主人公が陰キャを悪化させる前の、中学生編からのスタートになります。
ですので、まだ無表情でも口ベタでもありませんが、直ぐにそうなりますのでご了承ください。
陰キャという人種は、2種類に分類できる。
一つ目は私、天風そよぎの様な先天的な陰キャ。
三つ子の魂百までとはよく言ってて、齢3歳の時から既にオドオドしていて、常に誰かの陰に隠れて、路地裏のぺんぺん草みたいに生きてきた。
産声とかも、"おぎゃー(こんにちは!)"じゃなくて"おんぎゃー(世に産まれてしまった!)"とか、そんなだったに違いない。
そして二つ目は、何らかの要因で後天的に陰キャになってしまった人。
元々普通だったのに、人付き合いをする中で段々と軋みをあげて、摩耗して擦り切れちゃったパターン。
これは……私の幼馴染が、そうなのかもしれない。
甘織れな子、れな子ちゃん。
私の幼馴染にして、すごく気を回しぃな女の子。
バチバチに明るい陽キャ! って感じじゃないけど、陰キャ陽キャ関係なく誰とでも仲良く出来ていた子。
小学校時代は、誰にだって真っ直ぐ体当たりするみたいなコミュニケーションを取って、男女問わず(この時は、特に男の子を怖がってなかったんだよ?)にみんなに好かれてた。
ついでにいうと、私は常にこの子の背中に隠れながら生きてきた。
れな子ちゃんの背中は安心できる、私(と、れな子ちゃんの妹の遥奈ちゃん)のリスポーン地点。
私にとって、一番暖かい場所。
でもね、私にとってはそうでも、みんなにとってはそうじゃなかったみたい……。
れな子ちゃんの体当たり式コミュニケーションは、中学校に入学してから段々通用しなくなったの。
内緒話、されるようになっちゃって。
ヤなことに、その内容はれな子ちゃんへの悪口。
それを聞いて以降、れな子ちゃんは引っ込み思案になっちゃって。
男の子にも、近寄らないようになった。
周りの人が怖くて、誤解を解こうとしても解けないだろうから、誤解の元と距離を取ったんだね。
多分、この日がれな子ちゃんが陰キャさんになった日。
コソコソって、周囲から隠れるようになったの。
……それでも、私のことを背中にべたーってするのを許し続けてくれた。
陰キャさんになってからも、最強のコミュ障な私を守り続けてくれてる。
だからね、私にとってれな子ちゃんは、最高で自慢の幼馴染なんだよ?
そんな自慢の幼馴染だから、その背中を巡って領有権争いだって起こっちゃう。
れな子ちゃんが素敵だって知ってる子は、勿論れな子ちゃんのことが大好きだから。
「そよぎちゃんはさ、いつまでお姉ちゃんの背中に居座る気なの?」
「……世界が滅ぶまで?」
「流石に邪魔だし、お姉ちゃんだっていつか結婚しちゃうんだよ?」
「遥奈ちゃん、年下なのにおませさんだなぁ」
「そっちは赤ちゃんみたいに、お姉ちゃんに張り付いてるくせに」
その相手は、甘織遥奈ちゃん。
生まれてこの方、れな子ちゃんと家まで一緒なスーパーれな子エリートな女の子。
私にとっても可愛い可愛い年下のお姉さんぶれる女の子で、昔はそよぎちゃん~って後ろをついて回ってくれたこともあるんだよ!
最近は、体だけじゃなくて頭までおっきくなってきたのか、ちょっとガミガミさんになってるんだけどね?
