黄金の血を継ぐ霹靂 ジュウリョクピエロ   作:Arupaka55

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第5話 芝の選択

ジュウリョクピエロは、年始のレースに向けて練習を続けていた。

 

デビュー戦は勝った。

だが、その後は思うような結果が出ていない。

この前のレースも勝てなかった。

 

勝ったのは、デビュー戦だけ。

だからこそ、今度のレースには勝ちたかった。

 

実戦を重ねて、もっと強くなる。

そのために練習してきた。

 

――そのはずだった。

 

「まずいことなったな」

パソコンが見ていたチーフが呟いた。

 

「どうしたんですか?」

瀬那は出馬表を覗いて固まった。

 

画面に表示された文字。

 

京都レース場 ダート1800メートル

除外:ジュウリョクピエロ

 

「え?うそ?除外なの?」

 

ピエロが後ろから覗き込む。

 

「出られへんの?」

 

「うん……」

 

「なんで?」

 

「登録した子が多かったみたい」

 

「それだけ?」

 

「それだけ」

 

ピエロは画面をじっと見つめた。

 

「……こんなことあるんやな」

 

「結構あるらしいんよ」

 

レースに出るには、登録するだけでは足りない。

 

ゲートには出走できる頭数には限りがある。

 

出たいウマ娘が多ければ、賞金などの条件によって除外されることもある。

 

そして今のピエロには、まだ十分な賞金がなかった。

 

「勝ったのにな」

 

「うん」

 

「デビュー戦」

 

「うん」

 

「でも、足りへんのか」

 

瀬那は小さく頷いた。

 

ピエロは椅子にもたれた。

 

「走らな強くなれへんのに」

 

その言葉に、瀬那も黙った。

 

練習はできる。

 

走り込みもできる。

 

フォームを直すこともできる。

 

でも、実戦でしか得られないものもある。

 

スタート。

集団での位置取り。

周りとの駆け引き。

勝負どころでの判断。

そして、本番の緊張感。

 

それらは、練習だけでは身につかない。

 

「実戦経験、欲しいよな」

 

「うん」

 

ピエロは出馬表を見たままだった。

 

チーフもパソコンの画面を睨んでいる。

 

「地方遠征も考えるか」

 

「そこまでですか?」

 

瀬那が聞く。

 

「今はレースに使いたい」

 

チーフの答えは早かった。

 

「このまま次の開催まで待ってたら、時間だけ過ぎる」

 

「でも……冬に長距離移動は、できれば避けたいですよね」

 

「そうなんだよな」

 

チーフは頭を掻いた。

 

「次開催まで待ちます?」

 

「それも選択肢ではある」

 

チーフは画面をスクロールしていく。

 

しばらく沈黙。

 

そして――。

 

「あった」

 

「え?」

 

瀬那が画面を覗き込む。

 

チーフが指差した。

 

「京都の芝2000が空いてる」

 

「芝2000?」

 

瀬那は思わず聞き返した。

 

「芝ですよ?」

 

「芝だな」

 

「ダートじゃなくて?」

 

「芝だ」

 

「芝ですよ!?」

 

チーフは苦笑する。

 

「見れば分かる」

 

瀬那は画面を覗き込んだ。

 

確かに空いている。

 

京都レース場、芝2000メートル。

 

しかも――。

 

除外になったダートレースと同じ日だった。

 

「出走頭数が少ない」

 

チーフが呟く。

 

確かに、ダート1800に比べればかなり少ない。

 

「でも……」

 

瀬那はピエロを見る。

 

「ピエロはダートでは?」

 

チーフは苦笑した。

 

「誰が決めたんや?」

 

「え?」

 

「ダートって、誰が決めた?」

 

瀬那は言葉に詰まった。

 

確かに。

 

これまで走ったレースは全部ダート。

 

デビュー戦もダートだった。

 

だから、自然とダートが主戦場になっていた。

 

でも――。

 

芝を走ったことは、一度もない。

 

「阪神のダートで勝ったからダートか」

 

チーフが言う。

 

「阪神のダートで負けたから、ダートじゃないかもしれない」

 

瀬那は黙って聞いていた。

 

「ウマ娘は、そんな単純やない」

 

チーフは画面を見ながら続けた。

 

