デスゲームに巻き込まれた戦闘狂高校生、強敵達がこぞって襲いかかってくるけど取り敢えず全勝する〜鬼フィジカルと即席計略。狂った度胸で敵を攻略〜 作:大山真君
……おめーが斑目か。俺の花梨ちゃんを泣かせやがった落とし前をつけさせてやる! え? あの女は二股かけようとしていた? いや俺が片思いしてるだけだからそれは違う……って逃げんな! 勝負しろゴラぐほぉッ!
……斑目ぇ! 今日こそはおめーをボコってやる! ……いやまてまて喧嘩じゃなくて今日は将棋で決着をつけるぞ! なんでって……喧嘩じゃ勝てないジャンってだから逃げんな!
……うおおおおおおお刃! 今日は寿司大食い対決だあああああああ! 負けた方が奢るデスマッチ! 地獄を見るのはどちらかな? ……なんでウニばっかり食ってんの? いやイカとかも食べようよ。いやだからウニばかり食うなってー!!!
……ジンッ!……いや、なんでもねえわ。お前は上手くやれよな。
「龍司ッ!…………うっ」
夢か。随分情けない夢を見たな。
いきなり体を起こした為か頭がくらくらする。一度目を瞑り、静かに深呼吸をしてから再び眼を開ける。よし、目眩は治まったな。
どうやら僕は布団の上で寝かされていた様だ。
布団。和風の低いテーブルに座布団。テレビ。最低限の家具が6畳程の部屋に揃えられている。どれも買いたてみたいに新しく、生活感という物が感じられない。家具屋のショールームみたいだ。
ゆっくりと立ち上がり、窓に近付いて外の景色を覗く。3階くらいの高さだな。見知った通りが見える。市内だな。公園から二駅程の距離だ。
ポケットのスマホを取ると、画面の時計は午前7時を指していた。腹も空くわけだ。昨夜は夕食も食べていない。
しかし汗が張り付いたシャツが酷く不快だ。飯よりも先にシャワーでも浴びたい所だね。
……さて、ここが何処だかは分からない。しかし僕を運んだ相手には心当たりがある。
及川だ。バーバ・ヤーガを倒した後、訳知り顔で現れた現文の教師。僕は昨夜の出来事を夢物語と断じるつもりはない。
あれは行方不明事件の真相だ。だからあんな夢を見たのだろう。本当に女々しい自分が嫌になる。
——コンコン
扉からノックの音が聞こえてきた。タイミングを計られたようで気持ちが悪い。いや、寝言を聞かれただけか。何にせよ追い返す事など出来やしない。
僕は再び布団に戻り、彼を迎える事にする。
「どうぞ」
「……起きた様だな、斑目君。それともケルベロスと呼んだ方がいいか? 」
予想通り及川が現れた。黒地のシャツに同色のスラックス。
しかしシャツに龍のイラストが描かれているのが意外過ぎる。
中学生ヤンキーでもそんなダサいセンスはしない。というか顔とギャップがあり過ぎて面白い。写真を撮って学校の奴らに見せてあげたいくらいだ。
「やめて下さいよ。そういうので喜ぶキャラじゃない」
「ならば慣れる事だ。ゲーム中はモンスター名で呼ばれる事になる」
ゲーム。やはりこいつはアプリの事を知っている。恐らくはプレイヤーと呼ばれていた存在。
どうやら助けてくれた様だが、今後も敵対しない保証はない。警戒するに越した事はないだろう。
「昨晩は助けて頂き有難うございました。ここは先生の家ですか?」
「……窓の鍵が開いているな。警戒心を解かない様で大変結構。いや、誤解するなよ? そのままの意味だ。そうでなくては助けた意味が無い」
よく見ている奴だ。誤魔化しても仕方ない。直球でいくか。
「状況の説明をお願い出来ますか? 助けたと言われても、何も知らないままではこの身を危ぶむ事さえ出来ないので」
「当然の疑問だな。だが先ずはシャワーを浴びて朝ご飯を食べなさい。コンディションを整えなければ正しい理解は出来ないだろう」
「……分かりました」
本当にこちらの心が覗かれている様だ。悔しいが及川の言う通りだ。言葉に甘えよう。それに単純に殺す事が目的ならば既に僕は死んでいる。何か利用価値があるのだろう。ポイント奴隷……いや断定は出来ないな。一先ず考えるのは後だ。まずはシャワーを借りよう。
