## 一、終わらない夜
午前二時。
都心の雑居ビルの六階、その一角だけが、まるで夜の海に浮かぶ小舟のように青白く光っていた。
他の階は、とうに明かりを落としている。
ビルの前の大通りを走る車の音も、いつの間にか途切れていた。
聞こえるのは、空調の低いうなりと、古いコピー機がときどき思い出したように鳴らす「ピー」という電子音だけだ。
そのオフィスの奥、窓際の席で、一人の男がキーボードを叩いていた。
松田慶永、三十九歳。
机の上には、書類の山が三つ、いや四つ。
いちばん高い山は、いまにも崩れそうに傾いている。
その横には、空になった缶コーヒーが五本、きれいに整列していた。
慶永が眠気をごまかすために、一本ずつ空けていったものだ。
「……あと、三枚」
誰に聞かせるでもなく、慶永はつぶやいた。
モニターの数字がにじんで見える。目をこすると、指先がじんわりと熱かった。
こすったところで、数字の形が変わるわけではない。
見積書の桁を、もう一度、確かめる。確かめて、直して、また確かめる。
営業部の若手が作った資料に不備が見つかったのは、夕方の五時ごろだった。
「すみません、松田さん。あの、先方の担当が変わってて、全部やり直しになりそうで……」
申し訳なさそうに頭を下げる後輩を、慶永は責めなかった。
責めたところで、書類が勝手に直るわけではない。
それに、あの子には小さな子どもが生まれたばかりだった。
「いいよ。今日は帰りなさい。あとは、俺がやっておくから」
そう言って、笑って送り出したのが、もう九時間も前のことになる。
慶永は、ふう、と長い息をついて、天井を見上げた。
蛍光灯の一本が、チカチカと瞬いている。
先月から切れかけているのに、誰も交換しない。「そのうち総務が」と、みんなが思っているうちに、一か月がたった。
きっと、この会社にはそういうところがある。
誰かが気づいて、誰かが直してくれるだろう。
そう思っているうちに、いちばん気づいてしまう人間が、全部を引き受けてしまう。
その「いちばん気づいてしまう人間」が、自分だということも、慶永は知っていた。
「今月、休みは……あったっけ」
口に出してから、指を折って数えてみる。
先々週の日曜日は、取引先のトラブルで出社した。
その前の週の土曜日は、半日だけ休めたはずだ。
いや、あれは午後から呼び出されたのだったか。
数えているうちに、わからなくなって、慶永は指を開いた。
苦笑いが、勝手に口もとに浮かぶ。
(情けないな。自分の休みの数も、思い出せないなんて)
そのとき、机の上のスマートフォンが、ぶるりと震えた。
画面が明るくなる。
待ち受けには、写真が一枚、表示されていた。
去年の夏、家族で行った海で撮った写真だ。
日焼けして鼻の頭が赤くなった妻の絵美里が、麦わら帽子を押さえながら笑っている。
その隣で、息子のタケルが、歯の抜けた口をいっぱいに開けて、カメラに向かってピースサインをしていた。
いい写真だ、と慶永は思う。
あの日は、たしか三日連続で休みを取れた夏だった。
そして、その写真の上に、メッセージの通知が重なった。
『タケル:パパ、土曜日ロボ見に行こうね』
慶永の目が、ふっとゆるんだ。
タケルは、まだ八歳だ。小学校二年生になったばかりの彼は、このところロボットに夢中だった。
テレビのロボットアニメを毎週欠かさず観て、おもちゃ売り場のロボットを何度も何度も眺めに行く。
今度の土曜日は、駅前の広場で、巨大ロボットの展示イベントがあるのだと、先週から何度も話していた。
タケルは、夜九時には寝る子だ。
だからこのメッセージは、きっと寝る前に、絵美里のスマホを借りて送ってくれたものだろう。
タケルの小さな指が、一文字ずつ慎重に画面を押している姿が、目に浮かぶようだった。
「ああ……土曜日は、必ず……」
慶永は、画面に向かってつぶやいた。
返信を打とうとして、指が止まる。
もう、深夜の二時だ。
いま送れば、きっと明日の朝、タケルは目を覚ましてすぐにスマホを見る。
喜ぶだろうか。
それとも、パパがこんな時間まで起きていたと知って、心配させてしまうだろうか。
(土曜日は、絶対に休む。絶対に、約束を守る)
そう決めて、慶永は返信を打った。
『もちろん。パパも楽しみにしてるよ』
