ようこそ推理至上主義の教室へ   作:吐き気

32 / 32
夏休み〜プール〜

夏休み最終日。彰が寮のロビーへ下りると、すでに何人かが集まっていた。堀北、櫛田、佐倉、池、山内、それから清隆。須藤だけまだ来ていない。

 

「おはよー!夏休み最後にプールって、ちゃんと高校生してるな俺ら」

「あなたは朝から元気ね」

 

堀北が淡々と返す。

 

「すずねんも今日は泳ぐんでしょ?」

「その呼び方をやめなさい」

「プールの日くらい許されない?」

「何の関係があるのよ」

 

彰は笑いながら清隆の横へ行く。

 

「清隆、今日くらいテンション上げようぜ」

「十分上がってる」

「どこが?」

「内面で」

 

彰は清隆の無表情を数秒見た。

 

「確認不能じゃん」

 

その横では池と山内が妙に落ち着かない。エレベーターが開くたびに女子側を気にしている。

 

「お前ら」

「な、なんだよ」

「今日なんか気持ち悪いな」

「朝一番でそれ言う!?」

 

山内まで口を挟む。

 

「来栖、お前分かってねえな。今日は特別な日なんだよ」

「その言い方でろくなことだった試しないんだけど」

 

そんなやり取りの最中、エレベーターから一之瀬たちBクラスの女子が下りてくる。

 

「あれ?堀北さんたちもプール?」

 

彰が手を上げる。

 

「一之瀬、おはよー」

「おはよう、来栖くん」

 

向こうも目的は同じだった。一之瀬が自然にじゃあ一緒に行こうよと提案し、池が誰より早く賛成する。

 

「人数多い方が絶対楽しいって!」

 

彰が横目で見る。

 

「お前今、女子増えたことしか考えてないだろ」

「考えてねえ!」

「声裏返ってるよ」

 

やがて寝坊していた須藤も合流し、一行はプールへ向かった。

 

───

 

施設は夏休み最終日ということもあり、かなり混雑していた。更衣室へ入ると、池、山内、須藤が妙に奥へ集まっていく。

 

彰はすぐ気づく。

 

「……何してんの?」

 

池が振り返る。

 

「来栖」

「何」

「お前、男だよな?」

「その確認から始まる話、だいたい入りたくないんだけど」

「いいから来い!」

 

渋々近づくと、数十秒後には計画の中身を聞かされる。

女子更衣室を秘密裏に撮影する。彰は真顔になった。

 

「……馬鹿なの?」

「お前も興味あるだろ!」

「いやいや、興味あるとかそういう話超えてるだろ。バレたら終わるぞ」

 

山内が言う。

 

「バレなきゃいいんだよ!」

「犯罪者のテンプレ台詞じゃん」

 

須藤は完全に乗り気というより、流されているようにも見える。

彰は須藤を見る。

 

「須藤までやんの?」

「…うるせえ」

「堀北に知られたら?」

 

須藤の顔が一瞬固まった。

 

「それは絶対言うな」

「弱点分かりやすっ」

 

彰は笑ったが、参加する気はない。

 

「俺パス」

「裏切り者!」

「女子の水着見たいのと、更衣室撮るのは全然別だから」

「まともぶりやがって!」

「まともなんだよ、捕まるからやめとけ」

 

彰は清隆を見る。

 

「清隆は?」

「好きにすればいいんじゃないか」

「止めないの?」

「今ここで止めても、こいつらはやるだろ」

 

彰は三人を見る、確かに止まる顔ではない。

 

「…まあ、それはそうか」

 

清隆が裏で別の手を打つことなど彰は知らない。

 

───

 

着替えを終えてプールへ出る。

 

「うわ、広っ」

 

彰は素直にテンションが上がる。

 

少し離れた場所では、上級生たちが水中バレーをしていた。その中心にいる一人がやたら目立つ。

 

「誰あれ」

 

堀北が答える。

 

「南雲雅。二年生で、生徒会副会長よ」

「二年でその立ち位置?」

 

彰は少し感心する。

周りへの影響力もある。運動もできる。

 

「モテそう」

「見れば分かるでしょう」

「俺も二、三年になったらあんな感じかも」

 

堀北が即答する。

 

「可能性は0に近いわね」

「何でそこまで言うの」

「事実を言っただけよ」

 

清隆は黙って二人を見ている。

しばらくして、神崎や柴田たちBクラスの男子も合流する。

 

一之瀬が言った。

 

「せっかくだし、クラス対抗で水中バレーやらない?」

 

池が即答する。

 

「やる!」

 

彰も乗る。

 

「俺も!」

 

佐倉は運動が苦手だからと見学へ回る。チームを決める途中、彰は神崎へ聞いた。

 

「神崎って運動できる?」

「普通だと思う」

「その普通信用していい?」

「なぜ疑う」

「この学校、普通って言う奴ほど普通じゃないこと多いから」

 

