デスゲームに巻き込まれた戦闘狂高校生、強敵達がこぞって襲いかかってくるけど取り敢えず全勝する〜鬼フィジカルと即席計略。狂った度胸で敵を攻略〜   作:大山真君

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Monster/Battle

 

 ……今日もデイリーガチャはレアキャラしか出なかった。

 こう外ればかりだと課金したくなるな。たまにはSSRの顔が見たい。

 

「よぉ……斑目ぇ、ちと顔貸せや」

 

「用事は分かってるよなぁ!糞犬ゥ!」

 

 でも課金すると妹が煩いんだよなぁ。僕の小遣いでやる分には構わないだろうに。

 画面見られると小言が飛んでくるので、こうして通学中にやる羽目になる。所詮暇潰しだからいいけど。

 

「無視すんなや!」

 

「……はぁ。何か御用ですか?」

 

 さっきから羽虫が煩いと思ったら肩を掴まれた。

 前方にヤンキー風の馬鹿が2人。内1人が金属バットを装備している。後ろにもニヤけている阿呆面が1人。こちらは無手か。合計3人。

 

「この前の礼に来たんだよ! 半殺しにして変態爺に売ってやるから覚悟しとけや」

 

 はて? この前とは……? この手の輩は後腐れ無いように教育している筈だが。

 失敗したかな? まあいいか。ガチャの憂さ晴らしにはなるだろう。

 

「僕はこれから学校があるんだけどな。……というかこんな朝早くからご苦労様だね。頑張って早起きするチンピラを思うと笑えてくるよ」

 

「ふざけてんじゃねぇ! スマホ見るのをやめ——グェッ!」

 

「これで満足か? 壊れたら弁償しろよ?」

 

 鼻頭にスマホを叩き付けてやる。店で一番丈夫な型を購入したからな。荒事にも壊れにくくて安心だ。

 殴った後に素早く仕舞えば返り血も付かない。

 

「こんにちは……いや、おはようございますだな」

 

「ヒッ……ぐっ」

 

 振り返って後方の男の喉を両手で締め上げる。華奢な首だな。

 不意の攻撃なら、殴られるより首を絞められた方が人間は混乱する。命に直結するからね。

 それに殴られた事はあっても絞め殺されそうになった経験はそうないだろう。

 

「……かっ……ぁ……」

 

「言いたい事があるならはっきり言え。全く聞こえないぞ」

 

「手を離せっ!」

 

 バット男がバットを振りかぶってきた。手を離せときたか。仲間想いで助かる。

 

「はい」

 

「なっ!?」

 

 言葉通りに首から手を離し胸倉を掴む。そして苦しみに喘いでいる彼ごと振り返り、バットへの盾にした。焦る男だがバットの勢いは止まらない。鈍い音を立てて首絞められ男の背中に命中した。

 

「がぁっ!」

 

「ごめっ……」

 

 仲間を殴ったショックからか、バット男は愛用のバットを手放した。

 馬鹿な奴だ。僕は混乱の隙をついてバットを拾い上げる。

 

「SSR武器ゲットだな。——シッ!」

 

「ウグッ!」

 

 僕とこいつに躊躇する様な関係性は無い。男の腹をフルスイングしてやる。

 元バット男は膝をついて蹲った。これで3人クリアか。どうせなら全員バットを持ってくればいいのに。まあ野球だって打者は1人だからな。

 

「何の用事かは分からないけどね。もう僕に関わらないでくれないか? これが続く様なら指の骨を折る」

 

「へっ、やれるもんなら…………ぎゃああああああ!」

 

「やってみた。今折ってしまったから次は鼓膜にでもしようか? 残りの人生を縛りプレイで生きてみるかい?」

 

「ヒッ……すんません! もう関わりません! 絶対近付きません! 痛てぇ……痛い痛い痛ぁい!」

 

「そこの2人はどうかな? 公平性のために指を折ろうと思うんだがどの指がいい?」

 

「ごめんなさいごめんなさい! 勘弁して下さい!」

 

「もう近付きません! マジすんません!」

 