送信ボタンを押したあと、慶永はもう一度、待ち受けの写真を見た。
笑っている妻と、息子。
この二人のために働いている。それだけは、間違いなく、本当のことだった。
ふと、胸のあたりが、きゅうっと締めつけられるような感じがした。
「……ん?」
ただの疲れかと思って、慶永は胸に手を当てた。
鼓動が、おかしい。ドクン、ドクン、と打っていたはずのものが、突然、ふわりと軽くなったり、ずしんと重くなったりしている。
視界の端が、じわりと暗くなっていく。
「あれ……おかしいな……」
立ち上がろうとして、膝に力が入らない。
椅子の背もたれが、ぐらりと傾いた。
書類の山に、肩がぶつかる。ばさばさ、と紙の雪崩れる音が、遠くのほうで聞こえた。
缶コーヒーが転がって、からん、と乾いた音を立てた。
そして、慶永の体は、椅子からゆっくりと崩れ落ちていった。
(土曜日は……タケルと、ロボを……)
薄れていく意識のなかで、慶永は、ただそれだけを思っていた。
絵美里の顔が浮かんだ。
タケルの笑顔が浮かんだ。
ごめん、と思った。
ただいま、と言えなくて、ごめん。
青白いモニターの光が、床に倒れた男の背中を、静かに照らしていた。
やがて、画面は節電モードに切り替わって、ふっと暗くなった。
オフィスに、本物の暗闇が落ちた。
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## 二、座椅子の神様
気がつくと、慶永は、白い場所に立っていた。
上も下も、右も左も、ない。
地面があるのかどうかも、わからない。
足の裏に何かを踏んでいる感覚はあるのに、見下ろしても、そこにはただ、まぶしいほどの白が広がっているだけだった。
「ここは……どこだ?」
声に出してみると、その声は、どこにも反響せずに、すうっと吸い込まれていった。
慶永は、あたりを見回した。
そして、見つけた。
白い空間のずっと奥に、ぽつんと、何かがある。
近づいていくと、それは、一脚の座椅子だった。
そう、あの、畳の部屋に置いてある、背もたれのついた、あの座椅子だ。
深い緑色で、肘かけのところが少し擦り切れている。
その座椅子に、ひとりの老人が、ふんぞり返って座っていた。
真っ白なあごひげ。
つるりとした頭。ゆったりとした白い衣。
いかにも「神様」という見た目の人物だ。
けれども、座椅子にどっかりともたれて、片方の足をもう片方の膝の上にのせている姿は、どう見ても、休日の昼下がりにテレビを眺めているおじいちゃんだった。
「うむ。来たか」
老人は、慶永を見ると、満足そうにうなずいた。
「あの……」
「わしは神じゃ」
「あ、はい。そうなんですね」
あまりにもあっさりと言われたので、慶永も、あっさりと受け入れてしまった。
神様は、手に持った巻物をぱらりと広げた。
「松田慶永、三十九歳。会社員。死因は、過労」
「……えっ」
「過労死じゃ」
神様は、つるりと言い切った。
慶永は、言葉を失った。
死んだ、のか。
自分が?
さっきの、胸の痛みは、そういうことだったのか。
「そんな……俺は、土曜日に、息子と……」
声が、震えた。
膝から力が抜けて、慶永は、その場にぺたりと座り込んでしまった。
神様は、巻物から顔を上げて、そんな慶永をじっと見つめた。
さっきまでのおどけた雰囲気が、少しだけ引っ込んだ。
「……そなたの働きぶりは、ずっと見ておった」
神様は、静かに言った。
「誰かが気づいて直してくれるだろうと、みなが思っておる間に、そなたはいつも、ひとりで全部を引き受けてしまった。蛍光灯のことも、後輩の資料のことも、な」
「……見てらしたんですか」
「神様じゃからの」
神様は、ちょっとだけ得意そうに胸を張った。
けれど、すぐに表情をあらためて、座椅子から身を乗り出した。
「そこで、そなたに頼みがある」
「頼み?」
「いま、宇宙では大変なことが起ころうとしておる。悲しみで銀河を支配しようとする、恐ろしい連中がおってな。そやつらが、そなたの暮らしておった星に、目をつけたのじゃ」
神様は、ごほん、と咳払いをした。
「そなたに、その連中と戦ってほしい。松田慶永、そなたに、勇者ロボへの転生を命ずる」
慶永は、ぽかんと口を開けた。
いま、なんと言った?
