昼休み。
池が彰の席へ来る。
「来栖、飯行こうぜ」
「行く」
「綾小路も来るか?」
池が後ろを見る、清隆は少し迷った後、
「ああ」
と答えた。三人で食堂へ向かう、途中で山内も合流した。
「なあ来栖、昨日他クラス見に行ったんだろ?」
「うん」
「可愛い子いた?」
彰は即答しなかった。ほんの一瞬、Aクラスのあの子が頭をよぎる。その間を池が拾う。
「いたな?」
「いや」
「今の間はいた奴の間だろ!」
「うるせえな」
「どこのクラス?」
彰は少し笑う。
「A」
「マジ!?」
山内が食いつく。
「誰?」
「知らん、名前はまだ」
「特徴は!?」
彰は嫌そうな顔をする。
「なんでそんな必死なんだよ」
池が笑う、清隆は黙って聞いている。
彰は仕方なく、
「小柄で、杖持ってた」
と言う。山内が首を傾げる。
「杖?」
池も知らないようだ。
「なんでもいいだろ、お前らは好みの子とかいた?」
「えーやっぱ俺は櫛田ちゃんかな!」
「分かる、軽井沢とかもあり」
池と山内が盛り上がる。
「清隆は?」
「分からない」
その答えを聞いて池がニヤニヤしながら入ってくる。
「童貞め」
「お前もだろ」
彰がそう言い3人で笑う、その間も清隆はずっといつもの顔をしていた。
昼食を済ませ、午後。ここから彰の集中力はさらに落ちた。
英語
数学
現代文
単語や文法、公式や用語。暗記系はほぼ全滅していた。そして覚える気もない。
(でもあの仮説が合ってるなら成績は本命だよな、だるいなぁ)
危機感は感じている、だがやる気が出ないものはどうしようもない。時々窓の外を見る、教師に注意されるほど露骨にはやらない。
ある授業で教師が問題を当てる。
「来栖」
「はい」
彰が顔を上げる、黒板を見る。問題文を一度読む。
数秒。
「……この言葉はどういう意味ですか?」
「…聞いていなかったのか」
「すみません」
説明してもらい、その後答える。
「じゃあBですか?」
教師が少し意外そうな顔をする。
「正解だ」
池が、
「お前以外とできんじゃん、中1の単語も知らないっぽいけど」
「うるせえ、今授業中だぞ」
「いーのいーの!注意されないし」
「…そうかい」
清隆はそのやり取りを見ていた。暗記系は壊滅的、でも意味がわかればできないわけじゃない。理解も早い。なのに、やらない。
放課後、最後のチャイムが鳴る。
彰は机へ突っ伏したまま、
「終わった……」
と呟いた、池がすぐ立ち上がる。
「よっしゃ! 遊び行こうぜ!」
山内も乗る、平田は何人かと話している。櫛田は今日も予定を聞かれていた。彰はゆっくり顔を上げる、そして教室の外へ視線を向けた。昨日見たAクラス、あの小柄な少女。今日は授業中、何度かふと思い出した。
自分でも少し笑う。
(名前くらい知りたいな)
その程度なら、別に不自然ではない。
彰は立ち上がった。
「俺ちょっと寄り道してくるわ」
池が振り返る。
「また学校探索?」
彰は鞄を持つ。
「今日は目的あり」
「なんだよ?」
「内緒」
「怪しいな!」
「うるせえ、歯折るぞ」
「暴力的なんだよ!」
彰は笑った。
「じゃあな親友」
「親友ではない、じゃあな」
「頑なな子だこと」
教室を出る。向かう先は――1年Aクラスだった。