偽りの理想郷~チートバフ魔法使い兼超最強軍師の俺。転生先がディストピアだったので、最強の軍隊を作って全力でぶっ潰すことにしました~ 作:やきそばVer2
【王城:工房】
俺たち三人はメルビル軍司令官の案内で工房へと向かっていった。
工房のドアの前まで来たとき、彼が注意点を話した。
「先に言っておくが、工房長は君らが想像出来ないほどの変人だ。間違えても馬鹿にしたりするなよ。彼女の機嫌を損ねると、毎回大変なことが起きるからな。」
「具体的に何が起きたんですか?」
「揶揄した者の服に謎の薬品をかけて悪臭を放つようにしたことがある。他にも爆薬を絶妙な加減で使用してその場にいる者の髪の毛だけを都合良く吹き飛ばしたりした。毎回予想外の反撃をしてくるから、穏便に済ませてくれよ。」
メルビムの言葉に、俺とエリシャは思わず反応してしまう。
強い不安が込められた口調で、俺たちはメルビムにぼやいた。
「えげつな。やべー奴じゃないですか。」
「あたしの長い赤髪は宝物なのよ! それを吹き飛ばされるのは絶対嫌!」
「嫌なら絶対に失礼な態度を取るな! 君たちだけが酷い目に遭うのは構わないが、一緒にいる以上本官も巻き込まれる。だから絶対に彼女の機嫌を損ねるなよ!!」
注意点を俺たちに叩き込んだ後に、彼は工房の扉を開いた。
中には複数人のつなぎを着た作業員と、場違いなほど可愛らしい一人の少女が居た。
17歳くらいの年齢で、ブロンドの短い髪の少女だ。
それと、背は小さいのに胸はかなり大きい。
心なしかエリシャが工房長の胸を睨めつけている気がする。
エリシャのプライドのために、何故かは考えないでおこう。
理由は明白だけど...
俺が変なことを考えている中、メルビムはその少女に対して丁寧な口調で言葉を紡いだ。
軍司令官のはずの彼が怯えているのが、言葉の節々から伝わってきた。
「ソフィー工房長、少し時間をもらっても良いですか?」
「メルビム、さっきわたくしの事を『変人』呼ばわりしたわよね? 扉越しにあなたの声が聞こえてきましてよ。時間をあげて差し上げるのはその後ですわ。」
何でお嬢様言葉?
可愛らしいけど、話し方が全くもって似合ってない。
...でも、口に出すのは絶対に止めよう。
そんなこと聞かれたら、彼女に何されるかわかったもんじゃない。
俺が余計な事を喋るまいと決意する中、メルビムが素早く動き出した。
彼はソフィーに対する非礼をわびるため、即座に土下座したのだ。
それも、普通の土下座ではなくジャンピング土下座でだ。
「大変申し訳ありませんでした。お詫びの品として、後ほど高級プリンを贈呈させていただきますので、何卒ご容赦下さい。」
「よろしいですわ、メルビム。わたくしは寛大ですので、今日のところはそれで許して差し上げます。」
本当に何者なの、この子?