「ロ、ロボ……?」
「うむ。勇者ロボじゃ」
「ロボ!? 人間じゃなくて!?」
「人間では、あやつらには勝てぬ」
神様は、あっけらかんと答えた。
「安心せい。魂はそのままじゃ。そなたのやさしさも、頑固さも、家族を思う気持ちも、ぜんぶ持っていける。体だけが、ちょっと……こう、がっしゃんと、なるだけじゃ」
「ちょっと、がっしゃんと……」
慶永は、頭を抱えた。
状況が、まったくのみ込めない。
いや、のみ込めるわけがない。
死んだと思ったら神様がいて、座椅子に座っていて、ロボットになれと言われている。
けれど、ひとつだけ、慶永の胸に引っかかった言葉があった。
「あの……神様」
「なんじゃ」
「その連中は、俺の暮らしていた星に目をつけた、と言いましたよね」
「言ったの」
「じゃあ、俺の家族は……絵美里と、タケルは……」
神様は、すぐには答えなかった。
白い空間に、短い沈黙が落ちた。
そして、神様は、ゆっくりと言った。
「このままでは、危ない。連中は、もうすぐそこまで来ておる」
慶永は、顔を上げた。
さっきまで涙でにじんでいた目に、いつの間にか、強い光が宿っていた。
「……やります」
「む?」
「そのロボットに、なります。どうすればいいんですか」
神様は、にんまりと笑った。
「話が早くて助かるわい。やはり、そなたを選んだのは間違いではなかったの」
神様は、巻物をくるくると巻いて、ぽんと慶永の前に投げた。
「細かいことは、向こうで体が教えてくれる。説明書は……まあ、そのうち読めるじゃろ」
「そのうち、って」
「転生先は、そなたの元愛車じゃ」
「……は?」
慶永が聞き返すと同時に、足もとの白が、ぐにゃりと渦を巻いた。
「ちょっ、待ってください、愛車って、まさか」
「達者でな、勇者よ。家族を守るのじゃぞ」
神様が、座椅子の上から、ひらひらと手を振る。
「説明が足りな——」
慶永の声は、渦のなかに、のみ込まれていった。
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## 三、目覚めたら愛車
最初に感じたのは、重さだった。
体が、ずっしりと重い。
いや、重いというより、「大きい」。
手も足も、頭も胴も、全部がひとまとめになって、四角い箱のようになっている感じがする。
次に感じたのは、においだった。
古いビニールシートのにおい。
ほこりっぽい空気。
それから、ほんのわずかに残っている、芳香剤の甘ったるい香り。
(このにおい……知ってる)
慶永は、目を開けた。
いや、開けた、という感覚は、少し違った。目を閉じていたはずなのに、いきなり「見えた」のだ。
目の前に広がっているのは、見慣れた景色だった。
自宅の駐車場。コンクリートの床。壁にかかった自転車。奥にはタケルの三輪車が、くすんだ赤色のまま、置きっぱなしになっている。
そして、視界の下のほうに、黒いボンネットが見えた。
フロントガラスの向こう側から、外を眺めているような視点だった。
(まさか)
慶永は、そこで、神様の最後の言葉を思い出した。
『転生先は、そなたの元愛車じゃ』
駐車場の隅に、埃をかぶったまま停められている、古い車。
十五年前、独身のころに、ボーナスを全部つぎ込んで買った中古車だった。結婚して、タケルが生まれてからは、家族向けのミニバンに乗り換えたので、この車はずっと駐車場の隅っこに置かれたままになっていた。
売ろうとした日もあった。けれど、どうしても手放せなかった。絵美里と初めてドライブに行った車だったからだ。
「しゃべってる! 俺、車になってる!」
そう叫んだつもりが、その声は、ボンネットのあたりから、ぼわんと響いた。
慶永は、あわてて口を閉じた。
いや、口はない。口を閉じる、という感覚が、どこにもなかった。
(どうやって黙るんだ、これ)
静かにしようと思っても、思っただけで、声が漏れてしまう。
さっきの叫びが、駐車場の壁にこだました。
そのとき。
ずうん、と地面が揺れた。
慶永の体が——車の体が、ぶるぶると震えた。
「な、なんだ?」
駐車場の出入口の向こう、住宅街の空が、不気味な色に染まっていた。
夕焼けのはずがない。
いや、時間の感覚が、さっきからおかしくなっているから、いまが朝なのか夕方なのかも、よくわからない。
けれど、その空の色は、明らかに「自然なもの」ではなかった。
赤と黒の、入り混じった色。
血のような赤と、墨のような黒が、空を這うように広がっていく。
その真ん中に、ぴしり、と一本の線が走った。
空が、裂けた。
まるで、紙を引き裂くように、青い空が左右に割れていく。
その裂け目の向こうから、巨大な影が、ぬうっと姿を現した。
宇宙船だった。
それも、一隻や二隻ではない。
