れな子ちゃんちで卵をレンチンしたら爆発した   作:ペンギン3

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れな子視点からになります


ひとよひとよに人見知り3

 

 わたし、甘織れな子は、中学二年生の時に失敗した。

 

 何をかと言えば、色々だけど……。

 一番酷かったのは、人付き合い。

 

 そのせいで、大切な友達を傷つけてしまった。

 

 わたしだけならともかく、親友まで傷つけた。

 そのことで悩んで、苦しんで。

 

 こうして、引き篭もりをしている。

 

 その子は、小さい時からの幼馴染だった。

 いつも、れな子ちゃんれな子ちゃんって呼びながら、わたしの背中にピッタリくっついてた。

 

 黒髪で、背が小さくて、わたしや妹以外の人相手には、オドオドしちゃう子。

 

 みんなから、お人形さんみたいだって思われてた、中学生になっても小学生ぽさが抜けない女の子。

 

 そんな子だから、助けてあげなきゃって、ずっと思ってた。

 

 頼られてるって自覚はあったし、そのことは全然嫌じゃなく、むしろ嬉しくて。

 

 わたしの目が明るいうちは、この子に近づく悪い奴は全員やっつけてあげるから、とか出来もしないかと思って、調子に乗ってったっけ。

 

 ……うん、そう、出来もしないことだった。

 

 わたし、全然陽キャじゃなかった。

 あの子のこと、護ってあげるどころか自分のイジメに巻き込んだ。

 

 ずっと、苦しかった。

 普通の人なら、他人に合わせて、もっと上手くできたんだって思う。

 

 でも、私は人生が下手くそで、レールを踏み外してしまった。

 

 もっと上手くできたはずなのにって、ずっと後悔してる。

 

 そうしてウジウジしている間に、月日は流れていく。

 気が付けば、一年が経っていた。

 

 ……でも、多分、そうしてることにも、飽きちゃったんだ。

 

 人生が浪費されていく、わたしはこんな自分のままでいいの?

 

 そんなことを、思い始めたのだから。

 

 

 わたしって、なんだったんだろう。

 そう思って、でもわからなくて。

 

 ヒントが欲しくて、他の子は何してるんだろうってSNSとかで、小学生時代の友達とかを検索してみた。

 

 すると、驚く程に、みんなキラキラしていた。

 

 たくさんの夢、やりたいことに溢れていて、久しぶりに胸がジンとした。

 

 暗い部屋で暗いことばかり考えていた自分とは違って、明るい場所を堂々と歩いている。

 

 ──良いなって、気持ちが過った。

 

 わたしも、そうありたかったから。

 そうなりたいって、心の底から思っていたから。

 

 そうして、指は自然と、あの子のSNSを検索して。

 

 あの子のアカウントは、一年前から何も投稿されてない。

 繋がりを求めるSNSで、断絶が発生していた。

 

 彼女が今、どうしているのか。

 追う手段は、部屋にいる限りは存在しなくなっていた。

 

 ……気になって、しまった。

 

 あれから一年、経ってる。

 

 あの子はSNSに投稿してるみんなみたいに、変わったのか、そうでないのか。

 

 キラキラしているSNS越しのみんなが、間接的に背中を押してくれた気がした。

 

 結局、巻き込んじゃってごめんの一言さえ、伝えられてない。

 

 関わりが怖い、他人が怖い。

 他の人からどう思われているのか、想像するだけで震えてしまう。

 

「あやまら、なきゃ」

 

 でも、外に出る理由なんて、それで十分だった。

 

 例え、あの子がわたしに愛想つかせてても、それは謝らない理由にならない。

 

「──そよぎちゃん」

 

 その名前を口にすると、不思議なことに、立ち上がることが苦じゃなくなっていた。

 

 

 

 あれから、色々あった。

 

 まず初めに、部屋を出て妹の遥奈に謝ると、何でかパーで頭を叩かれ続けた。

 

