個性「ニャン系妖怪」が往くヒーロー覇道 with転生掲示板 作:鋼色
……いつからだったのか、分からない。少なくとも、高校を入学したときには忘れていた。心の底から笑うこと、好きなものを本音で語り合うことを。
もっと昔は出来たはずだった。面白いことを目の前にしたら全力で笑って、悔しいことがあったら本気で悔しがって。昔は、もっと感情表現ができていたはずだったのに。
いつの間にか、本音が出なくなった。本気で感情を出すことをなくなった。本当とは別の、外面ようの言葉を用意しだした。
気づいたら、どんどん自分が自分じゃなくなっているような気がした。けれど、気づいたら止まれるようなら、嘘なんて帯びてない。
変わりたい、変わりたくない。変わりたい、変わりたくない。変わりたい、変わりたくない。
幾度その問答を繰り返したのかなんて覚えてない。■■■■という存在に苦しんで、自分じゃないって藻がいて。けれど、学校に着いたら元の顔になっていて。
余計に自分が嫌いになった。日に日に嫌悪感が増すのが耐えられなかった。
そんなとき、『僕のヒーローアカデミア』に出会った。
誰も私みたいに汚くない。醜くない。最初は眩しすぎて見たくなくなった。誰かのために、そう動けるヒーローはカッコよかったから。自分のために嘘をつく私とは違いすぎるから。
「タコってエロいよね……」
彼はそう言った。私だったら思っても周りの視線を考えて止めてしまうような発言。私とは全く違う思考回路、それに憧れた。
彼は、峰田実は、自分のやりたいこと、言いたいことを貫き通している。やることはちょっとヤバいけど、それでも、羨望を飛ばさずにはいられなかった。
いや、それだけじゃない。彼を見てると、自分でも出来るって……そんなに気にしなくても大丈夫だよって言ってもらえてるみたいで安心した。
一度「そんなに気にしなくても大丈夫」と思ってしまったら心の底まで侵食してくる。
いきなりは変わらないけど、ちょっとづつ変わっていく。嘘まみれの体と心が浄化されてゆく。
少しづつ本音と、本気の感情が出ていった。そのせいで友達と衝突したことはあったけど、仲直りして、仲直りした。
喧嘩して、ようやくお互いの腹の底を見れた気がした……なんていうのはヤンキー漫画すぎるかな?
それが、私のオリジン。前を向いた、朝から解き放った、周りへと目を配る余裕をくれた。
私が峰田実っていうスゴクカッコいいヒーローと出会った、私だけのオリジン。
(……なんだけど、今の峰田くんにとっては何じゃらほいって感じだよね。私が転生者で、二次元で峰田くんを見て、それに救われて。そんなの、当事者じゃなかったら、私でも意味わかんないもん)
依然として、自身への不甲斐なさと私に対して純然とした疑問を瞳に浮かばせている。
「好きなヒーローがいるの。その人の言動に、私は助けられた。だから今度は、私がみんなを助けたい。それじゃ、ダメかな?」
「…カッコいいなぁ。オイラは、ただモテたいとか思っただけで、誰かを助けたいと思ってヒーローになりたいと思ったわけじゃねえし……向いてねえのかな…」
その発言を聞いたとき、体が咄嗟に動いた。峰田くんの服を掴み、地面へと押し付ける。砂の上でやったから痛いと思うけど、今の私にそれを気にする余裕はない。
納得できなかった。その言葉に、苛立ちが募った。別の世界線の峰田くんに救われた……なんてことじゃない。
この世界でも、ヒーローに向いている峰田くんが……自分を悪く言うなんて許せなかった。たとえ本人でも、許容なんて出来ない。
「言わないでよっ!!!それを、アナタが、言わないでよっ!!」
「ぁえ?ど、どうしたんだ?」
「私は!ずっと!!一人で……一人で頑張ってきたのに…!みんな応援してくれたけど、やってたのは私一人!」
瞳から雫が、少しづつ溢れ出る。
「自分を押し込んで、押し込んで!これは正解だって言い聞かせて!そんなときに、一緒にやるよって言ってくれて、逃げないでやってくれて…!やっと一人じゃなくなったのに…私がやってきたこと、間違いじゃないって思わせてくれたのはアナタなのに!!」
「私はそれに救われたんだよ!?私にとって、もうヒーローなの!大々的に誰かを助けなくても、私は助けられた!」
「そんなアナタを…私の友達を!自分で卑下するな!今度、また自分はヒーローに向いていないなんて言ったらぶっ飛ばすよ!!」
いつの間にか大量に溢れた涙。いつもはこんな感情的じゃないのに、どうしてか涙が出てしまう。
ジバニャンと合体してるから?それとも、相手が推しの峰田くんだから?多分、どっちもかな。
…もう、こんな感情的になるつもりじゃなかったのに。
「…悪い、猫河の気持ちを考えてなかった」
「ぁ、いや、ごめんなさい。私、自分の気持ちを一方的に押し付けてた。ごめんね、気にしないで……」
せっかく近づけたのに、距離が離れてしまった。
……いや、分かっていたこと。私の想いは重い。それは、ジバニャンたちにもスレ民たちにも散々言われてきたこと。
予想はできていたはずだ。私の想いが露わになったとき、関係が崩れることなんて容易に想像できていた。
でも、考えないようにしていた。そうならなかったら良いななんて楽観的な思考を浮かべて、対策を考えないでいた。
あぁ……私ってバカだなぁ。
「…どんなに猫河がオイラのことを正当化してくれても、オイラはまだ弱い。どんなに精神性がヒーローって言われても、力が伴わないヒーローはヒーローじゃない」
その心意気が、ちっぽけな行動がヒーローとなることがある……その言葉をかけようとしたけど、辞めた。
きっと今の峰田くんは分かっている。自分の言動と行動が私のヒーローとなったことを。それを理解した上で、彼は言っている。
まだ私のヒーローになるのは不釣り合いだと。
「猫河が納得できても、オイラが納得できないんだ。だから大々的に自分のヒーローって宣言するのはちょっと待っててくれ。オイラ、今よりも強くなって、スゲエカッコいいモテるヒーローになるからよ!」
「…うん、待ってるよ」
「なんか不服そうな顔してねえ?」
「しーてません!」
私のモノになって欲しいってのは我儘で、高慢だ。まだ告白をしたわけでも、彼女になったわけでもないのに。
でも、可能性は途切れなかった。まだ隣にいれる。恋人としては無理になるかもしれないけど、友達としては……まだ。
「ニャーウィッス!!わたくしっち、感動したにゃん!あそこまで純粋な恋情、中々見れないでうぃっす!モーレツに、モーレツに感動したニャーウィッス!」
「うるせぇミャーウ!少しは……口を、慎め、ミャウ!」
「いやいやいや!できないにゃん!わたくしっち、主人があそこまで純粋で素敵だと感動してしまうんでウィッス!ニャーウィッス!ニャーウィッス!」
「ブチニャン……、このっ!……ジバニャン、何とかできないミャウか?」
「できると思ってるにゃん?」
「そうミャウよねぇ……」
「「はぁ……」」