ランバージャックプロジェクト 作:百合ロボSFコメディ風味
イルカ型金星獣、『デルフィナス』の群れが正面から迫る。
前方一八〇度の空間を丸ごと覆う数だ。輝くヒレから高エネルギー反応。ヒレの一つ一つが死の刃と化している。
私はその群れに、正面から突っ込んで行った。
狙いは群れの密度がもっとも薄い箇所。加速しながら、手持ちの斧をヒレに叩きつけ、そのまま質量で押し切る。デルフィナスの一体がぐしゃりと拉げ、群れに空いた穴を潜り抜けた。
猛攻を凌いでも気が抜けない。群れを通り抜けざまに機体を反転させ、腰にある一対のビームキャノンを発射。後ろからデルフィスの群れを削る。
後ろから接近警報。振り向きながら斧を振るう。
手ごたえはあるが浅い。狙いをつけずビームキャノンを連射。
素早い影が左右へステップを刻み、私から距離を取っていく。残像が見えるほどの超高速の動き。
ヤマネコ型金星獣、『リンクス』だ。ルプスよりも俊敏で頭がキレる。
だけど私ほどじゃない。
「何回リトライしてると思ってんだおらぁ!」
もうリンクスの動きなんて目をつむっていても予想できる。
斧をぶん投げた。狙いはリンクスの理不尽ステップの移動先。
リンクスは私の斧と交通事故めいた形で衝突し、体を半ばから断たれた。
その瞬間ブザーが鳴る。ファンファーレと共に、コックピットのディスプレイに無機質な文字が表示された。
『総合機動訓練:上級 評価:S』
「やったぁぁぁあ!」
「おめでとうございます」
思わずガッツポーズ。
苦節二週間、長い戦いだった。リンクスだのデルフィナスだのハイドラだの、名前の覚えにくいバラエティ豊かな金星獣による物量攻撃。音速超えてるだろってスピードでチクチク引っかいてくるリンクスの理不尽戦法。そのすべてを乗り越え、私はやっと苦しい訓練を乗り越えたのだ。
冗談じゃなく、今ならルプスもセータスも自力で倒せそうな気がする。いや、その気になればエクリプスだって余裕だろう。だってあんなに努力したんだから。
「ふふ……なっちまったな。最強のパイロットに」
調子に乗ってみたのに、後ろのラムが突っ込みを入れてこない。
ということはマジで最強になっちゃったか。さすが私、やればできるじゃないか。
「さーて金星獣ぶっ潰しに行っちゃうかー? あ、でもランバージャックがまだ直ってないんだっけ? っかー、私が最強すぎてランバージャックの準備が出来てないなんてなぁー、はっはっは」
ランバージャックの自動修復には、半年かかるって話だった。
計画の始動が四月十五日だから、修復が終わるのは十月頃。それまでに私が成長できるかが不安だったけど……蓋を開けてみればこの通り。見たか、これが一木ヒノの実力だ!
最高に気持ちいい。コックピットを降りて陽気なダンスでも踊ってやりたいぜ。
「ねえ、ラム。何か感想は? あんだけ低く見てた私がこんなに早く成長して嬉しい? 嬉しいよね?」
「一木ヒノ」
「なーに?」
さあチヤホヤの時間だ。蕩けるくらい甘くて熱い誉め言葉をくれ。チューでも可。
と、うっきうきで期待していると。
ラムは冷酷に、言った。
「お疲れさまでした。訓練を次の段階へ移行します」
「え、次?」
何を言ってるんだろう。これ以上訓練することないよね。あってたまるか。
わなわな震える私の視界いっぱいに、いまいましい文字列が飛び込んでくる。
『機動訓練:初級(宇宙)』
「かっこ、うちゅう……?」
「当然です。我々は金星獣の母艦に攻め入るのです。母艦はどこにありますか?」
教科書に書いてあったのは、たしか。
「金星の、衛星軌道上?」
「故に、宇宙空間での戦闘を学ばなければなりません」
なるほど道理だ。
でも、だったら、最初から。
「最初から宇宙の練習だけすればよかったじゃん! え、なんだったの今までの苦労!?」
「無重力下では、基礎的な操縦技能が身に付きません。貴女の尽力により、基礎は十分に習得しました。以降は実戦を想定したよりハードな訓練になります。心の準備をお願いします」
言うが早いか、訓練開始直前の秒読みが始まる。ウソでしょ、ぶっ続け!?