「今まで迷惑かけてごめん! 幾らでも叩いて良いから、だから協力してください!!」

 

 モグラ叩き以上に苛烈なパーに無抵抗で、お願いしながら遥奈に縋り付くと、ポツリと一言。

 

「バカお姉ちゃん……。チャンスはもう一度だけ、だからね」

 

「遥奈先輩!」

 

「……センパイ呼ひ禁止。そよぎちゃんの、遥奈ママってのとレベル変わらないから」

 

「え、そよぎちゃんのママって、わたしだけじゃなかったの!?」

 

「バカ?」

 

 遥奈から、ゴミを見る目で見下される。

 でも、その色の籠った視線が嬉しい。

 

 こんなお姉ちゃんなのに、まだ見捨ててないんだって分かって。

 

 生まれ変わって、陽キャになって、やり直すんだ。

 そうして、また、あの子に……そよぎちゃんに会える自分になる。

 

 私の小さな一歩目を、遥奈はぶっきらぼうに手を引いて、導いてくれた。

 

 陽キャで、運動神経があって、時々コンプレックスを感じるけど……誰よりも自慢の妹だった。

 

 

 

 遥奈の助けを得て、見た目だけは陽キャっぽくなれた。

 

 でも、鏡越しに笑うわたしは、困った笑顔をしてる。

 

 これは陽キャっぽくない、遥奈に"キモ"と罵倒されるかもしれない。おのれ遥奈め。

 

 そんなこと考えたら、鏡の私は普通になってた。

 妹のナマイキは、陰キャによく効く内服薬なのか(蔑みの目が、悲しいくらいに良く効いてしまう)。

 

 姉を何だと思っているのか。

 もし遥奈に聞いてみても、"ゴミ"って吐き捨てられて終わりそう。

 

 クッ、言い返せない!

 

 このままでは、戦う前に(頭の中にいる)遥奈に心をへし折られかねない。

 

 そんなナマイキな(脳内)妹に、私は姉の威厳を見せつける正論を叩きつけた。

 

 でもさ、ゴミである私をラッピング(美容室連れて行ったり、服を一緒に選んでくれたり、化粧水まで拘ってくれた)していた遥奈は、様子のおかしい人になるよね!

 

 ……よし、判定勝ち。

 ギリギリ遥奈(妄想)を論破することに成功した。

 

 ふぅ、危ない危ない。

 危うく、姉の尊厳を全部無くしちゃうところだった。

 

 意気揚々と部屋に戻って、ピッとフォー君の電源を入れる。

 

 するとフォー君は、頑張れってわたしを励ましてくれるみたいに、ブォーンと音を立ててくれた。

 

「ありがとうフォー君、わたし頑張るから!」

 

 青色の電源ボタンが、ぴかーっと光ってる。

 フォー君のエールだ、間違いない!

 

 この一年、ずっとわたしを支え続けてくれた相方は、今日も行ってらっしゃいと励ましてくれた。

 

 これで、甘織れな子は戦える!

 フォー君が、ワイヤレスで元気を充電してくれたお陰で!

 

 フォー君が愛おしくなって、その体を撫でる。

 愛しい愛しいフォー君、ずっと一緒だからね。

 

 ガチャリと、部屋の扉が開いた。

 

「お姉ちゃん、覚悟決めて連絡したんでしょ。グズってないでサッサと…………」

 

「あっ」

 

「は?」

 

 愛しいフォー君との蜜月は、突如としてノックも無しに訪れた遥奈(本物)によって、打ち破られることになった。

 

 私とフォー君との睦み合いを見た遥奈は、瞬く間にゴミを見る目になって。

 

「キモ」

 

「キモくないし!」

 

 とんでもない冤罪だった。

 私とフォー君は、こんなにも両思いなのに……。

 

 

 

 

 

 そうして、始まる前から心を遥奈(邪智暴虐)にいた振られながらも、わたしは何とか待ち合わせの場所にたどり着いた。

 

 ──あの日の夕暮れ、最後にそよぎちゃんと歩いた河原に。

 

 通学路だった、一緒に何度も歩いて帰った。

 そよぎちゃんの笑い声が、何だか懐かしい。

 一緒に笑って帰った日が、すごく遠くに感じる。

 

 じゃり、と石が擦れる音がした。

 誰かの足跡だ、ドクンと心臓が跳ね上がる。

 

 最初に、何て声をかけようか。

 考えてたのに、頭が真っ白になって分かんなくなる。

 

 いや、ごめんなさいが一番最初だけど!

