ダイヤのA 〜closer of Diamond〜   作:虹犬β

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第六話 一球勝負

「1年と2・3年で試合?」

 

「うん、朝のミーティングでそう言ってたよ。それよりさ、検査どうだったの?」

 

「あぁ、特に問題なし。来月、また検査して大丈夫だったらもう病院行かなくてもいいんだってさ」

 

「そうなんだ。よかった」

 

心底、安心した幼馴染の様子にこっちまで照れてしまう。

 

「ま、それはいいんだ。で、明日の試合って俺、出れるんかな?」

 

「さあ?2・3年チームの先発は丹波先輩らしいから蓮夜の出番はないんじゃない?」

 

「それがあるんだな。お前、レフトで出場だってさ。精々、頑張れよ」

 

「一也!?つか、レフト?」

 

なんだ出れねぇのか……と落胆しかけた時、横から入った声によって俺は二重の意味で驚きの声を挙げてしまう。

 

「あぁ、丹波さんの他にも川上が出るからお前がピッチャーとして登板できるかはわかんねーけどな」

 

「そっか……そっか……久しぶりの試合……楽しみだなー」

 

「駄目だ。聞こえてねーなこいつ」

 

「みたいだね」

 

嬉しそうに自分の世界に入る蓮夜を呆れた様子で見る御幸と穏やかな表情で見つめる唯。

それぞれの表情は違えども二人は密かに明日の蓮夜の活躍を期待していた。

 

 

 

 

 

 

「なんだかなぁ……」

 

一回が終了し、スコアは12−0。

勿論、12点取っているのは2・3年チームであり、俺も2打数2安打3打点でこの点数差に貢献しているのだが……

 

ーマジかよ……あの東條が……ー

 

ーどうすりゃいいんだよ……ー

 

序盤で既に諦めムードに入っている一年チーム。

それを見て、蓮夜はため息をつく。

技術や体力差があるのは当たり前、今の一年生たちと同じように青道野球部の部員はそれぞれがシニアや中学である程度の成績を残し、夢を持ってこの学校に入り、周りと競い高め合ってきた者達なのだ。

そんな実力差がある勝負の中でも蓮夜が一年生達に持っていて欲しかったもの、それは勝利への執着心。

せめて一点でもチームで取り返してやるそんな気持ちが1年生全体になければ今日の気合いの乗った2・3年チームと闘うことなんて到底出来ないだろう。

 

「まぁ……仕方ないか……ん?」

 

ーまだまだ試合は始まったばかりだぞ!!ー

 

そんな1年チームの雰囲気の中、一人だけ諦めず声を出す少年がいた。

その少年こそ、先日、蓮夜が気にしていた沢村栄純だった。

沢村は2・3年生のプレーやこの点数差を見ても逆転という言葉を口にして逆に燃え上がっていた。

 

「へぇ……面白いじゃん。でも……」

 

野球は9人で行うスポーツ。

一人だけやる気でも意味は無い、その熱をどうやって周りに伝播させていくか。

 

「さて……どうなることやら……」

 

ーーうおお6連続三振!!ーー

 

考え事をしているうちに2回の表も終わり、長くなるであろう攻撃に移る。

 

ーよーし一年!投手と外野全部入れかえるぞ!ー

 

ベンチに戻る際に告げられる一年チームの投手と外野の守備変更。

その中に沢村の名前が入っているのを聞き、どんなプレーをするのか楽しみにしていた蓮夜であったが……

 

「はははは、ライトから3塁への送球でランナーに当てるって……やべぇ、腹痛てぇ……」

 

ライトフライの捕球でバンザイした挙句、送球でボールを曲げ、ランナーに見事に当てるスーパープレイ。ホームに帰り、その一部始終を見ていた蓮夜と少し離れた場所で試合を見ていた御幸は腹を抱えて爆笑していた。

そして、2・3年の攻撃が続き、2回の裏、21−0。

4打席目のバッターボックスに蓮夜が入ったその時……

 

「ピッチャー交代!降谷暁マウンドに上がれ!」

 

満身創痍なピッチャーの様子を見て、監督がピッチャーの交代を宣言する。

すると一年ベンチからムクリと起き上がり、マウンドに向かう少年。

 

……あぁ、そういえば昨日、誰にも打たせないとか言ってた一年だっけ?

