ダイヤのA 〜closer of Diamond〜   作:虹犬β

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また、回想と現在の描写がごっちゃになって読みにくいと思います。すいません……


第三話 飛翔

ーーーストライクッーーーバッターアウト!ーーーーー

 

「おいおい、倉持、亮介さんに続いて純さんまで三振かよ!スゲェな、蓮夜のやつ」

「チキショー!!良い球投げんじゃねーか!次は負けねーぞ、蓮夜!!!」

叫びながらバッターボックスから離れていく伊座敷に一礼した後、蓮夜は次の相手へと視線を移す。

ネクストバッターズサークルから鋭い視線と尋常じゃないオーラを纏いながらバッターボックスへと向かう4番 結城哲也。

好打者揃いの青道打線の中でも頭一つ分飛び抜けた存在を前に大きく息を吐き、気持ちを落ち着かせる。

「じゃ、行きますか」

以前のフォームとは異なり、大きく伸び伸びとした動きから突如加速される身体の動き。

全身の力を余すことなく加えられた球は唸りを上げインハイに構えられた御幸のミットに吸い込まれる。

ーーーーーーボール!ーーーーーーー

眼前を通る速球に驚くことなく、堂々と見逃す結城。

それを想定していたのかバッテリーもさしたる反応は示さず、2球目。

ーーーーーストライク!ーーーーー

アウトローに放たれるチェンジアップは体勢を崩しながらも迫ってくる結城のバットから逃げるようにスクリュー気味の軌道を描き御幸のミットに収まる。

3球目

ーーーーーーーキィインンンーーーーーーファールーーーーーー

再びインハイに放たれた速球を辛うじて当てるが打球は前に飛ぶことはなくバックネットに突き刺さる。

4球目、アウトローの変化球を要求する御幸に首を振る蓮夜。

徐々に集中力を増していく結城の様子にそれでは打ち取れないと感じたのだろう。

ならば……と出した二度目のサインに大きく頷く蓮夜。

結城に負けない……いや、それ以上の威圧感を発しながら投球フォームに入る蓮夜の脳裏には目前とは違う景色が映し出されていた……

◇◇◇◇(回想中)◇◇◇◇

「失礼します」

「お疲れ様です、蓮夜君。早速で悪いんですがこれを見ていただけますか」

何台ものビデオカメラが 備え付けられたブルペンで数十球の投球を行った後、隣のモニタールームに移動した蓮夜を待っていたのはシスター服に身を包んだ女性であった。

落ち着いた物腰に見る者を和ませる柔らかな笑みを浮かべる目の前の女性の名前は小早川美春。

俺が彼女に初めて出会ったのは彼女とは不釣り合いな青道高校の校長室、見たこともない品格を持つ美女に驚いている俺に彼女は感謝の言葉とある提案を投げかけてきたのだ。

 

ー私ども聖エトワール女学院に藤井さんが投手として復帰するためのお手伝いをさせてくださいー

 

あの事故で助けた女の子が日本一のお嬢様高校の生徒であり、その父母が自分の現状を知って援助を申し出たとまるでマンガやドラマのような現実が信じられず、頬を抓って笑われてしまったのがついさっきのことのように思い出される。

 

 

「……君……蓮夜君?大丈夫ですか」

 

「え、あ、はい。オッケーです、流してください」

 

気付けば、先程の投球の様子を取ったビデオの準備が出来たらしく、投球フォームに入った自分の姿が一時停止の状態で前面、横面の2画面で映し出されていた。

 

「何度か見させていただきましたが、フォーム自体にはなんの問題もないように思います」

 

身体の各部位が上手く連動して全身の力を指先からボールに伝えてるから球速が出ていると解説をする美春先生。

 

「そうですか」

 

自分のフォームが間違っていなかったことに安堵する蓮夜だったが、ならば……なぜと疑問を持ち、表情を曇らせる。

 

「蓮夜君、ピッチャーが物理的にボールに与えられるものには何があると思いますか?」

 

「えっと、角度、力……後はえーっと、回転っすか?」

 

そんな蓮夜に質問を投げかける美春先生は蓮夜の返答に満足そうに大きく頷く。

 

「ええ、そうですね。ボールの軌道を決定づけるリリースポイント、球速に大きく関係する指先に集約される力、そして、変化球はもちろんボールのノビやキレに大きく関係する回転数。それが投球の良し悪しに関係する3要素です。この中で蓮夜君に足りないものは……」

 

「回転数……ですか?」

 

「ええ、これを見てください」

 

促されたモニター上には先程と同じように投球を始める自分の姿が映し出される。

ボールが指先から離れた瞬間に画面が切り替わり、蓮夜からキャッチャーのミットに収まるまでのボールがスローモーションでズーム化される。

画面右上にはrpsとkm/hの単位の数値が記載されており、前者が回転数、後者が球速なのだろう。

留学生として、ここに来て1周間になるが大学やプロでもなかなか無いであろう最新のウェイトマシン設備の数々、スポーツを科学的に解析するための装置、効率的に運動後の疲労を取り除くための、サウナやリラクゼーション施設など、普通の高校生では体験できないであろう環境に驚かされてばかりだ。

