ようこそ推理至上主義の教室へ   作:吐き気

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近づく夏の気配

中間試験が終わってからの数週間、彰の高校生活は少しずつ「日常」になっていった。

 

Dクラスでは、清隆と話す頻度が一番多い。席が前後というのもあるが、互いに無理に踏み込まない距離感が合っていた。池や山内と須藤はいつも通り遊び、平田とは勉強やクラスのことを話す機会が増えた。櫛田とも会えばよく話す。ただし、彰は櫛田のことを特に警戒してた。堀北へ向けていたあの目を、清隆にもするようになったのだ。

 

(裏があるのはなんとなく分かった、しかもだいぶ深そう)

 

とはいえ、それ以上に分かることは何もないので表面上はただの友達として仲良くしていた。

 

また、須藤とは最初こそ遊ぶたびに口論が多かったが、彰がバスケそのものを馬鹿にしないこと、むしろそこまで好きなら失うなよと言う側だったことで、どんどん仲が良くなっていった。

 

「来栖、お前今日暇か?」

「なんで?」

「体育館行く」

「俺バスケ下手だぞ」

「でも基礎は教えたらできるようになってただろ、下手くそなりに」

「殴るぞ」

 

そんなやり取りも増えた。

 

一方、他クラスとの接点も続いていた。

Bクラスでは一之瀬と顔を合わせれば話す。神崎とも挨拶以上の会話をするようになった。Cクラスでは龍園に見つかると、時々面倒そうに絡まれる。

 

「よう、探偵」

「誰が探偵だよ」

「親父がそうなんだろ?」

「俺は違う」

「なら探偵のガキだな」

「より悪くなってんじゃねえか」

 

石崎とは会うたび声の大きさバトルをし、伊吹とは顔見知りになり、会うたびに軽く言い合う。アルベルトとはたまに英単語チェックをしている。

 

そして図書室では、椎名と会うことが増えた。

 

最初は坂柳とのチェス中に顔を合わせる程度だったが、坂柳からのおすすめを探してたあの日以来、彰が一人で本棚の前にいると、椎名が声をかけてくるようになった。

 

「来栖くん、以前の小説は楽しめましたか?」

「うん楽しめた!椎名が探してくれたおかげ」

「お役に立てたなら何よりです」

「さすが椎名だね」

 

彰は笑う。

 

「てかてか、こういうのは好き?」

 

彰が手に持っているのは、絵本をモチーフにしたミステリー小説だった。

椎名の表情が少し明るくなる。

 

「最近有名になってきてる作家さんですよね」

「うん、坂柳から勧められた」

 

そこから、椎名とは本の話をするようになった。彰にとっては珍しく、静かな時間を共有できる相手だった。

 

坂柳とは相変わらず、数日に一度チェス。勝敗はほぼ五分。彰が勝つ日もあれば、坂柳が勝つ日もある。ただ、対局が増えるほど二人の会話も増えた。

 

学校制度

 

他クラス

 

クラスメイト

 

どうでもいい雑談

 

彰は坂柳をかなり好みだと思っているが、まだそれ以上を急いではいない。坂柳もまた、彰を「面白いDクラスの男子」「退屈しないチェス相手」以上に特別扱いしてはいない。それでいい。

 

その頃、学校生活では次の問題が起き始めていた。

須藤の暴力事件、Cクラスの生徒との衝突。彰がその話を聞いた時、最初にしたのは須藤を責めることではなかった。

 

「何があった?」

「俺は悪くねえ」

「それは後でいい。最初から順番に」

 

須藤の話を聞く、彰は途中で何度も止める。

 

「その時、誰いた?」

「相手何人?」

「先に触ったのどっち?」

「相手は何て言った?」

 

感情より事実を拾う、須藤が苛立つ。

 

「お前俺を疑ってんのか?」

「疑ってる」

 

即答。

 

須藤が睨むが、彰は続ける。

 

「お前だけじゃなくて相手も。誰か一人の話だけで決める気ねえよ」

 

その言い方に、須藤は少し黙った。この件では、彰、清隆、堀北らが動き、証言や監視カメラ、学校側への対応が問題になる。

 

ただし、基本は清隆と堀北の提案がメインだった。推理ができても証明できないことはある、それを彰はよく知っている。

 

「多分こうだろうな、は言える。でも学校に出すなら“多分”じゃ足りない」

 

清隆が横で聞いている。

 

「来栖らしいな」

「親父に死ぬほど言われた。推理と証明は別だって」

 

結果として、須藤は完全な退学を免れる。この一件を通して、彰と須藤の距離は少し縮まった。須藤からすれば、最初から無条件に味方をしたわけではない。でも、疑いながらも最後まで調べた。それがかえって信用できた。

 

そして、六月。

学校は次の特別試験へ向かい始める。彰は茶柱から説明を受けながら、机の上で指を組む。

 

無人島

 

クラス単位

 

物資

 

ポイント

 

リーダー

 

生活

 

他クラスとの駆け引き

 

説明を聞けば聞くほど、彰の目が少しずつ変わる。

 

(……これ、面白いやつだ)

 

後ろの清隆が、その僅かな変化を見る。彰は振り返らず、小声で言った。

 

「清隆」

「なんだ?」

「今回、多分楽しいぞ」

「そうか?」

「絶対めんどくさいけど」

 

彰は少し笑う。そして頭の片隅に、当然のように一人の少女が浮かぶ。

 

Aクラス

 

坂柳有栖

 

(…坂柳今回どう動くんだろ)

 

ただし彰はまだ知らない。この無人島試験で、坂柳自身は体調上の理由から参加せず、Aクラスは葛城を中心に動くことになる。

 

そしてこの試験が、Dクラスにとって初めて大きくクラス順位を押し上げる転機になることも。

 

夏が近づいていた。

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