 ……でも、そのあとの会話、どうしよう。

 

 一年前は、自然と何でも話せた。

 でも、今は何を話せば良いのか分からない。

 

 気まずさが胸の中でグルグルして、すごく落ち着かない。

 

 それでも、足音は近づいてくる。

 もうすぐそこまで、迫ってる。

 

 必死に、お天気デッキ以外の会話デッキを構築する。

 そよぎちゃんと気まずくなるなんて、絶対にムリだし!

 

 慌てて、焦って、必死で、そうして──。

 

 ──ママか?

 

 閃きは、やってきた。

 今のわたしは、会話デッキ界のエジソンだ。

 

 れな子ママデッキ、そよぎちゃん相手ならこれで戦える。

 

 そよぎちゃんなら、乗ってくれるはず。

 よし、いくぞ!

 

 心臓がバクバクして、頭まで爆発しそうになりながら、足音の方へと振り向いた。

 

「──そよぎ、ちゃん?」

 

 振り向いた先にいたのは、やっぱりそよぎちゃんだった。

 

 肩までだった髪は、背中まで伸びている。

 背は変わってなくて、あの日のまま。

 

 けど、何かが変だった。

 

 何かって、何が?

 分からなかった、けどすぐに分かった。

 

「……久しぶり、れな子ちゃん」

 

 いつも賑やかで、騒がしかったそよぎちゃんが、とっても静かなんだ。

 

 そして、わたしや遥奈の前だと、明るく七色に変わってた表情は、殆ど変わらないで無表情のまま。

 

 いや、よく見たら、ちょっとだけ口角が上がっている。

 ほんのちょっとだけ、笑ってる、のかもしれない。

 

 夕暮れが濃くなる、影が世界を覆っていく。

 ぼんやりと視界が滲んで、世界とそよぎちゃんの境界が曖昧になる。

 

「どうして……」

 

 最初は、怒ってるのかと思った。

 怒ってるから、無表情になっちゃってるのかなって。

 

 でも、違う。

 そよぎちゃんが怒ってる時は、そんな感じにはならない。

 

 そもそも、こんなそよぎちゃんは初めてだ。

 わたしの知らないそよぎちゃんが、いま目の前に立っていた。

 

「私、強くは、なれなかった」

 

 そよぎちゃんは、途切れとぎれに喋っていた。

 喋り方を、どこかに無くしてしまったみたいに。

 

「でも、適応、できた」

 

 表情も、もしかしたらそうなのかな。

 何処か遠く、一年前に置いてきちゃったみたいに真っさらで。

 

「陰キャでも、学校に、存在できる」

 

 その薄い微笑みが、どうしようもなく悲しい。

 

「ノラ猫に、なれば良いの。誰もいない場所で、日向ぼっこをしてる──そうしていれば、惨めじゃないから」

 

「っ、そよぎちゃん!」

 

 居てもたってもいられなくなって。

 そんな悲しいことばっかり、言ってほしくなくて。

 

 そよぎちゃんを、抱きしめた。

 ちっちゃくて、どうしたって細い身体を。

 

 ボロボロと崩れていくそよぎちゃんの心を、かき集めるみたいに。

 

「ごめんっ、本当にごめんなさい! そよぎちゃんがずっと頑張っててくれたのに、わたし……っ」

 

 頭で考えていたことが、全部吹き飛ぶ。

 バカなこと、考えている場合じゃなかった。

 