「待ってぇ! 休憩! 休憩させてぇ!」
「時間がありません。訓練開始」
「いやああああ!」
地獄を抜けたと思ったら、新しい地獄が始まった。
実戦の前に死ぬかも。
ーーー
八月頭から始まった新しい地獄は、マジで地獄だった。
宇宙空間には上も下もない。重力がないから計器の読み方も変わる。何もかもが地上戦とは違う。
「ラム、これ速度表示バグってない?」
「いいえ。宇宙では基本的に秒速表記です。速やかに順応してください」
「ええ……」
まず速度。地上ではキロ毎時だったのに、宇宙だとキロ毎秒だ。ブーストを一度吹かすだけで数十キロ、ひどいときは数百キロ移動してたりする。距離の最小単位もメートルからキロメートルに変わった。スケールがおかしい。
しかも、日本列島を数秒で縦断できる速度で動きながら、金星獣とも戦わないといけない。数と種別、動きを見切り、攻撃を躱して逆にこっちの反撃を叩き込む工程をやらないといけない。
反撃に使う武器の癖も強い。腰の左右についたビームキャノンの扱いは地上戦で慣れたけど、手斧型の武器『
というのもこの武器、手斧として振り回す以外に、本当の使い方があるらしいのだ。
「メタフィジックス、うぇぽん……?」
「はい。排伐者は非実体エネルギー工学の粋を凝集させた超物理的兵器であり、エクリプスの次元歪曲バリアを突破する唯一の手段です。時空転移時の破損により物理破壊限定モードのみ使用可能でしたが、間もなく『
用語マシマシ、九割方意味不明の解説をどうにかこうにか咀嚼して、
「つまり、回避不能防御不能の一撃必殺が使えるってこと?」
「その理解で構いません」
なら最初からそう言ってほしい。
宇宙戦闘のスケール、解禁されたインチキ兵器の実践。地上戦をすっ飛ばしていきなりこの訓練をさせられたら泡を吹いて倒れてたと思う。今までの訓練は無駄じゃなかった。
そう自分に言い聞かせ、今日も訓練に励む。
「エネルギー残量、三〇%。距離を取り、エネルギーを回復してください」
「ダメ! ここで前に出ないと……!」
何度目かの『機動訓練:初級(宇宙)』にて。あと少しで目標を撃破できる局面で、私は前に踏み込む。背面ブーストを思い切り吹かして加速、排伐者を振り上げる。
瞬間、ブザーが鳴った。ぷわんぷわんと腹の立つ効果音と共に『総合評価:F OUT OF ENERGY(エネルギー切れ)』の文字が踊る。
私は思いっきり操縦桿をパンチした。
「きーっ! 何度目だよっ、っていたああああい!?」
「アホですか」
操縦桿の尖ったところが手首に刺さって超痛い。背後からの罵倒も手伝って倍痛い。泣きそう。
「宇宙戦闘におけるエネルギー消費量は地上とは桁が違います。常にインジケーターに気を配り、残量に応じた戦術をとってください。この助言は六度目です」
ラムの言う通り、宇宙ではエネルギー切れになりやすい。戦闘のスケールが大きいから、地上では微動だにしなかったエネルギー目盛りがごりごり減る。思えば地上戦の訓練のときから、エネルギー残量を気にするようにと言ってたっけ。
正直、この仕様にはちょっとがっかりだ。
未来から来たスーパーロボのくせにガス欠があるなんて。現代のJAでさえガス欠で動けなくなるとか聞いたことない──
「あれれ?」
「どうしました?」
今更だけど、気づいてしまった。
「いや……すごい今更な質問なんだけど。JAって動力源なんだったっけ」
「……」
あ、後ろで絶句した気配がする。
「信じられません。そのような基礎的なことも知らずに、四年間も何をしていたのですか」
「うそうそ、知ってる。あれでしょ、核融合とかでしょ」
「……」
今度はため息をついた気配。リアカメラで見てみる。ラムは頭を抱えてる。
「……訓練中止。宿題です」
ラムは人差し指をたて、眉根を寄せてすごんでみせた。かわいいだけじゃん。
「JAについて調べなさい。基礎知識すらないのでは、土壇場で致命的な認識の齟齬を生む可能性があります」
「ああ……ありそう」
初めてラムと一緒にランバージャックに乗ったときを思い出す。
あのとき、ラムは専門用語をいくつも使い、「第二ペダルを踏みながら」と指示を出した。その結果私は別のペダルを踏んで操作を誤り、機体が転倒した。あんなことがもし宇宙戦闘で起これば、一瞬で機体がぐちゃぐちゃだ。
だから知識を学べというのは分かるけど。
「めんどくさぁ」
巨大ロボは巨大ロボでいいじゃん。こちとらJAの意味さえうろ覚えだよ。農協だっけ?
