白銀のゼラニウム   作:望月望必

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文章が上手く書けないせいで、ギャグになっちゃって、たーいへん。


一話『彼女は出会う。〜1、2、3!〜』3

 

 赤いカーペットの上に、明るい金髪をふわふわのショートボブに切った幼い少女がいた。

 件の誘拐少女である。

 

 名前は垣無未来(かきなしみらい)。垣無一二三の妹だ。

 夢は家事で、最近の趣味は飴を舐めること。

 

 さて、彼女は、兄のトイレを待っている最中、見知らぬ黒髪の男に誘拐された。

 

 そして、今、彼女のいる場所は、またも見知らぬ、古ぼけた、ひび割れ放題の空きビルの一室である。

 蝶番が半ば取れかかっているドア、埃まみれのカーペットに、ボロボロの机と壊れかけの椅子。使えるかもわからない手榴弾やナイフが端に投げ捨てられ、つまみの取れたラジオが机に横たわっている。

 その中に、大雑把に縛られた未来が地べたに座らされていた。

 

 未来をここに連れてきた黒髪の男は、「大人しくしてろよ」と言って、出ていった。

 つまり、変なことしろの合図である。

 

 ドアが閉まると同時に、未来はまず、ポケットに忍ばせていたおもちゃのコームの先っぽでロープを突いてみた。

 当然、切れるわけもないが、ふと思い至り、ロープの結び目に差し込もうとしてみる。

 

「うーん……。上手く、入らない……」

 

 独り言が漏れていることにも気づかず、後手に縛られたロープの結び目を見ようと、一生懸命に背中を覗くが、結び目をが大雑把すぎて理解できない。

 イライラしてきた未来は、コームを捨てて、辺りを見渡した。

 

 机の上にあるラジオの付近に、真っ二つに割れたラジオのつまみの破片が落ちていた。

 未来はそれに近づくと、後手で拾い、ロープを切ろうと試みる。

 ナイフは怖かった。

 

 ひとまず、口のガムテープを剥がしたい。その一心である。

 

 

 

 一方、誘拐少女を置いて、ビルの外に出てきた黒髪の男は、あくびをしていた。

 

 今日も良い天気である。

 手土産は手に入れた。ボスである茶髪の男にも褒められた。なんだか順風満帆な気さえしてくる。

 

 ポカポカと暖かな日差しが降り注ぎ、少し目が痛いくらいのシャワー。眩しさの向こうの青空はどこまでも広がっており、まるで自分が落ちていってしまうような浮遊感を感じて、どこか心地いい。

 

 うん、良い天気である。

 涼しげな風を受けて、さあ、もうひと頑張りするか、と背伸びをした時────。

 

「がっ…………?」

 

 背中の痛覚が異常な反応を示した。

 

 痛い。背中の肋骨の隙間が冷たく、それでいて確かな痛みを感じる。

 痛い。首元に布が巻きつき、絞め殺すかのように自分を後ろへと引っ張る。

 痛い。首の後ろに冷たいものが入り込んで、首の骨をバラバラに外していくのを感じる。

 

「最近、大量殺人があるって言ってたろ。気をつけろよ」

 

 忠告を思い出し、納得した。これが、それだ。

 

 完全に倒れ込んだ後、ぼやけた視界になにか人影が映ったかと思えば、喉を詰めるような刺激を最後に意識を失った。

 男の黒い短髪は赤く染まっていた。

 

 

 

 赤いカーペットの上に、切られたロープが落ちる。

 毛羽立ったロープは古びていたらしく、ポロポロと切断面から藁のようなクズが溢れていた。

 

 未来は自由になった手で、口元のガムテープを剥がした。

 

「ぷはー……。空気がおいしい……」

 

 口からガブガブと入る空気は新鮮なもので、辺りの埃っぽさはあまり気にならない。

 何より、今まで少量の空気で我慢させられていた肺や脳が、喜びでチカチカと視界を明滅させていた。

 

 さて、ここからどうするか。

 未来はひとまず、外の様子を見ることにした。

 

 窓から覗くと、外には誰もいないようで、遠くにあるマンションの柵に、誰かが捨てたであろうビニール袋が引っかかっているだけである。

 助けを呼ぶことは難しそうだ。その反面、見張りがない分、逃げ出すチャンスはあるかもしれない。

 

 未来は、そう考えながら、さあ、逃げ出してみようと後ろを振り向いた。

 

 そして、気づいた。

 ドアが開こうとしている。

 