「……うまい」
赤酢を使ったシャリは旨味が強く、控えめな酸味が舌に優しい。柔らかく握られていて、口の中で綻ぶ。
濃く漬けられたマグロはタレとよく馴染み、舌に吸い付く様な滑らかな食感が素晴らしい。
文句無しに美味い。だが、
「なんで朝食で握り寿司が出てくるんだ……? 」
「寿司はいつ食べても美味い」
そう言いながらコハダの握りを口に運ぶ及川。
いやそれはどうだろうか? しかしどれも油分が少なめで食べ易いネタのチョイスだ。こいつそこまで考えて寿司を握っているのか……? いやおかしいだろ。なんで学校の教師の家で朝からふつーに寿司食ってんだよ僕は。
「……料理上手なんですね」
「5年修行した。落ち着いたらまた高みを目指すつもりだ」
お前は現代文の教師ではなかったのか。
しかし程よい酸味と塩気が食欲を唆る。朝寿司に目覚めそうだ。口直しのおひたしとアサリの汁物も美味い。
「……ふっ」
がっつき過ぎたか。笑われてしまった。
及川は楽しそうにニヤついている。
まあどう思われようが関係ない。僕は視線を戻して食事を再開する。
「……すまないな。君を笑ったわけではない。なんとなく弟を思い出してね」
「弟さんがいらっしゃるんですね」
「ああ。年は離れているが仲は良くてね。このシャツも弟からの誕生日プレゼントなんだ。イケてるだろう?」
「……そうですね。二面性の演出を意識した良さがあります」
それを聞いて及川は満足そうに笑った。
ブラコンか。僕にはよく分からない感覚だな。
まあこいつの弟の事は良い。この貝汁を飲み干したら本題だ。
「ご馳走様でした。美味しかったです」
「それは何よりだ。では腹も膨れた事だし話に戻ろうか」
及川の表情も態度も変わらない。
だがここからは非日常なのだと、突然線引きをされた様に空気が張り詰めていく。
「君が知るべき情報は全て教えるつもりだ。だがとても非現実的な話になる。理解の及ばない事や疑問も当然出て来るだろう。だからある程度話す毎に、聞きたい事はないか君に確認しようと思う。そのやり方でいいか? 」
「はい。話の腰を折る真似はしません」
まるで学校の授業だな。あながち間違いではないが。
ただこの個別指導は、事実を教えてくれるとは限らない。油断は出来ないな。
「まず昨夜の状況から説明しようか。君が柏音君を噛み殺した後に出てきた化物。オリジン・モンスターと言うんだがね。発生時と撃破時には近辺のプレイヤーに通知が来る。アナウンスは君にも聞こえた筈だ。そしてアプリを操作すれば大まかな場所もわかる。つまりレイドバトルによって大量のポイントを得たプレイヤーの位置が筒抜けになるんだ。好戦的な奴等なら発生した段階ですぐに寄ってくる。正直間一髪だったな。ここまでで何かあるか?」
こいつ僕が殺されかけている所を見ていたのか……益々信用出来ないな。
だが情報源はこいつしかない。考えるのは話を聞いてからだ。
「助けた、というのはそういう意味でしたか。ではこのアプリについて教えて頂けますか? 他の疑問はそれから聞く事にします」
「ああ。そのつもりだ。ただ自分が運ばれた理由も分からないのは気分が悪いと思ってな。先に説明させて貰った。……アプリについての詳細は不明だ。分かるのは使用者に怪物の力を与えてくれるという事。ポイントを貯めれば望みが叶うと言われている事。その為にプレイヤー間でのポイントの奪い合いが起きているという事。大きく分けるとこの3つだな。基本ルールについてはアプリ内のヘルプの項目に書いてある。後で確認してみろ。ここまでで質問はあるか? 」
ヘルプね……本当にゲーム染みているな。及川が来る前にアプリを確認しておけば良かったな。
力の種類と使い方は不思議と分かったが、そこで思考を止めていた。だが今もあの力は使える。そういう感覚がある。いざとなれば力を使って逃げればいいな。
「アプリのリスクについて教えてください。茉莉花さんはポイント不足に焦っている様子でした。そして死んで化物になった。あれは僕にも起こり得る事なのではないですか? 」
