登校班くノ一化の記録 作:匿名希望
元服の儀――それは里において、見習い忍びが真の「くノ一」として認められる絶対の境界線だった。
冷たい地下の儀式場。怪しく燃える篝火の光を浴びながら、陸斗――「篝」は、かつての登校班の仲間たちと共に、黒地に漆黒の刺繍が施された忍び装束に身を包んでいた。
儀式の中盤、里長の手によって妖しい香炉の煙が焚かれ、呪言が唱えられたその時、脳内で弾けるような激しい衝撃が走った。
「小林陸斗」としての少年の記憶と、「篝」としての少女の生の軌跡。
これまで互いを拒絶し、歪みを引き起こしていた二つの魂の境界線が、まるで熱した蝋のようにドロドロと溶け合い、一つの滑らかな精神へと結びついていく。
(あぁ……そうか。ぼくであり、あたしなんだ)
葛藤も、自己嫌悪も、急速に引き潮のように去っていく。
少年だった頃の「ランドセルを背負った日々」は、失われた過去として哀愁を帯びながらも、今の自分を構築する大切な「前世のような記憶」として優しく胸に収まった。
同時に、自分を苛んでいた「くノ一としての本能や残滓」は、もはや恐怖の対象ではなく、生き残るための「自分自身の強さ」として完全に馴染んでいた。
儀式を終え、月明かりの下に立った少女たちの佇まいは、もはや苦悩に揺れる子供のものではなかった。
艶やかな黒髪を夜風になびかせる楓(かつての副班長・冴)が、ふっと薄く微笑む。
その瞳には、現代の「冴」としての知性と、成熟した「くノ一」としての妖しい冷徹さが完璧な調和を保って宿っていた。
「篝……いい夜ね。現代の記憶があるなんて、あたしたち、他の忍びよりずっと機転が利くと思わない?」
「ええ、本当にね」
篝は自らのしなやかな手を見つめ、クスリと可憐に笑った。
声には大人の女性としての艶と、元・班長らしい揺るぎない芯の強さが同居していた。
かつての下級生男子たちだったくノ一たちも、今や己の美しい容姿と高い戦闘能力を完全に受け入れ、静かに主君への忠誠を誓っている。
現代の知識や論理的思考は、忍びとしての策略や情報収集において、誰にも真似できない強力な武器へと昇華されていたのだ。
「行くわよ、みんな」
篝の短い一言に、四人のくノ一たちが音もなく影のように付き従う。
彼女たちは知っている。
もう二度と、あの黄色い帽子を被ってアスファルトの通学路を歩く日常には戻れないことを。
サッカーボールを蹴ることも、友達とゲームで遊ぶこともない。
だが、彼女たちの胸には悲壮感はなかった。
少年・小林陸斗としての記憶と心を持ちながら、この過酷な乱世を最凶の「くノ一・篝」として生き抜く。
二つの人生を一つに溶かし合わせた少女たちは、月光を切り裂くように、黒闇の森へと軽やかに跳んでいった。