魔術チート貰って転生したけど思ってたんと違う…… 作:なゆさん
『――聞こえるかな? あ~あ~、■■さん?』
声が聞こえて目が覚めた。視界に広がるのは何も無い白い空間。
「はっ!? ここは――」
『ようやく目が覚めたようだね』
声が響く。近くで囁かれているような、遠くから叫ばれているような、何処から聞こえてくるか分からない声だ。
「貴方は……」
『僕は君達が言うところの神さ。君を転生させる仕事を同僚に押し付けられてしまってね。君の転生の案内をする事になった』
「神様…?」
つまり、私は死んだの? 死んだ時の記憶なんて何も無いんだけど? それに、転生ってよくある異世界転生的なやつ? そんな非現実的なこと……これ夢か?
『夢だと思ってるなら、残念ながら夢じゃないんだよね。――時間がないから手短に説明するよ。君は今から異世界に転生する。
そして、その時一つだけ、その世界を生き抜きやすくする為の力、所謂チート能力を持っていけるんだ。
神の力を借りたり、神になったり、何度も願いを叶えたり、不老不死になったりとかいくつかできない事はあるけど、君が読んでいた小説にでてくるようなチートはだいたい持っていけると思ってもらって構わない。
――もう一回言うけど、時間がなくてね。君には今からそのチート能力をすぐに選んでもらって、さっさと転生してもらわなくちゃいけないんだ』
……つまり、これが私の夢じゃないとすると、この自称神様からチートを貰うっていう憧れの展開ということ、か…?
昔から子供っぽいとか男の子っぽいとかって笑われてきた私の趣味が今、報われるのか? ………スゥ~
「ウッシャァーー!!」
『うぉ!……急に叫ぶとか中々にやばめの女だな。初めての異世界送りなのにこんなまともじゃなさそうな奴を相手にしなきゃいけないとか……はぁ、今度幸運の女神にうちの世界の美味しいご飯でも送ろうかな?』
なんかブツブツ言ってる自称神は置いておいて、チートを何にするかだ。確か、不老不死だの神の力だのチート過ぎるのは無理なんだっけ?
う~む………魔法チートなんてどうだろうか?
やはり魔法はロマンだろう。
「よし、魔法チートで!」
『よし分かった。さっさとしよう。【✳✳✳✳】』
神様が何かを唱えると、私の身体が足の先から消えていった。
『おっと伝え忘れてたよ。君が転生する世界は君がよく知ってるドラゴンボールとやらの世界だ。原作知識はチートに入るので既に別のチートを持ってる君は持っていけないけど、そこのところは理解しててくれよ』
―――へ?
いやいやいや、いやいやいやいやいや思ってたんと違うんだが!? あんな戦闘力が全てで魔術師やら魔法使いやらでも結局は物理ないと弱い世界に魔法チート持ってってもしゃーないやろうが!!
「ちょッ、ちょっと待って! ドラゴンボールの世界なら話が変わって――」
『ま、頑張ってね~』
「話聞いてって、ちょっ、待っ、あっ………」
そうして、私の身体は真っ白な世界から消え――
―――目が覚めると、目の前に紫色の化け物がいた。
「ひっ!」
咄嗟に逃げようとすると、身体が重くて動きが鈍く思うように動かない。
(――ここ水の中!?)
いよいよパニックになり、どうにかして逃げようとすると、
『バギィッ』
思いっきり頭をガラスにぶつけ、私は意識を手放した。
◆◇◆◇◆
ハイ、ということでね。あれから3年が経ちました。
私はどうやらサイヤ人とかいう宇宙人に転生したらしい。転生直後に見た紫の化け物は別種の宇宙人だった。
原作知識を没収された今の私のドラゴンボール原作についてわかってることは、元々ギャグ風のマンガで、途中からインフレの凄いバトル漫画になって、魔術やら武器やらよりも肉体の強さが優位の世界だったって事ぐらい。
サイヤ人って言葉もなんか聞いたことある気がするから、恐らくは原作にも登場する種族なんだろうなって分かる程度だ。
だから、私の今の立場がどういったものか、まったくもって分からない。ただ――
「けっ! 今回の星はシケたとこだったぜ。平均戦闘力こそ高かったが、特別強いやつもいなけりゃ星自体の価値もそこまで高くない。俺様が直々に出向くまでもなかったな」
――王子がコレな時点で絶対敵役だと思うんだけど?
