その後、ルフィも合流し、一行はラブーンの体外へ出た。
双子岬の海。
巨大なクジラが、赤い大陸を見上げていた。
「……でっかいわね」
ゼタは改めてラブーンを見上げた。
体内にいたときとは違う。
その全貌を目にすると、あまりの巨大さに圧倒される。
クロッカスは、ラブーンの過去を語り始めた。
かつて、ある海賊団と旅をしていたこと。
偉大なる航路へ入る際、双子岬で別れたこと。
必ず戻ると約束したこと。
そして、五十年もの間、ラブーンが仲間たちを待ち続けていること。
「……五十年」
ゼタは小さく呟いた。
そんな長い時間を、たった一つの約束のために。
ラブーンは待ち続けている。
「……馬鹿な子ね」
その言葉には、怒りではなく、深い悲しみが滲んでいた。
ゼタは自分の故郷を思い出した。
空に浮かぶ島々。
騎空艇。
そして、共に戦った仲間たち。
(……バザラガたち、どうしてるかな)
突然姿を消した自分を、探しているかもしれない。
心配しているかもしれない。
それでも、帰る方法はまだ分からない。
「……っ」
ゼタは拳を握った。
そのときだった。
「よし!」
ルフィが突然立ち上がった。
「おれが相手してやる!」
「……は?」
ゼタが振り返る。
「何言ってんの、あんた?」
ルフィはラブーンを見上げる。
「勝負だ!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
ゼタが叫ぶ。
「この子、傷ついてるんでしょ!?」
しかし、ルフィは止まらない。
ラブーンへ向かって拳を放ち、真正面から勝負を挑む。
「ルフィ!!」
ゼタは思わず槍を握りしめた。
だが、ゾロが静かに言った。
「……まあ、見てろよ」
「……え?」
「何か考えがあるんだろ」
ゼタはルフィを見つめた。
戦っている。
確かに戦っている。
けれど、相手を倒そうとしているわけではない。
やがて、ルフィはラブーンへ向かって叫んだ。
「おれたちは、またここに戻ってくる!!」
ゼタの目が見開かれる。
「だから、それまで待ってろ!!」
ラブーンが大きく鳴いた。
その声は、どこか嬉しそうに聞こえた。
「……そっか」
ゼタは静かに笑った。
「新しい約束、ね」
五十年前の約束が果たされるかどうかは分からない。
それでも、未来に新しい約束ができれば、ラブーンはもう一度前を向ける。
(……ほんっと、馬鹿なんだから)
ゼタはルフィを見つめた。
(でも、そういうところ……嫌いじゃないわ)
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ルフィはラブーンの頭に、麦わらの一味の海賊旗を描いていた。
「よし! できた!」
「……何、それ」
ゼタが尋ねる。
「約束の印だ!」
ルフィは笑った。
「こいつがまた頭をぶつけたら、絵が消えちまうだろ?」
「……なるほど」
ゼタは頷いた。
「だから、もう自分を傷つけるなってことね」
「そうだ!」
ゼタはラブーンを見上げた。
巨大な瞳が、こちらを見つめている。
「……ねえ、ラブーン」
彼女は静かに声をかけた。
「五十年も待ってたなんて、本当にすごいわよ」
ラブーンが小さく鳴く。
「でも、もう無茶しちゃ駄目だからね」
アルベスの槍を肩に担ぐ。
「この船長、言い出したら聞かないんだから」
「何だとー!」
ルフィが振り返る。
「褒めてんのよ!」
「そうか!」
「……ほんっと、単純」
ゼタは笑った。
そして、もう一度ラブーンを見つめる。
「……あたしも帰るから」
小さく呟いた。
「絶対に」
故郷へ。
仲間たちのもとへ。
どれだけ時間がかかっても、必ず帰る。
その決意を胸に刻んだ。
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少し経って。
ゴーイングメリー号では、出航の準備が進められていた。
クロッカスから譲り受けたログポースを、ナミが確認している。
「いい? ここから先は普通の方位磁針じゃ航海できないの」
「へぇ……」
ゼタは興味深そうに覗き込んだ。
