ようこそ推理至上主義の教室へ   作:吐き気

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戦争と、勉強が嫌いです

翌朝。

彰は少し眠そうな顔で寮を出た。学校までの道には、昨日見た顔がちらほらいる。まだ入学二日目。誰も完全には馴染んでいないが、早くも同じクラス同士で固まり始めている生徒もいた。

彰はポニーテールを軽く結び直しながら歩く。

 

(朝から授業ってだけでテンション下がるな)

 

校舎へ入り、1年Dクラスへ向かう。教室に入ると、既に何人か来ていた。

平田は近くの生徒と話している、櫛田は男女数人に囲まれていて、昨日と変わらず明るい。高円寺は自分の世界。

 

そして彰の席の一つ後ろとその隣には、清隆と堀北がいた。ちょっとだけ勇気を出してみる。

 

「おはよ、清隆とすずねん」

「すずねん?もしかして私のこと?」

 

冷たい視線が突き刺さる。

 

「いや、何でもないです堀北さん」

 

彰は自分の席へ鞄を置く。

 

「おはよう、来栖」

「早いな」

「そうでもないだろ」

「俺基準だと早い」

「それは来栖が遅いだけじゃないか」

「二日目から正論ぶつけんなよ」

 

彰は笑いながら椅子に座った。昨日より、会話は少し自然だ。ただ彰は、清隆へ何でも話そうとは思っていない。

友達になった、それと信用することとは別。清隆もまた、彰に自分の内面を明かしているわけではない。妙なところで、その距離感は噛み合っていた。

 

少しして、彰は後ろを振り向き口を開く。

 

「初コンビニはどうだったよ」

「どうってなんだ」

「ポイント使った?」

「少しだけ」

「俺も必要なものだけ」

 

清隆は少し間を置く。

 

「やっぱり警戒してるのか」

「警戒ってほど大層じゃねえよ。まだ条件分かんねえ金を全部使うの気持ち悪いだけ」

「なるほどな」

 

彰は机に頬杖をつく。

 

「無料のカゴみた?絶対おかしいだろ」

「そうだな」

「清隆あんま使いすぎるなよ」

「言われなくてもそのつもりだ」

「さすが俺の親友」

 

清隆の眉がぴくりと動く。

 

「…まだ知り会って一日だろう」

「初友達だし特別な」

 

その時、前の方で少し騒ぎが起きる。須藤が席に座ったまま、面倒そうに教科書を出していた。池と山内は昨日買ったものの話で盛り上がっている。

 

「俺、結構使ったわ!」

「マジ? 何ポイント残ってる?」

「まだ余裕余裕」

 

彰はそちらを見る、清隆も視線を向ける。

彰は小声で言う。

 

「こういう使い方させたいんだろうな」

「何のために?」

「知らん、だから見てる」

 

清隆は彰を見る、彰は肩をすくめた。

 

「答え出てないのに断定すんの嫌いなんだよ」

 

それは父親の仕事に触れてきた影響でもあった、仮説は立てる。でも、仮説を事実扱いしない。

その直後。

 

「来栖くん、おはよう!」

 

櫛田が近づいてきた。

 

「おはよ」

「昨日、学校見て回ったんだって?」

「まあね」

「どうだった?」

「面白かったよ。クラスごとに全然空気違うし」

「へえ。Aクラスも見た?」

 

彰の返事が一瞬だけ遅れる、本当に一瞬。

 

「見た」

 

櫛田は気づかない程度の間。

 

「どんな感じだった?」

「真面目そうなのとか、色々いた」

「ざっくりしてるね」

「初日だし」

 

彰は笑う、彼女のことはあえて詳しく言わない。隠す必要がある情報ではない。ただ、自分が強く興味を持っていることまでわざわざ他人に見せる理由もなかった。

そこへ池がやってくる。

 

「来栖!昨日なんでこなかったんだよ!」

「学校見る方が面白そうだったから」

「買い物より?」

「俺にはな」

 

池は理解できないという顔をする、彰はそんな池を見て笑った。やがてチャイムが鳴る。

茶柱が教室へ入ってくる。

 

「席につけ」

 

教室が静まる、彰も前を向く。そしてHRが終わった。

授業が始まり数十分後、彰は早くも死んだ目をしていた。

 

(……つまんねえ)

 

昔から勉強は大の苦手だった、やらないから覚えられない。覚えられないから繋がらなくなり、余計できなくなる。国語は一部得意だ、地頭が良いと言われる人あるあるがこうも当てはまる人間は他にいないだろう。ノートは最低限。

教師が黒板へ書いた内容を見て、

 

(ああ、そういうことね)

 

とある程度理解はする。ただ次の瞬間には、窓の外へ意識が飛ぶ。そして忘れる。後ろの清隆から見ると、少し妙だった。寝ているわけではない、授業についていけていないようにも見えない。なのに、明らかにやる気がない。

 

休み時間、彰は机へ突っ伏した。

 

「無理」

 

清隆が言う。

 

「まだ一時間目だぞ」

「だから絶望してんだよ」

「理解できてないのか?」

 

彰は顔だけ上げる。

 

「いや、言ってることは分かるよ」

「じゃあ何が無理なんだ」

「興味がない。あと覚えてないとこが分かんない」

「……」

「その顔やめろ」

 

清隆の表情はほぼ変わっていない、彰は再び机へ伏せる。

 

「チェスなら三時間でも見れるんだけどな」

 

その言葉で、清隆は昨日の自己紹介を思い出す。

 

「チェス、そんなに好きなのか」

「好き。結構やる」

「どのくらい強い?」

 

彰は少し考えた。

 

「まあ……かなり?」

「曖昧だな」

「父親としかやったことねえし、友達にチェスやってるやついなかった」

 

彰はふと清隆を見る。

 

「清隆は?やったことある?」

「あるぞ」

「どのくらい強いん?」

「どのくらいだろうな」

「同じじゃねえか」

 

なんだこいつは。

 

「趣味とかないの?アニメとかゲームとかでもいいし」

「経験がないな」

「お前変だよな」

「そうか?」

「だいぶ」

 

こいつの親は教育ママなのか?そんな疑問を持ちながら二時間目の準備をする。そして昼休みが近づくにつれて、彰の中では授業よりも別の興味が膨らみ始めていた。

 

(あの子、もう一回見てみたい。できれば話したい)

 

今日、もう一度Aクラスの方を見に行ってみるか。そんな考えが、少しずつ現実味を帯びていた。

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