ダイヤのA 〜closer of Diamond〜 作:虹犬β
(side 蓮夜)
「朝にも言ったと思うが、今日から夏直前合宿が始まる。各々、課題を持って練習に臨むように!!」
「「はい!」」
「後、もう一つ、お前達に言うことがある。来てくれ」
「「はい」」
監督に呼ばれて出てきたのはジャージを着た女子生徒二人であった。
「皆も知っているように本日から交換学生として来ている二人だ。本人達の希望により、本日から前宮さんにはマネージャーを、榊さんは仕事の関係で時間がある時に練習の見学をしてもらうことになった」
「はい、ご紹介いただきました。前宮美樹です。皆さんのお役に立てるように精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
「同じく、聖エトワール女学院から来ました榊美玲です。個人的な事情で大切な時期に皆様のお邪魔してしまい申し訳ありません。不定期ではありますが、前宮さんと同じように皆様のサポートに努めさせて頂きますのでよろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします!」
少し戸惑った様子で口々に返事をする部員達。
事前に知らされてたとは言え、実際にジャージ姿の二人を見ると何かの冗談ではないかと思ってしまったからなぁ……仕方ないだろ。
「よし、話は以上だ。各々、練習に掛かってくれ!解散!」
「「はい!!」」
こうして、地獄の夏直前合宿が始まったのだった。
「コラァー、沢村ぁ!!」
外野に抜けるノックにどうしていいかわからず、オロオロとする沢村に前園の怒号が降り注ぐ。まともな試合経験の少ない一年二人は徹底的にフィールディングを練習するようで、先程からずっとしごかれていた。
「次、蓮夜!行くぞ!」
「おし、来い」
設定は一アウト、走者二塁、三塁。
ここから考えられることは……
ーコンー
前園のバントと共に走り出す三塁ランナー。
蓮夜は正面に転がってきた球をシングルハンドで補給し、そのままダッシュしてきた勢いを使い腕を振り、グラブトス。
グラブから飛んだボールは真っ直ぐに低い軌道を描き、キャッチャーのミットに収まり、キャッチャーはそのままランナーにタッチし、スクイズを阻止する。
「ナイス!蓮夜!!お前らも蓮夜を見習えや!!」
「はい!!」
元気良く返事をする沢村。
「よし、じゃあ、丹波、川上、藤井はブルペンに入ってくれ。沢村と降谷は出来るようになるまでトコトンやるぞ」
「げ……」
自分達も早く投げたいのだろう、羨ましそうな顔でこちらを見る二人。
しかし、彼らを見るのはあのクリス先輩なわけで……
「これが終われば外野のノックを受けてもらうからな……」
「ええ!!外野ッスか!?」
本日、彼らが投球練習することは無さそうであった。
「あ、一也。これからブルペン入るから球受けてもらっていいか?」
「あぁ、いいぜ」
丹波さんに声を掛けるがあっさりと拒否され、ぽつんとしている御幸に声を掛ける。
まぁ、クリス先輩が一年二人に付きっきりの今、ブルペンで球を取ってもらえる奴はコイツしかいないわけで、自分としては良かったんだけど、丹波さんとコイツの相性ってホント悪いんだな……
そんなことを思いながら蓮夜はブルペンに向かったのだった。
(side 美樹)
「お疲れ様でーす」
先輩マネージャーにならい、練習後、グラウンドから引き上げる先輩達にタオルと飲み物を配る美樹。
満身創痍の一年生やそれほどではないにしてもはっきりと疲れが見える二、三年生の姿。
午後からの練習は傍から見ても厳しいものであり、一度、夕方に休憩を入れたとはいえ、それからの基礎体力を鍛えるための走り込みは想像を超えるものだった。
「ありがと、美樹ちゃん。ここは私に任せて、美樹ちゃんは蓮夜を探してきて。監督が呼んでるみたいなの」
「あ、唯先輩!わかりました!」
後ろから新たに飲み物の入ったボックスを持って現れたのは青道野球部二年マネージャーの夏川唯先輩だった。
ソフトボールをやっていたとはいえ、野球のしかも、異性ばかりの部活のマネージャーの仕事に戸惑っていた自分達に一から丁寧に教えてくれた人物である。
気さくに話しかけてくれた彼女とは共通の話題もあったこともあり、すぐに打ち解けられた。
「多分、あいつ、ブルペンにいると思うから、すぐに行くように伝えてね」
「はい。でも、先輩……」
「いいの。美樹ちゃんが行ったほうが言うこと聞くから」
「え……」