赤黒い装甲を持った、とげとげしい形の船が、何十隻も、何百隻も、空の裂け目から這い出してくる。船体には、大きな「×」の印が刻まれていた。
ごごごご、と空気がうなる。
町じゅうから、悲鳴が上がった。
「きゃああああ!」
「なんだあれは!」
「逃げろ、逃げろ!」
遠くのほうから、サイレンの音が聞こえる。けれど、それも、すぐにかき消された。
空に浮かんだ船団の、いちばん大きな船から、低く、冷たい声が降ってきた。
『この星の者どもよ。聞け』
声は、町じゅうに響き渡った。
『われらは、銀河幕府バッテンダー。この星は、本日より、われらの支配下に入る。笑うことも、喜ぶことも、もはや許されぬ。悲しみこそが、この宇宙のあるべき姿だ』
空に向かって、ナレーションのような声が重なる。
(銀河幕府……バッテンダー……)
慶永は、神様の言葉を思い出した。
『悲しみで銀河を支配しようとする、恐ろしい連中がおってな』
これが、その連中なのだ。
本当に、来たのだ。
慶永は、車のフロントガラス越しに、必死で外を見回した。
絵美里は。タケルは。
二人は、家にいるはずだ。いや、この時間なら、タケルは学校から帰ってきて、絵美里と一緒に、近所のスーパーに買い物に出かけているかもしれない。
(どこだ。どこにいる)
そのときだった。
駐車場の入口の向こう、道路の角に、見慣れた姿が飛び出してきた。
買い物袋を片手にさげた、小柄な女性。
そして、その手に引かれた、小さな男の子。
「絵美里……! タケル……!」
絵美里は、空を見上げて、青い顔をしていた。タケルは、母の腕にしがみついて、目を丸くしている。
二人の周りの道には、他にも逃げ惑う人たちがいた。
ぶつかり合い、転びそうになりながら、みんな、どこへ逃げればいいのかもわからずに走っている。
絵美里は、タケルをかばうように抱き寄せながら、あたりを見回した。
そして、空から、一筋の赤い光が、まっすぐに降りてくるのが見えた。
ビームだ。
宇宙船から放たれた、赤い光線が、住宅街の屋根をなぎ払っていく。
「いやっ……!」
絵美里が、タケルを抱いたまま、しゃがみ込んだ。
逃げ遅れたのだ。
家の前、駐車場から、わずか三十メートルほどのところで、二人は、動けなくなっている。
慶永は、全身の——いや、車体全体の、すべての部品が、ぎゅうっと縮むのを感じた。
守らなきゃ。
あの二人だけは、守らなきゃ。
でも、どうやって。
この体は、動かない。
タイヤは地面に張りついたまま。
エンジンはかかっていない。
キーも、挿さっていない。
ただの、古い車だ。
「やめろ……」
慶永は、声をしぼり出した。
空の船団の中から、小さな影がいくつも飛び出してくる。
人型の機械兵士が、地上に降り立とうとしている。
そいつらの、冷たく光る目が、ゆっくりと、絵美里とタケルのほうを向いた。
「やめろ……そいつらは、俺の家族だ!」
慶永が叫んだ、その瞬間。
車体の奥底から、熱い何かが、一気に噴き上がった。
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## 四、ガシャァァン!
光が、あふれた。
慶永のボンネットが、フロントガラスが、ドアが、タイヤが、まばゆい白い光に包まれる。
駐車場の壁に、光が反射して、昼のように明るくなった。
熱い。けれど、焼けるような熱さではない。
体の芯から、力がわいてくるような、不思議なあたたかさだった。
(これが……神様の言ってた、「体が教えてくれる」ってやつか)
頭のなかに、なにかが、流れ込んでくる。
設計図のようなものだった。
腕はここ。脚はここ。胸のここに、エネルギーの炉。肩のここに、回転軸。
いくつもの線が、慶永の意識のなかで、つながっていく。
そのとき、慶永の耳に——いや、車体のどこかに、神様の声が、ふっと響いた。
『叫べ、勇者よ。変形の合図は、そなたの想いじゃ』
(想い……)
慶永は、目を閉じた。
絵美里の笑顔を思い浮かべた。
タケルの、歯の抜けた笑顔を思い浮かべた。
土曜日の約束を、思い浮かべた。
「うおおおおおおお!」
慶永は、腹の底から、叫んだ。
車体が、ばらり、とほどけた。
ボンネットが、二つに割れて、左右に開く。
それは、がっしりとした胸板になっていく。
ドアが、ばきん、と外れて、腕のパーツへと組みあがっていく。
後部のトランクが、がこん、と反転して、背中のユニットになる。
タイヤが、ぐるりと向きを変えて、脚の関節にはまった。
パーツのひとつひとつが、正確な動きで、あるべき場所に収まっていく。
そのたびに、駐車場じゅうに、金属の音が鳴り響いた。
「ガシャ、ガシャ、ガシャ、ガシャァァン!」
最後の部品が、ぴたりとはまった。
白い光が、ぱあっと弾けた。