この子の怒りに巻き込まれませんように。
くわばらくわばら。
メルビムとの会話を終えたソフィーが、俺たちに話しかけてきた。
「見ない顔ですわね。そこの貴方、手に持っている紙を見せなさい。」
彼女は俺が持っていた設計図を見せるように要求してきた。
こちらの要件を伝えていないのに、ソフィーはそれを瞬時に理解したようだ。
俺は迷うことなく図面を彼女に渡す。
それを受け取ったソフィーは、態度をガラッと変えて上機嫌になった。
興味津々といった様子で、ソフィーは図面を隅々まで眺めていく。
その様子は、俺が軍事関連の本を読んでいる時の雰囲気そっくりだ。
周りのことなどお構いなしに、大好きなものに熱中している様子。
その楽しさと真剣さが、彼女の身体の隅々から発せられていた。
「コウヘイ。設計図を見てここまで嬉しそうにする人初めて見たわ。」
「エリシャ。これがオタクという人種の特徴さ。」
図面を読み終えたソフィーは俺たちに話しかけた。
彼女の口調と表情、そして立ち振る舞いはとても穏やかかつ楽しさにあふれていた。
「そこの黒ローブの貴方。お名前はなんて言うのかしら?」
「コウヘイです。こっちの白いローブを着た子はエリシャで、そっちにいる青年がシェムハザです。」
「この設計図を書いたのはコウヘイ殿ですか? いくつか聞きたいことがありましてよ。」
俺が書いた図面に描かれていたのは、『中折れ式のグレネードランチャー』だ。
現実世界にある『M79グレネードランチャー』と似た構造のものを、俺は図面に書き起こしたのだ。
この世界に存在しない種類の武器を見て、彼女にとって気になる箇所が多数あったのだろう。
彼女は図面の一部を指さしながら、俺にいくつかの質問をしてきた。
「最初にお聞きしたいのは、なにゆえ40mmという大口径の銃にしたのかしら? 爆弾を飛ばそうとしているのは分かりますが、爆風ではエデン製の防具は貫けなくってよ。」
相変わらずのおかしなお嬢様口調で、彼女は最初の質問をしてきた。
その口調を気にすることなく、彼女の言葉に即答した。
彼女が聞いてきた内容が、この武器の一番重要な箇所だからだ。
「もちろんそれは分かっています。ですが、爆風で敵を倒す気は全くありません。」
「ではどのようにして敵を倒すおつもり?」
「『爆風』ではなく、『爆弾の殻の部分』を使って敵を倒すんです。『爆発によって壊された殻の破片』を四方八方に飛び散らせるんです。」
俺は続けた。
「破片一つ一つの威力は低いです。鎧自体も貫通しないでしょう。ですが、肌が露出している箇所に何発も破片が当たれば相当なダメージになるはずです。」
「悪くないアイデアですわね。『爆風ではなく破片で敵を倒す』というのは盲点でしたわ。確かに理に適っています。」
彼女は俺の意図を理解してくれたみたいだ。
理解した直後に、さっそく改良案を出してきた。
「であれば、爆弾の中に『金属球』などを入れるのはいかがでしょうか? 小さな破片だけに頼ると威力が不十分ですわ。大きい金属球を入れれば、より破壊力が向上しますわ。」
「『軽い破片ではなく、重い高威力の金属球で敵を倒す』ってことですね。いいと思います。俺がいた世界でもよく使われている発想です。」
「決まりですわね。次はこの部分なのですが。」
彼女は非殺傷弾について書かれた箇所を指差した。
エデンの民衆を殺すことなく無力化するために設計した弾丸だ。
「魔力石に氷魔法を封じ込めた弾丸を用いて、『敵の足を凍らせて動けなくさせる』というアイデア自体はいいですわ。とはいっても、どうやって多数の弾丸に十分な量の魔力を注ぐのですか? 多数の弾丸に込めるとなると、膨大な魔力が必要でしてよ。」
今度はエリシャが答えた。
この部分の実現可能性を確かめるために、彼女の協力を取り付けていた。
「基本的にはあたしがやるつもりです。あたしなら十分な魔力量もありますし、弾丸の威力を調整することも簡単です。」
「このアイデア通りのことを行うとなると相当な魔力が必要ですし、威力調整も至難の業ですわ。本当に貴方一人でそんなことができて?」
エリシャは自信満々に答えた。
「あたしは天才魔道士だからね! その程度お茶の子さいさいよ。」
「まあ、できるというならそれでいいでしょう。」
ソフィーは納得したようだ。
しかし、次の瞬間にはとても不機嫌そうな態度に変貌した。
「エリシャ。貴方先ほど自分のことを『天才』って言いまして?」
「それが何よ、事実だから別にいいでしょ。あと何であたしだけ呼び捨てなの?」
「この世に『天才』は私だけでしてよ。自信過剰な身の程知らずなお方には、呼び捨てがお似合いですってよ。」
あ、ヤバい。
滅茶苦茶まずいぞこれ。
恐れていた展開になりそうだ。
俺はすかさずソフィーの機嫌を取ることにした。
「ソフィー様。その子はかなり頭がおかしい人なんです。気にしたらあなた様まで馬鹿になってしまいます。」
「コウヘイ! あんた何言ってるの!?」
エリシャの怒りを無視して、俺は話し続けた。
怒りゲージがどんどん上がっている気がしたが、気にしてはいけない。
そう、気にしてる場合ではないのだ。
「魔術の才能だけはあるんですけど、頭めっちゃ悪いんです。だから自画自賛しまくるし、天才であるあなた様に喧嘩を売るようなことをしているんです。」
「そういうことですのね。であれば、わたくしから言うことはありませんわ。本当の『天才』は細かいことを気にしませんの。」
俺の必死のフォローでソフィーの機嫌が戻ったようだ。
いつの間にかソフィーが謎の機械を取り出していたが、ギリギリ間に合って良かった。
自信過剰なマッドサイエンティストが何をする気だったのかは......考えない方がいいだろう。
俺の活躍?でどうにか危機を回避することには成功した。
だが、俺にはさらなる苦難が待ち受けていた。
「コウヘイ! あたしを馬鹿扱いしたわね!?」
「エリシャ! これはちが......くないけど、他に方法がなかったんだ!!」
「今完全に否定しなかったわよね!? 裁きを受けなさい!
