犯罪奴隷になったので生きていくために闇組織の首領になる事にした 作:城之内
僕が犯罪奴隷に落とされてから五日が経過した。
その間に同部屋の四人の子供達ともある程度親睦を深めた。
テイムについては分かった事がある。
まずテイムと唱えて手を伸ばすと発動自体はできる。小さな虫なんかもテイムできたのでそこは間違いない。
テイムした動物と僕の精神は目に見えない糸で繋がっている。
それによって意思疎通ができるようだ。
念じて指示を送ると、ラットからも朧げに思念が返ってくる。ラットにはあの優男が出入りする隙をつかせて地下を抜け出させ、この奴隷商館の構造と配置された人の数を調べてもらった。
ちなみに小さな虫は僕の言うことを理解できないようなので、テイムしても意味がなかった。
また精神の繋がりは僕が強引に閉じる事もできるので、相手の思念がずっと頭の中に入り込んでくるわけではない。
閑話休題。
この地下牢から逃げ出す上で、一番厄介なのはラズだ。
ラットが見聞きした情報では、あの用心棒は僕の父と同じ五等級の剣術の
彼はマルキスと違ってこの商館に常駐している。
傭兵である彼の雇い主、マルキスは三日間商館を留守にしていた。
商談の結果、近々僕達はオークションに出品されるらしい。競り落とすのは恐らく三つある王家のどれか。
そうなる前に脱出しなければならない。決行は今夜だ。
夜に決めたのは闇に紛れる事ができるからというシンプルな理由と、昼間は奴隷を欲しがる富裕層の客が来るのだ。
客はどうでもいいが、その護衛が厄介である。障害は少ない方がいい。
「皆、『助けてくれ作戦』は理解したね?」
僕は四人を前に声を潜めて尋ねる。
銀髪タレ目幼女改め、レムリアは珍しく起きていた。
数日間の共同生活で理解した。
彼女は良く眠るし、良く食べる。
彼女に僕の分のパンをあげたら、名前を教えてもらえた。
とは言え、相変わらず意思疎通は苦労する。今もぼーっとしており、焦点が定まらない瞳で僕を眺めていた。
「……役を変更できねえか。馬鹿の振りはその女でもできんだろ」
ジーランが仏頂面で呟いた。彼の物言いに、フリッカが睨みながらぷくっと頬を膨らませた。
「下民風情が……なんたる口の利き方を……私を誰だと思っているのよ!」
「誰なんだよ、お前。知らねーよ」
「仲良くね、仲良く。チームワークが大事だから」
間を取り持ちながら、僕はセオドアに視線を向ける。
「俺は、いつ、でも大丈夫、だよ」
「そうかい。じゃあ始めよう」
皆と頷き合う。
僕は大きく息を吸った。
ジーランは冷めた自分の夕食を牢にぶちまけ、白目を剥いて倒れ込んだ。自身の首に手を当てて、苦しげに喘ぐ。演技指導の成果が出ている。
彼を囲むように僕以外の三人が配置につき、心配そうに覗き込んだ。
「――誰か助けてくれッ! ジーランが大変なんだ! 早く誰か!?」
僕は腹の底から叫びまくった。
地下牢に声が反響し、拡散されていく。
僕達は大事な商品だ。商品に何かあったらいけない。
「……どうかしましたか?」
案の定、出入り口の扉が開いて腰のベルトに鞭を下げた長髪の男がやってきた。
僕は迫真の表情で、
「息してないんだよッ、ジーランが! ほら見てッ! 多分喉に食べ物を詰まらせたんだッ」
「……では今、医者を呼んできましょう」
優男が視線を右往左往させて出ていこうとする。僕は焦燥を助長させるように地団駄を踏んだ。
「そんな時間ないってッ、彼を抱えて行ってよ! 早くしないと死んじゃうよ! 分かってるの? 彼が死んだら貴方は責任取れるの!? 買い手がもうついてるんでしょッ」
一瞬の判断が生死を分ける状況。
人間は焦ると正常な判断が下せなくなる。
「クソッ、仕方ありませんね……! 他は牢の端に寄ってくださいッ」
優男は鍵束から鍵を一つ取り出して僕達がいる牢の錠を開けた。こういう非常時のために鍵を持ち歩いているのだろう。
