勇者転生ファインカイザー   作:騎士誠一郎

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第2話「全力合体!ファインカイザー」

 

 

 

## 一、息子に手を振られる車

 

朝の住宅街には、独特の空気がある。

 

どこかの家から、トーストの焼けるにおいが流れてくる。

ゴミ収集車が、角の向こうでのんびりとエンジンをうならせている。

電線にとまったスズメが、ちゅんちゅんと、誰に聞かせるでもなく鳴いている。

昨日の夕方、この町の空が赤黒く裂けたことなど、まるで夢だったかのような、穏やかな朝だった。

 

──いや、夢ではなかった。

 

松田家の駐車場の隅っこに、一台の古い車が停まっていた。

 

埃をかぶった、くすんだ色のボディ。

タイヤはすこし空気が抜けている。ナンバープレートは、もう何年も前の古いもの。

誰が見ても、ただの、使われなくなった中古車である。

 

その古い車の、内側の内側で。

 

(……おはよう、俺)

 

松田慶永は、心のなかで、自分にそう声をかけた。

 

ファーストアタックの日から、二日がたっていた。

 

ファインの体は、ふだんは、こうして愛車の姿に「擬態」している。

これは、神様に教えてもらった方法だった。

 

『巨大なロボットが、庭に突っ立っておったら、ご近所さんが驚くじゃろう。ふだんは車の姿でおるのじゃ』

 

そう言って、神様は、座椅子の上でころころと笑っていた。

 

もっとも、慶永は、いまでもこの状況に慣れていない。

 

自分の意識が、ボンネットのなかにある。

朝日が、フロントガラスにあたって、まぶしい。

エンジンルームから、かすかに自分の「鼓動」が聞こえる。

 

眠る必要はないらしい。それでも、夜のあいだは、ぼんやりと意識が沈んで、朝になると、ふわりと浮かび上がってくる。

その感覚だけが、人間だったころの「眠り」と「目覚め」に、少しだけ似ていた。

 

(今日も、静かな朝だな)

 

そう思ったときだった。

 

家の玄関のドアが、がちゃりと開いた。

 

「いってきまーす!」

 

元気のいい声が、朝の空気を揺らした。

 

赤いランドセルを背負った、小さな男の子が、玄関から飛び出してきた。

 

タケルだった。

 

黄色い帽子を、ちょっと斜めにかぶっている。

靴のかかとを、きちんと履ききれていない。

たぶん、ママに「靴はちゃんと履きなさい」と言われて、「はーい」と返事をして、そのままダッシュで出てきたのだろう。

 

玄関の奥から、絵美里の声が追いかけてきた。

 

「タケル! ハンカチは持った!?」

 

「もったー!」

 

「信号、ちゃんと確認するのよ!」

 

「わかってるー!」

 

慶永は、フロントガラス越しに、その光景を眺めていた。

 

ありふれた、朝の風景だ。

 

毎朝、この家で繰り返されていたはずの景色。

 

けれど、慶永は、この景色を、ほとんど見たことがなかった。

いつも、タケルが起きるより早く、家を出ていたからだ。

 

(……こういう朝だったのか)

 

胸の奥が、じんわりとあたたかくなった。

 

同時に、ほんの少し、ちくりと痛んだ。

 

見逃してきたものの大きさを、あらためて思い知らされたからだ。

 

タケルが、ふと、足を止めた。

 

駐車場のほうを、くるりと振り返る。

 

慶永は、どきりとした。

 

タケルの目が、まっすぐに、こちらを見ている。

 

(ばれたか?)

 

いや、ばれるはずがない。いまの自分は、ただの古い車だ。

 

そう思っていると、タケルは、にっこりと笑って、右手をぶんぶんと振った。

 

「いってきまーす、車さん!」

 

慶永は、完全に、固まった。

 

(……え?)

 

タケルは、一瞬だけ、いたずらっぽく片目をつぶったように見えた。

けれど、それは、朝日のきらめきが見せた幻だったのかもしれない。

 

すぐに前を向いて、通学路の向こうへと、元気に駆けていく。

 

赤いランドセルが、ゆらゆらと揺れながら、角を曲がって見えなくなった。

 

駐車場には、静けさが戻った。

 

慶永は、しばらく、動けなかった。

 

(息子に手を振られる車……)

 

ゆっくりと、その言葉を、噛みしめる。

 

(……悪くない)

 

心のなかで、そっと、そうつぶやいた。

 

ボンネットの下のエンジンが、かすかに、あたたかくなっていた。

 

家の玄関では、絵美里が、洗濯かごを抱えて、外に出てきたところだった。

彼女は、駐車場のほうを、ちらりと見た。

 

そして、何も言わずに、小さく微笑んで、洗濯物を干しはじめた。

 

慶永は、その微笑みの意味を、まだ知らない。

 

ただ、二日前の夕暮れに聞こえた、「……あなた?」という小さな声を、ずっと胸のなかにしまったままでいた。

 

(……いつか、ちゃんと話さなきゃな)

 

そう思いながらも、いまは、この穏やかな時間を、壊したくなかった。

 