怒りにまかせて、彼女は俺に攻撃魔法を放った。
ある程度手加減をしてくれたようだが、俺はそれをまともに受けてしまった。
「あっつ! めっちゃ熱いんだけど!!」
「ふん! 今回はこの程度にしてやるわ。もし次同じことをしたら、
「ひ......すんませんでした。」
低威力の
彼女の怒りの炎で焼き尽くされることを想像して、俺は少しの間びびり散らした。
ソフィーはというと、俺たちへの興味を完全になくしたようだ。
彼女は自身の部下たちに命令を下した。
その話し方は、喜びと期待に満ちあふれたものだった。
「皆様方。さっそくお仕事をいたしましょう。今日中に試作品を作り上げますわよ。」
【王城:工房近くの広場】
次の日
俺たちは試作品を試すために、城内の広場に集合した。
出来映えを確認するために、俺は渡された試作品を隅々まで調べていく。
問題は無い。いつでも試験可能だろう。
試作品のチェックを終えた俺に、ソフィーは少し残念そうに語りかけてきた。
「コウヘイ殿。貴方の図面にあった『薬莢』は用意出来ませんでしたわ。一応二つほどは完成したのですが、量産するのは非現実的でしてよ。天才であるわたくしたちの力が及ばず、申し訳ありませんわ。」
「いえ、今の状態でも十分です。薬莢は量産出来ないと意味がないですから。ソフィーさんが考えてくれた打開案で十分です。」
(少し前から思っていたけど、『弾丸』って表現は語弊があるな。『砲弾』って呼ばないとだ。)
俺は足下に置かれている砲弾の構造を眺めた。
砲弾本体と紙袋に収められた発射薬として使う黒色火薬。
その構造は、分離装薬式の大砲で使われるものと瓜二つだ。
「射撃する際は先に弾丸を装填してくださいませ。その次に装薬を弾丸の後ろに入れれば発射準備完了ですわ。」
「わかりました、ソフィーさん。『弾丸』って呼び方は不正確なので、次からは『砲弾』って呼んでください。」
話し終えた後に、俺はさっそく射撃準備を開始した。
ランチャー後部の留め金を外して、砲身の後端とランチャー後部構造(銃床付近の事)の境目を分離させ、ヒンジで繋がった状態でランチャー自体を二つ折りにする。
その状態で、露出した砲身後部から砲弾と発射薬を装填していく。
最後に点火用の縄に火をつけて、準備完了だ。
(グレネードランチャーなのに、火縄銃と同じ点火方法か。かなり違和感があるな。)
そう思いつつ、標的として用意された藁束に照準を合わせる。
標的の位置は150m先だ。
俺は狙いを定めて、ゆっくりと引き金を絞った。
引き金を引くのではなく、丁寧に絞ることでブレを最小限に抑えようとした。
ドオン!!