「その通りだ。ただ柏音君は死んで化物になったのではない。死ぬ事へのペナルティポイントを払えなかった為に化物になったんだ。だから今の君がプレイヤーに殺されても化物にはならない。安心だな」
どこに安心できる要素があったのか。この教師少し……いやかなり頭がおかしいな。
「RPGゲームはやった事はあるか?……あるか。ポイントはゲームでいう
何もしなくてもポイントが減るシステムか。
能動的に奪い合わなければ死ぬと。とんだクソゲーじゃないか。茉莉花が焦っていた理由も分かるというもの。
だがそれなら無視出来ない疑問がある。
僕が挙手をすると及川は頷いて話を止めた。
「ポイントはどうやって稼ぐのでしょうか? 茉莉花は補給と称して男性を殺していました。まさか殺人が入手方法なのですか? 」
「いやそれは違う。あれは柏音君の能力だろう。バーバ・ヤーガには人を喰らう事で魔力を維持する伝承があった筈だ。プレイヤーは基本的に一般人を殺さない。ポイントになら無いからな。例外はいるがそういう奴は他のプレイヤーに狩られる。屑なら殺しても良心が痛まない」
「自浄作用という事ですか? デスゲームに参加する奴の倫理観で回りますかそれ? 」
「一般人を殺したら近辺のプレイヤーにアナウンスされるのさ。レイドバトルと同じだな。ネストを張れば殺人については隠蔽出来るがそれにはポイントを消費する。それにプレイヤーにはネストの霧が見える。リスクしかない行動だよ」
なるほど。一般人殺しが起きにくい理由には納得した。
だが肝心のポイントの入手方法については話していない。胡乱気に及川の眼を見ると、それに気付いた彼が話を続ける。
「ああ、誤魔化すつもりはない。ポイントの入手方法については体験して貰った方が早いと思ったからだ。これについては後で実践的に説明しよう。……取り敢えず長く話して疲れた。説明は一旦中断して君を助けた理由と目的について話したいんだが良いかな? 」
まだ聞きたい事はあるがヘルプを確認してからでもいいだろう。死活問題のポイント入手の方法を後回しにされるなら、今尋ねる事もない。こいつの目的だって重要事項だしな。
「はい。ありがとうございました。……先生は僕に何を求めているんですか? 」
「少し協力して貰いたい事があってね。……その前にわだかまりを消しておきたい。君には1つ話したい事がある」
わだかまり? 及川とは授業くらいでしか関わりはない。何を言っている?
「僕にはよくわかりませんが……話してください」
「よし、君は3年の男子生徒と仲が良かったね。いつも2人でやんちゃをしていたとか。なんて名前だったかな? 確か……
龍司? 何故ここで龍司の名前が出て来る? 教員なら面識があっておかしくはない。だが嫌な予感が頭をよぎる。いや予感ではない。確信だ。龍司は消えた。先月から行方不明だ。まさか、
「彼を殺したのは私なんだ」
「プロトコル起ッ!」
————カチリ。
後頭部に突きつけられた硬い感触が力の発動を中断させた。
目の前にいた及川が消えている。そして背後から彼の声が聞こえてきた。
「……良かった。君がそういう人間で。反吐が出る様な嘘だったがおかげで確信できた。君ならば信じられる」
頭から冷たい感触が消えた。急いで振り返るが及川の姿は見えない。だが前方に視線を戻すと拳銃を握っている及川がそこにはいた。
「……すまなかった。非礼の詫びはしよう。私の知る事は出来る限り教えるし、助けにもなろう。だから……」
及川は拳銃をテーブルに置き、深く頭を下げた。
「どうか私を助けてほしい。弟の……
酷く悲痛な声だった。
龍司と及川は似ても似つかない。
龍司は小柄な丸顔で、好奇心をそのまま顔に貼り付けた様な奴だった。対して及川は長身痩躯。刃物を思わせる冷たい顔立ちをしている。とても兄弟には見えない。
なのに何故だろうか?
頭を下げる彼の姿が、別れ際の龍司と重なって見えた。