつらはラブーンを狙っている」
「……ラブーン?」
「このクジラの名前だ」
クロッカスは静かに続ける。
「近くの町から来た連中だ。ラブーンを仕留めて、食料にするつもりらしい」
「……食料?」
ゼタは二人へ視線を戻した。
「こんな大きなクジラを?」
Mr.9が胸を張る。
「そうだ! これだけの獲物があれば、町の食料事情は一気に解決する!」
「そのために爆発させたってわけ?」
「当然だ!」
ゼタはしばらく黙っていた。
そして、静かに息を吐く。
「……あんたたち、随分乱暴なのね」
「何だと!?」
「少なくとも、この子を傷つけるのは見過ごせないわ」
アルベスの槍を構える。
その穂先に、紅い光が灯った。
しかし。
「炎は使うな」
クロッカスが制止する。
「ここはラブーンの体内だ」
「……分かってるわよ」
ゼタはすぐに炎を消した。
「だったら、普通に叩きのめすだけ!」
Mr.9が武器を構える。
「やれるものならやってみろ!」
その瞬間。
「……遅い!」
ゼタが踏み込んだ。
槍の柄がMr.9の武器を弾き飛ばす。
「うわっ!?」
続いて、ミス・ウェンズデーが身を翻した。
「ミス・ウェンズデー!」
「分かってるわ!」
彼女は武器を構える。
だが、その前にゾロが動いた。
「……やめとけ」
刀の柄で攻撃を受け流し、二人の動きを封じる。
「ぐっ……!」
「な、何なのよ、この連中!」
ゼタは槍を肩に担ぎ直した。
「それはこっちが聞きたいわよ」
二人は悔しそうに歯を食いしばった。
しかし、これ以上戦っても勝ち目がないことは明らかだった。