光が収まったとき、そこには、一体の巨人が立っていた。
全高は、およそ二十メートル。
青と白を基調にした、がっしりとした装甲。
肩には、車のヘッドライトを思わせる、丸い大きなライトが埋め込まれている。
腰のあたりには、タイヤを模した太いパーツが組み込まれていて、その中央には、かつて慶永の愛車についていたエンブレムが、そのまま刻み込まれていた。
そして、胸の中央には、黄金色に輝く紋章が、燦然と光っている。
勇者ロボ「ファイン」。
それが、この巨人の名前だった。
慶永は、自分の手を見た。
いや、「手」というには、あまりにも大きい。鋼鉄の指が五本、きしみながら、ゆっくりと開いたり閉じたりしている。
(動く。……動くぞ)
視点は、さっきより、ずっと高い。駐車場の屋根が、足もとにある。
家々の屋根が、見下ろせる。道路の向こうまで、よく見える。
住宅街の景色が、おもちゃのジオラマのように見えた。
「これが……俺の新しい体!」
慶永は、思わず、そうつぶやいた。
その声は、さっきまでのボンネットから響いていた声とは、まるで違った。
低く、よく響く、頼もしい声だった。
実は、慶永は、ちょっとだけ、感動していた。
(ロボットって、こんなに、かっこいいのか)
もし、タケルがここにいたら、きっと目をキラキラさせて、大はしゃぎしただろう。
そう思うと、胸の奥が、きゅっと、あたたかくなった。
けれど、感傷にひたっている時間は、なかった。
「ギ、ギギッ……」
空から降りてきた機械兵士たちが、ファインの変形する光を、見つけたのだ。
彼らの目が、赤くぎらりと光る。
一体、二体、三体。
ずしん、ずしん、と重たい足音を立てて、機械兵士たちが、こちらへ向かってくる。
その手には、ビーム砲が握られていた。
『バッテン兵、前進。邪魔者を排除せよ』
空の声が、命令を下す。
慶永は、ぐっと、拳を握りしめた。
目の前の道には、まだ、絵美里とタケルが、しゃがみ込んでいる。
二人を、ここから動かさなくては。
いや、動かす必要は、ない。
守ればいい。
自分が、盾になればいい。
「行くぞ」
慶永は、地面を蹴った。
ずうん、と大地が揺れる。
ファインの巨体が、駐車場を飛び出して、道路へと躍り出た。
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## 五、家族に触るな!
バッテン兵は、三体いた。
全身が黒光りする装甲に覆われている。
顔にあたる部分には、のっぺりとした面があって、そこに、赤い目がひとつだけ、ぎらぎらと光っている。
胸の中央には、大きな「×」の印。
その三体が、ビーム砲を、同時に構えた。
「ターゲット、確認。排除」
「排除、排除」
機械の声が、感情もなく、ただ繰り返された。
砲口が、ゆっくりと持ち上がる。
狙いは、ファインではなかった。
彼らの砲口は、道路の隅で縮こまっている、二人の人間——絵美里と、タケルのほうを、まっすぐに向いていた。
「やめろおおお!」
慶永は、ファインの体を、全力で前へ滑り込ませた。
絵美里とタケルの前に、巨大な鋼鉄の背中が、立ちはだかる。
次の瞬間。
バシュウウウッ!
三条のビームが、一斉に放たれた。
赤い光が、ファインの背中に、まともに突き刺さった。
「ぐ、うっ!」
熱が、背中いっぱいに広がる。
装甲が、悲鳴を上げるように、きしんだ。
痛い。
車体のはずなのに、痛みがある。いや、「車体だった」はずなのに、いまは「体」なのだ。
けれど、慶永は、膝をつかなかった。
両足を、道路に踏ん張る。アスファルトが、ぴきぴきとひび割れた。
背中で、ビームを受け止め続ける。
慶永の背後で、誰かが、息をのむ音がした。
絵美里だった。
彼女は、突然現れた巨大なロボットを、呆然と見上げていた。
そして、その腕のなかのタケルも、大きな目を、いっぱいに見開いている。
「……ロボ……」
タケルの小さな声が、聞こえた。
「ロボだ……ほんもののロボだ……!」
その声は、怖がってはいなかった。
むしろ、どこかに、希望のような響きがあった。
慶永は、胸が熱くなった。
(待ってろ、タケル。パパが、必ず——)
いや、いま、パパだと名乗るわけにはいかない。
このロボットの正体を、二人に明かすのは、きっと、まだ先のことだ。
だから、慶永は、ただ、前を向いた。
「家族に触るな!」
ファインの声が、町じゅうに響き渡った。
ビームの嵐が、一瞬、やんだ。
その隙を、慶永は見逃さなかった。
地面を蹴る。ファインの巨体が、一気にバッテン兵の一体へと肉薄した。
握りしめた右の拳を、まっすぐに突き出す。
パンチ。
ただ、それだけ。
技の名前もない。
ただ、ただ、守りたい一心で、突き出した、素人丸出しのパンチだった。
ドガァァァン!