空は、青く澄んでいる。

 

けれど、その青の、はるか向こうで。

 

すでに、次の嵐が、静かに、動き出そうとしていた。

 

---

 

## 二、玉座の間の怒号

 

同じ時刻。

 

地球から、はるか遠く離れた、冷たい宇宙空間の一角に、巨大な城のような建造物が浮かんでいた。

 

黒く、とげとげしく、あちこちに赤い光がまたたいている。

外壁には、あの不吉な「×」の印が、巨大なレリーフのように刻まれていた。

 

銀河幕府バッテンダー、その本拠地である。

 

城の最奥部には、天井がどこまでも高く伸びた、広大な部屋があった。

 

玉座の間。

 

床は黒曜石のようにつややかで、壁には、血のような赤いカーテンが垂れ下がっている。

部屋の奥には、数段高くなった壇があって、その上に、深い影に沈んだ玉座が、ひっそりと鎮座していた。

 

 

 

 

その、重苦しい静けさを、突然、ぶち壊す音がした。

 

ドガァァァン!

 

玉座の間の中央に置かれた、巨大な黒い机が、真っ二つに割れた。

 

机の上に拳を叩きつけた、巨漢の影が、ゆらりと立ち上がる。

 

ずん、と一歩、踏み出す。

 

そのたびに、床が、びりびりと震えた。

 

現れたのは、身の丈が三メートル近くもある、筋骨隆々の男だった。

いや、「男」と呼んでいいのかどうか。首から上が、まるごと雄牛の頭だった。

 

黒光りする、ねじれた二本の角。

 

ふーっ、ふーっと、荒い鼻息を吹き出す、湿った鼻。

 

血走った、燃えるような赤い目。

 

首には、金色の太い鎖。肩には、重たそうな黒い肩当て。

胸の中央には、牡牛座を示す紋章が、赤く光っていた。

 

銀河幕府バッテンダー、十二代官のひとり。

 

雄牛のオクジー。

 

「バッテン兵、三体が……!」

 

オクジーは、うなるように言った。

 

「蹴り飛ばされただと!? あの、くだらん、ちっぽけな星の、くだらん、ちっぽけなロボットにか!?」

 

傍らに控えていた、小柄な部下が、びくりと肩を震わせた。

 

「は、はい……報告によりますれば、ファーストアタックにて出撃した三体のバッテン兵は、いずれも宇宙の彼方へ吹き飛ばされ……」

 

「聞いておるわ!」

 

オクジーが、怒鳴った。

 

その声に、天井の飾りが、がらがらと揺れた。

 

「三体だぞ、三体! 我らが誇る、バッテンダーの精鋭兵が、三体も! しかも、パンチ一発と、キック一発で! たったそれだけで!」

 

彼は、荒々しい足取りで、部屋のなかをうろうろと歩き回った。

 

そのたびに、床の黒い石が、ひびを入れながら砕けていく。

 

「これは、十二代官全員の恥だ!」

 

オクジーは、ぐっと拳を握りしめた。

 

「宇宙最強を誇る、我ら銀河幕府の面目が丸つぶれではないか! 他の代官どもが、陰で笑っておるに決まっておる!」

 

「ま、まさか、そんな……」

 

「黙れ!」

 

部下は、あわてて口を閉じた。

 

オクジーは、ふーっと、長く、深い息を吐いた。

 

そして、ゆっくりと、玉座のほうを、見上げた。

 

玉座は、静かに、闇のなかに沈んでいる。

誰が座っているのかも、あるいは誰も座っていないのかも、ここからは、はっきりとは見えない。

 

ただ、そこから、凍りつくような視線が、ひしひしと注がれているような気がした。

 

オクジーは、すっと背筋を伸ばした。

 

「……大将軍閣下に、お約束いたしましょう」

 

彼の声は、さっきの怒号が嘘のように、低く、落ち着いていた。

 

「このオクジー、自らの手で、あの青いロボットを、粉々にしてご覧にいれます」

 

玉座からは、返事はなかった。

 

けれど、その沈黙こそが、許しだと、オクジーは理解した。

 

彼は、くるりと踵を返し、大きな足音を響かせて、部屋を出ていった。

 

部下が、あわてて、その後を追う。

 

重たい扉が、ばたんと閉じた。

 

玉座の間に、再び、冷たい静寂が戻る。

 

割れた机の破片が、ひとつ、からん、と床に転がった。

 

そのとき、玉座の影が、ほんのわずかに、動いたように見えた。

 

けれど、それに気づいた者は、誰もいなかった。

 

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## 三、ブラッディーホーン出撃

 

城の地下深くには、巨大な格納庫が広がっていた。

 

そこには、バッテンダーの精鋭が乗り込む、さまざまな機体が並んでいる。

ずらりと並んだ戦闘機、重装甲の戦車、見たこともない形をした、巨大な兵器たち。

 

そのなかを、オクジーは、どしん、どしんと進んでいった。

 

彼の目的の機体は、格納庫の、いちばん奥にあった。

 