よし、テキトーにやろう。
ひそかに手を抜く決意をしたところ、後ろから襟を引っ張られ、無理やり振り向かされる。
「んっ」
唇を奪われた。柔らかなラムの唇の感触。ちろりと熱いもので表面を撫でられるけど、すぐに熱が離れていく。
あの夜の記憶が思い起こされ、体の奥が熱くなる。
「それはズルじゃん……」
「報酬は前回と同様です。期限は明日の朝。始めてください」
有無を言わさずそう言って、同時にランバージャックの胸部装甲が開く。前よりも期限が短い。さっさとやれ、と言っているのだ。
まあ、好みど真ん中の美少女の熱いチューが待っているなら、少しは頑張ってみようかな。
ーーー
ダメだった。
「眠いよぉ~だるいよぉ~」
家に帰って教科書を開いてみたけど、堅苦しい文章が脳みその表面を滑って消えていく。眠たくてやる気が出ない。
前に金星獣の宿題を出されたときは、秀子とおしゃべりしてやる気を出したんだ。
でも今は平日昼間の授業中。電話したら迷惑だ。リンも同じく。
かといって一人じゃ全然やる気出ないし、もういいか。私が勉強しようとしなかろうと、大した違いはないさ、きっと。
教科書を放り出し、ソファの上で天井を見上げる。スマホは充電器につないだまま放置している。見守りラムのせいでおちおちネットもできないし、バッテリー消費が激しすぎていじる気にならない。
せっかく休みになったんだし、昼寝でもしよう。
「む」
仰向けで目を閉じると、インターホンが鳴る。
誰だろう。山の斜面にあるこの地区には、セールスもほとんど来ないのだけど。国営テレビかな。
玄関先に足を運び、扉越しに伝える。
「うちにテレビはないですよー」
「一木か? 私だ。小山だ」
「先生?」
聞き覚えのある女性の声がした。
鍵を開け、扉を開く。
「久しぶりだな、一木。また背が伸びたか?」
「お久しぶりです。先生は縮みましたね!」
「お前に比べればそうかもな」
私より頭一つ分低い背丈の女性。肩口で揃えた品のいいショートカット、きれいなアーモンド形の瞳、夏場でも黒タイツで包まれた細い足。
小山先生だ。中等部の三年間、ずっと私の補習に付き合ってくれた先生。
「急に来て済まない。少し、話をさせてもらえないか?」
「もちろんです! 少しと言わずたっぷりねっとり、夕飯まで食べてってください!」
「今昼だぞ」
どれだけ居させる気だよ、と苦笑する先生。優しそうな笑顔は出会った頃からずっと変わらない。
中へ招き、椅子を引いてどうぞと招く。ちょこんと座った先生の足が床に届いていない。
身長は一四〇センチ弱。手足の細さも含め、体格はラムとそっくりだ。つまり私の好み。むしろ先生のせいで私の好みが出来たといっても過言ではない。
もちろん私は慎ましい生徒だったので、小山先生を邪な目で見たことは一度もない。ただ、かわいいなとは思ってたし今でも思ってる。
待てよ、退学して生徒と先生の関係でなくなった今なら、別にどんな目で見たって合法なのでは……?
