白銀のゼラニウム   作:望月望必

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ないものひり出しました。
途中でギャグアニメとか見たのはミスだったと思います。


一話『彼女は出会う。〜1、2、3!〜』2

 

 さて、しばらくしての事である。

 比較的新しげなビルに囲まれた大通りの、その裏。言わば裏路地に、柊みつきは落ちてきた。

 やはりビルの上からだろう。壁を伝うように、僅かな段差に足をかけて、ひょい、ひょい、と落ちてきた。

 スタリ、とビルの上からにしては小さな音で着地する。

 

 遠くからは、サイレンの音がけたたましく鳴り響いており、彼女を責めるかのように近づいてきている。

 近くで事件があったらしい。

 みつきは自分の袖口を少し嗅いで、何事もなかったかのように大通りへ出た。

 

 大通りでは、わいわいと人が行き交っている。

 地味な格好の男もいれば、大人ぶったワンピースの少女もいる。スーツ姿の女性が忙しそうに電話をしている最中、隣では老人達が楽しそうにおしゃべりをしていた。

 

 その中で、一人だけキョロキョロと周りを見渡す怪しい青年がいた。

 大きい円柱型の横掛けバッグを背負い、首からピンクの水筒をぶら下げた、暗い金髪を帽子で隠している青年だった。

 

 青年は、目的地もないようにふらふらと人を避け、しかし、視線だけは人の顔を何度も往復していた。

 ほつれたズボンの裾と、すり減った靴底も、同じだけ道を往復している。

 何か、探し物をしているようだった。

 みつきはと言えば、行き交う人々をするりと躱わし続け、とうとう青年の前まで辿り着こうとしていた。

 

 さて、どうしようか。

 みつきは、一瞬だけ思い浮かんだ無視という選択肢を、もう一度人を避けた頃には忘れることにした。

 なら、選択肢は一つだろう。

 みつきは静かに笑うと、

 

「ばあ」

「うおぉッ!」

 

 背後から彼に声をかけ、驚かせることにした。

 

 

 

 

「まあ、待てよ。少年」

「こっちのセリフだよ」

 

 拳骨。青年の暴力により沈んだみつきが、往来で正座している。

 少年と呼ばれた青年は、周囲の視線を恥ずかしそうに無視しながら、みつきの台詞を待っていた。

 みつきが、「いや」と口を開く。

 

「いや、どこの誰だろうと困っていたらね? 声をかけた方が良いかなって。だから、声をかけたの。かけたは良いけど、まあ、驚かせるとは思わなかったよね。びっくりだよね。いきなり後ろから「ばあ」って」

「こっちのセリフだよ。なに自分でびっくりしてんだよ。お前だろ、驚かせたの」

「ミステリーだよね」

「お前がミステリーだよ」

 

 とんとん拍子に説明していくみつきに、一二三は律儀に返していく。

 

「ところで、少年、誰?」

「だから、お前だよ! 「誰?」なのは!」

 

 ヘラヘラ笑っていたみつきが、心底不思議そうな顔で聞いた。

 一二三がキレた。当たり前だった。

 

 問い返されたみつきは、よいしょ、と掛け声と共に立ち上がると、くるりとターンして自己紹介をした。

 テレビか何かで見かけた動きだった。

 

「わたしはみつき。柊みつき。よろしく!」

 

 青年は、なんだこいつ、とでも言わんばかりの顔でそれを見ていた。

 だが、

 

「垣無一二三だ。一応、よろしく頼む」

 

 青年────一二三も応える。釈然としない顔だ。

 

「で、何しに来たんだ?」

「手伝ってあげようと思って。人さがし?」

 

 疑問系。だが、一二三の顔が真剣味を帯びる。

 なんでわかった、そう言おうとした一二三に、みつきは先手を打った。

 

「友達か、家族か、まあ、わかんないけど。人の顔ばっかり見てたから。ちょっと怪しかったから気をつけた方がいいよ?」

「挙動不審具合でお前に勝つことはねぇよ」

 

 能天気に言うみつきに、「怪しくて悪かったな」とぼやきながら、一二三は、みつきに確認した。

 

「あー、協力してくれるのか? ありがてぇけど、なんか不安なんだが……」

「不安じゃないヨ。誰よりも安心安全! ……安全ではないか。信頼でできてる! ……わけでもないな。思えば、安心でもない気がする。うん。もう、不安がって良いよ……」

「なんか、悪かったよ。元気出せって」

 