「走ってみな分からんこともある」

 

「……確かに」

 

「それに今は、出られるレースがある」

 

チーフは芝2000の欄を指した。

 

「それだけでも大きい」

 

瀬那はもう一度、画面を見る。

 

ダート1800。

 

除外。

 

芝2000。

 

出走可能。

 

同じ日なのに、道が一つだけ残っていた。

 

 

「本番いきなり?」

 

ピエロは資料を見ながら首を傾げた。

 

「それは……ちょっと怖いな」

 

チーフも頷いた。

 

「だから、まず試す」

 

「試す?」

 

「模擬レースをやろう」

 

ピエロの顔が少し明るくなる。

 

「模擬レース?」

 

「実際に芝を走ってみる。ダートと比べてどうなのかを見る」

 

「……ピエちゃん、前も両方走ったよね」

 

「うん」

 

「ダート走った後に」

 

「うん」

 

「普通、もう一本走ろうとは思わへんと思うけど」

 

ピエロは首を傾げた。

 

「芝も走ってみたかったんや」

 

「普通は思わんやろ……」

 

チーフが二人の会話を聞きながら笑った。

 

「まあ、今回はちゃんと見る」

 

「分かった」

 

 

翌日 

グランド芝コース

 

「じゃあ、やってみよか」

 

瀬那が言う。

 

ピエロは芝の上に立った。

 

足元の感触が違う。

 

土よりも柔らかい。

 

少し沈むような感覚。

 

「変な感じ」

 

「走れそう?」

 

「走ってみな、分からん」

 

「まあ、そうやな」

 

スタート

 

ピエロが飛び出す

 

最初の数歩

 

瀬那はモニターを見つめた。

 

「……あれ?」

 

ピエロの走りが、いつもと少し違う。

 

ダートを走る時より、脚の運びが大きい。

 

それなのに、力んでいない。

 

芝の上を滑るように、自然に前へ進んでいる。

 

「……速い」

 

瀬那の口から、思わず声が漏れた。

 

ピエロは集団の後ろについた。

 

無理に前へ出ようとはしない。

 

それでも、少しずつ前との差が縮まっていく。

 

「位置取りは?」

 

チーフが聞く。

 

「悪くないです」

 

「脚は?」

 

「まだ余裕あります」

 

最後の直線。

 

ピエロが少し外へ出た。

 

そして――。

 

伸びた。

 

「えっ」

 

瀬那が思わず立ち上がる。

 

一気に前との差が縮まった。

 

ゴール。

 

瀬那は、すぐに映像を巻き戻した。

 

スタート。

 

中盤。

 

そして、最後の直線。

 

もう一度見る。

 

「……なんやろ」

 

瀬那は首を傾げた。

 

「ピエちゃん」

 

「ん?」

 

戻ってきたピエロが顔を上げる。

 

「もう一回走って」

 

「え?」

 

「今の、もう一回見たい」

 

「また?」

 

「うん」

 

ピエロは少し笑った。

 

「ええけど」

 

二本目。

 

今度は位置取りを変えた。

 

それでも――。

 

最後に伸びる。

 

瀬那は黙って映像を見ていた。

 

そして、ぽつりと言った。

 

「……あんた、芝走れるんじゃない?」

 

「え?」

 

ピエロが振り返る。

 

「芝、走れるんちゃう?」

 

「ほんま?」

 

「うん」

 

瀬那自身、まだ確信があるわけではなかった。

 

本番とは条件も違う。

 

それでも――。

 

今までダートで走っている時には、あまり見なかった動きだった。

 

力みが少ない。

 

脚が自然に前へ出る。

 

そして、直線での伸び。

 

「少なくとも……」

 

瀬那は画面を見ながら言った。

 

「走れないとは思わへん」

 

ピエロは芝コースを振り返った。

 

「じゃあ……出てみる?」

 

瀬那は頷いた。

 

「うん」

 

チーフも腕を組んだまま、静かに笑った。

 

「試す価値はあるな」

 

京都、芝2000メートル。

 

除外されたダートレースの代わりに見つかった、一つの選択肢。

 

それは、ただの代替レースではなかった。

 

ジュウリョクピエロが、まだ知らなかった可能性。

 

その扉が、今、初めて開こうとしていた。

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