分厚い鋼鉄の扉が、ぎぎぎ、と重たい音を立てて、ゆっくりと開いていく。

 

扉の向こうから、冷たい空気とともに、赤い光が漏れ出した。

 

そこに、それは、いた。

 

全長は、およそ三十メートル。

 

黒と赤に塗り分けられた、攻撃的なシルエット。

機体の前面には、牛の頭部を思わせる、いかつい装甲が取りつけられている。

その額からは、天を突くように、二本の巨大な角が伸びていた。

 

角は、ただの飾りではない。

鋭く研ぎ澄まされた、鋼鉄の槍だ。

先端が、赤い照明を受けて、ぎらりと、不気味に光っている。

 

胴体の両側には、太い脚。その先端には、蹄を模した、重たい足。

 

オクジー専用の、カスタムマシン。

 

「出るぞ、ブラッディーホーン!」

 

オクジーは、雄叫びを上げた。

 

彼の巨体が、軽々と宙を舞い、機体の頭部にある、コックピットへと吸い込まれていく。

 

ぷしゅう、と蒸気が吹き出した。

 

機体の目に、ぎらりと、赤い光が灯る。

 

ずうん。

 

大きな足が、一歩、前へと踏み出した。

 

「ブラッディーホーン、発進準備、完了」

 

管制官の声が、格納庫に響いた。

 

「カタパルト、オープン。目標、地球、日本の関東圏。座標、固定」

 

「待っておれよ……青いロボットめが」

 

オクジーが、にたり、と笑った。

 

牛の口の端から、ぽたりと、よだれが垂れた。

 

「その角で、貴様を串刺しにして、バッテン丸閣下の前に、引きずり出してやる」

 

「発進!」

 

どおおおおん!

 

ブラッディーホーンの巨体が、カタパルトに押し出されて、宇宙空間へと飛び出した。

 

赤い炎を引きながら、一直線に、青い星へと向かっていく。

 

その後ろ姿を、格納庫の隅から、じっと見つめている者がいた。

 

影のなかに、ひっそりとたたずんでいる、小柄な人影だ。

 

けれど、その視線も、すぐに、闇に溶けて消えていった。

 

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## 四、赤黒い雲

 

昼下がりの空が、突然、暗くなった。

 

住宅街の人々は、窓の外を見上げた。

 

さっきまで青く晴れていたはずの空に、赤黒い雲が、渦を巻いて広がっていく。

ごろごろと、遠くで雷のような音が鳴っている。

 

その、雲の中心から。

 

巨大な影が、ずん、と降りてきた。

 

「な、なんだ、あれは……」

 

「また来たぞ!」

 

「宇宙船だ!」

 

通りを歩いていた人々が、悲鳴を上げて走り出した。

 

ブラッディーホーンは、大気圏を突き破りながら、まっすぐに、住宅街の上空へと急降下してきた。

 

角の先端に、赤い光が灯っている。

 

そして。

 

「ぶちかませぇぇぇ!」

 

オクジーの怒号とともに、機体が、地面に突っ込んだ。

 

ズガァァァン!

 

凄まじい衝撃が、辺りを揺るがした。

 

角が、道路のアスファルトを、えぐった。

 

土煙が、もうもうと舞い上がる。

電柱が倒れ、塀が崩れ、車が宙を舞う。

 

たったの一撃で、道路に、巨大なクレーターが穿たれた。

 

「わあああ!」

 

「逃げろ、逃げろおお!」

 

人々が、四方八方に散っていく。

 

ブラッディーホーンは、土煙のなかから、ゆっくりと身を起こした。

 

角の先端から、ぱらぱらと、砕けたコンクリートの破片が落ちる。

 

「ふん、手ごたえのない街だ」

 

オクジーは、鼻を鳴らした。

 

「さあ、出てこい、青いロボット! 貴様の仲間が、どうなってもいいのか!」

 

その声は、町じゅうに、拡声器のように響き渡った。

 

松田家の駐車場。

 

古い車の姿のまま、慶永は、全身の部品が、ぎしりと軋むのを感じていた。

 

(来た……!)

 

空気が、ぴりぴりと震えている。

 

あの角の、ずっしりとした気配。

 

二日前のバッテン兵とは、まるで違った。

もっと、重たい、もっと、荒々しい。

 

慶永は、すぐに、気づいた。

 

あれは、「雑兵」ではない。

 

そして、同時に、もうひとつ、気づいた。

 

絵美里は、まだ、家にいる。

 

タケルは、学校だ。

 

学校は、ここから、歩いて十五分ほど。

ブラッディーホーンが暴れている場所とは、そこまで離れていない。

 

(二人とも、ここにいるわけじゃない。けど、この街の中には、いる)

 

逃げ惑う人々が、通りを走っていく。小さな子どもを抱えた母親。

杖をついた老人。買い物帰りの主婦。

 

誰もが、怯えた顔をしていた。

 

(また来たか……!)

 

慶永は、歯を食いしばった。

 

(家族のいる街は壊させない!)

