犯罪奴隷になったので生きていくために闇組織の首領になる事にした   作:城之内

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第2話 運命の子供達

 

 

 前代未聞らしい八等級以上の異能(ギフト)。

 それを宿していた僕は早急に奴隷達と別れ、地下にある特別な牢に移された。

 

 等間隔で壁につけられたオイルランプの光が牢部屋を暖かく照らしている。

 

 床は石畳になっていて、他の牢屋と比べても広い。中には五つ簡易ベッドが置かれていた。

 

 牢には僕以外に四人の子供達がいる。全員、貫頭衣を着ていた。

 

 大人しく牢屋に入った僕を見て、マルキスが満足そうに頬を緩める。

 

「今のところ、お前達五人の買い手はこの国で名将と名高いブレイワード伯爵だ。功を積めば奴隷から解放されるかもしれんぞ。だが、まだ決まりではない」

 

 他により良い買い手がつけば、マルキスは躊躇いなくそちらに売ると言う。

 

「何せ八等級以上の異能(ギフト)ともなれば、三つある王家の耳にも入れなければな。彼らが伯爵家以上の額を提示すれば、私は彼らに売る。早速これから商談だ」

 

 マルキスの瞳が僕を捉え、弓なりに細くなる。

 

 彼にとって僕は、金のなる木という事だ。

 自分が異能(ギフト)を持っていた事は非常に喜ばしいが、王家に売られるのは勘弁願いたい。

 

 全ては国王が父から爵位を奪ったのが原因だ。父にも非があったかもしれないが、戦争で利き手を失った彼に国は手厚い支援や年金を一切支給しなかった。

 

 傭兵あがりの元平民だから、役に立たなくなったら躊躇なく捨てる。それがこの国の王の決定なのだ。

 

 王家にだけは売られたくない。国王のために奴隷として一生を奉仕するなど絶対に嫌だ。

 

「おい、デブッ。俺は奴隷になんかならねぇって言ってるだろ! 俺は戦士だッ、早く次の試合をさせろッ、戦わせろ!」

 

 僕の内心とは裏腹に上機嫌なマルキス。彼に対して、荒っぽい怒声を上げたのは僕と同じ牢にいる一人の少年だった。

 僕より年齢は少し上だろう。身体付きは鍛えられていて体格が良い。

 

 目付きは悪く、顔立ちは美形だがどこか野性味がある。

 金髪を短く乱雑に切っており、口からは鋭い八重歯が覗いていた。

 

「何度も同じ事を言わせるな。お前は戦士じゃない、闘技場で剣闘士を殴り殺した殺人犯、犯罪奴隷だ。運命を受け入れろ」

 

「アイツが父を侮辱したせいだ、ああなったのは自業自得だろッ」

 

 マルキスは去って行く。

 少年は鉄格子を掴み、必死に力むが、

 

「あ、そうだった。新入りのために実演感謝するが、格子を掴んだり衝撃を与えると、電流が流れる仕組みとなっている。私の異能(ギフト)、雷魔法を甘く見ない方がいいぞ」

 

 マルキスが言った通り、少年はバチバチと雷に打たれたように発光し、膝から崩れ落ちた。

 

「ではな」

 

 マルキスが出て行くと、途端に静寂に包まれた。気絶している少年には誰も何も言わない。

 

「……ふむ。なるほど」

 

 僕は格子付近で伸びている少年をベッドに連れて行って寝かせた。体格差があるので大変だったが、何とかなった。

 

 その後で他の三名の子供達を順に見つめる。

 

「……こんなところで一緒になったのも何かの縁だ。自己紹介しようか」

 

「「……」」

 

 無視されたが、僕はめげない。全体に話しかけるからいけないのだ。個人を指名すれば、話さざるを得なくなる。

 

 教室で授業中、先生が生徒を指名するのと同じだ。

 

「君はエルフかな。凄く可愛いね。僕、初めて見たよ」

 

「……うるさい」

 

 ほわりと可愛らしく欠伸するのは、人形のように整った顔立ちの幼女である。

 

 枝毛一つない銀髪を肩口で切り揃え、澄んだ碧眼は宝石のように美しい。肌は雪のように白かった。

 

