白銀のゼラニウム   作:望月望必

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戦闘シーンが難しいよう。
たすけて。


一話『彼女は出会う。〜1、2、3!〜』4

 

 柊みつきは、殺人鬼である。

 誰彼構わず殺すわけではない。少なくとも、自分の中では、決して悪人のみと決めている。

 

 では、悪人とは何か。

 他者の幸福を奪うものである。

 

 自分の幸福が奪われたことがある。

 他者の幸福に関心などなかったが、他者の幸福が奪われていることには、なにか同情に似たものがムズムズと肌の下を通り、見ていられなくなったことがある。

 

 人殺しを是とするわけではない。決して、みつきの中では、殺人は悪である。

 だが、そうでなくては、悪でなくてはできないことが、やらなくてはならないことがあると思ったのだ。

 

 みつきは目の前の茶髪の男を睨みつけながら、ナイフを握り直した。

 

「部下がなぁ、帰ってきてねぇんだ。お前────、やったな?」

 

 男がみつきを睨みつける。

 

「殺されることくらい頭に入れてあると思ったよ」

「ああ、頭に入ってるよ。だが、それが頭に来ねぇかと言えば、来るだろ?」

「そんなどうでもよさそうに言われてもね」

 

 みつきは、ナイフを放り投げて、反対側の手でキャッチした。

 もう少し会話を続けるようだった。

 

「ねえ、わたしのこと覚えてる?」

「ああ……? 知らねぇな。ナンパする女なんか、とっくの昔にいなくなってた」

 

 男は血塗れの手で耳をかいて言った。

 

「天宮芽衣と天宮和仁って名前に聞き覚えは?」

「ない」

 

 みつきはナイフを利き手である右手に持ち帰ると、冷たく履き捨てた。

 

「あ、そ。あなたが殺したんだけどね。じゃあ、死ねよ」

 

 男の腹部にナイフが刺さった。

 みつきが、手から落としたナイフを蹴り飛ばしたようだった。

 

 合図といえば、それが合図だった。

 みつきは駆け出し、男は拳を握る。

 

 みつきの前蹴りを、男は両腕をクロスして受け止める。男の手から血が吹き出て、辺りを汚す。

 みつきはそのまま、男を踏み台に後ろへバク宙すると、男に向けてナイフを何本か投げた。

 男は転がってそれを避ける。

 避けた先で、男はみつきに蹴られた。

 男は転がっていく。

 

「わたしはあなたのこと知ってるよ? 鍵島さん」

「どこで知った? あいつが漏らしたか」

「いや? 調べてもらった。今、もうあなた達の情報、かなり出回ってるよ?」

「それは初耳だな。身の振り方を考えるか」

「もう遅いんじゃない?」

 

 茶髪の男────鍵島が、みつきに殴りかかる。

 みつきはその腕を取って、背負い投げの要領で投げ飛ばした。

 鍵島は背中から着地し、すぐに起き上がると、やはりまたみつきに殴りかかる。

 一、二、三。

 みつきは鍵島の拳を避け切ると、その腹部のナイフを後ろ蹴りでさらに深く刺した。

 

 鍵島の表情が初めて苦悶に歪む。

 

 みつきの袖からワイヤーが伸び、その先についている分銅が鍵島の足を周回して、ワイヤーが巻き付く。

 みつきがワイヤーを引っ張ると、鍵島はそのまま後ろに転ばされる。

 

「寝てなよ。立ってるのも図々しい」

 

 みつきは歩いて、鍵島のもとへ向かった。

 ふらふらと立ち上がる鍵島の目は、もはや焦点すらブレていた。

 みつきは手元のナイフを握りしめる。

 鍵島との距離は縮まっていく。

 が、

 

「ま、待ってください!」

「あ?」

「…………なに?」

 

 未来が割って入った。

 鍵島は冷めた目で、みつきは不機嫌そうに笑って、真意を探る。

 

「な、何があったかわかりませんけど、もう、死んじゃいます……! せめて、説明をしてください!」

 

 未来は目を瞑りながら、叫んだ。

 精一杯の勇気であった。

 

「…………死にたくないならどいてよ。どうせわからないんだし」

 

 みつきは、もはや笑ってすらいなかった。

 

 ナイフを構え、未来のもとへ走っていく。

 未来は目をギュッと瞑って、来る痛みに備えた。

 

「なに、やってんだァァァァァッ!!」

 

 未来とみつきの間に、拳が割り込む。

 その風圧に飛ばされそうで、みつきは後ろに跳び、拳の持ち主を見た。

 

 ────垣無一二三。

 妹の危機に、兄が立ち塞がる。

 

 みつきは、一二三を睨みつけると、吐き捨てる。

 

「どいてよ。何してるかわかってないでしょ」

「妹になにしてやがる。ぶっ飛ばすぞ」

 

 みつきが走り出し、一二三を蹴った。

 一二三はその前蹴りをあっさりと受け止め、みつきを殴り飛ばした。

 ふわりとした殴り心地に、ダメージになっていないことを悟ると、一二三はみつきの方へ駆け出す。

 

 一二三の拳が空振った。

 みつきはガラ空きの胴を蹴る。

 コンクリートでも蹴ったかのような蹴り心地に、みつきはたたらを踏んで後ろへ下がる。

 

「────ッ!」

 

 この息遣いはどちらのものか。

 