 

その決意とともに、駐車場の古い車が、ぱあっと光に包まれた。

 

白い光が、あたりを照らす。

 

ボンネットが、割れる。ドアが、外れる。

タイヤが、くるりと向きを変える。

 

「チェーンジ、ファイン!」

 

金属の音が、駐車場に鳴り響いた。

 

二日前と同じように、パーツが次々と組み上がっていく。

 

そして、光が収まったとき、そこには、青と白の勇者ロボが、すっくと立っていた。

 

ファイン。

 

彼は、駐車場の屋根を軽々と越えて、道路へと飛び出した。

 

家々の屋根が、足もとを、びゅんびゅんと過ぎていく。

 

角を曲がると、クレーターの向こうに、あの黒と赤の機体が見えた。

 

ブラッディーホーン。

 

近くで見ると、その巨大さが、よくわかる。

 

ファインよりも、ひとまわり、いや、ふたまわり大きい。

 

オクジーは、ファインの姿を見つけると、にやりと笑った。

 

「ほう、ようやく現れたか」

 

「お前が、バッテンダーの親玉か」

 

「親玉? 笑わせるな。わしは、バッテンダー十二代官がひとり、雄牛のオクジー様よ」

 

ブラッディーホーンの角が、ぎらりと光った。

 

「貴様が、バッテン兵三体を蹴り飛ばしたというロボットか。その程度の力で、よくも我らに歯向かったものだ」

 

「俺は、ただ、家族を守っただけだ」

 

「ほざけ」

 

オクジーが、笑い飛ばした。

 

慶永は、拳を構えた。

 

背後には、まだ避難しきれていない人たちが、おびえた顔で、こちらを見ている。

 

ここで戦えば、被害が出るかもしれない。

 

けれど、ここで戦わなければ、もっと大きな被害が出る。

 

(やるしかない)

 

慶永が、腰を落としたときだった。

 

空から、不思議な声が、降ってきた。

 

「ファインよ!」

 

見上げると、そこには、ふわふわと宙に浮かぶ、深い緑色の座椅子があった。

 

その上に、白いひげの老人が、どっかりとあぐらをかいている。

 

神様だった。

 

座椅子は、ふよふよと、ファインのすぐ隣まで降りてきた。

 

「神様! いま、取り込み中です!」

 

「わかっておる、わかっておる。じゃから来たのじゃ!」

 

神様は、ごほん、と咳払いをして、ファインの車体の、後ろのほうを指さした。

 

「右の収納を開け! 新装備じゃ!」

 

「新装備?」

 

「そなたの得意な、トランクじゃよ!」

 

---

 

## 五、ボルグマグナム

 

慶永は、神様の言葉に従って、意識を、ファインの背中のほうへ向けた。

 

すると、体のどこかで、かちり、と何かが外れる感覚があった。

 

背中の、トランクユニット。

 

かつては、慶永の愛車の荷物入れだった場所が、がこん、と音を立てて、ゆっくりと開いた。

 

なかから、何かが、せり上がってくる。

 

それは、一丁の、銃だった。

 

いや、「銃」という言葉では、いささか足りないかもしれない。

 

全長は、ファインの身長の、およそ半分ほど。銀色に光る、ごつごつとした銃身。

握りの部分は、ファインの手にちょうど収まるように設計されている。

銃口は、人間の頭ほどもある太さで、その奥には、青白い光が、ゆらゆらと揺れていた。

 

慶永は、それを、ぐっとつかんで、引き抜いた。

 

「でか!」

 

思わず、声が出た。

 

銃を持ち上げた瞬間、ずしり、と重みがかかった。

腕の関節が、きしむ。

肩のパーツが、悲鳴を上げた。

 

「銃って、こんなに重いのか!」

 

「当たり前じゃ。ロボット用じゃぞ」

 

「重い重い重い!」

 

「集中せい、集中!」

 

神様は、座椅子の上で、手をひらひらと振っている。

 

慶永は、なんとか、両手で銃を構えた。

 

照準が、ふらふらと揺れる。

 

それでも、目の前のブラッディーホーンを、まっすぐに睨みつけた。

 

オクジーは、その様子を見て、腹を抱えて笑っていた。

 

「ぶわっはっはっは! なんだ、その不格好な構えは! 銃を撃ったことのない素人か!」

 

「悪かったな、素人で……!」

 

慶永は、歯を食いしばった。

 

(落ち着け。重いなら、重いなりに、当てればいい)

 

呼吸を整える。

 

いや、ロボットに呼吸はないのだが、気分だけでも、整える。

 

慶永は、銃口を、ブラッディーホーンの胸部に向けた。

 

「ボルグマグナム、装填!」

 

ファインの声が、町じゅうに響いた。

 

銃身の内部で、青白い光が、ぎゅうんと集まっていく。

 

キイイイイイン。

 

高い、澄んだ音が、あたりに響き渡る。

 

光は、だんだんと明るさを増していった。やがて、銃口の先で、小さな太陽のような光球が、ぎらぎらと輝きだす。

 

慶永は、ぐっと、引き金に指をかけた。

 

(当たれ!)

 

そして。

 

ドォォォォン!