 彼女は特徴的な垂れ目を閉じて、他の人間より長い耳を冷たい石畳に押し付け横になった。ひんやりして気持ちいいのだろうか。ベッドの方が良い気がするが。

 

 エルフなんて、この国では初めて見た。異世界だからいてもおかしくないが、十年間生きてきて存在を知らなかった程だ。

 

 いや、そもそもエルフで合っているかどうかも分からない。

 

「ごめんよ、眠いならベッドを使えば?」

 

「……」   

 

 なんと幼女はすぅすぅ寝息を立て始めた。本当に眠かったらしいが、この状況で安心したように寝れる精神に感心してしまう。

 

 彼女が一番精神的に強いかもしれない。

 

 諦めて、話し相手を変える。次に目に留まったのは燃えるような赤髪の美少女だ。

 

 彼女はベッドに座り、ツンと顎を上げて腕組みしながら足も組んでいる。

 

「ちょっといいかな?」

 

「謁見を希望かしら?」

 

「……え?」

 

 予想の斜め上の答えが返ってきて僕は言葉に詰まった。

 

「私に謁見を希望するなら、まず跪きなさい」

 

 僕は額に手を当てた。まともな奴はいないようだ。

  

 彼女もまた美しい容姿を持っている。形の良い頭部。吊り気味の大きな目。染みひとつない肌。長いまつ毛に、鼻筋はすっと通っている。  

 

「どうしたのよ、謁見しないの?」

 

「失礼いたしました、お嬢様」

  

 おままごとだと思って参加した。

 僕はここから出る上で、彼女たちの異能(ギフト)を把握しておきたいのだ。

 

「なってないわ! 私の事は王女殿下かフリッカ様と呼びなさい、下民」

 

「ではフリッカ様、僕の事はウィルベルとお呼びください」

 

「嫌よ。私は王女なの。指図なんてできると思わないで、下民」

 

 イラっときたが、僕は深呼吸して気分を落ち着かせた。

 

 相手はまだ子供。僕はすぐに手が出る父とは違うのだ。

 だがどうやらこの場にはクソガキしかいない。協力し合えれば何とかできるかと思ったが、これは無理だ。

 

「あ、えと、俺。セオドア……よ、よろしく、ウィルベル君……」

 

 と思ったのは早計かもしれない。

 

 牢の隅でもじもじしていた四人目の男の子。天然パーマ気味の長い髪が目元を隠している。

 

 明らかに人見知りそうだったから最後に回していたが、彼こそ天使だ。

 

「セオドア君。勇気を出して話かけてくれてありがとう、君だけはまともなようだ!」

 

「ちょっと下民! だけってどういう事よッ」

 

「……ああ、申し訳ありません、フリッカ様」

 

 丁寧にお辞儀をすると、ふふんと得意げに鼻を鳴らすフリッカ。別に訂正したわけじゃなくて、謝っただけだが納得したようだ。チョロい。

 

 お姫様気取りの馬鹿と睡眠大好き幼女はほっといて、最初から男二人だけで話せば良かったのだ。

 

 僕はセオドアがいる隅の方に寄って、彼の隣に座る。

 

「……セオドアくん。もし辛かったら全然話さなくて結構だけど、君みたいな良い子がどうして奴隷になったんだい?」

 

「あ、えと……俺は、その、口減らしで……両親に……売られたんだ」

 

 セオドアは心底落ち込んだように背を丸めた。

 ありがちな話だから一番生々しい。

 

「村は魔物のせい、で、飢饉らしくて……こういう、性格だから……俺が一番、役に立たないと、思われた、んだ……」

 

「……なるほどね。実際は異能(ギフト)を持ってた君が一番凄かったのに」

 

 鑑定の異能(ギフト)がなければ、どんな異能(ギフト)を持って生まれたか知る由はない。

 

 そして僕ら奴隷を鑑定してくれた鑑定士の言動から推測するに、鑑定料は非常に高額なのだろう。

 

 平民は基本鑑定を受けさせてもらえないようである。

 

 自力で自分の力に気付ければ良いが、本人は魔法を使いたいのに剣術の異能(ギフト)を持っていた、なんて意思とは逆の力を授かっている可能性もあるはずだ。

 