「れな子ちゃんは、私のママだった……?」
「……はぁ。そよぎちゃんって、典型的な内弁慶だよね。身内だけになると、急に早口になるし」
「え、悪口?」
「誰にだってそう振る舞えたら、お姉ちゃん以外にも友達くらいできるのにって言ってるの」
メッてするみたいにしてる遥奈ちゃんは、小学生なのに中学生の私のお姉さんみたいな態度を取っちゃってた。
遥奈ちゃんがこんな風になったのは、多分あの事件のせい。
それは私が12歳で、遥奈ちゃんが10歳の時のこと。
れな子ちゃんがね、お熱出しちゃってた日があったの。
学校に来なくて心配で、れな子ちゃんちにお見舞いに来た私は、れな子ちゃんに元気になってほしくて……お料理、したんだ。
『そよぎちゃん、ご飯作れるの?』
『家庭科で卵焼き、上手に巻けて先生に褒められたことあるよ!』
『そっか、じゃあお姉ちゃんにも美味しいモノ、食べさせてあげられるね!』
キラキラした目の遥奈ちゃんに、任せてって胸をポンと叩いて。
家庭科室にあった玉子焼き器を、甘織家のキッチンで探したんだけど……。
『あれれ、ない、の……?』
困ったことに、玉子焼き器が無かったの。
ママさん(れな子ちゃんと遥奈ちゃんのお母さんのことだよ!)は、玉子焼き器が無くても卵を巻けちゃうスーパー主婦だったみたいで、そこにあったのはフライパンのみ。
私、フライパンだと上手に卵が巻けないから……困っちゃった。
『そよぎちゃん……?』
でもね、期待に満ちた顔をしてる遥奈ちゃんに、出来ませんとは言えなかった。
言っちゃったら、私は嘘つきさんになるから。
『か、簡単にお料理できるとっておきの裏技があるから、任せて欲しいな!』
だからね──電子レンジで、卵をチン、したの。
れな子ちゃんに美味しいもの食べてほしくて、遥奈ちゃんに嘘ついたって思われたくなくて。
『ゆで卵、お母さんは違う作り方してたよ……?』
『こ、これはね、味は落ちちゃうけど早くゆで卵を作れる裏技なの! ワザップで見たから、間違いない──』
──そうして、卵は爆発したの。
悲しすぎる悲劇だし、間違いなく事故だった。
けど、わざとじゃないっていっても、悪事は悪事。
甘織家のレンジを爆破した私は、両親からメタクソに怒られて、ママさん(二人のお母さんだよ)からもメッてされた。
それ以降、遥奈ちゃんは私のことをお姉さんだとは思わなくなっちゃった。
それどころか、自分の方が年上みたいに振舞っちゃってる。
もしかすると、電子レンジにおける卵の爆発によって生じた衝撃で、私と遥奈ちゃんの因果が捻じれちゃうみたいな、そんなシュタインズゲート的に何かが起こっちゃったのかもしれないね?
それが、私の人生で一番の失敗。
でもね、だからって遥奈ちゃんがお姉さんみたいに振舞うのは、やっぱりおかしいよね?
「近くにれな子ちゃんと遥奈ちゃんが居れば、私は何とか生きていけるんだよ?」
「もう、そよぎちゃんは情けないことばっかり言うよね」
「でも、そんな情けない私でも、れな子ママの背中に跨って生きれてるんだよ、遥奈おばさん」
「……は、おばさん?」
「れな子ちゃんがママなら、その妹の遥奈ちゃんはおばさんになっちゃうんだよ?」
「っ、お姉ちゃんはママじゃないって言ってるでしょ! あんまりふざけてると、ゴミ収集車に回収してもらうから」
「粗大ゴミ扱い!?」
だからね、時折私は遥奈ちゃんの背中にベターっとくっ付いて、年上の威厳(体重ともいう)を思い知らせることにしてたの。
遥奈ちゃんは分かってくれるどころか、おんぶまでしてくれるお姉さんぶりを発露しちゃうことだってあったけど。
今日も今日とて、私は分からせるどころか分からせられちゃってた。
遥奈ちゃんてば、最強のメスガキさん(SNSで、強すぎる年下の女の子のことをそう言うんだって教えてもらったよ!)だね?
「二人とも、わたしのこと呼んだ?」
そんな壮絶な遥奈ちゃんのメスガキ振りを検知したのか、れな子ちゃんがやって来た。
思わず、ニッコリしちゃった。
これで、形勢逆転だねって。
ふへへ、れな子ちゃんの威を借りるそよぎの恐ろしさ、とくと味わうと良いんだよ!
「れな子ちゃん、聞いて! 遥奈ちゃんがおかしいんだよ!!」
「え、喧嘩してるの?」
「喧嘩じゃなけど、遥奈ちゃんがね」
「うんうん」
「……れな子ちゃんのこと、"お姉ちゃんはママじゃねぇっつってんだろ"って意味分からない理由でキレるの」
「本当に意味が分かんないんですけど!?」
私のあまりに論理的な説明を前に、れな子ちゃんは慄いちゃってた。
ふふん、これでも国語の点数だけは高いんだからね!
れな子ちゃんが大好きな遥奈ちゃんは、この圧倒的に不利な状況に耐えられるのかな?
「ほら、遥奈ちゃん。れな子ちゃんも意味分からないって言ってるよ」
「は、遥奈が言い出しっぺなの?」
「頭悪い?」
「どっちに向けての言葉かなぁ!」
「家なんだから、お姉ちゃんとそよぎちゃん以外、他に誰もいないでしょ」
「一緒くたにされてる!?」
でも、遥奈ちゃんは無敵だった。
私の最強の盾であるれな子ちゃんごと、バッサリ一撃しちゃってた。
けどね、遥奈ちゃん。
やっと、小学生らしい隙を見せちゃったね?