 

青白い閃光が、銃口から、一直線に放たれた。

 

空気が、びりびりと震える。

 

光の矢が、まっすぐに、ブラッディーホーンへと飛んでいく。

 

通りの両側の窓ガラスが、一斉に割れた。

避難していた人たちが、思わず、耳をふさぐ。

 

閃光が、ブラッディーホーンの正面に、直撃した。

 

──かに、見えた。

 

けれど。

 

ガキィィィン!

 

乾いた、金属音が響いた。

 

閃光は、ブラッディーホーンの角に当たって、あっけなく、弾き飛ばされた。

 

光の粒が、あたりに、きらきらと散らばる。

 

角には、傷ひとつ、ついていない。

 

「な……」

 

慶永は、絶句した。

 

オクジーは、ゆっくりと、顔を上げた。

 

牛の口が、にたあ、と大きく開いた。

 

「その程度かぁ?」

 

声が、からかうように、響いた。

 

「蚊でも止まったか?」

 

「くっ……!」

 

「ぶわっはっはっは! 蚊だ、蚊だ! 蚊が止まったわ!」

 

オクジーは、また、腹を抱えて大笑いした。

 

慶永の胸のなかに、悔しさが、じわりと広がった。

 

(あんなに、光ったのに。あんなに、大きな音がしたのに)

 

まるで、紙の的に、小石でも投げたかのような、手応えのなさ。

 

「ボルグマグナムが、効かない……!?」

 

「落ち着け、ファイン!」

 

神様の声が飛んだ。

 

「あの角は、特殊な合金でできておる。ただの射撃では、通用せん!」

 

「だったら、どうすれば!」

 

「それは……えーと……」

 

神様は、ふよふよと座椅子ごと、空中を泳いだ。

 

「なにか、こう、すごい力が必要じゃな」

 

「ざっくりしすぎでは!?」

 

慶永が叫んだとき、オクジーが、ぐるりと機体の向きを変えた。

 

「さて、遊びは終わりだ」

 

ブラッディーホーンの足が、地面を、ぐりぐりと踏みしめた。

 

ずん、ずん、と蹄が、アスファルトに沈む。

 

その巨体が、ゆっくりと、前傾姿勢になった。

 

角の先端が、ファインの胸元に、ぴたりと、向けられた。

 

「そうら、ひと突きにしてくれる!」

 

慶永は、本能で、危険を悟った。

 

「しまっ──」

 

次の瞬間。

 

ドォォォォォォォン!

 

ブラッディーホーンが、地面を蹴って、突進してきた。

 

まるで、暴走する機関車のようだった。

 

前傾した角が、ファインの胸に、まっすぐに突き刺さる。

 

いや、突き刺さったというより、ぶつかった。

 

凄まじい衝撃が、ファインの全身を貫いた。

 

「ぐ、あああっ!」

 

ファインの体が、宙に浮いた。

 

そのまま、後ろへ、すさまじい速度で吹き飛ばされていく。

 

民家の屋根を、ふたつ、みっつ、突き破った。

 

ボルグマグナムが、手から離れて、くるくると回りながら飛んでいった。

 

そして。

 

ガガガガガガッ!

 

ファインの背中が、道路沿いの、七階建てのビルに、激突した。

 

ビルの壁が、くの字に、へこんだ。

 

ひびが、壁一面に走る。

 

窓ガラスが、雨のように降り注ぐ。

 

ずるずる、と、ファインの体が、壁をずり落ちていった。

 

ばらばらと、コンクリートの破片が、頭の上に降ってくる。

 

慶永の視界が、ちかちかと明滅した。

 

(痛い)

 

痛い。

 

全身が、痛い。

 

装甲のあちこちが、へこんで、ひしゃげて、悲鳴を上げている。

 

慶永は、地面に倒れ込んだ。

 

瓦礫が、その上に、どさどさと降り積もっていった。

 

---

 

## 六、ファイン、倒れる

 

土煙が、ゆっくりと、あたりを覆っていった。

 

まるで、世界から、音が消えてしまったようだった。

 

ファインは、瓦礫のなかに、倒れていた。

 

青と白の装甲は、傷だらけだった。

肩のヘッドライトのひとつは割れて、光を失っている。

胸のエンブレムには、深い亀裂が走っていた。

 

慶永は、目を開けた。

 

いや、目を開けているのかどうかも、わからなかった。

 

視界は、ぼんやりと、揺れている。

 

遠くのほうから、ずん、ずん、と重たい足音が近づいてくる。

 

「ぶわっはっはっは!」

 

オクジーの笑い声が、すぐそばまで来ていた。

 

「見たか、これが十二代官の力よ! さあ、立て! 立ってみせろ! 簡単に死んでもらっては、つまらんからな!」

 

慶永は、拳に力をこめようとした。

 

けれど、指が、思うように動かない。

 

(くそ……)

 

全身の痛みが、じわじわと意識を奪っていく。

 

このまま、目を閉じてしまえば、楽になれるかもしれない。

 

そう思った。

 