「兄弟や、両親と別れる、日に父さんが……こう言ったんだ」

 

『お前は、あまり俺達と喋らなかったもんな。父さん達の事が、好きじゃないんだろう?』

 

 だからこうなって良かったじゃないかと、父は不恰好な笑みを浮かべて告げたのだと。

 

「俺は……俺なりに、皆の事が好きだったのにッ……あまり話すのが、得意じゃ、ないだけだったのに……」

 

「……辛かったね」

 

 奴隷になって嬉しいわけない。

 

 この年頃の子が、両親に捨てられて悲しくないはずがない。

 

 彼の両親だって分かっていたはずだ。分かっていたが、この子を犠牲にしないと他が生きられなかったのか。

 

 僕は無言で彼の背中を摩っていると、

 

「そんなのより私の方が辛い過去を持ってるわよ! 私の話を聞きなさい、下民共ッ」

 

 何故か王女気取りの馬鹿が話に乱入してきた。自称王女だと供述している頭の痛い少女。フリッカの過去には然程興味がない。

 

 それより話が通じるセオドアの異能(ギフト)について聞いておきたい。

 

「ちょっと静かにして下さい。フリッカ様、王女様なら下々の意見を聞くものです。そういう立場が弱い者達を庇護する王達がのちの世で称えられるのですよ」

 

 何気なく適当に喋ったが、フリッカは目を丸くして硬直した。

 

「……亡きお父様も同じような事言っていたわ……」

 

 じーんと感じ入っているフリッカ。よく分からないが、これで静かになった。

 

「さてセオドアくん。質問していいかい?」

 

「う、うん。ただセオドア、で、いい、よ」

 

「本当かい? じゃあセオドア。君の異能(ギフト)はどんな力なのかな? 勿論教えたくなければ大丈夫だよ」

 

「……あ、えっと。クラフトっていう異能(ギフト)だった……」

 

「ふむふむ、クラフト。物作りが得意という事か。等級は?」

 

「六等級って、鑑定士の人は言って、た」

 

「ほう、三等級より上は凄く珍しいと聞いたけど。素晴らしいじゃないか」

 

「いや、そんな、事は……ただ器用なだけ、で……地味な力……だよ」

 

 セオドアは自嘲するように口をへの字に曲げた。

 

 その力でどんな事ができるのかは、彼も把握している途中らしい。

 

「私だって六等級の炎の魔法が使えるわ! 見なさい、下民!」

 

 また話に乱入してきたフリッカが、人差し指を立てて天井に向けた。

 すると、指先に炎が灯る。

 

「炎魔法……なるほど」

 

「光栄に思いなさい、下民。私の力を目にできた事を」

 

「コウエーです、フリッカ。あ、間違ったフリッカ様。でさ、セオドア。まず君の意思を確認したいんだけど、このまま奴隷として一生を過ごすのは嫌だよね?」

 

「……う、うん。嫌、だけど、もう……」

 

 諦めたように力なく笑う彼の肩を組み、僕は励ました。

 

「大丈夫。一緒にここから出よう。僕達は異能(ギフト)を持っている。鉄格子は雷が流れる仕掛けのようだけど、異能(ギフト)が封じられているわけじゃない」

 

「……そ、その、鉄格子だけじゃなくて。首輪と手錠にも、同じ仕掛けがあるん、だ。些細な衝撃にも、反応する仕組み、だから」

 

 僕は自らの両手に嵌められた枷を見下ろす。

 なるほど、他人に従う事を極端に嫌いそうなフリッカが大人しくしているわけだ。

 

「それでも、力を活かせば活路は必ず開ける」

 

 まずは僕の力を試したい。大変希少らしい八等級以上の異能(ギフト)を活かせば、牢からの脱出など容易いはず。

 

 ……容易いよね?