 流れるように自傷したみつきが凹んでいるのを、一二三はなぜか慰めさせられた。

 ふと、それに気づいて、一二三は言いようのない感情に襲われたが、一旦無視することにした。

 

「で、手伝ってはくれるんだよな?」

「もっちろん! 安心して良いよ。役に立って見せるから! …………で、誰探してるの?」

 

 そういえば、言ってなかった。

 一二三は頭を掻くと、みつきに説明をしていく。

 

「妹だよ。ここら辺にいてくれって言ったんだが、トイレから帰ってきたら、荷物だけ残して居なくなってたんだ」

「おっけー! ならこっちに良いのがあるよ!」

 

 言い終えるや否や、突然走り出したみつきを、どこか不安そうに一二三は追いかけた。

 

 

 

 ついた場所といえば、なんてことのない道端である。

 目の前には、観光地によくあるような、地図が印刷された薄い金属板が打ち立てられていた。

 

 意外に堅実だなと、一二三は密かに安心すると、喋り出したみつきに耳を傾ける。

 

「ここが現在地。これがわかりやすいビル。で、こっからこっちが危ないとこね。近づいちゃダメ」

「何かあるのか?」

「ちょっとだけ民度がヤバいっていうか。良い人もいるんだけどね? ちょっとだけスラム」

「スラムな時点でちょっとじゃねーんじゃねぇか?」

「ちょっとじゃあるよ! ちょっと人攫いが多くて、ちょっと暴力が多いだけで、住民も困ってるんだから!」

「困ってる時点でちょっとではねぇだろ!」

 

 危険地帯が近くにあると聞いて、一二三は気が気ではなかった。

 妹が何かに巻き込まれているかもしれない。それだけで、一二三は焦燥感に駆られた。

 

「まあ、でも、滅多にこっちに来ないし。大丈夫だと思うけど」

「……道を知らないやつなら迷い込むか?」

「なくはない。いや、ごめん、うそ。全然ない。結構警備厳重だし。誘拐でもされない限りは────あ」

 

 嫌な予感。みつきがぽつりと呟いた「あ」という言葉に、一二三の脳は事態を緊急のものだと推理した。

 

「……まさか」

「まあまあまあまあ。こことか探してないんじゃない? こことか、そことかさ」

「全部探したよ。いなかった」

「ビルの地下とかは? 迷い込むとかあるだろうし」

「受付のやつに防犯カメラ見てもらったが、いなかった」

「いや、まあまあまあまあ。誘拐しそうな奴がこっちに来るとか、最近以外はほとんどないし」

「あるじゃねぇか!」

「いや、だって! 最近ちょっと事件が多いだけじゃ、日常茶飯事ってニュースにもならないんだもん! 情報が入ってこない!」

「知らねぇよ! とにかく、攫われたって可能性もあるんだよな? だったら────!」

「────だから、待ってって言ってんでしょうが!」

「言ってねぇ────ぐふっ!」

 

 一二三は走り出そうとして、何かを足に引っ掛け、転んだ。

 見れば、みつきが足を蹴飛ばしたようだった。

 

「なにしやがる!」

「攫われたとして、証拠がないんだよ。警察に言うとして、これじゃあ、ただの行方不明になっちゃう。まず状況を確認しないと」

「だが…………、荷物だけ放置してどっか行くとか、もう誘拐以外あるか?」

「あり得ないの?」

「今まで一度もない」

「ホント?」

「本当だよ」

 

 「ふーむ」と、みつきが頭を悩ませ始める。

 

「お兄さん、格闘技とかやったことある?」

「あ? ねぇけど……」

「…………えー……。なんかないの? そんなマッチョで。ステゴロとか得意であれよ」

「なんでオレはがっかりされてんだ……?」

 

 意味のわからないやりとりに気を取られるが、一二三はどこか冷静だった。

 この少女を振り切るしかない。そうでしか、妹の保護に向かえない。

 仕方なしに殴ってでも走り出そうと決め、立ち上がった時、うんうん悩んでいたみつきが、「よし」と漏らすと、一二三に言った。

 