鋼鉄の拳が、バッテン兵の胸の「×」を、まともにとらえた。
バッテン兵の体が、紙きれのように宙に舞った。
民家の屋根を越え、電線をかすめて、空の彼方へと吹っ飛んでいく。
遠くで、きらりと小さな光がまたたいた。星になったのだ。
「やった……!」
慶永は、拳を見つめた。
手応えが、あった。
この体は、戦える。
けれど、喜んでいる暇はなかった。
残った二体のバッテン兵が、左右に分かれて、ファインを挟み撃ちにしようとしていた。
右から一体。左から一体。
ビーム砲を構えながら、じりじりと距離を詰めてくる。
「くっ……」
慶永は、あわてて、右を向いた。それから、左を向いた。
どちらかを相手にすれば、もう一方に背中を向けることになる。
背後には、絵美里とタケルがいる。
(まずい。どうすれば……)
そこで、慶永は、気づいた。
操作が、わからない。
神様は、「体が教えてくれる」と言っていた。
たしかに、パンチは自然に出た。歩くことも、走ることもできた。
けれど、ほかに何ができるのか、まったくわからないのだ。
説明書は、どこだ。
慶永は、無意識に、ロボットの腕を前に突き出していた。
まるで、見えないハンドルを、握っているかのように。
「操作がわからん! ハンドルは!?」
思わず、叫んでしまった。
その声は、バッテン兵にも、絵美里にも、タケルにも、はっきりと聞こえた。
一瞬の、静寂。
バッテン兵が、ぴたりと動きを止めた。
おそらく、プログラムにはなかったであろう、「謎の発言」に、理解が追いつかなかったのだろう。
慶永の背後で、タケルが、ぽつりと言った。
「……ロボさん、ハンドルがほしいの?」
「え」
「ぼく、おもちゃのハンドル、貸してあげようか?」
タケルは、真剣な顔で、小さなかばんの中をごそごそと探りはじめた。
慶永は、なんだか、泣き笑いのような気持ちになった。
(……いまは、そういう状況じゃないんだよ、タケル)
けれど、その、あまりにもまっすぐな言葉のおかげで、慶永の肩から、すうっと力が抜けた。
(そうだ。落ち着け)
慶永は、ふう、と深呼吸をした。
この体は、もともと「車」だった。
だったら、車らしく、戦えばいいのではないか。
慶永の頭のなかに、ひとつのアイデアが、ぽんと浮かんだ。
次の瞬間、ファインの両肩の、丸いヘッドライトが、ぱあっと光を放った。
ハイビーム。
まぶしいほどの白い光が、バッテン兵の顔面を、直撃した。
「ギッ!? ギギギ!」
バッテン兵の目が、ちかちかとまたたいた。
光に目がくらんだのだろう。ふらふらと、後ずさりをはじめる。
「効いてる……!」
慶永は、さらに、右腕を大きく振り上げた。
すると、右腕に、にょきっと細長いパーツが生えた。
ワイパー。
かつて、フロントガラスについていた、あのワイパーだ。
ただし、ファインの腕に装備されたそれは、鋼鉄でできた、巨大な刃だった。
「うおおおお!」
慶永は、ワイパーを、ぶんぶんと振り回した。
右へ、左へ。
バッテン兵の持っていたビーム砲が、ぱちん、ぱちんと叩き落とされていく。
「ギギッ!?」
武器を失ったバッテン兵は、うろたえて、ぐるぐるとその場で回りはじめた。
まるで、故障した洗濯機のような動きだった。
タケルが、後ろで、きゃっきゃと笑っている。
「ロボさん、すごーい! ワイパーだ! ぼくのパパの車にも、あるよ!」
「そ、そうか……」
慶永は、どう答えていいかわからず、あいまいに返事をした。
絵美里は、ぽかんとした顔のまま、タケルの肩に手を置いている。
(絵美里、そんな顔で見ないでくれ……)
けれど、チャンスは、いましかなかった。
二体のバッテン兵が、そろって、ふらふらしている。
「いまだ!」
慶永は、腰を落とした。
右足に、力を集める。
どうすればいいのか、今度は、体がちゃんと教えてくれた。
エンジンの回転数が、ぐんぐんと上がっていく感覚。
腰のタイヤ状のパーツが、ぐるぐると回りはじめる。
光が、右足に集まっていく。
「いけぇぇぇ!」
ファインは、渾身の力をこめて、地面を蹴った。
体をひねって、空中で回転する。
そして、そのまま、二体のバッテン兵めがけて、右脚を、まっすぐに突き出した。
キック。
ドゴォォォォン!
