ダイヤのA 〜closer of Diamond〜   作:虹犬β

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いきなりですが時系列が過去(回想)になっています。
わかりにくくてすいません。m(..)m


第二話 悪夢の目覚め

右頬骨及び、右眼底骨骨折。右鎖骨完全骨折。

右上腕骨、及び右中手骨不完全骨折。

右肩脱臼。右尺骨、中手骨及び手根骨完全骨折。右肋骨三番四番不完全骨折及び、五番六番複雑骨折。

その他、捻挫、打撲、擦過傷及び裂傷、全身合わせて二五箇所。

 

それが一ヶ月の眠りから目覚めた少年に突きつけられた残酷な現実であった。

 

「唯、悪いけど……」

 

「うん、分かった」

 

そっと、静かに病室から出て行く唯。

みなまで言わなくても理解してくれる幼馴染。

だが、今はそれに感謝する余裕もなく、蓮夜はただ呆然と宙を見ていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーー

 

(side 御幸)

 

それから退院までに一ヶ月、リハビリに一ヶ月。

医者が驚くほどの驚異的な回復力を見せた蓮夜だったが、5月から三ヶ月、既に高校一年目の夏は終わっており、なにより、繊細な感覚を持つ指先、抜群のコントロール、遠投120m以上の強肩は鳴りを潜め、投球どころか満足にキャッチボールも出来ない状態になっていた。

それでも、唯一、救いがあったとするならば……

 

「左投げ……だと?」

 

「あいつ、どんだけ才能あるんだよ……」

 

事故前の右投げを鏡に写したようなフォームから放たれる白球はキャッチャーのミットに軽快な音を立てて収まっていく。

 

「何キロだ?」

 

「ひゃ、145kmです!凄い!監督!これはいけるんじゃないですか!?」

 

「…………」

 

想像以上の出来に部長ー青道高校野球部部長は興奮気味になっているが、それに反して監督やレギュラー陣の反応は芳しくなかった。

 

「小湊、伊座敷、結城、順番にバッターボックスに立て」

 

そして、それは実際にボールに触っていた投手と捕手が一番感じており、二人の顔には陰りが見えた。

 

「おい、蓮夜、どうすんよ?」

 

「どうせこんな様じゃ、打たれて当然だしな、どうせならとことん打たれて課題を見つけたい」

 

「りょーかい」

 

……そんなギラギラした目して何が打たれて当然だよ。言葉と行動が一致してねーっての……

 

「やる気満々みたいだね。でも、先輩として野球はそんなに甘くないってこと教えてあげないとね」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

2番小湊亮介、チーム1の選球眼を持つ技巧派バッター。

 

……スピードはあるとはいえ、昔のようなキレはない……こりゃ、甘く入ったら打たれるぞ……

 

ーーーーーボール!フォア!

 

相手にコーナーギリギリを突くピッチング。

過去にできていた事が出来なくなっている歯痒さに蓮夜は顔を顰める。

その後の3番伊座敷には甘く入った球を打たれ、右中間を抜けるツーベースヒットに、そして、4番……

 

「さぁ、来い。藤井」

 

4番 結城哲也が放つ威圧感の中、投げた低めの変化球は悪くはないコースではあったが、御幸の要求よりやや上。

たった数センチ、その少しの差が優れた打者に対しては命取りとなる……

 

ーーーーキイイイィイインーーーーー

 

いっそ、清々しい気分になれる程の快音を響かせ、ボールは一直線に飛んでいき、フェンスを越える。

 

「ほ、ホームラン!?流石、哲さん!」 「すげぇ」

 

「……ちッ、やっぱ、ダメだったか……」

 

上位打線とはいえ、一人も打ち取ることができない現状に歯噛みする蓮夜。

 

「よし、小湊、バッターボックスに入れ、藤井が3アウト取るまで3人で回していけ」

 

「監督もひでぇことするな……」 「いや、でもあいつ笑ってんぜ」「マジかよ……」

 

気付けば、周りには部員たちが集まっており、蓮夜のピッチングを興味深そうに見ていた。

青道が誇る3人を打ち取るイメージが見えない中での投球。

普通の人なら終わりの見えないその苦行に蓮夜は笑みを浮かべ挑戦するのだった。

 

