彰たちは校舎を出ると、そのまま案内に従って学生寮へ向かった。敷地内だけで生活が完結するという話は聞いていたが、実際に歩いてみると規模感がおかしい。
「高校っていうか、街だろこれ」
コンビニ、飲食店、娯楽施設。普通なら学校帰りに寄るようなものが、全部敷地の中にある。その中のコンビニの前を通った時清隆の足が止まった。
「……」
「コンビニか、入る?」
「興味がある」
「コンビニに?大して外のと変わらないと思うぞ。…行ったことないのか?」
「普通はあるのか?」
「いやまあ」
「そうなのか」
コンビニに行ったことがない、「親がめっちゃ厳しいとか?」そう聞く勇気も出ず何も言えなかった。
(嫌な思い出かもしれないしな)
そう思ったところで清隆に声をかける。
「行ってくれば?俺は一旦寮行きたいからまた今度行くよ」
「そうか、またな来栖」
「またね」
清隆と別れてから少し歩くと寮が見えてきた、カードキーで自室へ入る。
「おー……」
思っていたより綺麗だった。ベッド、机、キッチン、収納。必要なものは一通り揃っている。それどころか、一人暮らしとしてはかなり恵まれている。彰は鞄を床に置き、まず部屋の中を一周した。特に不審なものを探しているわけではない。ただ、初めての場所に入ると自然に全体を見る癖がある。
「……まあ、普通か」
ベッドに腰を下ろす。しばらくして、そのまま後ろへ倒れ込んだ。天井を見ながら今日のことを思い返す。
Dクラス
10万ポイント
妙に含みのある茶柱
上級生の会話
他クラスの生徒
ーーそして清隆
「濃いな」
初日だけで十分すぎるくらい情報がある。彰はスマホ型端末を手に取る、ポイント残高は確かに10万。使おうと思えば、すぐ使える。だが彰は画面を閉じた。
「明日からでいいか」
勉強のことは考えたくない、学校制度のことは少し気になる。クラスメイトについても、何人かは面白そうだった。ただ――最も頭に残っているのは、やはりAクラスで見た少女だった。
白い髪で杖を持った、小柄な女子。周囲が妙に距離を測っていた。彰は枕に顔を向ける。
「……めちゃくちゃタイプだったな」
一人だから、普通に口に出た。少しして、自分で笑う。
「何考えてんだ俺」
名前すら知らない、性格も知らない。ただ見た目と雰囲気が刺さっただけだ。それ以上でもない。彰は起き上がり、冷蔵庫を開ける。当然ほぼ空だ。
「飯どうすっかな」
結局、最低限の食べ物と生活用品だけ買いに出ることにした。ポイントは使う、ただし必要な分だけ。初日から散財するほど、彰はこの学校を信用していなかった。
寮を出て少し歩くとコンビニに着く。
(清隆は…もういねえか)
目的のものたちをカゴに入れレジに向かう、そこでふと目に入った。
「無料…?」
そこには日用品などが無料と書かれたワゴンに詰められていた。
(ひと月10万あってこんなのいらねえだろ)
やはり、この学校で支給されるポイントは減ることがある。一つ考えていた仮説がより強固なものになった。
(じゃあ何を原因に減るのか、増えることはあるのか…減る一方だと0になったらきつすぎるし、増える機会もあるんだろうな)
一番分かりやすいのは成績、遅刻欠席などもありえる。そもそも個人評価かクラス単位、はたまた学年単位なのか。
(情報が足りなすぎるな)
分からないものは分からないし、仮説は仮説だ。深く考えすぎずレジへ向かい買いものを済ませた。
そして夜。ベッドへ入る頃には、明日への期待よりも一つの疑問の方が強く残っていた。
(この学校、何を見てんだろうな)
生徒に金を与える、自由を与える、その反応を見る。そして先ほどの仮説。そう考えると、妙に筋が通る。
彰は目を閉じた、まだ答えを出すには早い。だから今は、見る。
それで十分だった。