衝撃波が、道路じゅうに広がった。
二体のバッテン兵が、そろって、宙に吹き飛ばされた。
彼らは、手足をばたばたさせながら、空へ、空へと昇っていく。
雲を突き破り、大気圏を越えて、宇宙の彼方へ。
小さな二つの光が、遠くで、ぴかぴかと、またたいた。
ファインは、ゆっくりと着地した。
土煙が、あたりに舞い上がる。
それが、晴れていくにつれて、静けさが、戻ってきた。
道路には、もう、バッテン兵の姿は、どこにもない。
慶永は、荒い息をついた。
いや、ロボットには、息はない。
けれど、心の底から、はあ、はあ、と息切れしているような気分だった。
「……合体なんかしなくても、父さんは守る!」
無意識のうちに、口からこぼれていた。
合体、という言葉が、どこから出てきたのか、慶永自身にもわからなかった。
けれど、なんとなく、わかっていた。
このファインには、まだ、「その先」がある。
神様が言っていた、もっと大きな力が、きっと、どこかに眠っている。
でも、いまは、それを使う必要はなかった。
ただのファインのままで、家族を、守りきることができたのだから。
慶永は、そっと、背後を振り返った。
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## 六、ロボさんと、ぼく
空を覆っていた赤黒い雲は、いつの間にか、ゆっくりと薄れはじめていた。
空の裂け目は、まだ、遠くのほうに残っている。
船団も、完全に消えたわけではない。
けれど、いまは、嵐の前の静けさのように、ぴたりと動きを止めていた。
夕暮れの光が、町に差し込んでいる。
オレンジ色の空。
長く伸びた、電柱の影。
遠くで、どこかの家の窓が、そっと開く音がした。
まるで、何事もなかったかのように。
いや、何事もなかったわけではない。
道路には、バッテン兵のビームが焼いた跡が、まだ黒く残っている。
けれど、それでも、この町には、確かに、夕暮れが戻ってきていた。
ファインは、ゆっくりと、地面に片膝をついた。
そこには、絵美里とタケルがいた。
絵美里は、まだ、タケルを抱きしめたまま、じっとファインを見上げている。
買い物袋は、道の端に転がっていて、中身のにんじんが、一本、ころころと転がっていた。
タケルは、母の腕のなかから、そっと、顔を出していた。
その目は、まっすぐに、ファインを見つめている。
怖がっていない。
驚いている。それから、少しだけ、ほっとしている。そんな目だった。
タケルが、母の腕を、そっとほどいた。
「タケル!」
絵美里が、あわてて止めようとした。
「だいじょうぶ」
タケルは、にっこり笑って、母の手をぽんぽんと叩いた。
「この、ロボさんは、いいロボさんだよ」
絵美里は、何か言いかけて、結局、何も言えなかった。
タケルは、ててて、と数歩、前に進み出た。
小さな体が、巨大なロボットの前に立つ。
夕日が、その背中を、金色に染めていた。
タケルは、ファインを見上げて、ぺこりと頭を下げた。
「ロボさん……ありがとう」
その一言を聞いた瞬間、慶永は、胸のあたりが、ぎゅうっと熱くなるのを感じた。
ありがとう。
そんなふうに、タケルに言われたのは、いつ以来だろう。
朝は、タケルが起きるより早く家を出る。
夜は、タケルが寝たあとに帰る。
顔を合わせるのは、日曜日の朝、ほんの数時間だけ。
それも、疲れて、ソファでうとうとしているうちに、終わってしまう日もある。
最後に、まともに話をしたのは、いつだっただろう。
いつの間にか、タケルの背が、また伸びていた。
気づかないうちに、成長していた。
慶永は、何も言えなかった。
いや、言葉は、出てこなかった。喉が詰まって、声にならなかった。
けれど、ファインは、ゆっくりと、体を低くした。
巨大な鋼鉄の体を、そっとかがめて、タケルと、同じ高さに目線を合わせる。
本当は、抱きしめたかった。
抱きしめて、「ごめん」と言いたかった。
「ただいま」と言いたかった。
でも、それは、できない。
だから、慶永は、できるだけやさしい声で、言った。
「どういたしまして。……ケガはないか?」
タケルは、こくこくと、うなずいた。
「うん! ぼくも、ママも、だいじょうぶ!」
「そうか。よかった」
ファインの声は、少しだけ、震えていた。
タケルは、それに気づいたのか、気づかなかったのか、一歩、ファインに近づいた。
そして、小さな手を、ファインの足もとに、そっと伸ばした。
鋼鉄の足を、ぺたぺたと撫でる。
ひんやりとした金属の感触。
ところどころ、ビームで焦げた跡。
タケルは、それを、まるで大切な生き物を触るように、やさしく撫でていた。
そして、ふと、首をかしげた。
「あれ?」
「……どうした?」
「このロボさん……」
タケルは、鼻を、くんくん、とひくつかせた。
「パパの車の匂いがする」
慶永は、凍りついた。
「(ギクッ)」
心の声が、そのまま口から漏れそうになった。
パパの車。
たしかに、ファインは、もともと、慶永の愛車だった。
でも、タケルが、あの車の匂いを覚えているなんて。
もう、ずいぶん長いこと、あの車は、駐車場の隅に置かれたままだった。
タケルは、小さいころに、何度か乗せてもらったことがあるだけのはずだ。