 綺麗な土下座だな。これくらい虐めれば大丈夫か。家凸とかされたら流石に色々と考えなければならなくなるからな。

 

「…………はぁ」

 

 退屈だ。

 

 

 

 

  ————つまらない。

 退屈。それが僕、斑目刃(まだらめじん)の胸中で、大きなウェイトを占める感情だ。

 

「だからこの人物の"寂しい"という台詞は、この文章に掛かっているのではなく、もっと前の……」

 

 目の前では現文の教師が、チョークで黒板を鳴らしながら登場人物のお気持ちを解説している。

 これも面白くはないが、一過性の話をしているわけじゃない。いついかなる時、何をしていても顔を出してくる感情なのだ。

 いつから退屈に苛まれる様になったのかは忘れた。その理由も。

 ただこの感情の中に何(・)か(・)が隠れている様な気がする。漠然とした感覚で、自分ですら分からないものだけど。

 親や妹に尋ねれば、それこそ目の前の教師の様に解説するのだろうが。面白おかしくね。

 

「つまり"寂しい"と言う感情がこの作品の主題だったわけだ。…………こんな時間か。少し早いが終わりにしよう。日直、よろしく」

 

「起立。……礼。有り難うございました」

 

「よし。今日の授業はこれで終わりだ。真っ直ぐに帰るように。最近物騒だからな。寄り道はするなよ」

 

 僕たちの形式的な礼に満足する様に頷き、教師が退室する。

 去り際にチラリとこちらを見てきた気がする。気のせいか?

 あいつの名前はなんだっけ? 現文の……おが……おだ……及川か。20代後半と年齢も若め。男性ながら後ろで結んだ黒髪が艶やかで美しく、冷たげだが顔も良い。懸想している女子生徒の数は、両手の指じゃ足りないくらいって話だ。ちなみに授業も面白く、分かりやすいらしい。

 まあどうでもいいな。及川の言った通り、今日は5限までしかないからこれで終わり。さっさと出よう。

 同じ退屈でも学校に居るよりは外の方がマシだ。

 

「あっ……斑目君」

 

 教科書を鞄に仕舞うと、不意に日直の女生徒が話し掛けてきた。

 こいつはなんだっけ……ああ、黒板に名前があったな。日直だから。えっと……柏音茉莉花(かしわねまつりか)ね。

 

「柏音さん。何か僕に用かな?」

 

「……茉莉花でいいよ。苗字だと呼び辛いでしょ?」

 

 どっちもどっちだと思うが。彼女は俯きながら、毛先を指で遊ばせている。恥ずかしがるくらいなら言わなければいいのに。というか僕は、話し掛けてきた理由を聞いたんだけどな。

 

「じゃあ茉莉花さんって呼ばせてもらうね。ところで何か用事かな?」

 

「わっ、……えと……その」

 

 悪手だったか。名前を呼んだ瞬間、茉莉花は茹蛸の様に顔を赤くし、三つ編みにした黒髪を揺らせた。

 はぁ。溜息をつきたくなる。

 自慢ではないが、僕はそれなりにルックスは良い。

 身長は同級生と比べても頭ひとつ分は高いし、欧州人の父から受け継いだ鳶色の髪と瞳は、校内外問わずとても目立つ。

 故にそういう目で見られる事に敏感になってしまった。

 ……苛々するな。早く要件を言っては貰えないだろうか。

 

「おっ、いいんちょ遂に告ったん? 」

 

「刃は半分アメリカンだから手が早いぞ〜!」

 

 ……チッ。野次馬の目に留まったか、面倒臭い。

 こんな意味の分からない事でも楽しめるんだから羨ましい限りだ。アメリカとイタリアの区別もつかない様な馬鹿にはなりたくないが。

 立ち上がり、廊下への扉を目指して進む。

 

「あっ、斑目君! 待って!」

 

 焦った様に声を上げる茉莉花。最初からその調子で喋ってくれれば良かったものを。

 

「ここじゃ会話なんて無理だよ。話は歩きながらでも出来るだろ? それから僕の事も刃でいい」

 

