ダイヤのA 〜closer of Diamond〜 作:虹犬β
(side ????)
「いいえ、私達に出来たことなんてほんの些細なことです。全ては彼の努力の結果です。あの時の晃輔さんのように……」
ブロンドの長い髪に整った顔立ち、優雅な佇まいは綺羅びやかな装飾品で彩られた部屋の中でも一際存在感を放っていた。
「でも、驚きました。まさか、雅さんと彼に面識があったなんて……」
誰もいない部屋の中、受話器を手に持ち、話をする。
それだけの動作でも何か、普通の人とは違う品を感じるのは気のせいではないだろう。
「ライバル……ですか?」
電話口から発せられた単語を復唱し、キョトンとした表情になる女性。
その単語の意味は知っていても、実際にそれがどういったものなのか見当がつかないのだろう。
「えぇ……あの頃の私達……?あぁ、なるほど……ふふ……それはそうでしたね」
女性は2月程前にこの学校に留学に来ていた少年の活躍を記した新聞から机の上に置かれている写真立てに目を移し、懐かしげにそれを見つめる。
そこには一人の少年を囲み、楽しそうな笑顔をしている数人の少女達の姿が写されている。
その中の一人は自分の幼い頃の姿であり、他の少女と同様に真ん中に写る少年に対する好意がありありと感じられる様子であり、それを見た女性は少し恥ずかしそうにそれでいて、それを誇るような表情を浮かべる。
「えぇ、そうですね。まるで、あの頃を外から見ているようで不思議な気分でした」
自分達の掛け替えのない時を閉じ込めた写真のすぐ側にある新しい写真。
そこには同じように数カ月前までこの学校にいた少年と現在、この学校で学んでいる数人の女子生徒が並んで写っていた。
その中には先程の写真と面影の似ている少女の姿もあり……
「特に美玲ちゃんや美樹ちゃんは雅さんとあの子にそっくりでした。だからでしょうか……あの子達には少しお手伝いをさせていただきました」
いたずらの種明かしをするように茶目っ気を交えて言葉を紡ぐ女性。
その様子に電話口の相手は思惑通り驚いてくれたのか嬉しそうにふふふと笑う女性。
「ふふふ……ってえぇ!?颯晃君が帰ってきてるんですか?それも陶山学園に……」
しかし、すぐに女性の得意げな表情は驚きに変わる。
『ええ、そうよ。晃輔が日本の野球人にとって、高校の3年間は特別なものだから経験した方がいいって言ってね……まぁ、こっちは飛び級もあって、一年間年数を間違ってたのは晃輔らしいけど……』
あまりに驚いたのか受話器がスピーカーモードに切り替わり、相手の声が辺りに響く。
「ふふふ……そうですね、晃輔さんらしいです」
相変わらず相手の方が一枚上手なことを実感しながら女性は気を取り直す。
「静歌、貴方の生徒と私達の子供はきっと、これから大きな舞台で戦うことになるわ、楽しみね」
「ええ、楽しみです」
挑戦的な口調をしながらも、本当に心の底から待ちわびているそんな様子の二人の声。
その様子はまるで写真に写る少女だった頃に戻ったかのように活気に満ちあふれていた。
(side 蓮夜)
「くしゅん!」
「おい、蓮夜どうしたよ?いきなり、くしゃみなんかして風邪か?」
「ん?なんだろ……体調は悪くねぇんだけどな……誰かに噂されたかな」
「自意識過剰すぎ」
「オラー!!蓮夜、気合が足りねぇぞ!!ベンチやっとくか!?」
「ヒャハハハ、手伝いますよ、純サン」
「純さん、勘弁して下さい。それに倉もプレート付け足すのやめろ」
なんで、くしゃみをしたぐらいでそんな仕打ちを受けにゃならんのんだと思いながらも蓮夜はトレーニングを続ける。
今日は6月の1周目、関東大会も終わり、二軍の練習試合の最終日、つまり、夏に向けての総仕上げにとりかかる日となっていた。
現在、一軍は蓮夜と降谷を含めて18人。残る2人が2軍から選ばれるわけなんだが……
「蓮夜、お前は誰が上がってくると思う?」
「んー、わからん。亮さんの弟は十中八九選ばれそうだけど、後の一人がなぁ……監督の考える事はわかんねぇし……」
「なんだ?まだこの前の事、根に持ってんのか。案外、みみっちい奴だな」
「ちげーよ。選択肢が多くてわかんねーだけだっての」
御幸が言うこの前の事とは先日の関東大会2回戦のことである。
栃木の佐野道大との試合で蓮夜が投球することはなく、チームは敗北してしまったのだ。
序盤、順調にアウトを重ねていった丹波だったが疲れを見せ始めた7回に相手打線に捕まり、一挙に4点を失った。
そんな丹波に代わて出た降谷はその回は得意の速球で佐野道大の打線を抑えるが次の回の上位打線に高めに浮く球を見極められて2四球2安打3失点で降板。川上が残る2回をなんとか締め試合は終了したのだった。
「まぁ、関東大会が本番ってわけじゃないしな、監督にも色々と試したいことがあるんだろうさ」
関東大会が夏と秋の大会に比べて重要性が低いものであることは理解しているし、勝敗よりも各々の課題を見つけることを優先したのだろうということもわかっているがやはり、負けは負であり、自分が試合に出られなかったことに対する不満もないといえば嘘になるだろう。
「っておい!マジでやんのかよ」
その不満を筋トレで発散すべく、俺は倉持が用意してくれたバーベルの下に付き準備する。
ベンチに横たわり、バーベルを握り、それを持ち上げるごくごく普通のベンチプレス。
重さからして100kg程であろうか、
……倉のヤロー、後でお前にもさせるからな!
そう心の中で叫びながら、大きく息を吐き、バーベルを持ち上げる、そして、いきを吸いながらバーベルを下ろし、大胸筋下の上部で一瞬止め、また持ち上げる。
その作業を3回繰り返し、バーベルを元の位置に戻す蓮夜。
「よし、終了。純さん、これでいいっすよね」
「お、おう」
純さんのベンチプレスの最高は90kg。
3回とはいえ、それを上回ったんだから大っぴらに文句は言えないだろう。
後は……
「おい、倉。次はお前の番だ……大丈夫、手伝ってやるからな」
「この鬼、どS!!」
「安心しろ、俺は気に入った奴にしかSにならんから!」
「嬉しくねーよ、このバカヤロー!!」
俺と倉がそんな馬鹿なやりとりをしている中……
「おいっ!今、二軍の試合にクリスが出場してるぞ!!」
「なにっ!!」 「マジか!?」
「つーかアイツ、肩大丈夫かよ!」 「見に行こうぜ!!」
今日の二軍の試合は東東京の古豪である黒士舘が相手だ。
そして、先発はあの沢村……
トレーニングルームにある時計を見てみるが試合開始からそれほど時間は経っていないため、何か不測の事態が起きたと考えるのが妥当であろう……
つまり……
「沢村か……」
「ヒャハハ、またあのバカが何かしやがったのか!?見に行こうぜ!!」
これ幸いとばかりに走り去っていく倉持をやれやれと肩を竦めながら見届けながらも、自分も興味あるわけで歩行よりもやや速いスピードで蓮夜はAグラウンドに向かっていった。
さて、この後、続々とオリキャラが投入&オリジナル展開されていくかもしれませんがよろしくお願いします。