 

 まあとにかく発動してみないと何も始まらない。

 

「君はどうやってクラフトの力を発動しているのかな。発動している自覚はある?」

 

「……えっと、ない、かも」

 

「そっか」

 

「私にも聞きなさい! 勿論、跪いてからよッ」

 

 聞くまでもない。フリッカは明らかに自分の意思で炎を指に灯した。

 

 つまりゲームで例えると、異能(ギフト)には常時発動しているパッシブスキルと、能動的に発動するアクティブスキルの二種類があると考えられる。

 

 セオドアが前者で、フリッカは後者。

 

 僕のテイムは恐らく魔法と同じアクティブスキルだ。パッシブスキルのように常時発動しているなら、僕の周りには生き物が寄ってくるはずだから。

 

 なのでフリッカを参考にした方が良いだろう。

 

 見たところ彼女は難しい理論や工程をクリアして魔法を発動しているようには見えない。つまり魔法を使うのは簡単で、念じたり心の中で想像して行使するのではないか。

 

 だとしたら魔法と同様、僕のテイムも念じたりして使えるはずだ。

 しかしテイムする生き物がいない事には力は試せない。

 

「僕の異能(ギフト)はテイムというものなんだ。生き物を仲間にする力だと思われる。どうにか試してみたい。鼠とかはいるかな?」

 

「あ、い、いる、よ」

 

「え、ほんと?」

 

「よ、夜になると、音、するんだ。だから来てると、思う」

 

「なるほど。それは助かる」

 

 地下牢だから鼠くらいいてもおかしくない。

 隅に食べかすでも置いて放置しておけば確実だろう。

 

 そんな事を考えていると、地下牢に出入りするための扉が重々しく音を立て始めた。

 

「――食事の時間ですよ。奴隷の皆さん」

 

 トレイに皿を五枚乗せた長髪の優男がやってきた。

 口調は丁寧で顔つきも商人のようだが、身体は引き締まっている。

 

 腰に巻いたベルトには鞭が差してあった。

 

 ショタ好きのラズと同じで、彼も用心棒として雇われているのかもしれない。

 

「おや、今日はいつも殴りかかってくる少年が気絶していて助かりますね」

 

 革ベルトには鍵束が吊り下げられている。ただそれを使って牢の中には入ってこないようだ。

 

 鉄格子の下の部分に僅かな隙間が空いており、優男はそこからトレイを差し入れて僕達に寄越した。

 

 皿にはシチューが盛られ、パンが浸かった状態だった。量は少ないが人数分ある。

 

 僕が礼を言おうと口を開く寸前、彼がニヤけた表情で、

 

「……親殺しの新入り奴隷さん。貴方の分の食事にはサービスしておきました」  

 

「……」

 

 彼が指差したシチューの中には黒光りする虫が入れられていた。

 僕は愛想笑いを浮かべて皿を受け取る。

 

「食べていいですよ?」

 

「……ええ、有難く食べます」

 

 僕は虫を牢の外に捨て、汁を木のスプーンで掬った。

 

「おや、サービス品は気に入らなかったですか。まあ元騎士爵の子らしいので、虫入りは食べた事ありませんよね。全く惨めなものです。八等級以上の異能(ギフト)を宿していたそうですが、調子に乗らない方が良い。お前は一生、奴隷として他者に奉仕して生きていくんですから」

 

 優男はネチネチと口撃してくる。彼の言動に僕は得心がいった。

 

「……お兄さん、もしかして僕の異能(ギフト)、そんなに羨ましいですか?」

 

「……は?」

 

「僕とあなたは初対面なのに、目の敵にされる理由は妬みくらいなものですから。八等級以上はすごく珍しいですよね。お兄さんもどうせ僕より下でしょう? あ、そもそも異能(ギフト)持ってないか」

 

「クソガキが!」

 

 鉄格子の隙間から、優男の足が伸びてくる。頬を蹴られ、僕は後ろに吹き飛ばされた。手錠と首輪に衝撃が伝わり、電流が追撃してくる。

 

 セオドアが視界の端で、慌てて駆け寄ってくるのが見えた。

 悪辣に顔を歪めた優男の姿を最後に、僕の意識は暗転した。

 

 

 

 どれくらい眠っていたかは分からない。

 

 だが、気付くと僕はベッドに寝かせられていた。

 

 壁にかけられたランプの灯り全てが消えている。

 もしかしたら夜になっているのかもしれない。

 

 相変わらず石畳に寝ている耳長垂れ目銀髪幼女と、寝姿が綺麗な王女気取りの傲慢美少女。

 

「だ、大丈夫、だった?」

 