「ッ!  ……うん。刃君」

 

 うるさい野次を背に受け、僕らは教室を出た。

 近付いた彼女から香水の匂いがする。これはジャスミンか。案外自己主張が強いんだな。

 しかし明日から妙な噂が広まりそうだ。

 少し憂鬱に思っていると授業終了の鐘が鳴った。

 すぐに廊下も騒がしくなるな。本当に面倒だがもう一度聞いてみる。

 

「そろそろ話を聞いてもいいかな?」

 

「あっ、……ごめん。えと……、私達って図書委員でしょ? 10月に向けたお勧め図書を決めないといけなくて……あと1ヶ月もないし……それで今日一緒に……どうかな? 何冊か面白い本があって……刃君も気に入ってくれると良いんだけど……」

 

 そういえば同じ図書委員だった気もする。適当に決めたから忘れていた。というか話し出せば一気に来るな。極端な奴だ。

 

「……いや及川先生も言ってただろ? 物騒だから早く帰るようにって。その為に学校側も5限で切り上げてるみたいだしさ」

 

「あっ……そうだよね、ごめん」

 

 茉莉花が肩を落とすのを横目で見る。

 適当に理由を述べて断ったが、これは事実だ。

 現在僕らの街、郡空(こおりぞら)市では行方不明者の数が急増しているそうだ。

 事件性があるかも分からないが、街はピリピリとした空気に包まれている。

 うちの学校でも生徒が1人消えた。短縮授業を行なっているのもこれが理由だ。

 そんな状況で本の選定の為に残るとか、思ったより色々と軽い子だな。

 第一、居残りなんて学校側は許可しないだろう。もちろん部活もすべての部が活動停止中だ。

 

「だから申し訳ないけどまた今度にしよう。休み時間とかなら付き合うからさ」

 

「うん! ……えと……じゃっ、じゃあ一緒に……ついでだし…………一緒に帰らない? 」

 

 その声を聞いて足を止める。この先は階段。このまま降りたら正面玄関まですぐだ。

 しどろもどろだが、彼女の精一杯は伝わった。正直断りにくいが、良い方便がある。

 

「すまない、妹と帰る約束をしているんだ。こんな状況だしね。それに、あいつは少し人見知りな所があるから……悪いね」

 

「あっ……そっか。じゃあ仕方ないよね。その……ごめんね、突然変な事言っちゃって……」

 

「いや、変な事でもないだろ。……それじゃあ僕は1年の教室に行くからここで」

 

「うん……また明日。気をつけて帰ってね、刃君」

 

「ああ。君もな」

 

 茉莉花に背を向け階段を登る。踊り場に差し掛かり、なんとなく2階に視線を戻すと、彼女はじっとこちらを見ていた。

 妙な粘り気の様なものを感じ、振り払う様に階段に足を進める。

 

「…………たい」

 

 ボソリと茉莉花が呟いた。何を言ったのかは聞き取れなかった。

 

 

 鍵を回し屋上への扉を開ける。日の光を吸ったコンクリートの熱気が、ぶわっと襲い掛かってきた。

 暑い。あと1ヶ月で読書の秋とは信じられないな。

 影になっている所を見つけ、腰を下ろす。

 鞄の底のチャックを開け、隠してある煙草とライターを取り出した。

 2、3本吸ったら帰ろう。それくらいが丁度いい時間だ。

 妹と帰るなんて大嘘だが、妹の方は僕を探しているだろうからな。あいつが飽きるまでの時間潰しだ。茉莉花にバレるのもバツが悪いし。

 咥えた煙草に火をつける。十分に肺の中を煙で満たし、静かに吐き出す。

 

「…………ふぅ」

 

 落ち着く。煙草は馬鹿な先輩に、半ば強引に覚えさせられた物だが悪くはない。屋上の鍵も併せて押し付けられた。

 いわく"おめーには逃げ場が必要だ"との事。

 何から逃げる為の場所なのか。聞いてみても教えてはくれなかった。

 まあ深く考えていなかったんだろう。馬鹿だから。

 まったく、本当に逃げ場が必要だったのはどちらだったのか。

 行(・)方(・)不(・)明(・)になんかなりやがって。

 