 一二三が空振る。みつきが蹴る。

 一二三が空振る。みつきが蹴る。

 何発かの応酬の後、一二三の拳が、みつきの髪を掠った。

 

 殴りきって伸びた一二三の腕に、巻き付くようにみつきの足が絡む。

 かと思えば、一二三の顔面にみつきの足が叩き込まれる。

 

 一二三がふらつき、が、すぐに立て直し、みつきに拳を振るう。

 その一発、一発、の放つ風圧がみつきの頬を切り裂いた。

 

 みつきは拳を避けながらも追い込まれていく。

 みつきが柱に背をつけた時、一二三はそこに覆い被さるように立ち、拳を振り上げた。

 その瞬間、みつきの袖から細長い刃物のついた棒状のものが飛び出した。

 

 かろうじて首をそらせた一二三の頬を、それが切り裂いた。

 みつきは手に持った棒状のもの────巻いて縮められる短槍を構えると、

 

「お兄ちゃ────」

 

 兄を止めようと声を上げた未来の方へ投げた。

 

「お前────ッ、未来ッ!!」」

 

 一二三が叫ぶ。その視線の先には、当然未来がいる。

 槍は未来の、

 

「ぐぁッ!!」

 

 後ろにいた鍵島の肩に刺さった。

 人質にでもしようとしたのか、後ろから羽交い締めにしようとしたようだった。

 

 一二三はそれに気づくと、一瞬呆けたように動きが止まり、が、すぐに「何やってんだ!」と吠え、鍵島を殴りに走る。

 それを追いかけるようにみつきが走った。

 

 肩から槍を抜き終えた鍵島が、前を見ると、すぐ目の前まで一二三が迫っている。

 振るわれた拳を受け止めようと、鍵島が手を前に出すが、

 

「ぐぶッ」

 

 一二三の拳は、鍵島の手ごと鍵島の顔をぶち抜いた。

 鼻が凹む。脳まで貫かれる衝撃が、身体中を走る。

 吹き飛ばされた身体が壁に叩きつけられ、みつきは無表情で「わお」と呟くと、一二三を追い抜いて、そのままの勢いで鍵島の顔に足を叩き込んだ。

 

 ぐちゃり。みつきが足を退ければ、鍵島が倒れ込む。

 満身創痍。完全に、リタイアと言う他なかった。

 

「さて────」

 

 みつきが一二三達を見る。

 一二三は妹を庇うように立ち塞がり、さあ、戦闘継続の気配が辺りを埋めた。

 

 一二三が、ぴくりと反応する。

 みつきの後ろで、鍵島が起き上がった。

 

 しぶといな。みつきは心の中でため息を吐いた。

 

 鍵島の手には小型のスイッチがあり、顔は血で、目は狂気で満ちている。

 みつきはそれを訝しんだ顔で睨む。

 

 皆に警戒される中、鍵島はスイッチを押した。

 途端、ビルが揺れる。

 

「ははははは。自爆くらいしてくると思わなかったか」

 

 みつきは合点がいった様子で、舌打ちをした。

 

「お前も爆弾仕掛けてたわけね。────逃げれないか」

 

 グラグラと揺れるビルの中。

 階段を爆破したことが裏目に出た。

 みつき達の足下も、だんだんと崩れようとしていた。

 

 瞬間、天井が崩れる。

 みつきは気がつくが、同時に足場が崩れて、足を取られる。鍵島は落とされて行った。

 みつきにも、未来にも、そして一二三にも、巨大な天井が降り注ぐ。

 

 誰も動けない中、一二三だけが動いた。

 まずは床の瓦礫に巻き込まれ、落ちていきそうだったみつきの手を掴み、引き上げて転がす。

 次に未来を自分の元へ抱き寄せると、その拳を精一杯に握りしめ、振るった。

 

「ッッッッッデェヤァァァァァッ!!」

 

 突風が吹いた。

 

 一二三が腕を突き上げるように拳を振るうと、頭上から降り注ぐ瓦礫諸共、火の粉、恐怖、不条理への苛立ち、あらゆるものが吹き飛ばされた。

 涼しげな風がみつき達にそよぐ。

 

「わあ……」

「うそでしょ…………」

 

 未来は安堵し、みつきは唖然とする。

 見上げた先には、穴の空いた天井が、青々とした空を切り取るかのように美しく見せていた。

 

 

 

 未だ爆発は続いている。

 遠くからはサイレンが鳴り響き、さて、すぐそこにもサイレンの主はいた。

 

「……警察が来たみたい。終わりだね。わたし達」

「なんで俺らまで入れるんだよ」

 

 「巻き込まれた側だぞ」、そう言って一二三はみつきの手を掴み、立たせた。

 

「あとで色々教えてもらうからな」

「…………はいはい。わかったから。逃げないって。ねえ」

 

 一二三は手を繋いだままで、未来までもみつきにしがみついた。

 砂埃とサイレンの音に塗れて、みつきは笑っていた。




 キャラクターが音を立てて歪んでいく気がします。ぐにょーん。

 さて、初めて一話を書き切ったので、褒めてくださっても良いです。
 でも、二話があるんだよね(疲労困憊)。
 集中力が切れるところが、僕の悪い癖。

 一話書くだけで結構時間かかったので、二話は遅くなると思います。
 では。ぐきょーん。

p.s.
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