その罵り方は、誉め言葉にもなりうるんだよ!
「えへへ、私とれな子ちゃん、仲良しだって。遥奈ちゃんったら、良いこと言うね?」
「絶対違うこと言ってたよね!? わたしの耳がおかしいのかなぁ!」
「ほら、見てれな子ちゃん。遥奈ちゃんが生温かい目をしてるよ?」
「どこからどうみても、蔑んでる目だよ!」
「……キモ」
「謂れのない暴言だ!」
「そうだそうだー!」
「ウザ……」
遥奈ちゃんは圧倒的なツンデレさんだから、今日も素直じゃなかったの。
そんな遥奈ちゃんを相手に、れな子ちゃんはあわあわしながらも、元気に違うーって言い返してる。
れな子ちゃんは、ほにゃって顔でプンプンってしてた。
お家では、ちゃんとれな子ちゃんは元気だった。
それを見て、ホッとしちゃう。
最近、学校では元気ないから。
元気なれな子ちゃんに会えるからって、毎日甘織家に遊びに来ちゃってごめんね?
中学校に入ってから、私はれな子ちゃんを心配してた。
俯いてることが多くなって、キラキラ超えてギラギラ系女子さん達相手には怯えちゃってたから。
でもね、人の心配をする前に、私は自分のことをどうにかしなくちゃいけないレベルだった。
全然、全くもって、大丈夫じゃなかったから……。
「天風さん、みんなでカラオケ行くんだけど、一緒に行く?」
「ア、アリガトウゴザイマス。デモ、オンチ、デスノデ……」
「えー、別に気にしないって!」
「ワタシガ、キニシチャイ、マス」
「そんなの良いって! それにさ、天風さん、いつも早く帰っちゃうからさ。常に身構えられちゃってるし。私たちは怖くないし、仲良くなれたらなーって」
「……ゴ、ゴメンナサイ、ウソツキマシタ。ホントウハ、ワタシ、ヤナセタカシサンノシカ、ウタエマセン。ダカラ、イケナインデス……」
「やなせたかしさんって、アンパンマンじゃん!?」
「ボクラハミンナ~イキテイル~。イキーテイルカラカナシンダー」
「そっちもあったか!? ていうか、本当に音痴だったんだ……」
「ゴ、ゴメンナサイ、シツレイシマス……」
「そ、そっか、ごめんね?」
お外でボッチの時のワタシは、大体こんなだった。
人と上手く喋れないどころか、人の好意に泥を塗ってしまう。
優しくしてもらっても、どう返せば良いか分からない。
正直言って、友達が少なくても仕方ないタイプの人間性をしていた。
「待って、そよぎちゃん」
「れ、れな子ちゃん?」
「わたしもいるからさ、無理しなくてもいいけど……行けたりしないかな? みんなの歌聞いてさ、手のひらに太陽をだけ歌ったら、一緒に帰ろ」
「…………うん」
けど、そんな私にも、理解ある幼馴染が存在していた。
クラスの怖いトップカーストさん達が相手じゃなければ、れな子ちゃんは全然まだまだ陽キャさんごっこが出来る女の子だったから。
困ってる時、直ぐに助けに来てくれるれな子ちゃんは本当に私のママにしてヒーローなんだよ!
「おぉ、さっすが甘織さん! 天風さん相手でも、お茶の子さいさいだね!」
「そよぎちゃん、悪い子じゃないんです」
「うん、分かるよー」
ちょっと考えてみると、れな子ちゃんは天風さん係だった。
れな子ちゃんに負担、掛けちゃってるって、思うこともある。
けどね、私は自分のことで精一杯で、他のことに気が回らない。
陰キャが陰キャたる所以がそれなの。
私自身、直ぐにどうこうできるって訳じゃなくて。
ズルズルって、れな子ちゃんに甘え続けちゃってた。
それでも世界は回ってるし、滅んだりなんかしないから。
甘織家に行けば、れな子ちゃんと遥奈ちゃんが構ってくれるし、私は今日の晩御飯は何だろう〜とお間抜け顔で想像している余裕がある日々。
そんな日常が、ずっと続くって思ってた。
……永遠なんて、存在しないのにね?
中学生から始めるので、やや重い雰囲気になります。
ですが、三話目で重い雰囲気は終了する見込みですので、どうかお付き合い下さりますと幸いです。