 

 

 

 

(side 蓮夜)

 

 

「どうだった?藤井」

 

アウト3つ取るのに6巡、5つのフォアボールに10のヒット、失点13点……それが俺の左投手としての初戦績であった。

 

「もう、散々でしたね。それに……」

 

アウト1つ取るのに多大な精蓮力と体力を使った先程の投球。

今まで経験したことのない苦労、そして、初めて感じた……

 

「初めて……投げることが怖いって感じました」

 

「そうか……藤井、お前自身も感じていると思うが、今のままでは投手としてお前を使う訳にはいかない」

 

「はい……」

 

「この短い期間であそこまでの投球に仕上げてきたことは凄いことだと思うわ。でも……」

 

「ゆ……夏川に聞いたんですね?」

 

「ええ……ごめんなさい」

 

「別にいいですよ、高島先生。ただ、元々左投げだったけど、上手くいかなかったから右投げに転向してたってだけですし……」

 

「その上手くいかなかった理由が問題なんだ」

 

元々、左利きだった蓮夜だったが、蓮夜の両親は右利きへ矯正させた。

割合でいえば、右利きの方が圧倒的に多く、世の中の商品や技術は主に右利きの人間が使うことを前提にして作られているからだ。

何も考えずに用いていた左手に比べ、慣れない右手の使用には細心の注意力と精蓮力を要した。

その結果、4年という年月を経て、左手とは比較にならない程の繊細な指先の感覚、自分のイメージに寸分違わず動かすことが出来る左手の制動力を手に入れたのだった。

そして、それはその時期、彼が一番熱中していた野球にも活かされ、速球だけがウリだった左投げから、打者を圧倒するキレや正確無比な制球力を持つ黄金の右投げへと進化を遂げたのだった。

 

「お前が過去、長い年月を掛けて手に入れた制球力や回転力はもうない。それを今から手に入れようとしても残り少ない高校生活の中では間に合わんかもしれん」

 

監督が指摘したことは俺自身が懸念していたことであった。

高校生活、しかも高校野球で選手として活躍出来るのは2年半という短い時間。

その短い時間を既に半年以上無駄にしているという事実が蓮夜を焦らせた。

衰えた筋力、完治していない身体、そして慣れていない左フォームで晒した今日の失態。

 

「藤井君、あなたが投手に拘っているのは知ってるけど……」

 

このままでは残りの高校生活の中で、投手として大成するどころか、試合に出れるかさえわからない。だから、野手として別の道を目指さないか……

高島先生の提案はこのスタッフルームに呼ばれた時からある程度、予想していたものだった。

だからこそ、その提案に対する答えも決まっていて……

 

「お断りします。俺は投手になるために野球を始めたんですから……例え、これから先、試合出れなかったとしても投手を諦めるなんてことは出来ません」

 

「お前の気持ちはわかった。だが、青道野球部は常に勝利を目指す集団だ。お前のような戦力になるかどうかもわからない奴に時間や設備を割くわけにはいかん」

 

予想以上に厳しい言葉と眼差しを向ける片岡監督。

 

……そりゃ、そうだよな。これはただの俺の我が儘……

 

監督の言ってることも十分理解できる。俺が居座っているせいで、不利益を被る人達が出てくるのは明白であり、ここは言われた通り、従わねばならないだろう。

 

「だから、俺に可能性を見せてみろ」

 

「え?」

 

だからこそ、その後に続いた監督の言葉に呆けた声を出してしまう。

 

「来年の4月、最終試験を行う。そこで、俺や部員達を納得させてみろ」

 

終わったことは、もう戻らない。

あの日の自分の決断を悔いたことなど一度もないし、この結果を予め知っていたとしても自分は同じ行動を取ったであろう。

だからこそ、現状を認め、前を向いていかなければならない。

 

「はい!」

 

「よし、話は以上だ。この後、着替えて校長室へ行け」

 

「はい、失礼しました」

 

決意の篭った蓮夜の返事を聞き、用は済んだとばかり背を向ける片岡監督。

 

「って校長室……なぜ?」

 

場の流れのまま、部屋を出た蓮夜の口から出た疑問は秋の風に流れて消えていった。

 

 

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