社会人なので次の更新日は未定
勇者ヒンメルの死から27年後
とある森の中
「──フェルン、今なんて?」
フェルンは驚いた。
いつもは話を最後まで聞くフリーレンが、話の遮り疑問をぶつけてきたからだ。しかも、食い気味に。
「急にどうしたんだよ」
「いいから。さっき魔族の特徴は何だって言った?」
「えっと……扱う魔法は不明ですが、その魔族は片方の角が途中で折れていたと」
「隻角の魔族…」
その瞬間、フリーレンの魔力が膨れ上がった。
魔力制限。魔族すら欺くその技術が、制御を失っていた。
近くにいたフェルンとシュタルクはその圧力に言葉を失った。
フェルンは魔力が感知できるが故に。シュタルクは戦士としての勘が鋭いが故に。
「ふ、フリーレン様! 落ち着いてください!」
「そうだぜフリーレン! なんか怖いって」
「……ごめん」
フリーレンは気まずそうな顔をして謝った。
「それで、フリーレン様はその魔族を知っているのですか?」
「うん知ってるよ。変幻のエルカラート、千年以上を生きる大魔族だ」
フリーレンの言葉にシュタルクが「せ、せんねん…」と言葉を零す。
「それって、フリーレンと同じくらい長生きってことか?」
「む? それって、また私のこと年寄り扱いしてる?」
「シュタルク様、反省してなかったのですか?」
「違うって! やめて、そんな目で見ないで!」
シュタルクのガラスのハートは傷ついた。
「長く生きている、ということは魔力も相当多いですよね」
「そうだね。前にも言ったけど、長く生きただけ魔力は増えていく。この点に関しては、人間も魔族も同じだよ」
魔法使いの全盛期と言うのは一概に決めることができない。
若いうちの方が身体は動くが、年を取ってからの方が魔力量は増えて経験豊富になっている。
だが、これは人間の話。魔族はどうか?
「そんなの、勝ち目なんてないんじゃないか? 魔族の方が力も強くて魔力も多いんだろ? 勝てっこないよ」
「そうですね。シュタルク様の言う通り、自分より魔力が多い相手に勝つイメージはとても…」
「2人とも勘違いをしているよ」
顔を俯かせる2人はフリーレンの言葉に顔を上げる。
「言っておくけどね、魔法使いの強さを決めるのは魔力だけじゃないよ。技術や経験、扱う魔法やコントロール、努力と根性……」
「何か戦士みたいなの混ざってるぞ」
「そして、才能」
「私は今までの人生で自分より魔力の低い魔法使いに12回負けたことがある」
フリーレンの語りにフェルンが言葉をはさむ。
「クヴァールもその一人でございましょうか?」
「そうだね。
「じゃあ、そのエルカラートってやつもヤバい呪いを使うのか?」
「違うよ。………いや、どうなんだろ? 分かんない」
「えぇ……」
フェルンとシュタルクの声が重なった。
「あいつの使う魔法は
「天敵……でございますか」
「そう。フェルン、魔法使いにとって最も重要なことって何だと思う?」
ここで、魔力なんて答えようものなら今まで何を聞いていたんだという話だ。
フェルンは少し考えた後、答えを出した。
「イメージ、でしょうか?」
「うん、正解。才能と言ってもいろいろあるけど、結局はイメージできるかどうかが一番大事だ。たとえ同じ魔法を使っていても、術者のイメージ次第で効果は変わるものだ」
若干話についていけていないシュタルクに「戦士にとっては勇気かな?」とフリーレンは付け足した。
シュタルクはすべてを理解した。
「例えばだけど、フェルンは私を殺すイメージができる?」
「フリーレン様をですか? それは、難しいと思います」
「無理とは言わないんだね?」
「……はい。不意を突けばなんとか」
「いいよ。私から聞いたんだ。正直に答えてくれてありがとう」
答えにくそうにするフェルンに対してフリーレンは謝る。
そして、次にシュタルクに視線を向ける。
「シュタルクはどう?」
「無理だろ。空飛ばれたら俺近づけないし、遠くからビーム撃たれたら何もできないし」
「そうだね。でも、今すぐにならできるんじゃない? この距離は戦士の間合いだ」
「……」
「ほら、やっぱり」
「シュタルク様最低です」
「そんな目で見ないで! やらないから!」
できないのではなく、やらない。
フリーレンはあえて口にしないが、2人から引き出したい言葉を引き出すことはできた。
「大事なのは、勝つ見込みがあるかどうかだよ。少しでも可能性があると思えば、勝つイメージを思い描くことができるし、戦う勇気もわいてくる」
「精神論ですね」
「意外と魔法も根性だったりするのか?」
「その通りだよ。シュタルクにも分かるように単純に言うなら、魔法使い同士の戦いはじゃんけんのようなものだからね。相性を乗り越えるのは大変なことだ」