 遥奈から、聞いていた。

 "そよぎちゃんはお姉ちゃんの居場所になるって、そう言ってたのに"って。

 

 わたしが学校に来られるように、一人ぼっちにならないように、登校するまで待ち続けてくれたんだって。

 

 ……また、わたしのせいだ。

 

 そよぎちゃん、無理して自分を変えたんだ。

 耐えるために、自分の殻を何重にもして。

 

 わたしを一人ぼっちにしないために、一人でいられるようになってしまった。

 

 そんなのって、酷いよ……。

 

「これからは、一緒にいる。そよぎちゃん、だから……っ」

 

 元のそよぎちゃんに、戻って。

 抱きしめる力を強くして、無理しないでと伝える。

 

 わたし、生まれ変わったから。

 陽キャになって、そよぎちゃんを護るよって。

 

 ……返事ない、沈黙が耳を埋め立てる。

 

 代わりに、トンと胸を押された。

 ちょっとよろけて、抱きしめてたそよぎちゃんが、腕から抜け出して。

 

「れな子、ちゃん」

 

 暮れる日に呑まれるようにして、そよぎちゃんは告げた。

 

「かわいく、なった」

 

「え?」

 

 会話が繋がってない、意味が分からない。

 でも、そよぎちゃんは、小さく笑っていた。

 

 ──何か、嫌な予感がする。

 

「キラキラ、してるね」

 

「そ、そうだよ、わたし生まれ変わったの!」

 

 何か、言わなくちゃ。

 言わないと、よくないことが起こる。

 

 そんな気がして、変に焦る。

 

「陽キャになって、今度こそ失敗しない。みんなみたいに、素敵な人間になる。だから──」

 

 言葉を手繰る、今度こそあなたを護るよって伝えるために。

 でも、全部は言えなかった。

 

 ──よそぎちゃんの人差し指が、わたしの唇を塞いだから。

 

「私は、陽キャに、なれなかった」

 

 小さな声で、囁くように。

 そよぎちゃんの声が、風に乗って聞こえてくる。

 

「居場所に、なれなかった」

 

「そんなの違うよ! そよぎちゃんは大切な幼馴染で、わたしの隣が居場所で!!」

 

「──違う」

 

 小さい声なのに、そよぎちゃんの声はハッキリ聞こえてしまう。

 

 大声を出してるのはわたしなのに、小さな声に掻き消される。

 

 実感みたいなものの差が、わたしの口を塞ぎにかかる。

 

「陽キャと陰キャは、住む世界が、違う」

 

 その言葉で、頭が真っ白になる。

 だって、それは分かる理屈だから。

 

 何度も何度も、実感して、苦しくなって、心が折れた現実の話だから。

 

「今のれな子ちゃんは、すてき、可愛い。だから──」

 

 川辺の縁で、そよぎちゃんはこのもなさそうに言った。

 

「ダメ、だよ」

 

「ダメって、なにが?」

 

 言わせちゃダメだって、心が叫んでいる。

 そのぎちゃんの言いたいことが分かるから、止めなきゃって思うのに。

 

 ……なのに、言葉が上手く出てこない。

 

 

「──私の隣は、ダメ」

 

 

 だから、その言葉が出た時、何か大切なものが壊れた気がして。

 

「違う、そんなことない!」

 

 必死に、否定しようとした。

 絶対、そんなことないって、強く強く伝えたくて。

 

「陽キャは、そんなの関係ないんだから!!」

 

 そうだ、陽キャは凄いんだ。

 誰にだって優しくて、明るくて、楽しくて、それでいて素敵で無敵な生命体なんだ!