それが命とりになるわけだ。
僕達は言われた通り、牢の隅に寄る。
中に入ってきた優男がジーランの身体を抱える寸前。ジーランが跳ね起きて、彼の顎を掬い上げるように殴った。
「がッ!?」
十歳そこらの拳の威力ではなかった。怪力の
優男の身体は衝撃で簡単に浮き、天井に頭がめり込んだ。
プラプラと身体がしばらく揺れる。赤い雫が大量に垂れてきた。
「ぐっ、はぁ、はぁ……ざまぁ、みやがれ。何度も……鞭で叩きやがったお礼だ」
ジーランは手錠から伝わる電流に顔を歪めながら片膝をついた。
この役目は電流を何度も受けて耐性がつき始めた彼しかできなかった。
「流石ジーランだ。一撃で確実に殺せたのはでかい」
「……う、うぅ、き、気持ち悪い……」
セオドアが凄惨な光景から顔を背けた。
「こういう事は今後避けられない。割り切るしかないよ」
ぽんぽんとセオドアの肩を叩く。
どうしたってここから先は血を見る事になる。慣れているのはジーランと僕くらいだろう。
フリッカは青褪めた様子で口元を覆い、レムリアは見ないようにか閉眼していた。
僕は男の腰から鍵束を奪い、それをセオドアに見せる。
「あ、えっと……これ、がウィルベルくんの手錠の鍵で、こっちが首輪」
僕は二つの鍵を受け取り、言われた通りに鍵穴に差し込むとカチリと回って外す事ができた。セオドアの目利きは異常で、鍵穴を見るだけで一瞬で対応する鍵が分かるのだ。
「……よし、助けてくれ作戦大成功だ。ここからはアドリブなわけだが」
他の四人もセオドアのおかげで手錠と首輪から解放された。
レムリアだけ立ったまま寝そうになっていたので僕がやってあげた。
後は敵の戦力を削ぎながら、他の奴隷を解放しようと思う。勿論、善意からではない。
「フリッカ様。大丈夫ですか?」
「……え、ええ。大丈夫よ、むしろ清々するわ。この国の人間が酷い目にあって」
死体を見て顔色を悪くしている彼女を励ましている時間はなかった。
「――凄い物音がしたから来てみれば……」
地下と一階を結ぶ扉が再び開いた。ふらりと現れたのは無精髭が似合う歴戦の剣士。
マルキスの護衛役であるラズだ。
僕はまだ天井に頭が突き刺さったままの優男から鞭を拝借し、次いでに財布も抜き取った。
それから僕達五人は揃って牢屋を出る。オイルランプに照らされたラズの姿が番人のように扉前に立ちはだかっていた。
僕達とは十歩分の距離がある。
彼は口角を上げながら抜剣した。
「今ならまだ間に合う。大人しく牢に戻れ奴隷共」
面倒ごとを起こすなと忠告するわりに、ラズの瞳は実に楽しそうに輝いている。
僕は牢の中で死んだ優男を指差し、
「この人みたいになりたくなかったら、そこをどいた方がいいですよ」
「ははっ、お前そんな小生意気だったのか。益々そそるなぁ……」
ラズは瞳を細め、舌なめずりをする。
悪寒を感じ、僕は腕を摩った。
「
ラズが両手で剣の柄を握り、腰を低く落とした。
それだけで気分がソワソワしてくる。背筋が震え、肌が粟立ち、後ろに下がりたくなった。
滲み出る気迫と殺気は本物だ。
父も腕がもう一本あり、剣を握っていたらこうだったのかもしれない。
「本物を見せてやるよ、ガキ共」
「受けて立つぜッ、この戦士の相手は俺がする!」
ジーランが歯を剥いて拳を手のひらに打ちつけながら一歩前に出た。
ジーランとラズ。怪力と剣術の
だが、経験はラズの方が明らかに上だ。
「ランク7の傭兵として、その価値分は示さないとな」
床を蹴りつけたラズと同時に、ジーランが石畳を剥がして放り投げた。ラズは慌てず、それをバターのように簡単に斬り捨てる。
その隙にジーランが獣のような速度で襲いかかった。ラズの眼前に肉薄して拳を振るう。
ラズは鞘で拳の甲を叩いて受け流しながら、返す剣を振りかぶった。
右から左に水平に斬撃が向かってくる。上半身が断ち切られる軌道だが、ジーランは臆さず前進した。刃物に対して怯まずに立ち向かえる時点で、僕は大したものだと感心する。