二日前に、胸が痛くなって、椅子から崩れ落ちたときの感覚が、ふっとよみがえった。

 

あのとき、慶永は、思ったのだ。

 

ごめん、と。

 

ただいま、と言えなくて、ごめん、と。

 

(……また、同じことを、繰り返すのか)

 

慶永は、拳を握りしめようとした。

 

そのとき。

 

遠くから、小さな声が、聞こえた。

 

「……車さん……」

 

慶永は、はっとした。

 

それは、風に紛れてしまいそうなほど、かすかな声だった。

 

けれど、慶永の耳は──いや、ファインの全身のセンサーは、その声を、確かにとらえていた。

 

瓦礫のなかから、少しだけ首を持ち上げる。

 

通りの向こう。

 

避難していた人たちが、身を寄せ合っている路地の、入口のあたりに。

 

小さな、赤いランドセルが、見えた。

 

黄色い帽子を、くしゃくしゃにして、握りしめている。

 

目に、いっぱいの涙をためて。

 

小さな体を、ぶるぶると震わせながら。

 

それでも、まっすぐに、ファインを見つめている少年が、そこにいた。

 

「車さん……ファインー!」

 

タケルだった。

 

学校から、帰る途中だったのだろうか。

それとも、避難の最中に、ここまで駆けてきたのだろうか。

 

慶永の胸が、どくん、と、大きく打った。

 

(タケル……!)

 

見られている。

 

息子に、いま、この無様な姿を、見られている。

 

(だめだ)

 

慶永は、心のなかで、叫んだ。

 

(こんな姿を、あの子に見せたままじゃ、だめだ)

 

痛みが、少しだけ遠のいた。

 

いや、痛みは、消えてなどいない。

ただ、それよりも、もっと強い何かが、体の奥底から、湧き上がってきたのだ。

 

慶永は、腕に力をこめた。

 

ぎし、ぎし、と、ひしゃげた装甲が悲鳴を上げる。

 

それでも、ゆっくりと、瓦礫を押しのけて、上体を起こしていった。

 

「ほう」

 

オクジーが、感心したような声を出した。

 

「まだ立つか。しぶといな」

 

慶永は、片膝を立てた。

 

ぼろぼろの装甲が、がらがらと崩れ落ちる。

 

「くそ……」

 

声が、かすれていた。

 

「家族の前だぞ……」

 

慶永は、ゆっくりと、顔を上げた。

 

破れた装甲の下で、ファインの目が、青く、強く、輝いていた。

 

「負けられるか……!」

 

オクジーが、鼻で笑った。

 

「負けられるか、だと? ならば、見せてみろ。その、ぼろぼろの体で、何ができるのかをな!」

 

ブラッディーホーンが、再び、前傾姿勢になった。

 

角の先が、ファインの胸元を、ぴたりと狙っている。

 

慶永は、立ち上がろうとした。

 

けれど、脚に力が入らない。

 

ぐらり、と体が傾いた。

 

(まだだ……まだ、終われない……!)

 

そのとき、空から、神様の叫び声が降ってきた。

 

「ファインよ!」

 

座椅子が、風を切って、ファインの顔のすぐ前まで飛んできた。

 

神様の顔は、さっきまでの、おどけた表情ではなかった。

 

真剣な、目をしていた。

 

「カイザードラゴンを呼べ!」

 

「カイザー……ドラゴン?」

 

「そなたの、本当の力の、片割れじゃ!」

 

神様は、声を張り上げた。

 

「ファイン単体では、あの角には勝てぬ。じゃが、ドラゴンと一つになれば、話は別じゃ!」

 

「ドラゴンと……一つに?」

 

「そうじゃ! 呼べ! そなたの魂で、呼ぶのじゃ!」

 

慶永は、一瞬、迷った。

 

カイザードラゴン、という名前を、聞いたことはない。

 

どんな形をしているのかも、わからない。

 

けれど。

 

慶永の胸の奥で、何かが、ぴたりと、はまる感覚があった。

 

まるで、ずっと前から、その名前を知っていたかのように。

 

(俺の、魂が……呼ぶ)

 

慶永は、目を閉じた。

 

絵美里の笑顔を思い浮かべた。

 

タケルの、歯の抜けた笑顔を思い浮かべた。

 

朝の、玄関の光景を思い浮かべた。

 

いってきます、と手を振る、小さな背中。

 

あの景色を、二度と見られなくなるかもしれないと思うと、怖くて、怖くて、たまらなかった。

 

けれど、その怖さが、そのまま、力になった。

 

「うおおおおおお!」

 

慶永は、拳を握りしめた。

 

そして、その拳を、天に向かって、思いきり突き上げた。

 

「来い! カイザードラゴン!!」

 

声が、空に、響き渡った。

 

一瞬の、静寂。

 

風が、ぴたりと止まった。

 

赤黒い雲が、ざわり、と揺れる。

 

そして。

 

雲の真ん中に、一筋の、金色の光が走った。

 

---

 

## 七、咆哮、飛来、そして

 

雲が、割れた。

 

まるで、天の扉が、ゆっくりと開かれていくように。

 