そもそもサイヤ人という種族自体が星を征服し、現地人を虐殺し、征服した星を売る事で生計を立てている割と極悪非道な集団だ。
しかも小さい内に頭でも打たない限りは、生まれた頃から冷酷で惨忍な征服者であり、凶暴な性格をしている。
まさに悪役要素てんこ盛りの種族である。
そんな種族に生まれた私だが、生まれた時には征服しようとした星で両親が両方死んでたらしく、家族はいなかった。
どうやら私は同世代でNo.2の戦闘力だったらしく、No.1であるベジータ王子とともに英才教育を施され、ベジータ王子の側近的な立場として、こんな幼い子供なのにこのお転婆王子に付き合わされている。同じポジションのナッパさんは王子に手を焼かされている同志だ。
ベジータとともにいくつかの星を侵略してきたが、未だ仕事には慣れない。私は戦闘力こそ同じぐらいあるし、サイヤ人らしく戦うこと自体は好きだが殺しは好きじゃないのだ。
環境のせいか侵略された星の人々への罪の意識は感じるものの仕方ないと割り切ることはできる。だが、どうしても自ら何の罪もない者の命を奪うことはできないままだった。
だから、私は建物を壊したり強い奴を戦闘不能にすることは手伝えてもそこから先の仕事はナッパさんやベジータに任せっきりで、いつも二人に頭が上がらないのだ。
まぁ強いやつが正義だから普通に堂々としててもナッパさんには何も言われないけど。
「おい、スイ。今から訓練室に来い! この俺が手合わせしてやる」
「えぇー、また? いくら君と私で戦闘力が近いからって、私を体の良い対戦相手と思わないでくれない? 君は不完全燃焼かもしれないけど私は別に――」
「黙れ! サイヤ人の王子であるこの俺と戦えるんだ、光栄に思うんだな」
「……へいへい」
結局、今日もいつものように訓練室でベジータが満足するまで戦闘は続いた。
◆◇◆◇◆
「はぁ、疲れた」
ベジータとの戦闘を終え、私はある場所へやって来ていた。
それは、惑星ベジータに設置されているゴミ捨て場である。
まあゴミ捨て場と言っても壊れた宇宙船や不良品の機械、出来損ないの発明品など、主に機械類が捨てられている場所で、生ゴミなどの汚いゴミがあるわけではない。
ここはゴミ捨て場なだけあり誰も来ないうえに、何をやっても目立たない。魔術の鍛錬にはもってこいの場所だ。
「さて、今日も頑張りますか」
私は日課の瞑想を始めた。
私が神様に貰った魔術チートは、具体的に想像できる現象またはこの目で見たり感じたりした現象を全て魔術に落とし込んで使えるというものだ。
しかも、普通は水晶や杖などの媒介が必要な魔術でも媒介なしで使用可能。チートと呼ぶに相応しい激強能力である。
しかし、何の努力もなしに最強になれる能力でもなかった。
私の魔術には重要な要素として、干渉力と魔力がある。
干渉力とはどの程度の魔術を放てるかを決めるものだ。干渉力が低いと、魔術が発動できなかったり、発動した魔術の規模がショボくなったりする。
そして魔力とは、まぁアニメやマンガでよくある魔力だ。体内の魔力を消費することで、魔術を発動する。通常のエネルギーと同じで休憩したら回復するし、医療ポッドでも回復できる。
ただ、当たり前だが自分の魔術では回復できなかった。
そして、この2つは鍛錬によって鍛えられるものだ。
魔力の鍛錬方法はいわゆる瞑想。自分の内にある魔力に意識を集中させて、意図的に負荷をかけることで高めることができる。
そして干渉力は、ぶっちゃけ戦闘力に比例する。結局はパワーが正義。はっきり分かんだね。
「結局は努力が大事ってことだね。地道にいこう」
今扱える魔術は、
・ラノベとかでよくある火、水、風、土、雷、回復の各属性の魔術と身体強化の魔術
・前世での経験から、もし背が伸びないまま成長期が終わった時用に開発した身長を伸ばす魔術。(干渉力が足りないせいか、定期的に掛け続けないと一カ月程度で元に戻ってしまう)
・スカウターを元に作った戦闘力を測る魔術に、隠れたり実力を隠したりするために作った戦闘力をコントロールする魔術と自分から出る音や匂い、気配などを消す魔術
・宇宙船が壊れた時用に作った、水の中や宇宙空間でも生存できる魔術
・大猿の見た目が嫌だから作った、見た目を変えずに変身時の戦闘能力を引き継ぐ魔術
この5つである。
今はまだ干渉力が低いためあまり強くはないが、使い所は大いにある。
例えば戦闘力をコントロールする魔術を使って
こうでもしないと一人になる機会がないし、ベジータに戦闘力のことがバレたら大変な事になるから。
「……ふぅ、瞑想はこのあたりでいいかな?」
体内の魔力が少し高まったのを感じつつ、私はゴミ捨て場から出ていった。
このときの私はまだ、呑気に自分がある程度簡単に強さの前線に並べると思っていた。この世界の過酷さを――進みまくるインフレを甘く見ていたのだった。