 僕のベッドのすぐ近くに座っていたセオドアと、

 

「……何だ、てめえ。俺と戦う気か?」

 

 自身のベッドで片膝を立てて上半身を起こしている金髪の少年。

 

 彼も意識を取り戻したらしい。

 

「いや、遠慮するよ。それよりも、君も一緒にここを出ないかい?」

 

「……俺は誰も信用しねえ事にしたんだ。話かけるな」

 

「そう」

  

 僕は痛む頬を摩っていると、ちらちらと視線を感じた。

 

 セオドアはどうやら聞きたい事があるらしい。前髪の隙間に隠れた彼の瞳と視線が交わるが、すぐに逸らされた。

 

「……セオドア、恐らく君は僕が親殺しだと言われた事について、弁明を求めているのかな?」

 

「……ご、ごめんっ、ウィルベルくんがまさかって……信じ、られなくて」

 

「僕の方こそごめん。親殺しは本当なんだ。だけど、僕は後悔していない。間違ってもいない」

 

 丁度良い機会だ。これから行動を共にするのだから、僕の身の上話を語って聞かせるとしよう。

 

 ただし前世の記憶は抜きにして、今生で得た僕達家族の話だけだ。

 

 居場所がなくなり心を失くした父を止めるため、そして母の命を救うために父を殺した。

 しかし、騎士団には全て話したのに、事情を考慮されずに問答無用で犯罪奴隷に落とされた。

 

 確かに人は殺した。父は死んだ。

 でも僕は自分が間違っていなかったと胸を張って言える。

 

 何故なら僕は母を守るために父を殺したのだ。結果的には母は死んだが、あの時の行動は何も恥じてはいない。

 

「分かるぜ」

 

 いの一番に肯定したのは意外な事に金髪の少年だった。

 

「俺は王都にある闘技場で生まれた。父はチャンピオンでな。強すぎて勝ち続けていた」

 

 僕は頷きながら続きを促す。

 

「……あんまりつえーからか、ある日八百長試合を持ちかけられた。わざと負けろと。親父は断った。そんな事できるかってな。だが、持ちかけた奴はこの国でも有数の貴族の坊ちゃんらしく……」

 

 食事に毒を入れられて殺された。

 

「チャンピオンは……舞台の上じゃなくて、闘技場にある食堂で死んだんだッ。親父はどれだけ無念だったか……剣闘士達は見て見ぬふり。仕舞いには勝ち続けるのがいけないと、死んで当たり前だと言いやがった! 俺は父を馬鹿にした奴を試合中に殴り殺してやった……俺も今だに自分が正しかったと思ってる」

 

「……そうだね。君は正しいよ。父の名誉を守ったんだ。立場が一緒なら、僕も同じ行動を取るだろう」

 

 僕はベッドから出て、彼の元に近付く。側に行って手を伸ばした。

 

「僕はウィルべル。家名は剥奪されたから、ただのウィルベルだ。異能(ギフト)はテイム。等級は八以上だとか」

 

「……俺はジーラン。異能(ギフト)は怪力。等級は五だ」

 

 がっしりと握手する。

 

 ジーランの手は硬く、僕より大きい。

 

「……作戦を考えたんだ。ジーラン、それにセオドア。君達の力を借りたい。ここを出て、僕達は自由になる」

 

 この国の法には従わない。何故なら僕達は間違っていないのだから。 

 

 

 

 

 計画の概要を二人に伝えた後、僕は一人だけ起きていた。

 

 良い子はとっくに寝る時間だろう。部屋の隅にはゴキブリ入りのシチューを食べずにぶち撒けてある。小さいが肉も入っているので、僕はじっとその時を待った。

 

 カサカサと音がして、僕は静かに起き上がり息を凝らして眺める。

 

 黒いラットが小さな肉を噛んでいた。

 

 セオドアの言う通りである。

 僕は明確なイメージの元、手を伸ばした。

 

「テイム」

 

 赤い光がラットの全身を包んだ。

 動きを止めたラットの目が僕と合う。そのまま近づいてきたラットの頭を、僕は親指で撫でた。

 

 テイム成功だ。これが僕の力。

 

 これが最初の一歩である。

 

 

 

 

 

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