黄金の血を継ぐ霹靂 ジュウリョクピエロ   作:Arupaka55

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第1話 ピエちゃん

第1話 ピエちゃん

 

 ここはウマ娘トレセン学園。

 

 トゥインクル・シリーズを目指すウマ娘たちが集まり、日々トレーニングを積む場所。

 

 学園には数多くのチームが存在する。

 

 チームは、それぞれが独立した育成組織だ。

 

 私が所属しているのは、中堅規模のチーム。所属するウマ娘はおよそ二十人。

 

 チームには責任者であるチーフトレーナーがいて、その下に数人のサブトレーナーがいる。

 

 チーフトレーナーはチーム全体を統括し、所属するウマ娘たちの育成方針やレースへの出走計画を管理する。

 

 一方、サブトレーナーは数人から五人程度のウマ娘を受け持ち、日々のトレーニングや体調管理、記録の作成などを担当する。

 

 チーフトレーナーが調教師なら、サブトレーナーは調教助手に近い存在といえる。

 

 私は瀬那。

 

 サブトレーナーになって三年目。

 

 まだ専属で担当するウマ娘はいない。

 

 今はチーフトレーナーの補助をしながら、仕事を覚えているところだ。

 

 いつか自分の担当を持ち、一人前のトレーナーになる。

 

 それが私の目標だった。

 

 ちなみに、私には好きな言葉がある。

 

 『Eclipse first, the rest nowhere.』

 

 唯一抜きん出て並ぶものなし。

 

 かつて圧倒的な強さを誇った伝説のウマ娘、エクリプスに由来する言葉だ。

 

 私はこの標語が大好きだった。

 

 誰にも並ばれない存在になること。

 

 誰もが認める実力を身につけること。

 

 簡単なことではないけれど、目標にするくらいは自由だと思う。

 

 仕事机の片隅には、この言葉を書いた小さな額を飾っている。

 

「瀬那、またそれ見とるんか」

 

 背後から声がした。

 

 振り返ると、チーフトレーナーが苦笑いしていた。

 

「好きなんです、この言葉」

 

「知っとる。もう何回聞いたか分からんわ」

 

「いい言葉じゃないですか」

 

「まあな。せやけど、標語を眺めとるだけやと仕事は進まんで」

 

「あっ、すみません」

 

 私は慌てて資料に向き直った。

 

 チーフは机の上の書類を一枚手に取った。

 

「そうや、瀬那。ちょっと頼みたいことがあるんや」

 

「何でしょう?」

 

「新しくうちのチームに入る予定の新入生が来とるんや。寮まで案内してやってくれんか」

 

「私がですか?」

 

「ああ。まだ学園のこともよう分からんやろうし、いろいろ教えてやってほしい」

 

「分かりました」

 

 私は書類を受け取った。

 

 新入生の案内は、サブトレーナーの仕事としては珍しくない。

 

 そう思っていた。

 

 ――数十分後。

 

 私はグラウンドの入口で名簿を確認していた。

 

 新入生の名前は、

 

 ジュウリョクピエロ。

 

 ……変わった名前だ。

 

 そう思ったときだった。

 

「おーい!」

 

 声がした。

 

 振り向くと、一人のウマ娘がこちらに向かって手を振っていた。

 

 スポーツバッグを肩にかけている。

 

 そして――汗だくだった。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 私は思わず駆け寄った。

 

「何がや?」

 

「何がって……汗が」

 

「いつものことや」

 

「いつも!?」

 

「うちはジュウリョクピエロ」

 

「サブトレーナーの瀬那です」

 

「サブ?」

 

「見習いみたいなものです」

 

「ほな、よろしく頼むわ」

 

 こうして、私とジュウリョクピエロの出会いが始まった。

 

 寮までは、歩いて少し距離がある。

 

 私は彼女の荷物を気にしながら、学園の施設や道順を説明していった。

 

 ところが、彼女はなかなかじっとしていない。

 

「あそこは何や?」

 

「トレーニング施設です」

 

「へえ。あっちは?」

 

「グラウンドですよ」

 

「ほな、あの建物は?」

 

「食堂です。あとで案内しますから」

 

 質問は多い。

 

 寄り道も多い。

 

 売店を見つけると、いつの間にか姿が消えている。

 

「ちょっと! 勝手に行かないでください!」

 

「おお、ここ売店やん。何があるん?」

 

「だから、あとで!」

 

「ええやん。ちょっと見るだけや」

 

「もう!」

 

 ようやく寮へ向かう道に戻ったころには、私はすっかり振り回されていた。

 

「怒っとる?」

 

「怒るわよ!」

 

「ええな」

 

「何が!?」

 

「ちゃんと向き合ってくれる人や」

 

 思いがけない言葉に、私は少し戸惑った。

 

 彼女はそんな私の様子を気にするでもなく、楽しそうに笑っている。

 

 まったく、調子の狂う子だ。

 

 私は改めて彼女の名前を思い出した。

 

「ジュウリョクピエロ……」

 

「なんや?」

 

「ピエロちゃん、って呼んでもいい?」

 

「長い」

 

「え?」

 

「ピエロちゃん、長い」

 

「じゃあ、ピエロ?」

 

「それでええ」

 

 私は少し考えてから、もう一度口を開いた。

 

「ピエちゃん?」

 

「ピエちゃん? なんやそれ」

 

「短くて呼びやすいでしょ?」

 

「うちはじゃりン子ちゃうわ」

 

 汗だくで、元気で生意気な関西娘。

 

 どう見ても、あのじゃりン子そのものだった。

 

 私は吹き出しそうになり、慌てて口を押さえて身体を震わせた。

 

「まあ、瀬那ならええか」

 

「何が?」

 

「ピエちゃん呼んでええの」

 

 私は目を丸くした。

 

「さっき嫌がってたじゃない」

 

「他の人に呼ばれるんは嫌や」

 

「でも、瀬那は許したる」

 

 なんだか、ずいぶん勝手な子だ。

 

 けれど、不思議と嫌な気はしなかった。

 

 こうして、私にとって初めて特別な呼び名で呼ぶウマ娘ができた。

 

 トレセン学園に、新しいウマ娘がやって来た。

 

 後に数々のレースを沸かせることになる、自由奔放な関西娘。

 

 ――ジュウリョクピエロが。

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