 カタリ、と蝶番のズレる音がした。ドアノブも小さく金属音を立てる。よく聞かなければわからない、とんでもなく小さな音だ。

 未来は、あわてて端に捨てられていた、砂埃に塗れた手榴弾を手に取った。

 恐怖は別の恐怖で上塗りされていた。

 

 いつの間にか、少しだけ、だが確かにドアが開いている。生唾を飲みながら、あともう少しだけドアが開くのを待つ。

 

 ドアが、手榴弾が通る程度に開いた。

 

 未来は手榴弾を投げる。

 ドアの先の人物は、ドアの隙間から投げ込まれた手榴弾のピンが抜かれていないことに気づき、そのままドアを開けた。

 

「捕まえた!」

「ふぇあぁい!?」

 

 爆発に備えて目を瞑っていた未来は、人物の接近に気が付かなかった。

 人物は、赤いアウターを着ていて、未来に抱きついたかと思えば、そのまま抱き上げた。

 

「こ、殺される〜!?」

「殺さないよ。それー!」

「わああああ!」

 

 ぐるぐると、未来を抱えて回る。

 ジタバタと暴れる未来を、人物────柊みつきは、楽しそうに押さえつけていた。

 

 ふう、と一息。みつきは未来を地面に下ろし、ふらついている未来の手を取ると、目線を合わせて言った。

 

「やあ。わたし、みつき。ちょっと人を探したくてここに来たの。何か知らない?」

「ひ、人?」

「そう、人! どんな人でも良いから教えてくれると助かるな。────ところで、あなた、誰?」

 

 またである。

 未来は、若干狼狽えると、

 

「え、あ。わ、わたし、垣無未来……」

「未来ちゃん! 一二三って人の妹さん?」

「そ、そう! お兄ちゃん、知ってるの?」

「知ってるよ。お兄さんがあなたのことを探してたから。助けに来たんだ」

 

 「任務完了!」とみつきは呟く。

 未来はそれを聞くと、ホッとした顔でみつきに抱きついた。

 

「よ、よかった……。見つけてくれた……」

「…………?」

 

 そんなに怖かったのだろうか。

 そういう人物には見えないが。「まあ、いっか」と、みつきはとりあえず納得し、ポンポンと、未来を撫でていた。

 

 未来の手を引いて、みつきは未来が閉じ込められていた部屋から出る。

 辺りに人の気配はない。人がいた形跡もない。

 それを知ってか、知らずか。みつきはスタスタと歩いていく。

 

 不安。未来の手が、みつきの手を強く握った。

 それに気づき、みつきは、普段よりはゆっくりだった歩行速度をさらに落とし、未来の手を握り返す。

 

 お互いに無言で、ゆっくりと進む中、ふと、未来が口を開いた。

 

「……あ、あの」

「なあに?」

「お兄ちゃんとはどういう……?」

 

 どういう関係ですか。

 言われてみたら困るものである。みつきは、うんうんと悩むと、

 

「み、見知らぬ他人……?」

「えぇ……?」

 

 ボロを出した。信用はガタ落ちである。

 

「いやぁ、別に見知らぬってほどでもないんだよ? ちゃんと仲良いし。親友だと思ってたけど、よくよく考えたらあんまりそいつのこと知らないってことよくあるじゃん?」

 

 みつきは、4行で返した。

 

「ない……」

「ないかぁ……」

 

 二文字だった。

 がっくりと、猫背になって、みつきはとぼとぼと歩いていく。未来はそれを心配そうに眺めている。

 二人の脱出はまだまだこれからだった。

 

 

 

 さあ、一二三は走る。

 妹の為に、ただただ走る。

 

 ようやくスラム地区に入ったところだ。

 やはり廃ビルに囲まれた大通りであり、ひび割れたアスファルトに何度も足を取られそうになった。

 警察に「入るな」と捕まりそうになったところを、「あ! UFO!」ととんちんかんな方向を指差して、どうにか逃げてきたところである。

 

 さて、後ろの方から警察が追ってくる気配はない。

 諦めか、それとも戦略か。わからないが、この状況は都合がいい。このまま突っ切らせてもらう。

 

 勢いのまま突き進めば、向こうの方に何かが大量に落ちているのが見えた。

 布、だろうか。それにしては立体感があり、布らしくない見栄えのものもある。

 

「なんだ……?」

 

 とにかく走るしかなく、突き進む。

 近づいてきた頃、ようやく、その正体が判明した。

 