戦いが日常の剣闘士として生まれ育った所以だろう。
ジーランは横から迫る剣の腹を上から殴って叩き落とした。そして左腕でラズを殴り飛ばそうとするが、
「がはッ」
その前に鞘がジーランの鳩尾に入っていた。
息が詰まり、呻き声を上げる彼の顔をラズは蹴り上げ、右手に持つ長剣を上段から振り下ろした。
僕は優男から奪った鞭をジーランの足首に巻きつけ、力一杯引く。体勢を崩して転んだ彼は無事ラズの一撃を回避できた。
更に、
「ちッ、炎魔法か……」
ラズの目と鼻の先で盛大に火花が散った。
突然の発火に、彼は眼球を炙られ苛立ちながら目を閉じる。
「……おい手を出すんじゃねえ。これは戦士と戦士の戦いだ、神聖な決闘を――」
「お礼の一つも言えないのかしら、この下民! 私が助けてあげなかったら死んでいたわよッ」
今は言い争いをしている場合ではない。視界が封じられたラズが縦横無尽に剣を振り乱し始めた。
その斬撃は何と宙を飛び、鉄格子を斬り壁を削っていく。
「……剣術の枠組みに嵌めていい力なのかな、あれ。五等級となるとあんな事もできるのか」
僕ら五人は急いで今まで閉じ込められていた牢の中に避難する。
「クソガキ共! もうお前らは殺すッ、死体になった後、男の方はゆっくり楽しんでやるッ。女は死体が好きな変態に売り飛ばす!」
バキン、バキンと鉄の格子が切断されていく音が響く。僕達がいる牢まであと少しだ。
「俺が隙を見計らって行く。あれは俺の敵だ」
「待ってくれ、ジーラン」
僕は彼の肩を掴んで止めた。斬撃の嵐と化したラズの懐に迂闊に飛び込めば斬り刻まれる。
「……レムリア。頼むよ、君なら簡単に倒せるだろう?」
僕は側にいる銀髪の幼女に頼み込んだ。彼女は眠そうなタレ目をゴシゴシ擦り、
「……ステーキ」
「え……?」
「ここ、出たらステーキ食べたい」
「分かった。食べよう、何とかするから」
「ん」
こくんと満足そうに首を縦に振ったレムリアは、ラズに片手を向けた。
瞬間、彼が握っていた長剣が静止した。ラズが振り下ろそうとしても、長剣は宙に固定されたように動かない。
「終わり」
レムリアが短く呟くと、剣はくるりと回ってラズの手から逃れ、彼の両手を斬り裂いた。
「……ぐあぁぁぁぁぁぁぁあッ!? う、嘘だ……あ、あぁ、俺の腕、がッ……」
ぼとりと太い傭兵の腕が二つ、転がり落ちる。膝をかくんと折ったラズの肘の先から鮮血が吹き出した。
ジーランは不満そうに握っていた拳を解き、セオドアは胸に手を当てて安堵し、フリッカは壁に背を預けて深呼吸している。
僕はぼーっとしたままのレムリアの頭を撫でた。
「よしよし、ありがとう、レムリア。もう君が最強だよ」
「レム最強」
幼女は満足げに薄い胸を張り、腕を持ち上げて上腕二頭筋を見せつける。だが筋肉は皆無で、細すぎる腕に心配になるだけだった。
彼女の
とは言え、注意点として肉体は幼女でしかないので目視できる所に金属がないと完全に無力だ。
「さ、先を、急ごうっ」
セオドアがそう告げた。
他の三名も頷くが、僕は少し試したい事ができた。
「……ちょっと待ってくれ皆。ラズ、このままじゃあ貴方は死ぬ」
牢から出て、僕は血に塗れながらうつ伏せで倒れている剣士に歩み寄った。
「……どうせ、逃げられ、ねえ、ぞ……奴隷、共……マルキス、の、旦那は、貴族とも、繋がって、るが、裏社会とも……」
「貴方を止血して助ける事はできる。フリッカの魔法で傷口を焼けばね」
「はぁ? 何を勝手な事言ってるのよ、そんな奴ほっといて先に行くの!」
僕は静かにと唇に人差し指を置く。もはや番人は片付けた。この商館に、脅威となる者はいない。
「その代わり、実験に付き合ってほしい。テイムを受け入れて欲しいんだ」
五等級の剣術の
等級が高いと、大幅に能力が強化される。
僕は八等級以上のテイムの
「テイム」
だから試してみた。手を翳して唱える。