台所で麦茶を入れつつ考える。これに睡眠薬とか入れたら、眠る先生にあんなことやこんなことを──
「おい、目が怖いぞ。どうした」
「いえ、ちょっと、性癖を……じゃなくて、真心をお茶に込めてて」
「そうか。わざわざありがとうな」
うまく誤魔化せた。
お茶を運び、テーブルを挟んで先生と向かい合う。
「ん、おいしいよ」
「よかったー」
「それで、だな。最近どうだ? 学校を辞めたと聞いたが」
「まあまあ、ですかね。あっ」
一つ思い至り、私は頭を下げた。
「ごめんなさい、先生。あんなに教えてくれたのに、あいさつもなく退学しちゃって」
「謝らなくていい。一番辛いのはお前だろう。私こそ、お前の力になれず申し訳ない」
沈痛に顔を伏せる先生に、私は思いっきり首を横に振る。
「そんなことないです! 先生はすっごく良くしてくれました! 退学になったのは百パーセント、私の自己責任ですっ!」
「お、おお。相変わらず元気そうだな」
先生が少し引いている。暗い顔ではなくなったから結果オーライ。
「それで……今はどうしてるんだ? 転校したのか、それとも高卒認定を目指してるのか?」
「どっちでもないですよ。やりたいことがあって、今頑張ってます」
「やりたいこと?」
未来から来たスーパーロボに乗り、金星獣の母艦をぶっ潰す計画を頑張ってる。
でも訓練がきつすぎてくじけそう。先生助けて。と言えたらいいのに、言ったら人類滅亡だ。
どんな伝え方をしたものか、と考えたところで、私史上最高に冴えたアイデアを思いつく。
「先生!」
「うん?」
「JAのこと、教えていただけませんか!?」
先生は、先生だ。人にものを教えるプロだ。教科書の文章なんかより、よほど分かりやすく宿題の答えを教えてくれるに違いない。
先生はぽかんと口を開けると、手で目元を抑え、涙を流し始める。
「なんで泣くんです!?」
「だって一木、お前……JAと金星獣を、頑なに巨大ロボと宇宙人と呼んでたお前が……その学習意欲、もう少しだけ早く発揮していれば……ぐすっ」
「なんかごめんなさい」
そんな泣くほど不真面目だったっけ。いや、中等部で教わったことがほぼ頭に残ってないから、相当不良だったのかな。覚えてるのは、小さな体で黒板の前をちょこちょこ動く先生の愛らしさと、タイツに包まれたほっそい足に頬ずりしたいとか、小山先生のことばっかりだ。
ティッシュ箱を手渡すと、先生は五、六枚消費してから、胸を張ってにっこり笑う。
「いいぞ。JAのことだったな。何でも聞け」
「じゃあじゃあ──」
そうして、私は恩師の授業を、記憶に残る限り初めて真面目に受けるのだった。
ーーー
翌日、ランバージャックコックピットにて。
私は顔の前で指を組み、両肘をついて神妙な空気を演出する。
「私、マジで四年間何してたの……?」
昨日受けた先生の補習授業は完璧だった。JAという巨大ロボの成り立ちから今の防衛体制に至るまで、分かりやすく解説してくれた。
昨日だけじゃない。思い返せば、在学中に先生は何度も、何度も同じことを補習で教えてくれていた。なのに私は先生のかわいさに悶えるばかりで、内容はまったく覚えていないのに『補習を受けた』ことだけを記憶している。
不真面目というかやる気がないというか。どんな神経してたのかまるで分からない。
「図らずも自己理解が進んだようで何よりです」
「ラム?」
リアカメラに映るラムが満足そうに頷いている。
「一木ヒノ、貴女は易きに流れる天才なのです。授業を受ければ時間までやり過ごすことのみに腐心し、学習意欲は皆無。理解も暗記もせず、私なりに頑張ったからと努力したつもりになり、結果が出ないと嘆く。苦しまず、楽をすることにかけては右に出る者がいない生来の怠け者。それが貴女という人間です」
「そう、かなぁ?」
怠け者、易きに流れる天才。ラムの言うことは少し難しいけど、努力が嫌いなのは事実だ。どうせ報われないんだからできるだけ楽をしていたい。その気持ちが高じて、四年間頑張ってるフリだけしていたってことかな。
最低過ぎるだろ。小山先生、いつもすごく熱心に補習してくれたのに。
「ちくしょー、私はどうして……」
「悔恨の小芝居は結構。それよりも宿題をどうぞ」
ほんっとに私に対して容赦ねえなこの美少女AI。
頬をひきつらせてリアカメラを睨みつけてから、宿題の提出を始めた。
「まず、JAってのはジュブナイルアーマーのこと。金星獣の残骸を解析して作った超高性能な人型機動兵器ね」
金星獣との戦いの最前線に立つ機動兵器、
「動力源は
「知ってるに決まってるでしょう」
マジかよ。私は知らなかったのに。
JAのパイロットが子供しかいないのは知ってた。でも動力源がその理由だったのは初めて知った。