 死体だ。

 服だけでなく、アスファルトにまで血が染み込み、その鉄臭さが未だに残っている。苦悶の表情で固まった顔には、いくつかの切り傷や刺し傷が描かれ、命を失った人型だけがそこに残されていた。

 

「んだこれ……! どういうことだ!」

 

 一人吠えても、何も変わらない。

 一二三の目からしてみても、凄惨に、それでいて確実に、殺されている。

 動き出すことはない。喋ることもない。

 ましてや、何があったかを説明してくれることなどない。

 

 一二三が一人、驚きに足をとられていると、辺りに何人かの男達が現れた。

 そのうちの一人、バットを持った男が近づいてくる。

 バットの男が話しかけてくる。

 

「よう、兄弟。これやったの、お前か?」

「何言ってんだ? 俺はここに来たばかりだ」

 

 当然のように否定すると、バットの男は笑い出す。

 

「知ってるよ。見てたんだからな」

 

 なんなんだ、こいつらは?

 一二三の警戒は膨れ上がっていく。

 

「じゃあ、わかるだろ。お前らとこいつらがどんな関係だったかは知らねぇが、俺はやってねぇ────」

 

 一二三の頭部があった場所をバットが通り抜けていく。

 バットの男であった。

 スレスレで躱わすと一二三は言った。

 

「何しやがる!」

「投げたんだよ。わかるだろ」

 

 あっけらかん。男の言い様に、一二三は怒りを抱いた。

 「じゃあ、言い方を変えてやる────」、そう言って、一二三は飛んでいったバットを親指で指す。

 

「チンパンジーじゃねぇんだ。棒っきれなんざ投げてくんじゃねぇよ」

「くくく────。じゃあもっと素敵なもんをくれてやるよぉッ!!」

「ッ! あっぶねぇな!」

 

 今度はハンマーだ。違う男が投げてきた。

 一二三は屈んでそれを避けると、殴りかかってくる男達の拳を腕で受け止め、殴り返しながら言った。

 

「お前ら、いったい何が目的だ!?」

「ここら一帯ではよぉ、人が死ぬなんてのはよくあるんだ。犯人なんてわからねぇ。誰も求めてねぇ。だから、俺たちはこう決めてるんだ。」

 

 一人だけ殴り掛からなかった男────バットの男がヘラヘラと笑っていたのを、突然、真顔にして言う。

 

「その場にいた人間、やっちまえってな」

 

 大歓声。男達の遠吠えが、それに同意するように響く。

 

 一二三は覚悟を決めた。

 こいつらをやらないと、先には進めない。

 先ほどから、そんなことばっかりだが、前途多難はいつものこと。一二三の日常では茶飯事だ。

 

 殴りかかる男の拳を避け、鳩尾の辺りを殴りつける。

 男の口から、血の混じった吐瀉物が噴き出て、後ろから殴ろうとした男の顔にかかった。

 

「うおっ! 汚ねぇっ! ────うブッ!!」

 

 男を後ろ蹴りで吹っ飛ばせば、周りの男達も巻き込んでアスファルトに叩きつけられる。

 

 次は誰だ。

 目線だけで標的を決め、殴りに走る。鉄パイプを持った女が迎え討とうとそれを構えるが、ナイフを持った男が、割り込んで一二三を切りつけようとした。

 が、一二三は避ける。

 何度かナイフを振るうが、その全てを一二三は避けきり、ナイフの男を蹴り飛ばした。

 

「ダチ蹴りやがって! オラァッ!」

 

 女が叫びながら鉄パイプを振るう。

 

「だったら、人にナイフを向けるな!」

 

 一二三はそれを受け止め、女から鉄パイプを奪うと、近くに来ていた素手の男をそれで殴りつけ、そのまま鉄パイプを放り投げた。

 返す刀で女を殴り飛ばす。

 続けて、鉄パイプを持った男を殴り飛ばす。

 

 今度は、メリケンサックをつけた男が殴りかかってきたので、またそれを殴り飛ばした。男は、青空まで飛んでいき、落下して、バウンドしていく。

 人間の身体を殴打する音で、辺りのビルが軋んでいくようだった。

 

 

 

「綺麗な空だねぇ……」

「そうですねぇ……」

 

 みつきと未来は、誘拐先のビルの窓辺から空を眺めていた。

 ギシギシと軋むビルに不安を覚えるが、ここら辺りはどこも同じである。

 

「さあ、行こっか」

「はい!」

 