赤い光の膜がラズの全身を包み込みはじめた。僕は歓喜に笑みが溢れるが、テイム寸前でバチっとまるで拒否されたように赤い光が弾けた。
「……俺を……動物のように、支配、できると思う、なッ。地獄に、落ちやがれ」
虚ろな目でラズは僕を見つめた後、そのまま血反吐を吐いて生き絶えた。
やはり僕の仮説は間違っていなかった。
人もテイムできるらしい。その事実が分かっただけで収穫は十分だ。
ラズは死んだが、元々テイムに成功しても殺すつもりだったので何とも思わない。両腕がない剣士なんて生かす方が可哀想だ。
地下牢から出る前に、僕はラットに指示を出した。
了承したラットは地下を出て、ラズが開けた扉から階段を登って一階に向かう。
一階の状況がどうなっているか偵察に出てもらう。
二分少々経つと、ラットが思念で返事をしてくれる。奴隷商館は閉店からしばらく経っていて、従業員の姿は既にない。
出入り口には武装している人間が一名いる。
新しく雇ったのだろう。王族との取引は失敗できない。警備を増やすのも当然だ。
外部からの襲撃を警戒しているようだが、もう少し内部からの襲撃にも気をつけた方が良かった。もう後の祭りだが。
「……マルキスは二階の応接室にいる。出入り口に武装した人間が一人、応接室の前にも一人、計二人。マルキスの元には客人が来ている。まだ反乱は気付かれていないね」
僕は皆に指示を飛ばす。
「……僕は一階の調理場に用がある。セオドアとフリッカは奴隷達の解放だ。ただ牢から出すだけで、手錠と首輪を付けたままにして欲しい。ジーランとレムリアは武装した奴ら二人を始末した後、三階にある金庫の中身を奪って欲しい。金庫の場所はラットに案内させる」
「分かった。レムリアは入り口の奴を頼む。俺が二階に行ってあの豚野郎を殺す」
「それでいい」
「……ステーキ二枚目」
「いいよ、何でも。というかエルフって肉食べられるんだね」
少しの間、別れて行動するが彼らは最高の人材である。
今後とも末長く付き合っていきたいものだ。
◇ ◇ ◇
マルキスは最近、常に上機嫌だった。
リンバルタ王国を治める三つの王家、アインゼル、フラージア、ロンヴァルクの当主達との商談がまとまったのだ。
いずれも八等級以上の
王家は理解を示した。一つの王家に売り払えば、他の二家の反感を買う。
現国王を輩出しているアインゼル家が庇護を約束し、マルキスは他の奴隷商人にも話を持ちかけ、二週間後に大々的に奴隷オークションを開催する事に決めた。
八等級以上の
ちなみに二人目はアインゼル家の神童、リンバルタ屈指の精鋭で構成された国王直属組織【
九等級も王家が抱えている鑑定士と、ランク10の傭兵しかいない。
それだけ等級が高い者は希少なので、王家が死に物狂いで手に入れようとするのも納得だ。
当初の買い手だったブレイワード伯爵家には悪いが、オークションなので目玉となる八等級以上の子供以外にも商品が必要だ。なので等級が高い子供達四名も出品するつもりである。
そんなこんなで三日間、王家の使いとオークションの段取りや会場を相談し、今後の計画を立てて自らの商館に帰った。
それから二日後、マルキスの元に身なりの良いスーツ姿の男が訪れた。彼は下町にあるスラム街を根城にする組織の者である。
奴隷を売る相手は表社会にいる者達だけではない。裏社会を生きる人間も必要としている。
世間話を切り上げた焦げ茶色の髪をオールバックにした男は、煙草の煙を吐き出しながらソファの背もたれから背を離した。前のめりで口を開く。
「近々、八等級以上のテイムの
「……オークションの目玉商品がもうバレているとは。王家の連中め」
「我々のシノギにお偉い連中も夢中だからな」
彼らが言うシノギとは裏闘技場と呼ばれている。
王都にある闘技場は殺人が禁止されている。剣闘士達が一対一で戦う合法的な興行だ。光魔法の
