TS娘の曇った心を義理の兄がVRMMOゲームを通じて徐々に癒していくお話 作:乾いた布団
――朝。
普段よりも早く目が覚めてしまった俺は、ベッドの上で膝を抱えながら、そわそわと落ち着かない気持ちで、時計を見つめていた。
時刻は、八時過ぎ。
昨夜は、かなり遅い時間までゲームをしていた。
故に普段なら、お昼頃までお布団のお世話になっているのが、鉄則だったのだが……。
最近は、どうしても早く目が覚めてしまう。
でも理由は、分かっていた。
「おはよう乃亜、起きているか?今日も朝飯を扉の前に置いておくぞ」
「っ!?」
扉の向こう側から聞こえてきた兄の声に、肩を振るわせながら、過剰に反応してしまう。
……うぅ……なんだか恥ずかしい……。
先日、俺は兄へ向けて、一枚のメモを書いた。
【いつもありがとう】
普段の感謝を綴った、たった八文字のメモだ。
すると、次の日の朝。
兄が運んでくれた朝食のトレーに、一枚のメモが挟まっていた。
二つ折りにされたメモ用紙。
不思議に思いながら開いてみると、中には整然とした綺麗な文字で。
【こちらこそ気持ちを伝えてくれてありがとう。そう言ってもらえて素直に嬉しいよ】
と、書かれていた。
自分が残したメモに対する、兄からの返事。
はっきり言って、とても嬉しかった。
勇気を出して、踏み出した一歩。
その努力が、兄の元へ確かに届いた、何よりの証拠だったから。
だから俺は、その返事が嬉しくて……。
早速、その日も兄へメモを書いた。
【いつも迷惑ばかりかけてごめんなさい。あとプリン大好きなので嬉しいです】
と。
それからだった。
俺と兄の奇妙な文通が始まったのは。
毎日、たった数言だけの文通。
だけど、気づけば俺にとって、何よりも大切な習慣になっていた。
……きっと、今日も。
朝食が乗るトレーには、俺へ向けたメモ用紙も乗っているのだろう。
今日は、どんなことが書いてあるのか。
楽しみなのが本音だ。
だけど……。
……うぅ……お兄ちゃん……。
どういう訳なのか。
文通を始めて以降、俺は兄の声を聞くのが無性に恥ずかしくなっていた。
別に直接、顔を合わせている訳ではない。
気を遣ってなのか、文通以外の場面では、今まで通り接してくれている。
食事を用意して、扉の前に置いてくれる。
扉の向こうから、数言だけ声をかけてくれる。
それは、今までと何も変わっていない。
なのに、これほどまで恥ずかしいと感じてしまうのは、果たして何故だろうか。
……もしかしたら。
引きこもりの影響で、対人スキルを拗らせてしまっているのかも?
……あり得る。
くそ……。
夢のような生活だと思っていた今の暮らしに、まさかこのような弊害があったとは……。
「そろそろ時間だから俺は学校に行くな。何かあったら電話してくれよ」
「……」
兄の足音が徐々に遠くなっていくのをベッドの上で膝を抱えながら待つ。
……やがて、数分後。
玄関の音が聞こえたのを確認してから、扉を開けて朝食のトレーを部屋に入れた。
今日の朝食は、焼いたトーストとサラダ。
そして……。
その側には、やはり折られた一枚のメモ用紙が添えられていた。
早速、メモ用紙を開く。
すると……。
……あっ。
中には、簡単な一言とともに、謎のイラストが描かれていた。
恐らくは、うさぎを模したのだと思う。
二本の長い耳が生えた、少しだけ不気味な生物。
はっきり言って、少し不気味だと思った。
だけど……。
……ふふっ。
きっと、絵が苦手な兄が、俺のためにと一生懸命書いたのだろう。
そんな気持ちが伝わってきた。
だからなのか。
……なんか可愛いかも。
不思議と、このイラストも可愛く見えてきた。
……あっ、そうだ!
早速、ペンを手に取って、メモ用紙へイラストをを書き始める俺。
気づけば……。
緊張で強張っていた俺の表情は、朗らかな笑みへと変わっていたのだった。