 元気いっぱいに未来が返事をする。

 何度か会話を交わしたからか、みつきへの警戒もほぼなくなっていた。

 

「ところで、この辺に来たのはなんで?」

「えっと、誘拐されて……」

「そうじゃなくて」

 

 みつきが話題を振った。

 誘拐先というストレスのかかる環境から目を背けさせる気遣いでもあった。

 

「未来ちゃん達が、この街に来た理由だよ。やっぱ、旅の途中でたまたま?」

「え、なんで旅って……」

 

 言っていないはずのことを知っている。

 未来は驚いた。

 

「お兄さんがわかりやすかったんだよ。ズボンの裾はボロボロだし、靴の底も汚れてるし。おまけに近所にしては大荷物だし。旅を疑うには十分だと思わない?」

「あ、確かに……」

 

 言われてみれば。未来は納得した。

 兄のズボンの裾など、あまり見ることはないし、靴の底なんて気がついたら汚れているものである。

 だが、言われてみれば、そんなような気がしなくもない。未来は自分の服の裾を確認した。

 それを見て、みつきは言った。

 

「未来ちゃんの服は綺麗に直されてるね。お店で直してもらったの?」

「いえ、お兄ちゃんが直してくれて。ああ見えて、結構色々できるんですよ」

 

 不器用だけど、と未来は語る。

 親代わりみたいだな、とみつきは思った。

 

「ってことは、ご飯とかもお兄さんが?」

「いえ、それはわたしがやってます。ちょっと前にお願いして、代わってもらったんです」

「へぇ、えらいね。旅だと、大変でしょ」

 

 未来はそれに、照れたように頭を掻くと、

 

「そうでもないです。食材はお兄ちゃんも用意してくれるし、調理道具だってお兄ちゃんのだし」

 

 と言った。みつきは、

 

「そんなことないよ。家族のご飯が食べられるのは、いつだって幸せなことなんだ」

 

 と、言った。

 妙に実感のこもった言葉だと、未来は感じた。

 

 少し進むと、少々装飾が施されたドアがあった。後から貼り付けられたように見える。少しだけ装飾がズレていた。

 いかにも何かありそうな雰囲気に、みつき達は警戒する。

 

「ねぇ、どうする? この先がすんごいお嬢様の部屋だったら」

「え……、どうするんでしょう。ベッドで跳ねる?」

「いいねぇ、椅子でも跳ねようね」

 

 ぺたり。

 笑いながら、みつきがドアに何かを仕掛ける。

 数秒おいてそれに気づいた未来が、みつきに聞いた。

 

「なにつけてるんです? それ」

「爆弾」

「爆弾……」

 

 爆弾……。かつて、未来が投げたものである。

 四角いこれが爆弾なのか。見たことのない形に未来は、感心する。

 

「……ん? 爆弾? あ、爆弾!?」

 

 未来はあわてて、みつきの手から爆弾を取ろうとする。

 みつきは、それを背伸びしてまで高く持ち上げて、取られないようにした。

 

「だ、ダメですよ! 爆弾なんて危険なもの! ペッしなさい!」

「食べてないよ」

「ペッしなさい!」

「食べてないって」

「はーやーくー渡してー!」

「取ってごらんよ」

「いーいーかーらー!」

「ほーら、ほら。取ってごらんってば────あん?」

 

 ふと、みつきがドアの方を見る。

 みつきがそれに意識を取られ、ようやく未来が爆弾に手をふれた時、ガチャリと音がした。

 ドアが、開いていた。

 

 出てきたのは、茶色短髪。ボスである。

 

 揉み合った格好のまま、みつきと未来、二人と茶髪の男が目を合わせて、しばらく。

 男が言葉を漏らした。

 

「なんだ、お前ら」

 

 みつきと未来は目を合わせると、二人揃って返す。

 

「「…………お邪魔してマス」」

 

 銃声が鳴った。

 未来の頭のあった場所だ。その後ろに穴が空いている。

 みつきは、未来の頭を押さえて屈ませている。

 みつきが未来に銃弾を避けさせた形である。

 

「…………やっぱ当たんねぇな」

 

 茶髪の男が、拳銃を見ながら呟く。

 

「こっわ……」

 

 みつきは未来の頭を撫でながら、そう漏らした。少し焦げた感触がした。

 

「わ、わ、わ……」

「うん?」

 

 未来の方を見ると、未来はみつきの服を握りしめながらプルプルと震えている。

 何があったのかと思い、みつきが声をかけようとすると、

 