 

 そよぎちゃんが凄いレベルの陰キャになっちゃっても、わたしが明るく照らすから、だから……っ。

 

「幼馴染の親友が、離れようとなんて、しないでよ!!!」

 

 心からの、何よりの叫び。

 

 ようやく立ち直ろうと思っているのに、今更バイバイなんておかしい。

 

「そよぎちゃんに見捨てられたら、わたしまた引き篭もるよ! 今度は2年、いや、3年は!」

 

 無茶苦茶なこと、言っている自覚はある。

 でも、ここでそよぎちゃんと別れたら、どこかに居なくなっちゃう気がしたから。

 

 居なくならないでって、手を取って伝える。

 あなたが必要ですって、心の底から主張する。

 

「わたしの人生、取り返しのつかないことになっちゃうけど良いのかな!!」

 

 酷すぎる脅迫、そよぎちゃんに見限られても仕方ないって思えるくらいには。

 でも、事実だし。

 

 そよぎちゃんが見捨てたら、わたしは一人寂しく妹に見下されながら、部屋の片隅でフォー君を毎日抱いて寝る陰キャの女王になっちゃうよ! それでもいいの!!

 

 グッと顔を近づける、目を逸らさせないために。

 

 そよぎちゃんが、わたしのことが嫌いなら、仕方ない。

 でも、そうじゃないって、信じてたから。

 

 一年ぶりで、違う人みたいになってて、距離を空けようとしてくるけれど。

 

「そよぎちゃんはさ、わたしのこと、どう思ってる?」

 

 それでも、人生で初めての友達なんだ。

 

 変わった部分もある、雰囲気も違う。

 けど、そよぎちゃんの今までが、全部無くなっちゃったなんて、そんなの信じない!

 

 ジッと見つめると、そよぎちゃんは何度も目を瞬かせた。

 そして、ポツリと一言。

 

「……ともだち」

 

 やっぱり、変わってないところもあった。

 嬉しくて、顔が綻んじゃう。

 

 離れようってしたのも、わたしのことがイヤだからじゃない。

 

 陽キャになる努力をしている邪魔をしたくなくて、一歩引こうとしただけなんだ。

 

 そんなの、認めない。

 

 変わるって決めたんだ、わたしは。

 陽キャになる、ああなりたいって。

 

 だから、そよぎちゃんの手を握る。

 こういう時は、陽キャならこうするんだって信じて。

 

「友達なら、離れるのなんてダメ……ううん、ムリなんだからね!」

 

「…………ん」

 

 そう、ムリなのだ。

 友達が友達だから、友達じゃなくなろうとするなんて。

 

 言葉にすると意味わかんないし、そんなの悲しいだけだから。

 

「1年間、一人ぼっちにしてごめんなさい。これからは、そよぎちゃんの側にいさせてください!」

 

 罪悪感が、ないとは言えない。

 わたしのせいでって気持ちも、勿論ある。

 

 けど、それ以上に、わたしがそよぎちゃんと一緒にいたい。

 

 この気持ちにウソを吐いたら、また何も言えない陰キャなわたしに戻ってしまう。

 そよぎちゃんと、もう会えなくなる気がする。

 

 ヤダなって、素直に思った。

 だから、ワガママを押し通した。

 

 陽キャならワガママも、きっと周囲を明るくするから。

 

 夕陽が未練がましくさよならを告げる中、そよぎちゃんはジッと私の目を見つめた。

 

 ぼんやりとしていた綺麗な目に、わたしがちゃんと映ってる。

 

「私は、今の私、別に、嫌いじゃ、ない。一年、頑張った私、だから」

 

「うん」

 

「陽キャには、なれない」

 

「うん」

 

「陰キャ、極めようって、思ってる」

 

「うん」

 

 いや、それはどうかと思うけど。

 そよぎちゃんの目に、光が灯っていた。

 

「それでも、良いの?」

 

「──良いに決まってるから!」

 

 悪いわけない。誰かが何を言っても、そよぎちゃんは友達だって、言い続ける。

 

 そんなわたしの気持ちは、たぶん伝わってくれた。

 

 久しぶりに、昔のそよぎちゃんの笑みが浮かんだから。

 

「なら、私、れな子ちゃんの日陰に、なる。居場所には、なれなかった、けど。れな子ちゃんが、陽キャに疲れた時、休める場所に、なるよ」

 