赤黒い雲の裂け目から、まばゆい光が降り注ぐ。

 

その光のなかを、一つの影が、猛スピードで降下してきた。

 

それは、巨大な戦闘機だった。

 

機体の色は、赤と青と白の、トリコロール。

胴体は、しなやかな曲線を描いていて、まるで竜の体のようだ。

機首は、牙を剥いた竜の頭部を模していて、その両眼には、金色の光が、らんらんと輝いている。

 

翼は、大きく広がり、その先端には、鋭い爪のような突起がついていた。

 

尾は、長く伸びて、ゆらゆらと、風に揺れている。

 

まさに、天空を翔ける、鋼鉄の龍だった。

 

戦闘機は、雲を突き破り、空気を切り裂きながら、地上へと迫ってくる。

 

「ギャオオオオオオ!」

 

龍の、雄叫びが、空に響き渡った。

 

それは、機械の音ではなかった。

 

まるで、本物の竜が、天に向かって咆哮しているかのような、魂を揺さぶる叫びだった。

 

町じゅうの人々が、思わず、空を見上げた。

 

「なんだ、あれは……」

 

「龍だ……龍が来た……」

 

「ロボットの……仲間か?」

 

避難していた人々が、ざわめいた。

 

タケルは、路地の入口で、ぽかんと口を開けていた。

 

そして、次の瞬間、顔じゅうに、ぱあっと、笑みが広がった。

 

「かっこいい……!」

 

小さな声が、こぼれた。

 

「ドラゴンだ……ほんもののドラゴンだ……!」

 

カイザードラゴンは、ファインの頭上に、まっすぐ降りてきた。

 

オクジーは、その様子を見て、目を丸くしていた。

 

「な、なんだ、あれは……!」

 

彼は、あわてて、ブラッディーホーンの機体を後退させた。

 

「貴様、まだ、そんな切り札を隠していたのか……!」

 

慶永は、ふらつきながらも、ゆっくりと、立ち上がった。

 

ぼろぼろの装甲、割れたライト、ひびの入ったエンブレム。

 

けれど、その背筋は、まっすぐに伸びていた。

 

「ああ……」

 

慶永は、空を見上げて、小さくつぶやいた。

 

「やっと、来てくれたな」

 

カイザードラゴンが、ファインの真上で、ぴたりと静止した。

 

金色の目が、ファインを、まっすぐに見下ろしている。

 

慶永は、その目を見つめ返した。

 

不思議な感覚だった。

 

この龍は、ずっと昔から、自分を待っていたのではないか。

 

そんな気さえ、した。

 

「行くぞ!」

 

慶永は、地面を、強く蹴った。

 

ずうん、と大地が鳴る。

 

ファインの体が、傷だらけの体を押して、高く、高く、跳躍した。

 

瓦礫を突き破り、ビルの屋根を越え、雲に向かって、一直線に昇っていく。

 

カイザードラゴンも、それに応えるように、機首を持ち上げた。

 

二つの影が、空中で、交差する。

 

次の瞬間。

 

カイザードラゴンの機体が、ぱかり、と、いくつものパーツに分かれた。

 

胴体が、左右に開く。翼が、ばらりと切り離される。尾が、外れて、くるくると回転する。

 

分離した部品が、ひとつひとつ、まばゆい光を放ちながら、ファインの周囲へと、舞い降りていった。

 

最初に、脚部のパーツが、ファインの足に装着された。

 

がきん、と、力強い音が響く。

 

傷だらけだった脚の装甲が、新たな、金色の縁取りのある、頑丈な装甲に包まれていく。

 

次に、腕部のパーツが、ファインの両腕にはまった。

 

がしん、がしん。

 

巨大な腕が、さらに太く、がっしりと形を変えていく。拳の部分が、竜の爪のように、鋭く伸びた。

 

そして。

 

胴体の、いちばん大きなパーツが、ファインの胸へと、ゆっくりと降りていく。

 

胸のエンブレムの亀裂が、光に飲み込まれていった。

 

ひびが、すうっと消えていく。

 

そのかわりに、胸の中央に、巨大な竜の顔を模した、金色のエンブレムが、ぎらりと輝きだした。

 

「家族のため!」

 

慶永の叫びが、空に響く。

 

「地球のため!」

 

光が、どんどん、あふれていった。

 

まばゆい光の球が、ファインを、すっぽりと包み込む。

 

ぼろぼろだった装甲が、光のなかで、次々と作り変えられていく。割れていたライトが、輝きを取り戻す。ひしゃげていた肩が、がっしりとした形に整えられる。

 

背中には、翼のような巨大なバックパックが、がしゃん、と展開した。

 

最後に、頭部に、竜の角をかたどった、金色のアンテナが、すうっと伸びた。

 

光が、ひときわ明るく、爆発した。

 

そして。

 

光の球が、ぱん、と、弾けた。

 

---

 

## 八、全力合体!

 

雲が、完全に晴れていった。

 

赤黒かった空は、まるで、何事もなかったかのように、本来の青さを取り戻していく。

 