「島の磁気を記録するんだっけ?」
「そう。次の島へ向かうには、これが必要なのよ」
「なるほどね」
ゼタは感心したように頷いた。
そのとき。
「……待ってくれ!」
背後から声がした。
振り返ると、Mr.9とミス・ウェンズデーが立っていた。
「……あんたたち」
ゼタは眉をひそめた。
「まだいたの?」
Mr.9が頭を下げる。
「頼む! 我々を島まで送ってくれ!」
「……は?」
ナミが目を丸くする。
ミス・ウェンズデーも続けた。
「私たち、船を失ってしまったの。このままじゃ帰れないわ」
「……それで?」
ゼタは腕を組んだ。
「まさか、あたしたちの船に乗せろって言うんじゃないでしょうね?」
「そのまさかだ!」
Mr.9が胸を張った。
「……何で偉そうなのよ!」
ゼタが突っ込む。
ゾロは二人を見つめた。
「……怪しい連中だな」
サンジも煙草を咥えながら言う。
「まあ、女の子が困ってるなら助けてやりてェが……」
ナミは即座に反論した。
「ちょっと待って! この二人、さっきまでラブーンを狙ってたのよ!?」
「そうよ!」
ゼタも頷いた。
「信用できないわ!」
しかし。
「いいぞ!」
ルフィがあっさり答えた。
「「「はあああ!?」」」
ゼタ、ナミ、ウソップの声が重なる。
「何で勝手に決めるのよ!!」
ナミが怒鳴る。
「だって、帰れねェんだろ?」
ルフィは笑った。
「だったら乗せてやればいいじゃねェか!」
ゼタは頭を抱えた。
「……あんたって、本当に警戒心がないのね」
「ししし!」
「褒めてないわよ!」
ミス・ウェンズデーは少し驚いたようにルフィを見つめていた。
「……本当にいいの?」
「おう!」
ルフィは笑う。
「どこまで行くんだ?」
「ウイスキーピークという島よ」
「ウイスキーピーク?」
ナミがログポースを見る。
「……ちょうど次の島の方向ね」
ゼタはため息をついた。
「……ま、同じ方向なら仕方ないか」
そして、二人を指さす。
「ただし!」
Mr.9とミス・ウェンズデーが身構える。
「船の上で変なことしたら、容赦しないからね!」
アルベスの槍を軽く持ち上げる。
その穂先が、紅く輝いた。
「……分かったわ」
ミス・ウェンズデーが頷く。
Mr.9も慌てて答えた。
「も、もちろんだ!」
ゼタは満足そうに笑った。
「よろしい!」
ゾロはその様子を見て、小さく呟いた。
「……お前、すっかり仕切ってんな」
「何か言った?」
「別に」
出航の準備が整った。
ゴーイングメリー号の甲板には、麦わらの一味の五人。
そして、異世界から来た女戦士ゼタ。
さらに、Mr.9とミス・ウェンズデーが乗り込んでいた。
ルフィが船首に立つ。
「よーし! 出航だァー!!」
「おおおお!!」
一同の声が響く。
ナミはログポースを確認した。
「進路はウイスキーピーク!」
ウソップが帆を張る。
サンジがロープを解く。
ゾロは甲板で腕を組み、周囲を見渡している。
ゼタは船縁に立ち、双子岬を振り返った。
ラブーンが、静かにこちらを見つめていた。
「……またね、ラブーン!」
ゼタは大きく手を振った。
「次に会うときは、もっと強くなってるから!」
ルフィも笑う。
「また勝負しようなー!!」
ラブーンが大きく鳴いた。
その声は、まるで旅立つ一行を見送るようだった。
ゴーイングメリー号は、ゆっくりと双子岬を離れていく。
その甲板で。
ミス・ウェンズデーは、静かに海を見つめていた。
(……麦わらのルフィ)
彼女はちらりとルフィを見る。
続いて、ゾロ。
そして、金髪の女戦士ゼタ。
(……何なの、この人たち)
予想外の実力。
そして、理解できないほどの無警戒さ。
彼女は小さく息を吐いた。
(……ウイスキーピークに着けば、分かることね)
その表情に浮かんだ微かな緊張に、ゼタはまだ気づいていなかった。
だが。
「……ん?」
ゼタはふと振り返った。
ミス・ウェンズデーと目が合う。
「……何?」
「……別に」
ゼタはしばらく彼女を見つめた。
そして、にっと笑う。
「ま、よろしくね!」
「……ええ」
ミス・ウェンズデーも微笑んだ。