「……馬鹿龍司が」

 

 思えばあいつがいた時は、ここまで退屈はしていなかったかもしれない。

 ……僕は引き摺ってるのか? だとしたら酷く格好が悪い。

 あいつが消えた感傷をあいつがくれた場所で慰めているって事だ。まさしく逃げ場だな。

 奇しくも僕は今、先程の授業で出て来た人物と同じ感情を抱いていた。その気持ちを隠したまま顔を上げ、空を見渡す。

 雲はゆっくりと空を泳いでおり、周囲は音もなく静かだ。普段ならうるさいくらい響きわたる運動部の喧騒も、全く聞こえない。

 ————行方不明ね。

 闇バイト絡みや、臓器売買目的の拉致、狂った殺人鬼の仕業、神隠し。

 言いたい放題噂されているが、まるで進展はない。

 今年の夏から表面化した失踪事件に共通点は全くなく、消えた状況もバラバラ。

 警察が本腰を入れても、1人だって見つかっちゃいない。その事実がますます彼らに火を付けたのか。

 最近はどこを彷徨いても、警官が巡回していて大変やりにくい。

 それでも失踪者の勢いは止まらないみたいだが。

 

 ——ブブ。

 

 ポケットに入れているスマホが揺れた。

 何だろうか。チャットはみんなミュートにしている筈だが。

 スマホを取り出してみると通知が一件。

 

 Monster/Battle のインストールが完了しました。

 

 モンスターバトル? こんなもの入れた記憶はないが。変なURLでもタップしてしまったのか?

 スマホの画面には扉のマークのアイコンが新しく配置されている。しくじったな。消しておこう。

 僕はアプリを削除しようと、アイコンに指を触れ、

 

「あっ」

 

 しまった。起動してしまった。

 画面が暗転する。急いでスライドさせるも受け付けず。サイドボタンも反応しない。くそ、やはりウイルスか?

 食い入る様に画面を見つめると、やがて中央に扉の絵が現れた。アイコンに描いてあるものと同じだ。

 そして扉(・)の(・)奥(・)か(・)ら(・)声(・)が(・)聞(・)こ(・)え(・)て(・)来(・)た(・)。

 

 はじめまして、新たな挑戦者よ!

 Monster/Battle は夢を叶えるアプリ。

 モンスターを育て、戦い、仲間を集め、仲間を裏切り、そして勝つ。

 至高の選択の末に、貴方の望みが叶うと信じて!

 

 本当に何だこれは? スパムか? 女の声だった。願いを叶えるとは有りがちな定型文だな。

 スマホは再び沈黙し、液晶には暗闇を背景にした扉だけが映し出されている。

 レトロゲーム染みたドット絵のイラストだ。

 なのになんだか、神殿の様な荘厳さを感じる。

 どこが? と言われても説明は出来ない。ただそう思っただけ。ドット絵に感動するなんて自分でも信じられないが。

 だから音声が扉から聞こえてきたと、そう錯覚する程に没入してしまった。

 

「ん? ……エラー落ちか?」

 

 スマホは再び暗転し、元のホーム画面に戻った。

 しかし件のアプリアイコンは画面から消えている。削除動作もしていないのに。

 本当にウイルス染みた挙動だ。念のためアプリ設定を確認するが影も形もない。

 はあ……。帰ったら初期化するか。面倒ごとが一つ増えたな。

 煙草の火を消し、灰皿代わりにしている小物入れにしまう。煙を吸う気分でも無くなってしまった。

 帰るか。妹が待ち伏せしているかもしれないが、その時はその時だ。

 臭い消しに制汗スプレーを身体にかけ、僕は屋上を後にした。

 

 

 

「よぉジンく〜ん? ちょっとお願い事があるんだけどイイかなぁ? 」

 

 校門で待ち伏せしていたのは妹ではなくヤンキー連中だった。

 はぁ。

 

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