「わたしが行ってくるから、他のところ探しといてよ。紆余曲折あって、攫われてないかもしれないし」

「おい! 紆余曲折ってなんだ! 待て!」

 

 駆け出したみつきを一二三が追いかけるが、しばらく行ったところで見失った。大きな十字路を曲がったところだった。

 「どこだ?」と辺りを見回す一二三の耳に、ピンポーン、という音が通り抜けていった。

 

 

 

 十字路の端のビル。その中にあるエレベーターにみつきは手を後ろ手に組んで、乗っていた。

 向こうの方では、スーツ姿の男が改札機のようなものに社員証をかざしている。

 

 ザル警備。

 みつきは半目で笑った。

 

 さて、みつきは考える。ここからどうするかである。

 一二三の妹が攫われていた場合、そのメンバーはほぼ二つに限られている。

 それはみつきの知識にあった。

 

 一二三に説明した危険地帯を仮にスラム地区と呼ぶことにすると、スラム地区は今、二つのグループに支配されていた。

 

 一つは、最近、自然にできた、気の荒い者達が集まるグループ。これは烏合の衆である。暴力的なだけで、くだらない小犯罪しかしない。誘拐して身代金を求めたり、人身売買をするような能力があるとは思えなかった。

 もう一つは、元々スラム地区を支配していたが、リーダーを殺され、部下も大勢殺され、その裏にいる何者かからも見放された、落ちぶれたグループ。

 

 どちらがやったかは、大体わかる。後者である。

 今までも人攫いはそこそこあったが、それは落ちぶれグループのやってきたことであり、そのどれもがスラム地区内で行われていた。

 何に使うのか、金さえ求めずに行うのである。人身売買を疑っているが、定かではなかった。

 それがなぜ突然、都市の、それも人通りの多いだろう場所でそんな強行に及んだのか。

 みつきは訝しんだ。

 

 ピンポーン、とベルの音が響く。

 ビルの屋上。小屋のようなエレベーターホールを通り抜け、ドアを開けると、そこには石タイルが無意味に広げられていた。通る風は何にも引っかかったことがないらしく、みつきの服を鬱陶しそうにはためかせている。

 

 みつきは駆け出す。落下防止用の小さな柵を勢いで乗り越え、ひょいひょいとビルを乗り継いでいく。

 

 一二三が追いつくなら、それはそれで良い。ある程度身体能力があるなら、スラム地区から生還できる可能性があるからだ。

 

 そうじゃないなら、仕方ない。わたしが一人でやろう。

 

 みつきは、遠く向こうの方を睨むと、走る速度を上げていく。

 目指すは、スラム。その奥である。

 

 

 

 

「なぁ、おい。誰が人を攫ってこいって言った?」

 

 茶髪を短く切り刻んだ、タレ目の男が、不機嫌そうな低い声で言った。

 スラム地区の一部。周囲は廃ビルやら廃れたマンションやらで囲まれており、窓ガラスの割れた建物の中には、男の座る砂埃に塗れたソファやボロボロのカーペットが横たわっていた。

 

「いや、だって! やっぱ、人、一人くらい献上しないと、どうしようもないっすよ!」

 

 目の前には、黒髪を同じように短く切った男と、明るい金髪をふわふわとショートボブに切った幼い少女がいた。

 少女の方はガムテープで口を塞がれ、縄で手を後ろ手に縛られている。

 捕まった、と言っていいだろう。

 

 茶髪の男は、少し少女の方を見ると、黒髪の男に対して、言葉を漏らす。

 

「……そう思うか」

「そうっすよ! 見放されたなら、見返してもらうまでっす!」

 

 元気よく頷く黒髪に、茶髪の男は、

 

「……そうか? まあ、いいか。じゃあ、お前、明日にでもそいつ渡してこい」

 

 と面倒くさそうに言った。

 

「うっす! あ、それまでどこに居させます?」

「あー……? 俺の部屋で良い。面倒だ。テキトーに座らせとけ」

「うっす。じゃあ、このまんま置いときますね」

「ああ、そうだ……」

 

 茶髪の男は、珍しく真面目な顔で、スイッチのような小型の機械で手遊びをしながら、注意を促す。

 

「最近、大量殺人があるって言ってたろ。気をつけろよ」

「……うっす!」

 

 黒髪は嬉しそうに言った。

 




「さて」から始まるので、実質推理小説です。
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