 堪らず、胸に感情が吹き荒れる。

 

「そよぎちゃん!!」

 

 そよぎちゃんを、思いっきり抱きしめた。

 小さい身体を、ギュッと、これでもかってくらいに。

 

「応援、してる。れな子ちゃんが、陽キャに、なるの」

 

「うん、わたし、立派な陽キャになる! そよぎちゃんが、友達に自慢できるみたいな!」

 

「今の私、友達は、れな子ちゃんと、遥奈ちゃん、だけ」

 

「妹にゴミ扱いされない姉にもなるから!」

 

「……れな子ちゃん、おかえり」

 

「ただいま、そよぎちゃん!」

 

 おかえりって言葉が、すごく嬉しい。

 あの日に無くなった続きが、帰ってきたって実感できて。

 

 全部無くしちゃったかもって思ってたけど、取り戻せた。

 これからも、少しずつ取り戻して、行きたいな……。

 

 

 

 その日、そよぎちゃんと手を繋いで、歩いて帰った。

 

 暮れた陽の代わりに、曖昧な星空が広がる。

 あんまりハッキリ見えないけれど、一等星がキラリと輝く。

 

 見つけただけなのに、それが手の中にある気がする。

 

 星に手を伸ばしても無駄かもしれないけど、手を伸ばさないと掴めさえしないのかもしれない。

 

 そんなことを思ったわたしは、まだ中学生だって実感できた。

 

 


 

 

 秋が枯れ、冬が来る。

 

 れな子ちゃんは、学校に来た。

 背筋は丸まっていて、凄く気まずそうにしている。

 

 イヤなひそひそ声だって、沢山囁かれている。

 

 でも、逃げなかった。

 れな子ちゃんは、戦うって決めたから。

 

 覚悟を決めたれな子ちゃんは強いって、私と遥奈ちゃんは知っている。

 やっばり、れな子ちゃんは凄いんだよ!

 

 

 

 そうして、私とれな子ちゃんは息を殺して、卒業まで漕ぎ着けた。

 

 れな子ちゃんが陽キャになりきるには、色々あった中学校は環境と状況が悪くて、そっと目立たないようにしていたけど。

 

 良くないことだけど、文字通りにれな子ちゃんの逃げ場所になれて、ちょっぴり嬉しかった。

 

 私、れな子ちゃんの役に立てたんだって。

 

 

 我慢の季節は過ぎて。

 私達は、地元から離れた、芦ケ谷高校って教学の学校に通うことになったんだ。

 

 誰もいない場所で、一から始めるために。

 

 れな子ちゃんは、気合い十分でそんな感じのピカピカ陽キャな女子高生になってた。

 高校デビューの準備、バンタンだね?

 

 一方の私は、髪が伸びるタイプの市松人形さんみたいになっちゃってたけど、陰キャだから何にも問題ないの!

 

 最近会えてなかった遥奈ちゃんに会ったら、凄くドン引きされたけどね!

 

「行こっか、そよぎちゃん」

 

「ん」

 

 れな子ちゃんを迎えに来て、新しい日を始める。

 全部が、新しく始まる日を。

 

 ──高校生になる、初めの日を。

 

 緊張して、ビクビクして、怖い気持ちもあるけれど。

 でも、きっと今日から良い日になる。

 

 少なくとも、れな子ちゃんのことなら、太鼓判を押して言えちゃいます。

 

 だって、れな子ちゃん、良い日にしようって努力してるんだもん。

 

 なら、きっとそうなんだって、信じたいよ。

 

「行ってきます」

 

「いってき、ます」

 

 お空を見上げたら、お日様が眩しい。

 れな子ちゃんみたいだって、思っちゃったのでした。

 





次回からは、明るい高校生活編に移行します。

評価バーに色が付いて、思わずニッコリしました。
応援ありがとうございます、これからも楽しんでいただけるように頑張ります!
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