「あいつ、私が言ったら、どうせ、もう少し投げてから……とか我が儘言うだろうからね。あなたが適任なのよ」
やれやれと肩を竦める唯先輩だが、言葉とは裏腹に満更でもない雰囲気を感じ、少し羨ましく思ってしまう。
二年生である美玲お姉さまや唯先輩とは違い、自分と先輩は先輩と後輩の関係であり、二人のように頼り頼られる存在にはなれないのだ。
「わかりました。じゃあ、行ってきます」
そんな一抹の寂しさのようなものを感じながら美樹はブルペンに向かっていった。
(side 蓮夜)
「え?監督が?」
「はい。すぐにスタッフルームに来るようにと言っていたらしいです」
「じゃ、投球練習は終わりだな。俺は引き上げるわ」
「あぁ、サンキュ。一也」
「いやいや、こっちも収穫あったしな。ジュース一本で勘弁してやるよ」
軽口を叩きながら去っていく御幸。
その姿を見届けてから視線を戻すと何故か膨れっ面をした美樹の姿があった。
「えっと……美樹?どした?」
「先輩、もっと投げたかったんじゃないですか?」
「いや、そんなことないぞ。もう十分投げたし、疲れた状態でのボールの調子を見たかっただけだからな」
「むぅ……ホントですか?」
「ほんとほんと。そんなことよりありがとな。じゃ、監督のところに行ってくるわ」
かまってもらえず、いじけてしまった犬のような態度を取る美樹、それが妙に似合ってて可愛いと思ったが口に出せば、また面倒なことになりそうだったので黙り、そのまま監督の待つ、スタッフルームに向かうのであった。
「あそこのケーキ屋さんはね……」
「え〜、そうなんですか!聞きましたか、お姉さま!」
「あー、はいはい。そんなにがっつかないの、はしたない」
「……」
女三人寄れば姦しいと言うがホントその通りだなと蓮夜は彼女達の後ろを歩きながら実感していた。
……藤井、榊と前宮、夏川を送ってやってくれ……
自分がこんな状況になった原因である監督の一言を思い出しながら道を歩く蓮夜。
まぁ、確かに日も暮れて周りも見えづらくなっている中を女の子だけで帰らすわけにもいかないよな。
「あ、私の家、ここなんだ。悪いんだけど、後は……」
「あぁ、任せとけ」
「まぁ、頼りないとは思うけど責任感はあるし、無駄に鍛えてるわけじゃないから安心していいと思うよ」
「うるせ、じゃあな。また、明日」
「唯先輩ありがとうございました」 「唯、ごきげんよう」
「うん。またね」
幼馴染に対してあんまりな言い草で立ち去っていく唯に別れを告げ、再び帰路につく三人。
暫く無言の時間が続くがやはりというか、その沈黙を破ったのは美樹だった。
「先輩とこうやって歩くの久しぶりですね」
「そうだな。まさかこの街でこうやって一緒に歩くなんて思ってなかったよ」
「えへへ、先輩には驚いてもらいたかったんで黙ってたんです」
えへへと可愛く笑う美樹。
その笑顔を見ると何でも許してしまえそうな気がするから可愛いってずるいなと思ってしまう。
「……って、あれ?」
「?どうしました?先輩」
見慣れたはずの美樹の笑顔に何か違和感を覚え、美樹の全身を観察する蓮夜。
そして、あることに気が付き、声を上げる。
「あ、そっか……美樹、高校に上がったんだな」
「え?そうですよ」
「いやぁ、制服変わってたのに気付かなかったわ」
「どうです?似合いますか?」
指でチョンとスカートの端をつまみ、恭しく礼をする美樹。
「あぁ、似合ってる。全く、可愛いなコノヤロー」
「あわわ、先輩、やめてくださいよー、髪がー」
よしよしとやや乱暴に美樹の頭を撫でる蓮夜。
「はいはい、二人共、じゃれ合わないの」
言葉とは裏腹に嬉しそうな様子を見せる美樹とそれに気付かない蓮夜に対してやや呆れた様子で突っ込む美玲。
「蓮夜も疲れてるんだから、早く帰って休まないといけないでしょ?明日も合宿はあるんだから」
「まぁ……流石に今日は疲れたしな」
少数での技術練習もさることながら、後半のポール間ダッシュ20本、インターバル走90秒、ベースランニング100本とグラウンド20周。
日頃から厳しい練習をしている部員達ですら、憂鬱な気分になる練習量に流石の蓮夜も若干疲れた様子を見せる。
「蓮夜はすぐ無理するから、気をつけなさいよ」
「あぁ、気をつけるけど、ま、俺はこんなんだしさ、いざという時は頼むよ」
「任せて下さい!」
「もう……私達はあなたの面倒を見に来たわけじゃないのよ?」
元気に返事をする美樹と文句は言いながらも断らない美玲。
なんだかんだ甘い二人に対して蓮夜は嬉しそうに無邪気に笑うのであった。