ダイヤのA 〜closer of Diamond〜   作:虹犬β

6 / 12
早く試合まで進めたいです……


第五話 あいつは?

「ボール3つ!」

 

そう言って、3塁側に放たれたバントを落ち着いて処理して3塁へ送球する。

腰を落として補給し、低い腰の状態を維持したまま送球する基本に忠実な動き、左投手にとって3塁側の送球は体勢を入れ替える必要が無いため処理しやすいとはいえ、その動きは日頃から守備練習を怠っていないことを証明するには十分なものだった。

 

「ナイス!藤井!その調子!」

 

投手は球を手放した時から9人目の野手になる。

それは野球の基本的な考え方であり、蓮夜自身その考え方が好きであった。

投げて守って打つ、野球の基本的な動作の全てが出来るからこそ投手というポジションは面白くやり甲斐があるものだと思っている。

だからこそ、投球だけではなく、守備でも打撃でも蓮夜は誰よりも真剣に取り組む。ポジションが異なっても参考になるプレイがあればそれを真似自分の血肉にしていく。そんな貪欲さが今の蓮夜を形成しているのだ。そして、そんな蓮夜にとって青道野球部には打撃面では結城、守備面では小湊といったスペシャリストがおり、とても密度の濃い練習が出来ているのである。

 

「よし、蓮夜下がっていいぞ」

 

「ありがとーございました」

 

一礼してタオルを取りにベンチに向かう。

まだ季節は春とはいえ、全力で動けば汗もかくし、この間幼馴染に注意されたばかりなので体のケアはしっかりとしなければいけない。

 

「お疲れ様です、飲み物です、どうぞ!」

 

そんなことを思いながら歩いていると紙コップを持った女の子が近付いてくる。

彼女の名前は吉川 春乃。今年から青道高校に入学した新入生であり、青道野球部のマネージャーの一人である。

唯曰く不器用な子であり、水の入ったコップを持っているにもかかわらず走って近寄ってくる様子には不安しか感じない。

そして、案の定その不安は的中し、彼女は何もないところで躓き……

 

……危ない!……

 

思った時には駆け出しており、倒れかかる吉川を抱きとめる。

 

「大丈夫?」

 

「え、あ、はい!ご、ごめんなさい!」

 

「気をつけてな、怪我をしたら元も子も……」

 

ーバシャンー

 

胸の中の吉川に注意しようとしていたら、彼女が躓いた際に中に放り出されたコップの中身が時間差で俺の頭に振りかかる。

 

「わわわ、ごめんなさい!」

 

「いいよ、頭が濡れただけだし、どうせ、拭こうと思ってたからね、それより、さっきも言ったけど、怪我だけはしないようにね。吉川さんは慌て過ぎな感じがするから走るときとかはいつもの7割くらいでやればいいと思うよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

7割って言ったばかりなのに全速力でその場から立ち去る吉川。

やれやれと肩をすくめてベンチに向かうとニヤけた顔をした倉持が待っていた。

 

「ヒャハハハ、そんなずぶ濡れになって大変だな、ま、一年マネとイチャイチャできたんだから良かったじゃねーか」

 

「イチャイチャってお前……」

 

「安心しろ蓮夜、ちゃんと純さんと唯ちゃんには報告しといてやるから」

 

「マジでやめてくれ……」

 

楽しそうに意地の悪い顔をする倉持の相手をしながら蓮夜は大きく溜息を付くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「いち、にい、さん、しー」

 

「唯、そこ、もうちょい押して」

 

「おっけー」

 

練習後、部員たちが引き上げ、誰もいなくなったグラウンドで私は蓮夜のストレッチに付き合ってた。

 

「よし!こんな感じかな……ありがと。唯」

 

「ん、どういたしまして」

 

ー変わったなぁ、蓮夜ー

 

満足そうに頷く幼馴染を見ながら唯はそんなことを思っていた。

練習後、30分以上掛けて入念に行った先程のストレッチもそうだけど、今まで人任せだったドリンク類も自分で選ぶようになったし、最近ではセルフマッサージの勉強も行い、身体に気を使うようになっていた。

それは今までずっと隣で彼の無茶を見てきた身としては嬉しい事であるが、その分自分ができることが少なくなってきて寂しい事でもあった。

 

「来週からだっけ?投げるの」

 

「おう、そうだな。楽しみだなー。守備練習も楽しかったけど、やっぱ、投げるのはいいよな」

 

無邪気な少年のような表情で笑う蓮夜。

 

「あ、そういえば今週末の準々決勝はどうするの?」

 

「ん……何も言われてないし出ないんじゃねーの。丹波さんも復帰明けだし、そっちを試したいんじゃないかな……それよりさ……」

 

「ん」

 

「あれ、なに?」

 

幼馴染の指差す先にはグラウンドで一人走る1年生ー沢村栄純の姿があった。

どうやら、彼がこうなった経緯を知らないみたいで朝から晩まで練習に加わらず走っている彼を見てずっと不思議に思ってたようだった。

 

「あぁ、彼はね……」

 

だから、その経緯を説明してあげると蓮夜は一言……

 

「可哀想に……」

 

そう言って、更に言葉を続ける。

 

「増子先輩もあの馬鹿も付き合わせたんなら起こしてやればいいのに……まぁ、その後の行動は自業自得だろうけど……俺ならちゃんと起こしてやるね」

 

うんうんと頷きながら力説する蓮夜、だが……

 

「起こすってあんた、起きれないでしょ。毎朝、私が起こしに行かなかったらずっと寝てるくせに……」

 

私達は元々、青道高校の近所ということもあり、寮生活ではない。

また、お互い近所に住んでいるので毎日、登下校は一緒に行っているわけだが、蓮夜は昔から寝起きが悪く、もうずっと前から登校時に私が起こしにいくことが日課になっているのだ。

 

「そりゃあ、そうだけど。まぁ、自分が起きてたらっていう話でさ……つか、この話はおしまい!ま、監督も鬼じゃないし、来月には練習に参加させてもらえるだろ」

 

高島副部長がスカウトした奴だから一癖も二癖もあるやつなんだろうなーとボヤく蓮夜を見ながら唯は全くだと笑いながら応じるのであった。

そして、蓮夜の予想通り沢村は近い将来、入部後、初めての投球をするわけだがそれが蓮夜にとって大きな影響を与えることになることを今は誰も知らないのであった。




パワプロ風に主人公の能力値を書きます。

藤井蓮夜

球速(MAX)156km コントロールB スタミナB

変化球:サークルチェンジ 2
    ドロップカーブ 7
    スローカット 2
    ツーシーム  2
    スロースライダー 2

パワーB 走B 守B 肩A エラー回避A 弾道3

うん。化け物ですね……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。