パーはチョキに勝てない。
チョキはグーに勝てない。
グーはパーに勝てない。
それを覆すには、他の部分で相手より大きく秀でていなければならない。
「じゃあ、最強の魔法はないのか?」
「ない。だけど、もしあるとすれば、相手がじゃんけんで何を出すか事前に分かっていればいいんだ」
「フリーレン様、それは…」
「そう。だから私はエルカラートに勝てるイメージがわかない」
「
だからこその天敵。
魔法使いたちにとっての天敵。
「どんな呪いよりも質が悪いよ。本当に、
フリーレンはある魔導書をぎゅっと握る。
その著者はフランメ。人類の歴史において、魔法の開祖とも呼べる人物が書いた書物。
偽物ではない。
唯一、本当にフランメが書いた魔導書であった。
◆
勇者ヒンメルの死から1000年以上前。
とある森の民家。
「
記されたその魔法にフリーレンは首を傾げた。
聞いたことのないものだったからだ。
「師匠、何これ?」
「それは魔族の魔法だ。習得できるものじゃない」
「魔族…」
言われて、表紙を見る。
今フリーレンが見ているのは、主に精神系の魔法についてまとめられた手記だった。
「じゃあ何で書いてるの?」
「私の故郷を滅ぼした魔族が使っていた魔法だからだ」
初めて聞く内容だった。
もう30年以上も師匠から魔法を教わっているのに。
「私が死ぬまでに、この魔法についてまとめた魔導書を書く。そうすれば、これを読んだ後の時代の人間があの魔族をきっと殺す」
師匠が魔導書を書くのは珍しいことだ。
少なくともフリーレンは初めて見た。
「どうしてそんな面倒なことするの? 師匠が倒せばいいじゃん」
「私じゃ勝てなかった。フリーレンに会うより前に戦ったが、勝てるイメージをことごとく潰された」
「今なら勝てるんじゃないの? あの時より、師匠は魔力も増えたしコントロールも上手くなったはずだ」
「いいや、無理だ。そもそも単純な魔力量なら前に戦った時点で私の方が多かった。魔力コントロールも、それほど負けちゃいなかった。今挑んでも同じ結果になる」
「……」
意外だった。
フリーレンの知るフランメは勝ち気で強気。
戦い方こそ、魔力を隠蔽して不意打ちするという卑怯者ではあるが、それは何が何でも魔族を殺すという意思の表れ。
魔族を殺せないだなんて、言うとは思えなかった。
「フリーレン、私の師匠に勝つ自信はあるか?」
「ゼーリエに? ないよ」
即答。
「じゃあ、私にならどうだ?」
「あるよ。師匠の命乞いは何度も見てきたから」
フリーレンは続ける。
「正面からでは勝てなくても、いくらでもやりようはある。相手の油断や驕りを利用するように教えてきたのは師匠だ」
「そうだ。魔族は己の魔法に絶対の自信を持っている。だから油断する、慢心する。人間が敵うわけがないと驕り高ぶる。私の故郷を滅ぼした魔族──エルカラートも例外じゃない」
エルカラート。
フリーレンはその名を心の中で反芻する。
「だがダメだ。あいつにとってそれは隙にはならない。魔族としての油断と驕りを、魔法ひとつで踏み倒してくる」
「それは…」
なんて理不尽な、と思った。
そして、師匠が勝てるイメージをことごとく潰されたというのもようやく理解できた。
使える魔法、考えていること、苦手なこと。
そういうものがすべて相手にバレている状態で、相手に打ち勝つ。
それはとても難しいことだ。
確かにイメージすることができない。
どんな魔法を使っても、どんな戦術を考えても、それをことごとく潰してくる相手をどう倒せばいいのか。
「ねえ、それって人間には勝てないんじゃないの? 人類の魔法がこれから発展するかもしれないけど、その間に魔族だって強くなる。倒すのはどんどん難しくなるばかりだ」
「そうだな。だが、フリーレン。1つ勘違いしている」
「勘違い…?」
「魔族の倒し方なんて変わらない。奴の油断や驕りを利用するんだ」
フランメは続ける。
「奴は人類の魔法を甘く見ている。魔族より人間の方が成長が早いことを知っているのに、それが自分を越えることはないと思っている」
「私の故郷を滅ぼした時もそうだ。奴は私の魔法の素質に気づいてわざと殺さなかった。そればかりか、強くなって殺しに来いとも言った」
「油断している。慢心している」
「だからそれを利用するしかない」
ふう、と一息。
フランメはフリーレンを真っすぐとみる。
「フリーレン、人の強さを知れ。人が紡ぐ歴史の重さを知るんだ。エルフであるお前なら、その生き証人になることができる」
~余談~
フリーレン「ゼーリエなら勝てるんじゃない?」
フランメ「だろうな。心を読んだところで、師匠に勝てるとは思えない」