TS娘の曇った心を義理の兄がVRMMOゲームを通じて徐々に癒していくお話 作:乾いた布団
みなさん本当にありがとうございます!
これからも頑張ります!
――その日。
悠真は、携帯のアラームを止めると、布団の中でしばらく天井を見つめていた。
(……眠い)
昨夜、ゲームを終えたのは、日付を超えて幾許か時間が経過した後だった。
レイドが、新しい装備をどうしても今日中に手に入れたいとかで騒ぎ始め、結局予定よりも長くログインしてしまったのだ。
……とは言っても。
もっとも、なんだかんだ言いながらも最後まで付き合ってしまった、自分も悪い。
だから、今日は早く寝よう。
そう考えながら、悠真はベッドから起き上がった。
カーテンを開けると、気持ちのいい朝陽が、部屋の中を照らす。
窓の外を見ると、そこにはいつもと変わらない住宅街が広がっていた。
(……よし、準備するか)
気持ちを切り替え、自室を後にすると、洗面所へ向かい顔を洗う。
そして、自身と妹の朝食を準備するため、キッチンのあるリビングへ移動した。
朝陽に照らされた、見慣れたリビング。
中央のダイニングテーブルには、昨晩悠真が妹の部屋へ運んだ、トレーが置かれていた。
覗くと、トレーに乗ったお皿の中身は、どれも空っぽの様子。
どうやら昨夜の夕食は、残さずに完食してくれたようだった。
(……良かった)
少し安心する悠真。
何しろ、過去を振り返ると、用意した食事には一切の手をつけず、そのままキッチンへ戻されていたこともあったのだ。
だからこそ、乃亜が夕食を食べてくれた。
そんな当たり前の出来事が、悠真にとっては少しだけ嬉しかったのだ。
(……さて、さっさと片付けるか)
朝食の準備を始める前に、手早く洗い物を済ませようと、トレーへ手を伸ばす。
……しかし、その時だった。
(……あれ?)
トレーの下に、メモ用紙のような白い紙が挟まっていることに気づく。
(……なんだこれ?)
不思議そうに、その白い紙を手に取る悠真。
だが、次の瞬間――。
(っ!?)
悠真の瞳は、驚きによって見開かれた。
【いつもありがとう】
可愛らしい丸文字で書かれた、八文字の言葉。
どうやらそれは、昨晩の内に誰かが書き残したメッセージのようだった。
当然ながら、悠真が書いたものではない。
だとしたら、一体誰が……。
そう考え初めて、でもすぐに気づいた。
何しろ、この家で暮らしているのは、悠真と妹の乃亜だけ。
悠真は、書いていない。
ということは……。
この文字を書いたのは……。
(っ!乃亜っ!)
その瞬間、悠真の胸の内に、自然と熱いものが込み上がった。
今まで、何度も声をかけてきた。
毎日、食事を用意した。
困っていないか、気にかけてきた。
だけど、返事はなかった。
もしかしたら、あまり良い印象を抱かれていないのではないか。
鬱陶しがられているのではないか。
そう考えたこともあった。
けれど、このメモ用紙には確かに、お礼の言葉が綴られていたのだ。
短い言葉だが、確かに【ありがとう】と。
悠真にとって、それはずっと願っていた、何よりも嬉しい言葉。
(乃亜っ!)
悠真は、即座に走り出したい衝動に駆られた。
走り出して、乃亜の部屋の前へ行き、扉を開けて、顔を見ながら俺もだと、伝えたい衝動に。
……だけど。
(……それは流石に、マズイか)
そんなことをすれば、せっかく一歩を踏み出してくれた妹を、確実に驚かせてしまうだろう。
もしかしたら、あの硬く閉じられている扉が、さらに硬く閉ざされてしまうかもしれない。
それだけは、絶対に避けたい。
だから……。
(……よし)
一息吐くと、乃亜と同じく、悠真も手紙で返事を書くことにした。
手元にあったメモ用紙へ、ほんの数言だけを簡潔に記載する。
本当は、話したいことが山ほどある。
だけど、いきなり長文のメモを渡されても、困惑してしまうだろう。
だから、少しでいい。
今は、これで……。
……こうして。
兄と妹の奇妙な文通が、始まったのだった。