ダイヤのA 〜closer of Diamond〜   作:虹犬β

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今回は(も)そんなに進んでいません(汗)


第四話 おかえり

「ちきしょー、蓮夜のヤロー!!」

 

「あんまり調子乗らないように教育しないとね」

 

「…………」

 

「でも、あいつちゃんと帰ってきましたね、ヒャハハ」

 

「あぁ……」

 

照明により照らされたグラウンドの中を先程までシートバッティングで打席に立っていた5人が走っていた。

結城を三振に抑え、続く増子も三振に打ち取った蓮夜はようやく肩も温まってきたと更なるイニングの投球を要求してきたのだ。

当然、見事に抑えられた5人がそれを断るわけもなく、監督もそれを承認。

打者5人の6イニング計30打席中打てたヒットは1本のみ、四死球は0、奪三振は24という結果に終わったのだった。

蓮夜の完全復活には喜ばしいことであるが、打撃陣のあまりの不甲斐ない結果が監督の逆鱗に触れ、グラウンド30周を命じられたわけである。

 

「で、あのヤローがこっちに来るのは来週からだったっけ?」

 

「そうっすね。今週はB面で徹底的に守備練習をするみたいっす、多分、滅茶苦茶絞られるんじゃないっすか、ヒャハハ」

 

「来週からはこっちでバッティングピッチャーとシートバッティングを中心にやっていくんだよね。楽しみだね」

 

「あぁ……」

 

今度はぶっ飛ばしてやると物騒なことを言いながらも伊佐敷達の顔は明るく楽しそうであった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだった?打席であいつの球を受けてみて」

 

「いやぁ、正直、ここまでになって戻ってくるとは思っていませんでしたよ」

 

元々、球速はあったが、以前とは比べ物にならない程のノビとキレ、針を刺すようなコントロール、そして、何より……

 

「軌道まで自在に操れる投手か……」

 

「ええ、本人はライジングって言ってますけど、ほんとリードが大変ですよ」

 

そう笑いながら、御幸はクリスに向かってあるものを投げる。

それはふらふらと不安定な軌道を描きながらクリスの手に収まる。

 

「これは?」

 

クリスの手にあるそれは硬式球の両端を切り取った形容しがたい形をした物体であった。

 

「綺麗なボールの回転軸を身に付けるための道具らしいっす。クリス先輩、投げてみてください」

 

そう言って、両手を広げる御幸。

何度かその物体を握りなおして御幸に向かって投げるクリスだったが……

 

「む……」

 

「難しいでしょ。これ、しっかりとした回転じゃないとまともに飛ばないんすよ」

 

狙っていた所とは全く見当違いの方向へ飛んでしまい地面に落ちるそれを呆然と見つめるクリス。

 

「これをマウンドから普通の投球と変わらない様子で投げるんですよ、あいつ」

 

全く信じられねぇよと驚きを通り越して呆れた様子で話す御幸。

しかし、その表情はどこか嬉しそうであり……

 

「楽しみだな……」

 

「ええ、全く……」

 

青道が誇る2人のキャッチャーは誰もいなくなったマウンドを面白そうに眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「帰ってきましたね、藤井くん」

 

「ああ……」

 

「うちの上位打線相手に被安打1本、奪三振24の成績。これは完全復活、いえ、以前よりも凄いことになってますよ!これでうちの投手力不足も解消されるんじゃないですか!?」

 

スタッフルームの中、興奮気味の太田部長とそれほどではないにしても、普段に比べて、やや柔らかい雰囲気の片岡監督と高島副部長が向い合ってソファに座っていた。

 

「確かに……藤井は能力を示した。だが、不安要素もある」

 

「実戦経験……ですね」

 

「ああ。それに奴が部員たちと共に過ごすはずだった半年という時間、それがチームにどう影響を与えるか……」

 

実力は示した。

だが、野球は一人ではなくチームで行うものだ。

チームメンバー間での信頼や信用がなければそれはただの個の集団であり、そんなものでは激戦区である西東京地区を勝ち上がることは出来ないだろう。

そして、その信頼は共に過ごした時間に比例し、簡単には築くことが出来ないものだ。

しかし……

 

