〝あの人をからかいたい〟
なんともなしに、私はそう思った。特段加虐趣味がある訳ではないと思っているが、如何せん彼は少々良い反応をし過ぎるのがよくない。
スマホに目を落とせば10月31日と表示される、なんと都合が良いのだろうか。
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トレーナー室、やはりと言うべきか明かりが着いてるのを見るに彼は今日も熱心なようだ。
「失礼するわ」
トレーナー室に入ると彼は執務机でパソコンと睨めっこしていた。
「あれ、ラモーヌ?今日は休みの予定の筈だけど、どうしたの?」
「あら、理由が無いと会いに来てはいけないかしら」
「あっいや別にそういう訳じゃ」
「ふふっ冗談よ、顔が見たくなったの。私なら居ていいでしょう」
「うん、そういう事なら」
そう言うと彼は視線をパソコンに移した、表情から察するに海外のレース論文でも読んでいるのかしら。
私はソファに座り、持ってきていた本を開く。ただ彼と同じ時間を共にする、何をするでもなく同じ空間に存る事を嬉しく思う。我が事ながら、何とも分かりやすい情動か。
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「っと、もうこんな時間か」
感じる時間はゆっくり流れてる筈なのに、過ぎ去ると何時だって思うのは早かったと残念がってしまう。
彼は肩や腰をぐるりと捻り、固まった体を解していく。
そんな彼を見て、私は本を閉じ彼に歩み寄る。
「中々精が出てたわね、お疲れ様」
労いの言葉と共に、プラスチックの包みを1つ渡す。
「えっこれは?」
「あら、今日が何の日かお忘れで?ハロウィンよ、飴玉の1つ位馳走するわ」
「あっそうだったか……ん?じゃあなんで今日ずっとココに居たんだ?アルダンとかになんか誘われてそうだけど」
「はぁ……鈍い人」
「えっ」
「いえ、今日は貴方と過ごしたい気分だったのよ」
「そっそうか、ならありがたく頂くよ」
まったく……ソレにしても、〝やっぱり〟今日がハロウィンだって忘れていたのね。
「Trick or Treat」
「……ん!?」
彼が包みを破り、飴玉を口に入れたのを見てから決まり文句を彼に言い放った。
「ラモーヌ、ソレはちょっとイジワルなんじゃないかな」
「あら、そうかしら?私はただ祭事を楽しもうとしてるだけなのに」
少し困った顔をしてる顔の彼が可愛らしく、ついつい声色が上機嫌になってしまう。
彼は暫しポッケやカバンを漁り、何も無い事を確認したら腕を上げ降参の意を示す。
「お菓子は無い!一思いに好きにしろ」
「ふふっ勇ましい敗北宣言だこと、それなら好きなようにさせて頂くわ」
彼が座ってるデスクチェアを引き、私を正面とするように向かせる。
「ら、ラモーヌ!?」
そして、私は彼の膝上に〝向かい合う形で〟座り、手を彼の顔に添える。
私は、彼から飴玉を取り上げる。
「結構甘いのね、始めてだったけれど美味しいわ」
何時かこうやって対等にからかい合えるその日までは、赤面を拝むのは私だけの特権になるだろう。