その青空のなかで、東の空から、一筋の朝日が……いや、午後の太陽のはずなのだが、まるで夜明けのような金色の輝きが、静かに、差し込んでいた。

 

その光を背にして。

 

ひとつの巨大な影が、悠然と、空に浮かんでいた。

 

全高、およそ四十メートル。

 

赤と青と白の、トリコロールカラー。

 

胸には、黄金の竜のエンブレム。

 

両肩には、力強く突き出した、翼のような装甲。

 

腕は、太く、がっしりと、大地を砕くほどの力を秘めている。

 

脚は、どっしりと安定していて、どんな衝撃にも、びくともしなさそうだ。

 

頭部には、金色の竜の角。その下の、青い両眼は、強く、気高く、輝いていた。

 

勇者ロボ。

 

その名は。

 

「叫べ!」

 

慶永の心の奥から、熱い言葉があふれた。

 

「俺の名は!」

 

慶永は、拳を、天に向かって突き上げた。

 

そして、全身全霊の魂をこめて、叫んだ。

 

「全力合体・ファインカイザー!!」

 

その声は、雷のように、空に轟いた。

 

町じゅうの窓ガラスが、びりびりと震える。

 

地上にいた人々は、息をのんで、その姿を見上げていた。

 

「勇者ロボだ……」

 

誰かが、ぽつりとつぶやいた。

 

「勇者ロボが、来てくれた……」

 

「頑張れー!」

 

「負けないでー!」

 

どこからともなく、声援が上がった。

 

最初は、ひとり、ふたり。

 

けれど、その声は、あっという間に広がっていった。避難している人々が、恐怖も忘れて、拳を突き上げて、叫んでいる。

 

「ファインカイザー!」

 

「ファインカイザー!」

 

その声のなかで、ひときわ、小さな声が、はっきりと響いた。

 

「パ──」

 

タケルが、口を開きかけた。

 

けれど、すぐに、手で自分の口をふさいだ。

 

そして、きらきらと、輝く目で、空に浮かぶ巨大な勇者を見上げた。

 

「ファインカイザー、かっこいいー!」

 

満面の笑みで、タケルは叫んだ。

 

その声は、小さいけれど、慶永の耳には、確かに届いていた。

 

ファインカイザーは、ゆっくりと、地上に降り立った。

 

ずうん、と大地が揺れる。

 

足もとのアスファルトが、ひび割れた。

 

しかし、それは、さっきまでの、傷だらけの体が引きずる、重たい振動ではなかった。

 

力強く、頼もしく、安心を与えてくれる、勇者の一歩だった。

 

ファインカイザーは、ブラッディーホーンと、正面から向き合った。

 

オクジーは、口をぱくぱくとさせていた。

 

「な、な、な……なんだ、その姿は……!」

 

彼の声が、震えている。

 

牛の赤い目が、信じられないというように、見開かれていた。

 

「さっきまで、ぼろぼろだったではないか! それが、なぜ、そんな……!」

 

「お前が教えてくれたんだ」

 

ファインカイザーの声は、静かだった。

 

けれど、その底には、燃えるような熱が、確かに宿っていた。

 

「家族の前で、負けるわけにはいかない」

 

慶永は、拳を、ゆっくりと握りしめた。

 

巨大な鋼鉄の拳が、ぎしぎしと、音を立てる。

 

「俺の家族がいる街を、お前の好きにはさせない」

 

ファインカイザーの背に、金色の光が、ゆらりと立ち昇った。

 

その光は、まるで、竜の翼のように、大きく、美しく、広がっていく。

 

オクジーは、思わず、一歩、後ずさった。

 

けれど、すぐに、ぐっと踏みとどまった。

 

「く、くそ……! 図に乗るな!」

 

彼は、ブラッディーホーンの角を、再び、前に向けた。

 

「ちょっと姿が変わったくらいで、このオクジー様に勝てると思うなよ!」

 

「来い」

 

「ぬああああ!」

 

戦いは、まだ、これから始まる。

 

けれど、青空の下、堂々と立つ勇者の背中には、もう、迷いはなかった。

 

町の人々の声援が、風に乗って、どこまでも届いていく。

 

その声は、小さな少年の声と一緒に、ひとつの大きな力となって、ファインカイザーの背中を押していた。

 

太陽が、まぶしく輝いている。

 

空の彼方で、神様が、座椅子の上で、にんまりと笑っていた。

 

「やっと、本領発揮じゃな」

 

神様の独り言が、風に溶けて消えていった。

 

勇者ロボ、ファインカイザー。

 

その名が、この日、初めて、地球の空に刻まれたのだった。

 

---

 

**次回予告**

 

ついに姿を現した、勇者ロボ・ファインカイザー!

 

圧倒的な力で迫る、雄牛のオクジーと、ブラッディーホーンの猛攻。

 

そのとき、家族への思いが、新たな力を呼び覚ます!

 

必殺武器、その名も──タネガシマセイバー!

 

次回、勇者転生ファインカイザー 第3話

 

「雄牛を討て!」

 

君は、勇者の叫びを聞く!

 

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