「大丈夫ですよ。彼なら……」

 

ソファから立ち上がり、トレードマークである眼鏡をクイッと片手で上げながら窓からグラウンドを見る。

そこには日も落ち、周りには誰もいなくなっているにも関わらず、黙々と走る蓮夜の姿があった。

 

ーすいません。自分もヒット打たれたんで、40周走ってきますー

 

シートバッティングの後、打撃陣が走りに行った後、彼は監督にそれだけ言って、結城達の後を追うように走っていったのだ。

確かに共に過ごしてきた時間は大切だが、真摯な姿勢、行動は人を惹きつける。

あの絶望的な状況からここまで立ち戻ってくるのは並大抵の努力では出来ないことだ、そして、その努力は今日までで終わりではなく、これからも彼がこの学校で上を目指す限り、ずっと続いていき、それは青道野球部に大きな影響を与えるだろう。

一人の投手の復活がチームに大きな変化を与える。

そんな未来を描きながら高島礼は月が浮かぶ空を見上げるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃ、唯ちゃん。後、任せてもいい?」

 

「はい。ここは任せて下さい。貴子先輩」

 

マネージャーの仕事は忙しい。

毎日の練習でのボールの運び出しやタイマーの呼び上げ、ドリンク作りに怪我の応急手当、練習が終わればグラウンド整備や道具の手入れ、部室の掃除など、他にも数え上げればキリがないほどの仕事がある。

マネージャーの代表的存在である貴子先輩は試合日程の確認や備品の管理などの事務的な仕事があり、同学年の幸子は新人マネージャーである春乃の指導を行っている。

で、残った私はグラウンド整備を終え、道具類ー主にボールの手入れをしているわけだ。

ボール一つ一つを確認し、汚れがあれば拭き取り、糸の解れや傷みがあれば取り除き、後で補修する。単純な作業ではあるが、部員数が100人を超える名門校であればその作業数は格段に増え、大変なものになる。

でも、私はこの作業を苦に思ったことなんて一度もない。

綺麗になったボールを嬉しそうに使ってくれるあいつの顔を見るのが好きだったから。

縫い目に付いた土をブラシで払い、乾いた布で白い面をスッと拭き取る。

我ながらなかなかの……

 

「へー、大分手際良くなってんじゃん」

 

「……」

 

自画自賛しかけたのとほぼ同時にかかる他人からの賞賛。

 

「ほい、こっちが済みだよな?」

 

そう言いながら、慣れた手つきでボールの仕分けをしていくあいつ。

私は黙ったまま彼から仕分けられたボールを受け取り、汚れを落としていく。

その連携は一長一短で出来るようなものではなく、熟練の業を思わせるものであった。

当たり前だ、だってこれは中学、いや、小学生の頃からやってるんだから。

 

「懐かしいな、唯」

 

「……」

 

「おーい、聞こえてるか〜」

 

「汗……」

 

「え……」

 

「汗、ちゃんと拭かないと風邪引くよ」

 

「お、おう。すまん」

 

走ったばかりなのだろう。

全身から流れる汗を拭うことなく真っ先に来てくれたことは嬉しいけど、やっぱり心配になる。

人の事にはよく気が付く癖に自分のことにはてんで無頓着な幼馴染。

そのせいで今までどれだけ自分が心配してきたか……

逞しくなって帰ってきたのにそんな所は変わってないことを実感して、唯は大きくため息をつく。

 

「はい、タオル。これ終わったらアガリだから、一緒に帰ろ」

 

「おう、サンキュ。じゃ、着替えてくるわ。あ、それと……」

 

「?」

 

渡したタオルを首にかけ、更衣室に向かう蓮夜だったが、ふと思い出したかのようにこちらを向き、

 

「ただいま、唯。これからもよろしくな」

 

といつもの不敵な笑顔を浮かべ、私も同じように

 

「おかえり、蓮夜。一緒に頑張ろうね!」

 

と笑みを返すのだった。

 

 




御幸達が触ってたボールの両端を切り取った物体はスピナーというものです。
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