「わぎゃあ〜!! 撃たれた〜!!」

 

 爆発した。

 

「おー、よしよし。怖かったねぇ。だから爆弾いるって言ったのに」

「言ってないです〜!!」

「今、言ったよ」

「言ってない!!」

 

 みつきに抱きついた未来は、みつきを押し出しながら逃げようとするが、みつきは動かなかった。

 未来は、「逃げないの?」と目で訴えるが、みつきの目は、「逃げないよ?」と言っていた。

 その横を銃弾が通り過ぎる。

 

「はしゃいでるところを悪いが、お前らなんなんだ?」

「んー……。敵?」

 

 茶髪の男に、みつきがそう返した瞬間、ドアの付近が爆発する。

 

「ほら、逃げるよ」

「え、えぇー!?」

 

 みつきが未来の手を引いて逃げ出す。爆炎の中から乱雑に撃たれた銃弾が、辺りの床や壁を抉り、破片を飛び散らせた。

 背中の方から、肌が服と共に爛れた鍵島が追いかけてくる。

 

「お前が爆発させたのか?」

「見てわかんない?」

 

 茶髪の男が、みつきに銃を向けながら言って、みつきは簡単そうに返す。

 

「わたし、やってないですよ!?」

「わかってる、わかってる」

 

 未来は巻き込まれたと思ったのか、思わず声を上げる。

 みつきは、苦笑して宥めた。

 

「それで、爆弾はわたしなんだけどさ。そしたらなに? 報復でもする?」

「した方が良いんだろうな。だから、追いかけてるんだろうが」

 

 他人事のように茶髪の男が言う。

 不気味だ、とみつきは思った。

 あの大怪我を気にすることなく、さらには、それに怒ってもいない。どことなく自分というものがないような、そんな感じがした。

 

 みつきが階段を登り、未来がそれを追いかける。

 遅れて銃弾が通り、茶髪の男も階段を登っていく。

 

 出口から離れた形になるが、みつきはそれでよかった。

 未来は良くなかったが、ついていくしかなかった。

 

 さあ、何階分か、階段を登り終えた先、柱だけが残された壁のない広い空間まで辿り着く。四階である。

 みつきは、途中から横抱きにしていた未来を抱えたまま、柱の裏に隠れる。

 

 茶髪の男が、来る。

 カツン、カツン、と男の靴の音だけが響き、未来の身体が緊張で硬くなる。

 みつきは未来を静かに下ろすと、「しーっ」と小声で呟くと、手に持っていた小さな物体のボタンを押した。

 

 爆音が響く。階段の方だった。

 見れば、今まで登ってきた階段が破壊されている。粉々とはいかないが、今の男では降りられない程度であった。

 

 逃げ場は無くなったようだ。

 

 茶髪の男は歩き始める。

 銃のマガジンを確認し、中身がなかったのか、そのまま投げ捨てた。

 

 未だにみつき達を見つけられていないが、階段ですれ違ってはいない。ましてや、降りて行ったことに気づかなかったのなら、それは最早どうしようもないことだ。

 ならば、柱の影か、さらに上にいる。そう思うしかなかった。

 

 幸か不幸か、未来のいる柱に男は近づいていっている。

 未来はそれに気づき、青ざめた顔で口を押さえ、荒ぶる呼吸を鎮めようとした。

 どこか現実感のなかった爆発や銃であったが、ここに来て、死は現実に手を伸ばしていた。

 

 男が、未来のいる柱のすぐ横に来た。そして、未来を視界に入れる寸前────ぐるりと視界が回った。

 

 首への痛み。うなじあたりの筋肉が強引に引き伸ばされ、脳が揺れる。肩には軽いものが乗っかった感触があった。

 そして、続く頭部への殴打。一、ニ、三、四、五。

 男がようやく頭の上へ手を伸ばすと、切り裂かれた痛みと同時に、肩の重量がなくなった。

 見ると、指こそ切り落とされていないが、確かに切り裂かれている。握れば、ぐちょりと皮膚が歪んだ。

 

 痛む首と揺らぐ脳を放置して、男は振り返る。

 そこには、やはりというべきか。赤がいた。

 

 男が、首を押さえて、合点したように言う。

 

「…………お前か。件の大量殺人犯」

 

 赤────柊みつきは慣れきったように、ナイフの血を振り払った。

 




ちょっと場面移動が多かった気がする。
読みづらかったらごめんね。
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