最近、デビュー戦を迎えた十一歳の剣闘士が制止を聞かずに相手の剣闘士を殴り殺したが、滅多にない事例だ。
対して裏闘技場とは、捕らえた魔物を使って行われる興行である。
そこでは殺人が推奨されている。魔物同士を殺し合わせたり、魔物と奴隷を殺し合わせたり。
マルキスも何度か目の前の男の組織に奴隷を売った事がある。勿論、観戦した事もだ。
「私は残念だよ、マルキス。金に目が眩んだな。王家の連中にまず話を持って行くとは」
「……お前達もオークションに参加すれば良いじゃないか」
「貴族が絡む競売に堂々と参加はできんね。そもそも我々がテイムの
「まさか今更組織に売れというのか? そんな事できるはずがないだろう。どうしても欲しいと言うなら王家と話を付けろ」
「もし代替案があるとしたら聞くか?」
「馬鹿を言うなよ。代わりとなる八等級以上の
「いや、三等級の
「騙せるはずがない。王家には専属の鑑定士がいる。それに鑑定書は既に王家に提出して――」
そこで、マルキスは不自然に言葉を止めた。
店の入り口付近が妙に騒がしい。
窓際によって店前を見下ろすと、新しく雇ったランク6の傭兵が首から血を流して死んでいた。
呆気にとられた後、マルキスは叫んだ。
「しゅ、襲撃だッ、ラズは何をしている!?」
「……おい、状況はどうなってる」
オールバックの男が部屋の外で待機させている護衛に声をかけるが、反応の代わりに怒号が上がった。
ドタバタと階段付近が慌ただしくなり、少しして悲鳴が上がって静かになる。
マルキスと組織の幹部は互いに顔を見合わせた。
どちらも青褪めており、額には汗が滲む。
扉がゆっくりと開けられた。
「よう、豚。今日がお前の命日になるぞ」
金髪を短く切った野性味溢れる少年は、全身に返り血を浴びながら歯を剥いて嗤った。
◇ ◇ ◇
僕が調理場に行ったのは油壺を手に入れるためだ。
コップに汲み取り通路に撒いていく。ビシャビシャになった廊下を満足げに眺めていると、レムリアが戻ってきた。
相変わらず眠たげで、ゆらゆら身体をふらつかせている。
次にジーラン。肩の上にラットが乗っている。汚れ一つないレムリアに反して、彼は全身に血が付着していた。加えてパンパンにお金が詰まった頭陀袋を背負っている。
セオドアとフリッカもまた奴隷を解放し終えたようだ。商館には三十名以上の奴隷達がいる。
その中の一人に僕は話しかけた。
「手錠と首輪の鍵を渡す代わりに、お願いがあります。この館を炎魔法で焼き払って欲しいんです」
僕と同時期に商館に来た犯罪奴隷、盗賊の頭のような男は僕にガンを飛ばしながら鼻の穴を膨らませた。
「いいからさっさと鍵を渡しやがれ」
ジーランが木製の柱の一つに手を置き、握力で一部を抉り取った。
それを見て男は狼狽える。
「言う通りにしてくれます?」
「わ、分かった。やればいいんだろっ」
彼が指先から火花を飛ばした。油のせいで、急激に廊下が燃え始める。
フリッカはまだショックを受けるだろうから、彼にやらせた。
確認した僕は奴隷達に向けて鍵束を放り投げる。
「早く鍵を手に入れないと焼け死にますよ」
まるで池に放り込まれた餌に集まる鯉のように、奪い合いを始める。中には殴り合う者もいる。しかし、手錠と首輪に衝撃が加わり、奴隷達は次々に電流によって動けなくなった。
「あらら、折角鍵を渡したのに残念です。まあ僕達には関係ないか。さあ、気を取り直してここを出るとしよう」
「え、で、でも、このままじゃあ……」
「セオドア。君は本当に優しいね。でも考えて欲しい。僕達には生き抜けるだけの力がある。特別な力がね。でも
セオドアは純粋だ。なるほどと澄んだ瞳で納得してくれた。良い子だ。
火の手が回るのが早い。騎士団が駆けつける頃には、奴隷達は全員焼け死んでいるだろう。中には僕達ぐらいの子供も多数いる。
つまり死んだ奴隷が
いずれは生存がバレるとしても、しばらくは時間が稼げるはず。
これで僕らは自由だ。