神崎が少しだけ黙る。

 

「それは誰のことだ」

「ノーコメント」

 

試合開始。

そして早々に、須藤が全部持っていく。高く跳び、強烈に打つ。

 

「強っ!」

 

須藤が得意げに笑う。

 

「当たり前だろ!」

 

彰もボールを追う。

中学は野球部だったから球技そのものには慣れている。ただ、水中バレーは初めて。

 

「任せろ!」

 

腕に当てる、が思ったより身体が動かない。ボールが変な方向へ飛ぶ。

 

「……あれ?」

 

池が叫ぶ。

 

「今回はホームランいらねえぞー!」

「水邪魔!」

「今さら!?」

 

二回目。

彰は少し力を抜く。水中で無理に踏ん張らず、先に位置を取る。今度は綺麗に返る。

須藤が見る。

 

「お前、さっきと違くね?」

「一回ミスったから」

「それだけで?」

「多分」

 

確かに修正したことで多少はマシになった。ただ身体能力そのものでは須藤に全然及ばない。だから自分で決めるより、須藤を使う。

 

「須藤!そっち!」

「任せろ!」

 

須藤が決める、彰は両手を上げる。

 

「ナイスゴリラ!」

「誰がゴリラだ!」

 

Dクラス側が優勢に進み、そのまま二セット連取で勝利する。一之瀬がプールから上がりながら笑う。

 

「完敗だね」

 

堀北も素直に須藤を評価する。

 

「須藤くんのおかげね」

 

須藤の顔が明らかに明るくなる、彰が横から小声で言う。

 

「今日一番嬉しいでしょ」

「うるせえ」

「否定しないんだ」

 

その後、一之瀬が約束通り昼食代を負担することになる。池や山内が遠慮なく選び始める中、彰も一度は大量に取ろうとする。

堀北が見る。

 

「あなたまで同じことをするの?」

「……人のお金だった」

「そうよ」

 

彰は少し考えて、普通の量に戻す。

一之瀬が笑う。

 

「別に気にしなくていいのに」

「いや、池たち見たら罪悪感出てきた」

「俺らを基準にすんなよ!」

 

昼食中は普通に雑談が続く。櫛田と一之瀬は自然に会話し、神崎は少し離れたところで静かにしている。

彰は神崎を見る。

 

「神崎、人多いの苦手?」

 

神崎が少し意外そうにする。

 

「なぜそう思った?」

「一ノ瀬たちと一緒にはいるけど、ずっと半歩後ろだから」

「…よく見てるな」

「親父が探偵だから癖」

 

神崎は少し考えたあと。

 

「得意ではない」

「俺と逆だな」

「来栖は人が多い方が楽しそうだ」

「その通り」

 

彰は笑う。

 

「じゃあ神崎、疲れたら俺の後ろいれば?」

「遠慮しておく」

「即答!?」

 

一之瀬がそのやり取りを聞いて笑っていた。

 

───

 

午後。

流れるプールで遊び、泳ぎでも軽く競う。彰は須藤へ勝負を挑んだ。

 

「一回やろうぜ」

「勝てるわけねえだろ」

「やってみないと分かんない」

 

結果…普通に負ける。

 

「速っ!」

「当たり前だろ!」

「もう一回」

「何回やっても同じだ」

 

二回目、また負ける。ただし、少しだけ差が縮まる。

須藤が眉を寄せる。

 

「……お前フォーム変えた?」

「うん、須藤の見た」

「見ただけで変えんのか?」

「でも負けた」

 

彰は悔しそうに笑う。その後、少し休憩して一人で飲み物を買いに行った時だった。少し離れた場所に見覚えのある白銀の髪が見えた。

 

「あ」

 

坂柳有栖。

彰は少しだけ迷ったあと、そのまま近づく。

 

「坂柳」

 

坂柳が振り返る。

 

「来栖くん」

「来てたんだ」

「ええ、見学ですが」

「まあそうだよね」

 

彰はそれ以上そこへ触れない、代わりに少し笑う。

 

「俺、さっき水中バレーやってた」

「拝見しましたよ」

 

彰が止まる。

 

「見てた?」

「ええ」

「どこから?」

「それは秘密です」

「恥ず」

 

坂柳がふふっと笑う。

 

「随分楽しそうでしたね」

「楽しかったよ!須藤強すぎた」

「来栖くんも、最初より後半の方が随分動きが良くなっていました」

 

彰が少しだけ目を丸くする。

 

「そこまで見てた?」

「見れば分かります」

「怖」

「褒め言葉でしょうか」

「半分」

 

彰が聞く。

 

「坂柳は退屈じゃない?」

「退屈はしていませんよ」

「ならよかった」

 

彰はそのまま軽く手を振る。

 

