歓迎の町ウイスキーピーク 1
偉大なる航路に入ってから、麦わらの一味は早くも、この海の異常さを思い知らされていた。
「ちょっと! さっきまで晴れてたじゃない!」
ゴーイングメリー号の甲板で、ゼタが叫ぶ。
つい先ほどまで青空だったはずなのに、今は冷たい雨が降り注いでいる。
しかも、風向きまで変わっていた。
「だから言ったでしょ! この海の天候は普通じゃないの!」
ナミはログポースを確認しながら、懸命に指示を出していた。
「サンジ君! 帆を調整して!」
「了解、ナミさん!」
「ウソップ! 舵をお願い!」
「お、おう!」
ゼタはアルベスの槍を背負い直し、ロープを掴んだ。
「で、あたしは?」
「そのロープを押さえてて! 絶対に離さないでよ!」
「任せなさい!」
ゼタは力強く頷いた。
騎空艇でも、悪天候の中では船員同士の連携が重要になる。
その点は、空でも海でも変わらない。
ただし。
「……にしても、ひどい天気ね!」
「グランドラインじゃ、これが普通なのよ!」
「こんなのが普通って、どうかしてるわよ!」
ナミも心の底から同意したかったが、今は航海に集中するしかなかった。
一方、ルフィは船首で楽しそうに笑っている。
「ししし! すっげェ海だな!」
「「少しは手伝いなさいよ!!」」
ゼタとナミの声が重なった。
やがて、雨が上がった。
水平線の向こうに、一つの島が見えてくる。
「島だァー!!」
ルフィが叫ぶ。
ゼタも船首へ駆け寄った。
「へぇ……あれが最初の島?」
遠くに見えるのは、奇妙な山々だった。
細長く伸びた岩山が、まるで巨大なサボテンのように並んでいる。
「……変わった形ね」
ゼタが呟く。
「ウイスキーピークよ」
ミス・ウェンズデーが答えた。
「私たちの町」
「へぇ。あんたたち、あそこに住んでるんだ」
「ええ」
Mr.9も胸を張る。
「実に素晴らしい町だぞ!」
「そうなの?」
「もちろんだ!」
ゼタは二人を見比べた。
ラブーンを仕留めようとしていたときとは、随分と機嫌がいい。
(……まあ、帰れるんだから当然か)
そう思ったものの、彼女の胸には小さな違和感が残っていた。
二人は、島が見えてから何度も目配せを交わしている。
まるで、何かを確認しているようだった。
「……ねえ」
ゼタが声をかける。
「何?」
ミス・ウェンズデーが振り返る。
「この町って、海賊が来ても大丈夫なの?」
「……え?」
「だって、私たちってどうみても海賊でしょ? 普通は歓迎されないんじゃない?」
ミス・ウェンズデーは一瞬だけ言葉を詰まらせた。
しかし、すぐに笑顔を浮かべる。
「心配いらないわ。ウイスキーピークは、海賊を歓迎する町なの」
「……へぇ」
ゼタは小さく頷いた。
「そんな町もあるのね」
だが、彼女の視線は、しばらくミス・ウェンズデーから離れなかった。
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「ようこそォォォ!!」
港に到着した瞬間。
大歓声が響き渡った。
「……え?」
ゼタは目を丸くした。
岸壁には、大勢の町民が集まっていた。
旗を振る者。
花束を持つ者。
楽器を演奏する者。
そして、海賊の到着を心から喜んでいるような笑顔。
「海賊さんたちだァー!」
「ようこそウイスキーピークへ!」
「長旅お疲れさまです!」
ルフィが目を輝かせる。
「すっげェ! 歓迎されてるぞ!」
ウソップも胸を張った。
「ふっふっふ! ついにおれたちの名声がここまで届いたか!」
「……いやいや」
ゼタは眉をひそめた。
「ちょっと待って。おかしくない?」
「何が?」
ルフィが振り返る。
「普通、海賊ってこんなに歓迎されるものなの?」
「いいじゃねェか!」
「そういう問題じゃなくて!」
そのとき、人混みの中から一人の男が現れた。
立派な巻き髪。
大きな笑顔。
そして、どこか芝居がかった身振り。
「ようこそ! ウイスキーピークへ!」
男は両手を広げた。
「私はこの町の町長、イガラッポイと申します!」
「イガラッポイ?」
ゼタが聞き返す。
「ええ! どうぞよろしく!」
男は深々と頭を下げた。
「この町は、偉大なる航路へ挑む勇敢な海賊たちを歓迎する町なのです!」
「おおー!」
ルフィが喜ぶ。
「いい町だな!」
「でしょう!」
イガラッポイは満面の笑みを浮かべた。
ゼタはその笑顔を見つめた。
(……何だろう)
何かが引っかかる。
けれど、はっきりとした理由は分からない。
そのとき。
「さあ! 宴の準備ができております!」
イガラッポイが叫んだ。
「今夜は存分にお楽しみください!」
「宴だァァァ!!」
ルフィが飛び跳ねる。
「メシ! メシ!」
サンジも笑った。
「へぇ、気前のいい町じゃねェか」
ウソップは既に得意げな表情だ。
「よーし! おれ様の冒険譚を聞かせてやろう!」
ナミも少し警戒を緩めた。
「……まあ、無料で泊まれるなら悪くないわね」
ゼタは呆れたように笑った。
「……みんな、切り替え早すぎない?」
ゾロだけは、町の様子を静かに見渡していた。
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夜。
ウイスキーピークの町は、盛大な宴で賑わっていた。
テーブルには、山のような料理。
酒樽が並び、音楽が鳴り響いている。
「うめェェェ!!」
ルフィが料理を頬張る。
「まだまだ食うぞー!」
「何て食欲だ!」
町民たちが驚く。
サンジも料理を楽しんでいた。
「なかなかいい味じゃねェか」
ウソップは大勢の町民を前に、身振り手振りを交えて話している。
「そこでおれ様は、八千人の部下を率いて――!」
「おおおお!」
町民たちが歓声を上げる。
ゼタはその様子を見て、思わず吹き出した。
「……あははっ! あいつ、また話盛ってる!」
ナミは酒を片手に笑っていた。
「いつものことよ」
「へぇ。面白いわね」
ゼタも料理に手を伸ばした。
「……ん!」
一口食べる。
「おいしい!」
「だろう?」
近くにいた町民が笑う。
「遠慮せず、どんどん食べてくれ!」
「ありがと!」
ゼタは素直に礼を言った。
空の世界でも、旅先で宴に招かれることは珍しくない。
だからこそ、彼女は知っていた。
旅人を心から歓迎する人々の笑顔を。
そして。
その笑顔が、どこか不自然に感じられるときがあることも。
(……何だろう)
ゼタは周囲を見渡した。
町民たちは笑っている。
しかし、時折、妙に鋭い視線がこちらへ向けられる。
特に、武器を持った自分とゾロに対して。
(……気のせい、かしら)
そのとき。
「ゼタちゃーん!」
サンジが皿を持って現れた。
「こっちの料理も美味いぜ!」
「ほんと?」
「もちろん!」
ゼタは笑顔で受け取る。
「ありがと、サンジ!」
「ぐはっ!」
サンジが胸を押さえた。
「ゼタちゃんが俺の名前を……!」
「……何よ、その反応」
「幸せだァァァ!」
「……ほんっと、変な奴」
ゼタは呆れながらも笑った。