 

蓮夜は通い組なのでその場にはいなかったが、昨日の皆がいる食道で夕食時に御幸に誰にも打たせる気はないとか言ってた奴がいると当の御幸から聞いていた。まぁ、そんなこと今になるまで忘れてたんだが……

 

……つか、肩作らんで大丈夫なのかあいつ。昨日の宣言やあの態度といい大物だな

 

降谷がどんな投手なのかはわからないが、バッテリー間のサインの確認が無いところを見るとストレート一本の選手なのだろう。それでいて、この打撃力を見て平然とマウンドにあがるところを見ると、とんでもない豪速球を持つ投手か、制球力があるか、あるいは……どちらにしろ只者ではないのは確かだろう。

 

右打席に入り、バットを水平近くまで寝かせ、全身を弛緩した体勢を取る蓮夜。

所謂、蓮主打法である。

瞬間的に大きな力を出すことが出来る瞬発力に優れた蓮夜だからこそできる打法であった。

静かに対峙する降谷と蓮夜。

点差、いや、試合自体にも興味無さそうな様子で、ある意味落ち着き、ゆったりとしたフォームから放たれるボールは低い位置から浮き上がるように胸元に迫り……

 

ーカキーンー

 

豪快な音を立て、左中間フェンスを超えていた。

監督のホームランの宣言後、落ち着いた様子でダイヤを周る蓮夜。

 

ーすげぇ、浮かび上がったぞ、さっきの球!ー

 

ーそれよりも藤井だよ、なんであいつ初っ端で打てるんだよ!?ー

 

たった1球の勝負だったがその反響は大きく、周りは口々に騒ぎ出す。

 

「藤井、それと降谷は交代だ。明日から一軍の練習に参加しろ」

 

「「……はい」」

 

ホームに帰った蓮夜とマウンドで立ち尽くす降谷に告げられる交代と一軍昇格。

一軍に上がれたことは嬉しいが、もっと試合に参加したい二人は無言の抵抗を試みるが監督の様子から交渉の余地はないと瞬時に判断して渋々返事をする。

こうして、当事者間での話は解決したが……

 

「ちょっと待って下さい!」

 

当然、起きる外部からの不満。

 

「藤井はわかります。でも、コイツは藤井に打たれたんですよ!なんで……」

 

「なら、お前は打てるのか?」

 

「…………」

 

「それが答えだ。丹波、お前も交代だ。夏までにきっちりと仕上げてもらうぞ!」

 

「はい!」

 

言葉に詰まる3年に話は終わりだと態度で示し、2・3年チームの先発である丹波に交代と一軍復帰を告げ、試合を再開させる監督。

蓮夜はなんとなく雰囲気の悪くなったベンチに居づらく、監督に許可をもらい御幸の元に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー、お疲れ。見事なホームランだったな」

 

座ったまま、ねぎらいの言葉を掛けてくる御幸。

 

「あんがとさん、出来れば最後まで試合に出たかったんだけどな……」

 

「で、どうだったよ?怪物ルーキーの球は」

 

「あぁ、凄かったよ、まぁ、これからに期待ってとこだな」

 

「でも、よく打てたな。あれを初見で打つとかますます怪物じみてきたな」

 

「いや、まぁ、向こうで似たような球で打撃練習してたからな」

 

「へぇ……女子校にそんな豪腕ピッチャーいるのかよ、それともマシーンか?」

 

「いや、ソフトボールなんだけどな」

 

「あぁ……なるほどね。で、これからどうなるんだろうな」

 

ソフトボールは野球に比べて投手と打者の距離が2/3と小さく、下手投げの特性上浮き上がる軌道になるため、120km/hの球でも体感速度は160km/h以上になると言われる。

御幸もそれを知っていたのだろう、あっさりと納得し、再開された試合に目を向ける。

 

「さぁな。でも、あいつが何かやりそうな気がするんだよな」

 

「はは、違いねぇ」

 

興味深そうに試合を見る二人の目線の先にはバッターボックスに向かう沢村の姿があった。

 

 

 

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