【悲報】一般人ワイ、平日昼間に魔法少女のコスプレをしていたら謎の不審者に誘拐される 作:ああああ
『GAAAAAAAA!!!!』
おおよそこの世の物とは思えないぐらいの化物の奇妙な声が、身体へと響く。周りの状況は様々だ。それでも大体の人間は同じ様に混乱していた。まるでスクリーンの中の出来事の様に、多くの人間が現実を見れていなかった。
そんな中。
「どうしてこんな事に。いや、それよりもここに魔法少女がいて良かったわ」
などと、私を攫った誘拐犯は呟いている。最悪だ。もしかしなくてもその魔法少女と言うのは私の事に違いない。私には何も良くない事なので、一旦それは置いておき。その次の事を考えなければならない。
恐らく誘拐犯の発言からして、私はきっとあの化け物と戦わされる可能性がある。と言うか、ほぼそうなりそう。そうなった場合どちらかが死ぬまで戦うのがセオリー。となると死ぬのは十割私になる。だって、私ただの一般人だし!!
ニチアサ女児向けのアニメと、魔法少女物が好きなだけのどこにでもいる普通のアラサー社会人オタクであって。ちょっと好きが高じてオリジナル魔法少女の衣装作っちゃったからには着なきゃ勿体無いよね?って思って着ちゃったら誘拐されただけだ。
だから……逃げても良いよね?私はアニメや漫画のヒーローなんかじゃないんだから。大丈夫、きっとどこかの誰かが。そう魔法少女がなんとかしてくれる。
「早速で悪いけど、仕事をして貰うわよ?大丈夫。サポートは任せて。それにアイツは……え?」
無理。あんな車を簡単にペシャンコにさせる様な奴をどうやって、倒せば良いの?無理だよそんなの無理無理!
野次馬を掻き分けて、人の流れとは逆に進んでいく。何事かと周りの人間に見られるけどどうでも良い。スマホ越しにアイツの姿を見てから震えが止まらない足を無理やり動かして逃げる。そうだ、服をなんとかしないと。そして、それから家に帰ってシャワー浴びたらそのまま寝てしまおう。そうしたら全てが終わってる。それを私は画面の外から見るだけ。安全な特等席で。いつも通りの事。
いつも通り?何か違和感を感じた。まるでそれが違うかの様に。そうだ、違った。昔もそうだったけど、でも違う。
昔は憧れてた。いつか自分も魔法少女になれるって信じてやまなかったんだ。お母さんに買ってもらった魔法のステッキを振って、いつか画面の前の彼女達と戦う為に準備をしていたのを思い出した。彼女達がピンチに陥った時には思わず大声を出して応援し、勝った時には周りの目を気にせず素直に喜んでたっけ。どんな強大な敵でも私と皆がいれば何とかなるって思ってたのに。
「……はぁ」
身体だけが大きくなって、大人になって。大切な物は何処かに置いてきてしまったみたいだ。目から流れる汗みたいな物を拭って息を吐く。そして、邪魔だった髪の毛を二つ結びにする。
「よし」
現実をしっかりと見る。先ほどまで震えていた足がほんの少しマシになった気がした。
「おらぁぁぉぉぁぉぁぁ!!!!」
少しずつアイツとの距離が近づいて来る。
「無理かも」
やっぱり私には無理なのかも。でも、頑張らないと勝利を拝む事すら出来ない。そうだよね?昔の私。
『GAAAAAAA!!!!!』
「ごめんなさい。そんな大きな声出さないでください」
駄目だ怖い、泣きそう。と言うかいつの間にか泣いてるわ。もう、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?私今日お休みなんですけど。化物さん、有給休暇ってご存知ですか?社会人の有給って貴重なんですよ?ここ数ヶ月寝る間も惜しんで漸く完成した服でちょっと外へ出てみたいなと思っただけなのに!何でこんな目に遭わなきゃいけないんだよ本当にっ!
「危ない!」
「え?」
そんな声で今の自分の状況に気がついた。目の前には化け物の拳が迫っている事に。あ、死んだ。
「ふぅ……はぁ、はぁ」
何とか生きてる?のかな。全身が凄く痛いし、震えは止まらないけど。それが生きている証の筈だ。なら、まだ戦える。
「大丈夫?」
骨折してないか確認していると、誘拐犯が私のそばへと近づいてくる。
「大丈夫です。死ぬかとは思いましたけど」
「そう、じゃあ帰りなさい」
誘拐犯は私にそう告げた。言っていることが理解出来なくて、少し反応が遅れた。なんだって?
「帰りなさいって言ったのよ。理由は知らないけど、防御魔法すら発動出来ずにこのまま戦闘をするなんて危険よ。服もボロボロだし、他の魔法少女に連絡は取ってあるから後の事は安心して」
良く分からなかったけど何故かその部分だけが、ハッキリと耳に届いた。そして、それをゆっくり理解した。
服がボロボロ?え、誰の服が?私か。私、今何着てたっけ。いや、魔法少女なんだから魔法少女の服に。
それが、ボロボロ?キョウガハジメテナノニ?オニューナノニ?
「アイツ──」
身体が勝手に動いた。さっきまで、立ってるだけで勝手に息が漏れてそれだけで限界だと思えたのに。何故か今は全力疾走で殴られた敵の元へ向かっている。
「殺す」
ただただその事だけを考える事にした。どうやって苦しめてやろうか?
「ちょっと、待ちなさい!って」
なんかうるさいけど、どうでも良い。さて、アイツの元へと辿り着いたのは良いけど。おい。
「お前、何笑ってんだよ。私の思い出を傷物にしやがってその身を持って謝れ」
犬みたいな顔面しやがって。
「アイツはウルフマン!階級は下級。接近戦が得意だから、早く離れて……」
「へぇ、ウルフマン。そうか男か。あぁ……そうだ。サッカーしようぜ?お前がボールな?」
攻撃はさっきと同じ様に殴って来る。
馬鹿の一つ覚えかよ、さっきのが当たったから嬉しくてもう一回やってみたのかな?可愛いね。可愛くねえよ。男子小学生の落書きみたいな、ムキムキのワンコは可愛くありません。
素早くしゃがんでスライディングをして、相手の股ぐらへと入り。勢い良くドロップキックで股間を蹴っ飛ばした。
「男の
『CAN!!!??』
痛みで動きが止まったのを見流さず、そのまま無言で股間を蹴る。
蹴って蹴って蹴って蹴って蹴った。足が動かなくなるまで。
暫くすると、その姿は消え。そして足元には犬の印が落ちていた。
「何あれ、怖」
誘拐犯と一緒にいた魔法少女っぽい人が、私を見てそう言ったのを聞き逃さなかった。急いで弁解しようとして、そこで意識が途切れた。