-いらっしゃい。初見さんかな? ゆっくりしていってね。
-え?ここが何屋かって? お客さん、君ツイてるね。ここほど珍しい店はないと自負しているよ。
-ここは季節屋、様々な季節を売ってるお店さ。
-君もやったことはあるだろ? 夏に冷たさを経験したくてアイスを買ったり、冬に炬燵でアイスを食べたり、秋に季節限定のサツマイモアイスを食べたり。
-アイス屋? 違う違う、あくまでも例としてね。つまるところ季節と違った風味を味わったり、その季節を味わいたいという欲求に駆られる。そんな時があるだろう? というだけの話さ。
-そう、そこで私のお店の出番ってわけ。私の店は四季という体験を売っている。買ってくれた季節を開封したらその季節が味わえる寸法だ。
-もちろん、こんな特殊な商売だから売値も通貨じゃない。私がいただくのは客が季節を味わってる間、本来味わうはずだった季節という時間を買い取るのさ。
-さぁ、お客さん。何か買いたい季節はないかい?
-……ほう、その季節か。結構人気商品だよ。夏や冬程ポピュラーじゃないけど、春と違いデメリットが少なく適温を感じられて彩も豊か、旬の野菜も多いし、様々な趣味に没頭しやすくて良い季節だ。
-ではお客さん、君は秋をいくらで買うんだい?
不思議な店だった。季節を売るそういうのもあるのか。今は受験シーズンも終盤の冬休み、気晴らしに商店街をうろついてる時にその店はあった。春夏冬中と書かれた看板、昔からよくある看板で秋がない中、つまりあきない(商い)中を指す看板が古風に見えて、つい立ち寄ってしまった。中は時計がいくつも飾られた純喫茶のような佇まい。カウンターには新聞を広げながらキセルを加えた20半ばに見える店主が一人、恐らくFMラジオから流れるBGMを聞きながら耽っていた。しばし躊躇しながら声をかけると彼女は季節屋という胡散臭い自店の紹介をしてきた。私は戸惑いつつも、そういえば受験シーズンの今寒さでペン先が震える事から適度で過ごしやすい季節が欲しいと。試しに秋を一日分購入した。代金は今年の冬を三日分だった。日数に不平等を感じたが、売り物なのだから仕方ない。私はそれに了承をした。暖気の灯った店内を出ると外気は相変わらず冬らしく寒く痛さを感じる程だった。私は慌てて秋をの封を解く。するとどうだろう。気温や風景ががらりと変わった。私の住む地域は雪が振り、今日も今日とて積もった雪を除雪車が脇に追いやり積雪の壁が出来ているのが常のこの時期なのだが、それが一瞬として消え失せ、代わりに紅葉が降り、中間テストかを終えたであろう学生が昼間なのに寄り道しながら帰るのを見た。スマホを見ると年号が一昨年の9月に変わっていた。恐らくこの秋は一昨年売られたのだろう。私は年代すら飛んだことに躊躇しながらも勉学に励むため図書室へと向かうのだった。
気づけば夕暮れ、私はペンを置き伸びをする。どうやら極度に集中できたようだ。やはり秋は良い。そう感謝しながら帰路につく。試しとしては悪くなかったなどとうつけた気持ちすら抱いていた。まさか共通テストの日付が売買されたなどとこの時の私は思っていなかったのだ。
不思議な店だった。季節を売る、そういう事が出来るのかと。文化祭という煩わしいイベントが嫌いな私は秋を売り冬休みを買うことにした。封を開けると一気に積雪し余りの寒さに凍えながら帰ったのを覚えている。時期を見たら再来年の冬のようだった。時期の指定を休みの冬にしたせいか。どうやら冬休みの時期とは少しずれ、成人の日周辺の冬を買ったらしい。しかも年を見ると再来年に飛んでいた。だからどうしたと家に帰宅すると散々怒られた。一瞬文化祭をすっぽ抜けたのを怒られてるのかと思ったら、どうやらこの季節の私は受験生らしく、共通テストを受けている時間帯に帰ってきてたのを咎められていたようだ。おかげで炬燵に入ってアイスを食う時間もなく、散々な目にあった。
「「憤った私は再び季節屋へと向かった。しかし、私の季節はもう売られてしまっていて。私の季節はもう誰かに消費されてしまっていた。私は強く思うのだ」」
今を大事にしなかったツケが回ったと。