「じゃ、戻るわ」

「ええ」

「今度またチェスしよ」

「この間も指したばかりでは?」

「またやりたい」

 

坂柳が少しだけ目を細める。

 

「では、また」

 

彰は笑う。

 

「次勝つから」

「楽しみにしています」

 

それだけ、長くは話さない。彰もまたプール側へ戻っていく。

 

───

 

閉館時間が近づく。

一之瀬が混む前に帰ろうと提案し、全員がそれに同意する。彰も更衣室へ向かおうとして、清隆が少し残る様子に気づいた。

 

「清隆、行かないの?」

「少し用事がある」

「ふーん」

 

彰は一瞬だけ見る、でも追及はしない。

 

「じゃ先行くわ」

「ああ」

 

彰が知らないところで、清隆は軽井沢と合流する。池たちの盗撮計画は、清隆の指示で軽井沢が阻止している。記録媒体も回収される。その全容を、この時の彰は知らない。

 

帰り道、彰たちはコンビニへ寄る。

アイスを買う。彰はソーダ系、清隆はソフトクリーム。外へ出て、清隆が食べる。

彰は少しだけ見て、

 

「清隆」

「なんだ」

「今ちょっと美味そうに食ったね」

「普通だ」

「いつもより一ミリくらい幸せそうだった」

「気のせいだ」

 

一之瀬が笑う。

 

「綾小路くん、アイス好きなんだね」

 

清隆が少しだけ間を置く。

 

「そうかもしれないな」

 

彰が清隆のアイスを見る。

 

「一口ちょうだい」

「自分のがあるだろ」

「ケチ!」

 

堀北が呆れたように言う。

 

「人のアイスを欲しがらないの」

「すずねんお母さんみたい」

「二度と言わないで」

「はい」

 

夏休み最後の日。特別試験もない、退学もない、クラスの命運も懸かっていない。

須藤に運動で負けて、Bクラスと遊んで、神崎に軽くあしらわれて。…坂柳とは少しだけ話して。清隆がアイスを食べているだけで妙に面白くて、彰にとっては、それで十分だった。

 

「いやー、夏休み終わるの嫌だな」

 

一之瀬が笑う。

 

「二学期も楽しいことあるよ」

「体育祭とか?」

 

堀北が僅かに彰を見る。

 

「遊びではないでしょうね」

「…だよねー」

 

彰は嫌そうな顔をする。

 

「またなんかあるかな?」

 

清隆が淡々と言う。

 

「この学校だからな」

 

彰は少しだけ黙る。

 

「……急に二学期行きたくなくなった」

 

全員の笑い声が少し重なる。こうして、高校生活最初の夏休みは終わった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

縁壱スペックさんが宝泉クラスに入学してしまいました(作者:あむっぱ)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

ありゃりゃ、死んだな宝泉。


総合評価:391/評価:9/連載:1話/更新日時:2026年10月13日(火) 19:15 小説情報

ようこそめんどくさがりが行く教室へ(作者:黄金の一匹)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

神の手違いによって転生させられためんどくさがりのオリ主。これからどのような学生生活を送っていくのか。


総合評価:353/評価:5.91/連載:15話/更新日時:2026年10月13日(火) 22:22 小説情報

ようこそクソボケ至上主義の教室へ(作者:ダマラスカイ31世)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

出会う女子の脳みそカリカリに焼いた挙句、逃げ出すクソボケの話。▼主人公のスペックは化け物。天与呪縛として魂が童貞。


総合評価:1000/評価:8.79/連載:3話/更新日時:2026年10月16日(金) 13:22 小説情報

松下千秋の余裕(作者:中森藤之)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

松下千秋には仲の良い男友達がいる。▼彼女が欲しいと言われても「ふーん」としか思わないし、本当に作ったとしても全然オッケー。よくある独占欲とかそういうのはあんまりない。縁が切れたら、それはそれでお互いに新たなスタートになるし、切れなければそれでもよし。▼最終的にどんな形であれ、お互いに幸福ならそれでいいのだ。と、考えるようにしている。


総合評価:2261/評価:8.38/連載:17話/更新日時:2026年08月29日(土) 02:09 小説情報

抜け出せない沼を持つ男と実力主義の教室。雛鳥は何を見るか。(作者:末路雛鳥)(原作:ようこそ実力至上主義の教室へ)

信頼できる少女である雪ノ下と由比ヶ浜の二人と奉仕部で二年間過ごした比企谷八幡。そんな彼も中学三年生。二人の少女と一緒に総武高校に入学しようとした。だが入学した高校は高度育成高等学校。日本政府が生み出した未来を担う若者を育成する学校。推薦がきていたのでせっかくならと受験し見事に受かり入学した。そこで、一人の女子に出会う。 ▼ヤンデレ、開始しました。▼【挿絵表示…


総合評価:2891/評価:8.56/連載:21話/更新日時:2026年11月01日(日) 21:32 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>