ダイヤのA 〜closer of Diamond〜 作:虹犬β
あちこちで金属音と怒号にも聞こえる掛け声が響き渡るグラウンド。
ブルペンでは乾いたミットの音が鳴り響く、自分にとっては懐かしい光景。
練習着に身を包んだ部員達が汗を流す中、制服姿で佇む自分は他人から見ればどう映るのだろうか……
そんな不安を感じながら藤井蓮夜はとある人物を待っていた。
「どう?久しぶりのグラウンドは」
「あ、高島先生。お疲れ様です!やっとこの場所に帰ってこれたんだなって実感してます。」
声を掛けられ振り向いた先には汗臭いグラウンドには似合わないスーツを着こなした女性 高島礼が立っていた。
高島礼ー青道高校の教師兼野球部副部長であり、担当教科は英語。ロングの黒髪と整った顔とナイスなプロポーションで男子生徒に人気のあるお方であり、俺がこの学校に来るきっかけとなった人である。
「そう、調子の方はどうかしら?」
「もう絶好調ですよ!早く皆に俺の成長した姿を見てもらいたいっす」
「なら、見せてもらおうか」
「監督!お疲れ様です!」
待ち人来たる。
サングラスを掛け、威圧感満載で現れた青道野球部監督ー片岡鉄心。
「倉持、小湊、伊座敷、結城、増子、後は御幸を呼べ。藤井、お前はブルペンで肩を作っておけ。準備ができたら呼んでやる。」
「はい!」
一目こちらを見た後、用が済んだとばかり去っていく監督。
呆気無い監督との再会に毒気を抜かれる蓮夜。
「よし!じゃ、いっちょやりますか!」
しかし、それも束の間、パンっと頬を叩き、気合を入れ、蓮夜は意気揚々と更衣室に向かって歩き出したのだった。
「ナイスボールだ。調子は良いようだな」
「あざっす!」
ブルペンで暇そうにしていた(誰も近寄っていなかった)クリス先輩を見つけ、挨拶もそこそこに切り上げ、肩を作っていた。
「ヒャハハ!本当にいるじゃねーか!蓮夜!久しぶりだな!」
「クス、相変わらず良い球投げるね、打ち甲斐があるよ」
「体作りは順調のようだな、相手にとって不足なし」
「オラァ、藤井!よく帰ってきたなッ!これからこのバットで歓迎してやるから覚悟しろや!コラァ!」
「ウガッ!」
「お久しぶりです!」
ブルペンネットから次々と声をかけてくれる先輩方(一部同級生もいるが)。
しかし、その目はギラギラと輝いており、普通の人が見れば、とても歓迎ムードとは思えないものだった。
「キッシッシ、先輩達気合いはいってんなー。蓮夜、Aグラウンドで皆が待ってるから行こーぜ」
「な、一也かよ…びっくりしたー。オッケイ、行くか」
いつの間にか背後に近付いてた男ー御幸一也。
格好からしてキャッチャーとわかるこの男はちょうど一年程前、この学校に入学して二,三ヶ月程、共に一軍レギュラーを目指してバッテリーを組んだ仲であり、妙に気の合うここで初めての友人であった。
「で、どうなんだよ。左の調子は」
「あぁ、実際に打者相手に投げたことはねぇんだけど、かなりいい感じに仕上がってると思う。あん時みたいなことにはならないさ」
「へー、そりゃ、楽しみって、ほらついたぜ」
通常、一軍選手が使用するグラウンドに配置された同級生達。
「何しとんじゃー!御幸、藤井!はよ、マウンドにつかんかー!」
「ゾノ……」
一番近い位置にいるファースト前園 健太が部内一の大声で俺達を急かす。
声には出さないが他の奴らも雰囲気で俺に訴えかけている。
「藤井、お前にはこれから、こいつらの相手をしてもらう」
実践形式のシートバッティング……
バッターボックス付近に立つ青道高校の上位打線陣を見る蓮夜の脳裏には半年前の苦い記憶が甦っていた。