絵美里が、ふっと、ファインを見上げた。
彼女の目が、少しだけ、見開かれた。
けれど、絵美里は、何も言わなかった。
ただ、その唇が、かすかに、動いた。
声にならない、小さな言葉が、夕暮れの空気のなかに、そっと溶けていった。
「……あなた?」
慶永には、聞こえなかったふりをするしかなかった。
ファインは、わざとらしく、咳払いをした。
いや、ロボットに咳払いはできない。
「ごほん」という音を、かわりに口から出しただけだった。
「き、気のせいじゃないかな。きっと、ロボットのオイルの匂いだよ。ほら、ロボットは、みんな、オイルの匂いがするんだ」
「そうなの?」
「そうだとも」
「ふうん」
タケルは、納得したような、していないような顔で、うなずいた。
それから、ぱあっと、顔を輝かせた。
そして、小さな手で、ファインの指を、ぎゅっと握った。
ファインの指は、タケルの体より大きい。
だから、タケルが握れたのは、その小指の、ほんの先っぽだけだった。
でも、その小さな手のぬくもりが、鋼鉄の体を通して、慶永の心に、確かに伝わってきた。
「ねえ、ロボさん」
タケルが、まっすぐに言った。
「友達になってよ。ぼく、タケル!」
慶永は、一瞬、息を止めた。
いや、止める息はなかったが、止めたような気がした。
友達。
父親として、でなく。
正体を明かすことは、できない。いまは、まだ、できない。
けれど、友達なら。
タケルの友達として、そばにいることなら、できる。
守ることなら、できる。
慶永は、ゆっくりと、ファインの顔を、タケルのほうへ向けた。
それから、できるかぎり、やさしい声で、答えた。
「……ああ。よろしくな、タケル」
タケルの顔が、ぱあっと、花が咲くように輝いた。
「やったあ! ロボさんが、友達になってくれた!」
タケルは、ぴょんぴょんと、その場で跳ねた。
絵美里が、そんな息子の姿を見て、ふっと、笑った。
どこか、泣きそうな目をして。
けれど、確かに、笑っていた。
ファインは、そっと、手のひらを、タケルのほうへ差し出した。
「乗るか?」
「いいの!?」
「ああ。落ちないように、しっかりつかまっているんだぞ」
タケルが、手のひらに、ぴょん、と飛び乗った。
絵美里が、心配そうに見守る。
「ママも、いっしょに?」
タケルが聞くと、絵美里は、首を横に振った。
「ママは、ここで待ってる。タケル、気をつけてね」
絵美里は、ファインを、じっと見上げた。
それから、深々と、頭を下げた。
「息子を……お願いします」
その声は、震えていた。
慶永は、ぐっと、こらえた。
そして、できるだけ、力強く、答えた。
「任せてください」
ファインは、ゆっくりと、立ち上がった。
手のひらのなかのタケルが、きゃあっと歓声を上げる。
そのまま、慶永は、そっと、タケルを、自分の肩のあたりまで運んだ。
ファインの右肩に、小さな少年が、ちょこんと腰かける。
そこは、ヘッドライトの上の、ちょうどいい平らな場所だった。
タケルの足が、ぷらぷらと揺れる。
「わあ……」
タケルが、声を上げた。
そこから見える景色は、いつもの町とは、まるで違っていた。
家々の屋根が、はるか眼下に広がっている。
電柱のてっぺんが、すぐ目の前にある。
遠くの商店街、小学校の校庭、川の土手。
すべてが、夕焼けのオレンジ色に染まって、きらきらと光っていた。
「すごい……」
タケルは、しばらく、口を開けたまま、その景色に見入っていた。
慶永は、何も言わずに、ただ、静かに、肩の上の小さな重みを感じていた。
ずっしりとした金属の体のなかで、その重みだけが、やけに、あたたかかった。
(ごめんな、タケル)
慶永は、心のなかで、そっとつぶやいた。
(ただいま、って言えなくて)
空の裂け目の向こうでは、まだ、バッテンダーの船団が、息をひそめている。
戦いは、まだ、はじまったばかりだ。
これから先、もっと強い敵が、現れるのだろう。もっと厳しい戦いが、待っているのだろう。
でも。
この肩の上の、小さなぬくもりがあるかぎり。
絵美里の、あの涙まじりの笑顔があるかぎり。
自分は、きっと、戦える。
慶永は、夕焼けの空を、まっすぐに見上げた。
そして、静かに、誓った。
(ただいま、とはまだ言えない。でも必ず、この子の隣に帰る)
夕日が、ゆっくりと、地平線に沈んでいく。
巨大なロボットの肩に腰かけた少年は、いつの間にか、小さな声で、歌を口ずさんでいた。
それは、家族でドライブに行くときに、よく歌った、他愛のない歌だった。
ファインは、その歌に耳を傾けながら、静かに、町を見渡していた。
鋼鉄の瞳が、夕日を映して、金色に光った。
勇者の、長い長い戦いの日々が、いま、静かに、幕を開けたのだった。
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**次回予告**
銀河幕府バッテンダーの、本格的な侵攻が、はじまる。
その先陣を切るのは、十二の「代官」のひとり。
怒りに燃える雄牛の影が、地球に迫る——。
そして、苦戦するファインの前に現れる、あの大型戦闘機の正体とは!?
次回、勇者転生ファインカイザー 第2話
銀河幕府の幹部、登場!