PEってなんだろう。普通のバッテリーとどう違うんだろう。どうして子供にしかないんだろう。色々気になって小山先生に聞いてみると、先生は遠い目でこう答えた。
『お前たち子供は将来の夢を、将来の夢として語れるだろう。無限に広がる未来に尽きることのない希望を感じるだろう。それこそがPEの正体だ』
『え? は?』
『分からないだろうな。大人になれば嫌でも分かる。あの頃夢見ていた輝かしい将来に自分は居て、もうどこに行くこともできないのだと悟る。その自覚とともにPEは失われ、子供は大人になるんだ』
子供の頃は自覚できず、自覚した瞬間に消えてしまうエネルギー。二〇メートルもの金属の巨人を動かす動力源が、そのエネルギーだという。
ラムが頷く。
「正解です。PEエンジンは、金星獣との戦いがもたらした大きな技術革新の一つであり、非実体エネルギー工学の象徴でもあります。この答えにたどり着けたなら、満点と言っていいでしょう」
「ちょい待ち!」
いつもの流れで体を後ろに引き寄せられ、ご褒美のチューをされそうになる。
そこで待ったをかけた。ラムはきょとんとして、目をぱちぱちさせている。
「いりませんか?」
「いるけど、その前に確認!」
体を離し、座席の背もたれを抱くようにして、深呼吸を一つ。空調の効いた冷たい空気が肺を満たす。
私は恐ろしい真実に気づいてしまった。その確認をしなきゃいけない。
「ランバージャックの動力源は何?」
JAは、少年少女が持つ未来志向の力を燃やし、金星獣に抗える力に換えている。
だったら、普通のJAを何十と集めたよりも強力な未来の機動兵器、ランバージャックは何を燃やしているのか。PEなんかじゃなく、はるかに深刻で取り返しのつかないものを燃やしているんじゃないか。
たとえば、そう──
「私の寿命、燃やしてる?」
スペックの高い機械を動かすにはどこかで無理を通さないといけない。見守りラムを走らせるためにスマホが異常発熱するように、その無理のしわ寄せをどこかが受ける羽目になる。私の大切なものを勝手に燃やすことで、しわ寄せ分を賄っているんじゃないか。
私の完璧な推理に対し、ラムの答えは。
「いいえ。そのようなものは燃やしておりません」
「あれれ?」
絶対そうだろって思ったのに。
「じゃあ、何? 健康? 若さ?」
「技術的には可能です。そのように改造しますか」
「しないしないやめろ!」
「冗談です」
こいつちょっと笑ったぞ。冗談言う機能ついてたのか。
「ってか可能なんだ!?」
「ランバージャックの心臓部であるUDRは、非実体エネルギー工学の極点です。物理的実体のない概念、事象を燃料にすることが出来、パイロットの健康、若さ、寿命も対象となりえます」
「こっっわ!!?」
怖すぎでしょランバージャック。
あれ、でも出来るってだけで、実際はしてないんだ。
じゃあ結局動力源は何なんだろう。ゆーでぃーあーるがエンジンの名前だとすれば、UDRから始まるものを燃やしてるのかな。ウルトラダイナミックローション……?
「現時点では回答できません」
「いやいやいや不安すぎるって! 何!? 私死ぬ!? エクリプス倒した後燃え尽きて死んじゃう!?」
「いいえ」
体をかき抱いてガタガタ震える私に、ラムがきっぱりと首を振る。
「パイロットに由来するあるものを燃料としていることは事実です。ですが、これによる健康被害は一切ありません。仮に燃料がゼロとなったとしても、貴女の心身にいかなる損害も生じません」
「そ、そうなんだ……」
死んだり病んだりはしない。ということは、たとえば大切な記憶や思い出、人間関係とかの類ではない。体の一部とかでもない。
じゃあ大丈夫か。ラムはウソつかないし。
安心したのともう一つ、ランバージャックへの信用が増した。だって、実質ノーリスクノーコストで普通のJAが逆立ちしても叶わない超高スペックを発揮できるってことだもん。こんなの相手がエクリプスだろうがなんだろうが負けなしじゃん。さすが未来の巨大ロボは格が違う。
「よーし納得した! 無限エネルギー持ちのランバージャック最強! 今日も訓練頑張るぜ!」
「無限ではありません話聞いてましたか。エネルギー残量がゼロになれば敗北が確定します。いい加減覚えてください」
「ごめんて」
ラムの額に青筋が浮かんでいるのが見える。怒る機能まで実装されたんだ。さすが自律学習型AI、学習が早いな。
「報酬は不要のようですね」
「いるぅー! んむっ」
貰えるものは貰わないと損だ。
後部座席に上半身を投げ出すと、ラムに襟首をつかまれ、雑に唇を奪われるのだった。
ーーー
『貴女の心身にいかなる損害も生じません』
この言葉の意味を知るのは、引き返し不能地点を過ぎた後になった。