轟音とともに砲弾が発射され、同時に俺の視界が真っ白な煙で覆われる。
黒色火薬で砲弾を撃ち出したため、どうしても多量の白煙が発生してしまうのだ。
「当たったか?」
煙が晴れた時、俺の目には蜂の巣にされた藁束が飛び込んできた。
直撃はしなかったようで、目標から左に7m程離れた位置に爆発痕が残っていた。
それでも、藁束の様子を見るに、爆風によって吹き飛ばされた破片と金属球による殺傷力は十分なようだ。
「いてて。大口径だから反動もかなりあるな。」
俺は戦果を確認した直後に自分の肩をさすった。
反動に驚きつつも、今度は非殺傷弾を手に取った。
先ほどと同じ手順で砲弾を装填して、目標に向けて撃った。
ドン!!
今度は目標の右6m程の所に着弾した。
俺が意図した通りに、着弾した場所の周囲の全てのものが凍り付いていた。
どちらの砲弾も今のところ問題なく動作していた。
テスト結果を見て、ソフィーは少し悩み始めた。
試作品の性能に納得しなかったようだ。
少し経った後、ソフィーはおもむろに口を開いた。
「『魔力石に炎魔法を込めて、命中時にそれを解放することで爆発させる』部分はうまくいきましたわ。『着発信管』とやらの再現には成功しましてよ。ですが、命中精度が低すぎますわね。」
「『ライフリング』が無いせいですね。ここの工作精度ではうまく作れないと思って、敢えて図面には書きませんでした。」
「『ライフリング』とはどういうものでしょうか? わたくしなら作れるかもしれなくって。」
俺はソフィーに『ライフリング』について説明した。
彼女が言うには、作れないことは無いが、それを実現させるには時間が掛かりすぎるとのことだった。
改善案が浮かばない俺とソフィーを見て、エリシャが言葉を掛けてきた。
「コウヘイ。『砲弾に回転を加える』ことが出来ればいいのよね? 魔法を使えばできそうじゃない?」
彼女は近くに置いてあった砲弾を持ち上げた。
砲弾後部に魔力石を取り付けて、彼女はアイデアを話し出した。
「風魔法で回転させるの。これならうまくいくんじゃない?」
言い終わると同時に、砲弾後部の魔力石に風魔法を注入していった。
そして、作業が完了するやいなや俺に砲弾を手渡した。
「コウヘイ。もう一度この状態で撃ってみて。」
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エリシャのアイデアは大成功だった。
課題点だった命中精度が大きく向上して、『ただのアイデア』を『実用的な武器』へと昇華させることに成功した。
それからすぐに、対エデン用の決戦兵器としてこの新兵器の量産ラインが整えられていった。
今のところは400丁が完成しているのみだ。
主力兵器として運用するには数が足りなすぎるが、エデンに対して有効に立ち回れる武器がある程度の数作られたことは事実だ。
それに、時間が経てば十分な数を配備できる。
エルミナ神聖王国の人々の心には、一筋の光が差し込み始めていた。
だが、シェムハザだけは素直に喜べていなかった。
彼の心に芽生えた闇がだんだんと膨らんでいったのだ。
明るかった彼の精神は、重苦しいものへと変化していた。
「コウヘイ君たちはよくやってくれているよ......それに対して、僕はもう駄目かもしれない。これ以上戦えないかもしれないんだ!」
彼はつぶやき続けた。
「僕はかつての仲間を何人も手に掛けてしまったんだ! コウヘイ君やエリシャ君にとっては敵かもしれないけど、僕はそうは思えない。心の底では未だに『仲間』だと思っているんだ!」
彼は後悔の言葉を口にした。
そして、最後に叫んだ。
「今の僕には『割り切って戦い続ける』ことなんて出来ない! こんな状態だと、みんなの足を引っ張る事になる......僕は一体どうしたらいいんだ!! 僕はどうしたいんだ!?」
かつてのエデンの騎士は、古巣への憎しみと、手を下したエデン兵たちへの罪の意識の間で板挟みになっていた。
しかし、そんな彼には悩む暇は与えられなかった。
「シェムハザさん。大変です! へブロナの街にエデン騎士団の大軍勢が迫ってきています!! それも、敵の指揮官はあの『カマエル』さんです!」
(また戦闘か......やるしか......ないようだな。)
「わかった......今行くよ。」
そう言って、シェムハザは重い腰を上げた。
望んでなどいない次なる戦闘へ向かうために。
第十三話に続く