 

「ここですね、リリース直後の球速は147km/h、バッターボックス付近を通過する際の球速は138km/h。回転数は27rps、つまり、一秒間にボールが27回転してるってことです。そして、軌道ですが……」

 

と言って、コンソールのキーを叩く美春先生。

すると、モニター上にバッテリー間のボールの軌跡が映し出された。

それは自分が思ってたよりもずっと……

 

「なんというか……山なりですね……」

 

上下に緩いカーブを描くその軌跡は自分の思い描いていたストレートとは程遠いものだった。

 

「そうですね。直線と放物線、始点と終点が同じであればどちらが辿る距離が長いと思いますか?」

 

「放物線……ですよね」

 

「ええ、そうです。その距離の差だけボールは空気の抵抗を受けて減速していくわけです」

 

だから……と言葉をつなげながらもう一度キーを叩く美春先生。

 

「理想はキャッチャーミットまで一直線に伸びるストレート、その為にはボールの回転数の多さと回転軸の傾きが重要になります」

 

通常、投手の手を離れたボールはキャッチャーのミットに辿り着くまでに重力によって徐々に下方向に落ちていくのだが回転軸の傾きが少なく、回転数が多い場合、マグヌス効果により、上向きの揚力が働きボールが下に落ちにくく直線の軌道を描くことが出来る。

 

「ですので、これから蓮夜君には回転数と回転軸を意識した練習をしていただきます。少し、失礼しますね、ええ、私です。美樹さん、例の物をお願いします」

 

図を交えて説明してくれた美春先生はコンソール横にある受話器を取り、誰かを呼び出す。

 

「失礼しまーす。あ、お疲れ様でーす、先輩!」

 

美春先生が呼び出してからそれほど待つこともなく、先程、自分が投球していたブルペンからドアを開け、入ってきたのは片手にバケツ、もう一方にカゴを持った少女だった。

肩にかかるぐらいのショートヘアは彼女の活発で明るい彼女の性格を表しており、満面の笑みを浮かべながら近付いてくるその様はご主人様を見つけて駆け寄る子犬を連想させる。

前宮美樹ー聖エトワール女学院の付属中に所属する生徒で、蓮夜がここに来た時から何かと世話を焼いてくれてる少女である。

 

「お疲れ、美樹ちゃん。それは?」

 

「じゃーん!先輩が復活するために必要なひしょーキットです!」

 

そう言って、蓮夜の前に出されたカゴにはボールの両端を切り取ったような物体、水が張られたバケツの中には大量のテニスボールが入っていた。

 

 

 

◇◇◇◇(回想終了 )◇◇◇◇

 

 

 

(side 御幸)

 

……よし!来い、蓮夜!……

 

1−2と投手有利なカウントで追い込んだ4球目の投球。

先程のコースよりもボール1つ分上のコース。

追い込まれたバッターであれば十分振ってくる可能性はあるし、例え見逃されても次の投球の布石になる……今の蓮夜の状態であれば安心してリードできる。

そう思っていた御幸の予想は大きく裏切られることになる。

 

……ヤバッ、甘い!……

 

リリースポイントから放たれたボールの軌道は要求したコースよりもずっと下、腰付近の打者から見れば絶好球。

日頃、味方として頼れるキャプテンが最大の敵となりバットを振りぬく……が……

 

「むッ……」

 

結城の驚きの声とほぼ同時に元の位置にミットを構え直す御幸。

 

ーーーーパンッーーーー

 

ーーストライクッーーバッターアウトッ!ーー

 

バットは大きくボールの下で空を切り、監督の声がグラウンドに響き渡る。

 

……〜ッ、なんて球投げるんだよ、こいつ……

 

要求通り、インコース高めのボール球がミットに収まるが御幸は内心冷や汗をかいていた。

 

……こいつ……コースだけじゃなく、軌道までコントロール出来るのかよ!?……

 

明らかに要求よりも低めに投げられたと思ったそのボールは唸りを上げ、浮かび上がりミットに収まる。

そういえば、普通の打者は山なりに下がっていくボールを普通のストレートとして錯覚していると聞いたことがある。だから、実際に直線的な軌道のボールを見た時はそれが浮き上がってきているように見えてしまう。

 

……確かに前の2球のストレートもその傾向はあったけど……

 

最後の1球。

それは次元が違った。

まるで地表スレスレを飛んでいた燕が急に大空に飛翔するかのようなそんな軌道。

 

……ったく、面白いことになってきたぜ……

 

「よし、蓮夜。後、一人しまっていこーぜ!」

 

先程のボールと同じように大きく飛翔し、帰ってきた相棒に御幸は楽しそうにミットを構えるのだった。

 

 

 

 

 

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