登校班くノ一化の記録 作:匿名希望
闇を裂く苦無の風切り音と、激しい爆炎。
集落ごと爆破を試みた敵方の呪術師との戦いに赴いた過酷な忍びの任務中、篝たち「元・登校班」の五人は、暴走した術式の光に呑み込まれた。
天地が激しく反転し、強烈な浮遊感に包まれる。
(また……あの時と同じ……!?)
ドサリと重い音を立てて倒れ込んだ場所は、冷たく硬いアスファルトの上だった。
ふと耳を澄ませば、遠くで聞こえる車の走行音、遠くの工事現場の重低音、そして電子信号機の鳥の泣き声。
見上げれば、朝焼けに染まる見慣れた現代の電線とコンクリートの街並みが広がっていた。
「ここ……現代……! 帰ってきたの……!?」
仲間の一人が歓喜の声を上げた。
登校途中に消えた、まさにあの通学路の路地裏だった。
しかし、喜びは一瞬で立ち消える。
姿見のようなガラス窓に映った自分たちの姿を見た瞬間、全員が言葉を失った。
元の小学生の男児や女児の姿に戻ったわけではなかった。
そこに立っていたのは、漆黒の忍び装束に身を包み、洗練された肉体と美貌を持つ、完全に完成された成人寸前の大人のくノ一たちだった。
「嘘……戻って、ない……?」
篝は自分のしなやかな指先、豊かに実った胸元、そして腰に差した日本刀と暗器の重みを感じ、絶望と可笑しさが混ざり合った吐息を漏らした。
呪法と肉体の成熟は、すでに細胞レベルで定着していた。
タイムスリップで空間と時間を超えても、作り替えられた肉体と魂は、二度と「小林陸斗」たち少年の姿には戻らなかったのだ。
「どうするの……篝……?」
副班長だった楓が、忍びの気配を消したまま、警戒を怠らずに尋ねてくる。
街の防犯カメラのレンズが、カチリと音を立てて自分たちを追っていることに、彼女たちは瞬時に気づいていた。
現代の知識を持つ彼女たちにはよく分かっていた。
この姿、この装備で現代社会に突如現れることが、どれほど異常で危険なことか。
行方不明になった子供たちが、数年後に妖艶なくノ一となって現れたなどと説明できるはずもない。
警察や国家機関に捕まれば、研究対象にされるのが関の山だ。
「……まずは服を手に入れるわ。気配を消して、裏通りを移動するのよ」
篝の声には、一切の揺らぎがなかった。
かつて現代の記憶を取り戻した直後のようなパニックも苦痛もない。
小学生としての記憶を持ちながらも、完全に融合した「くノ一・篝」としての冷徹で圧倒的な判断力が、全自動で最適解を導き出していた。
朝日が完全に昇り、ランドセルを背負った現在の小学生たちが、賑やかに通学路を歩き始める。
物陰からその光景を見つめる篝の胸に、かすかな切なさが去来した。
あの中には、かつて自分が歩むはずだった「当たり前の日常」があった。
(さようなら……『小林陸斗』としての日常)
篝は静かに目を閉じ、微笑んだ。
もう未練はない。
自分たちはもう、現代社会の住民でも、江戸時代の忍びでもない。
現代の闇に潜み、圧倒的な忍術と現代知識を併せ持つ「異形のくノ一集団」なのだから。
「行くわよ」
篝の合図とともに、五人のくノ一たちは音もなく電柱の影からビルとビルの隙間へと跳躍した。
現代の喧騒の中、誰にも気づかれることなく、彼女たちは新しい自分たちの「裏の縄張り」へと消えていった。